0386 内弟子
初日が終わって、俺たちは学校の帰りがてら、エトワールさんと話していた。
中等魔法学校の方も終わって、ミルキィとポリーナも合流した。
二人もエトワールさんがいるのを見て驚いたようだ。
シルビアがエトワールさんに尋ねる。
「そう言えばエトワールはどこに住んでいるの?
また以前と同じで学生寮?」
「いいえ、一応寮に空きがあるのは確認したけど、まだその辺の安宿よ。
あなたたちがどこに住むかで場所を考えようと思っていたから」
「私たちは以前エレノアさんの住んでいた家に、ここにいる間は住む事になったわ」
「そうなんだ?
じゃあ、私もその近くの下宿を探そうかしら?
あなたたちの近くに住んだ方が私も都合が良いし・・・」
そこで俺はふと思いついた。
「え?じゃあエトワールさんも一緒にうちに住んだら?」
「え?いいの?シノブさん?」
「うん、部屋はまだ空いているし、それならシルビアとも一緒だし・・・構わないよね?エレノア?」
「ええ、もちろんです」
俺の提案にエレノアもうなずく。
シルビアも意外そうに俺に聞く。
「え?本当に良いのですか?
御主人様?」
「うん、僕だってエトワールさんが一緒の方が心強いし、楽しいよ。
シルビアだってエトワールさんと一緒の方が良いでしょう?」
「ええ、それはもちろんですが・・・」
「じゃあ、決まりだね?」
その俺の言葉にエトワールさんは喜ぶ。
「やった~!
それで家賃はどれくらいかしら?
正直あまり高いと困るけど?」
エトワールさんに家賃を聞かれて俺は戸惑った。
何しろ考えてみれば、俺たちの家賃はマジェストン学園払いの無料なのだ。
「え?あ・・・家賃か・・・
家賃は・・・いいや・・・いらないよ、食費もいい」
その俺の言葉にエトワールさんが驚いて答える。
「え?それはいくらなんでも悪いわよ?」
「いや、実は僕たち、エレノアをマジェストン学園の先生として働く事を条件に、学費と家賃やなんかはマージェ学長が学校から出してくれる事になっているんだ。
だからエトワールさんだけから家賃を取る訳にもいかないし、別にいいですよ。
食事も外や学食で食べる時は、自費だけど、うちで食べる時は一人前位は大して違いがないから、食費もいいですよ」
「えっ?家賃を学校が払ってくれる?本当?」
「ええ、本当です」
「それは正直助かるわ!
それと住み込みとは全く別の話で、実は私、今回マジェストンに来たら、お願いしようと思っていた事があるんだけど?」
「何ですか?」
「ええ、実は私がマジェストンへ来たのも魔法学士になるためと、もう一つはそのために来たのよ。
それはシノブさんにじゃなくて、エレノア先生に御願いなんだけど・・・」
エトワールさんに言われてエレノアが尋ねる。
「私に?何でしょう?」
「実はこれを機会に、私を正式にエレノア先生の内弟子にして欲しいんです!」
問いただすエレノアにエトワールさんが頭を深々と下げて頼み込む。
「私の内弟子に?」
「ええ、私は今までもエレノア先生には色々と教えていただきましたけど、これを機会に正式に内弟子になって、もっと色々と教えて欲しいんです!」
「なるほど・・・」
「私、エレノア先生に色々と学んで、憧れのユーリウスさんと同じに、いえ、それこそユーリウスさんを使役物体魔法で超えてみたいんです!
私はそのためにもマジェストンに来たんです!」
おお、伝説のゴーレム魔道士と言われるユーリウスさんを超えるとは凄い目標だ!
これはエトワールさんも半端な覚悟ではないな?
エレノアもその覚悟を感じたようだ。
「ユーリウスを・・・それは大きな目標ですね?」
「はい、そのためにもユーリウスさんの師匠であるエレノア先生の内弟子になりたいんです!
是非お願いします!」
エトワールさんの真剣な眼差しを受け止めたエレノアがうなずく。
「わかりました。
エトワール、あなたを私の正式な内弟子として認めましょう」
「やったー!ありがとうございます!」
エトワールさんは大喜びだ!
それを横で聞いていたアンジュが恐る恐る話す。
「あ、あの・・・私もただの弟子ではなく、エレノアさんの正式な内弟子にしていただけるのでしょうか?」
「あら?私はあなたとシルビアとミルキィ、それにもちろんフレイジオとポリーナは、すでに私の内弟子のつもりですよ?
あなたがそれを望むなら、今ここでそれを正式に認めましょう」
その返事を聞いてアンジュの表情がパアッ!と明るくなる。
「え?本当ですか?」
嬉しそうなアンジュに対してエレノアが笑いながら答える。
「ええ、あなたは特にですよ、アンジュ?
あなたのような魔法使いを、その辺に野放しには出来ませんからね?」
ああ~それはわかるぅ~・・・
こいつはまだ中二病の気がまだ完全に抜けきってないからなぁ?
なまじ魔法力が大きいだけに、そこら辺の普通の魔法使いじゃ止められないしね?
まだ何かの時にはエレノアみたいな師匠は間違いなく必要だわ・・・
そのエレノアの言葉に、俺とシルビアとミルキィは思わず納得して、お互いに顔を見合わせると、無言でうなずく。
その3人の様子を見てアンジュが叫ぶ!
「何ですか!皆さん!何でそこで納得するんですか!
ちょっとその理由を聞こうじゃないか!」
「いや、そりゃそうだろ?アンジュ?自覚がないのか?」
「ええ、アンジュを放置するのは危険ですね?」
「私もそう思います」
「あうぅ・・・」
俺たちがエレノアに同意すると、アンジュは反論が出来ない。
どうやら自覚はあるようだ。
そしてシャルルとポリーナは不思議そうに尋ねる。
「え?そうなの?」
「何がそんなに危険なのですか?」
アンジュの事をまだよく知らないシャルルとポリーナは、当然まだ意味がわからないようだ。
「まあ、色々とあるんだよ・・・」
「そのうちわかりますわ」
「ええ、その内に・・・」
「そうなんだ・・・?」
「そうなんですね?」
うん、一応シャルルとポリーナも納得したみたいだ。
でもエレノア大先生っ!!
今の内弟子の中に、一番肝心な人間を入れるのを忘れちゃあいませんか?ってんだ!
「あの・・・ところでエレノア・・・ボクは?」
「シノブ様は御主人様です」
「いや、そうなんだけど・・・ボクも内弟子の一人なんだよね?」
「いえ、むしろ私が御主人様の内弟子ですが?」
いや、そんな訳ないでしょう!
何を言っているんですか?
このスーパーエロフ御姉様は?
「は?いやいや、そんな訳ないでしょう?
こっちがエレノア、いやエレノア先生に学んでいるんだから!」
「いいえ、数字と言い、流れ図法といい、衛生、料理、護身術、科学の知識と言い、御主人様にはむしろ私の方が学ぶ事ばかりです。
私が教えるような事など魔法を使える者であれば、誰でも教えられる事ばかりですが、御主人様の知識は独特で、御主人様以外には教われませんから」
あ~それはまあ、そうなんだけど~
解せぬ。
家に帰って俺たちは初日の様子をミルファに話した。
「そういう訳で特待生って言うのが6人もいるのさ。
これは魔法学校でも初めての事らしいよ」
「なるほど」
「それとエトワールさんが今日からここに住む事になったんだ」
「承知いたしました」
「よろしくね、ミルファさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。
御用があれば何なりとお申し付けください」
「ええ、御願いします」
こうしてエトワールさんも正式にエレノアの内弟子となり、俺たちと一緒に住む事となった。
いよいよ明日から本格的に学校生活が始まる。
エレノアの話によると、明日は主にクラブ活動の説明会とその見学だそうだ。
これは中々楽しみだ!




