0380 シンドラー先生
ついに授業が始まるようだ。
俺も散々エレノアやシルビアに魔法の事は教わってきたが、正式な魔法授業を学校で受けるのは、これが初めてなので、結構ドキドキだ。
良い先生に当たるといいな?
俺がそんな事を考えていると、教室に入って来た、見た目が30代後半の魔法学校の教師の服を着た男性が最初の挨拶をする。
「皆さん、初めまして!
私はこの教室の担当をするコンラート・シンドラーと申します。
1ヶ月の短い間ですが、よろしくお願いします。
一応魔法修士で、専門は使役物体魔法です。
学派はユーリウス派で、これでも直弟子の一人です。
つい先日も師のユーリウスの所に行って新しい事を学んで参りました。
この教室にいる皆さんは魔法士の資格を取るのが目的なので、まだ使役物体魔法は習う事はありませんが、もし使役物体魔法を習いたい方がいたら、どうぞ遠慮なく私に質問なり相談なりしてください。
可能な限りはお教えいたしましょう」
その先生の自己紹介に教室がざわめく。
「え?この人があのユーリウスの・・・」
「伝説のゴーレム魔道士の直弟子なのか?」
「そんな大物の魔法修士がなぜこんなクラスを?」
「ここは初心者の魔法士クラスだろ?」
「ありえない・・・」
「凄いぞ・・・」
「こいつは運がいい!」
さすがはユーリウスさんだ!
うん、伝説のゴーレム魔道士とまで言われるユーリウスさんの直弟子が自分たちの担任ともなれば、そりゃ驚く人も多いよな?
そんな人に教われる事なんて滅多にないんだしね?
俺のそばにいたアンジュも興奮して話す。
「す、凄い!あの賢者ユーリウスの直弟子が私達の先生ですよ!
こんな幸運はそうそうありませんよ!
私達はとっても運が良いです!
御主人様!ミルキィさん!」
ユーリウスさんはアンジュの尊敬する魔道士の一人だ。
その直弟子が自分の教師になるのでは大興奮するのも無理はない。
しかし興奮するアンジュに対して俺とミルキィは生返事だ。
「あ、あ、そうだね・・・」
「そう・・・ですね・・・」
なぜならば俺は別の意味で驚いて、シンドラー先生を凝視していた。
ミルキィもだ。
そのシンドラー先生は自己紹介が終わると、教室の生徒たちを、ざっと見回していた。
そして俺と目が合った瞬間だった。
「え・・?」
シンドラー先生が俺と目が合うと固まる。
そして次の瞬間、俺に向かって話しかけてくる!
「ホウジョウ先生にミルキィさん!
どうしてここに!?」
そう叫びながらシンドラー先生が俺に近づいてくる。
うう、やはりそうなるか?
俺はシンドラー先生に説明をする。
「あ、いや、エレノアにそろそろ正規の資格を取った方が良いと言われまして・・・」
俺がそれだけ説明すると、この人はすぐに状況を察して納得したようだ。
「なるほど、そういう事でしたか?
ははは・・・そう言えば、まだホウジョウ先生は魔法士の資格を持っていらっしゃらなかったですね?
これはおかしい!ははは・・・・!
いや、普段でしたらこの教室は年長の魔法士志望の人たちの教室なので、大抵はベテランの魔道士か、新任の魔法学士が担当をするのですがね?
実は今回、私はユーリウス先生にこの教室を担当すると面白い事があるぞと手紙で言われましてね?
それでわざわざ私が申し出て担当になったのですが、こういう事でしたか!」
「はあ・・」
そう、この人、シンドラーさんはユーリウスさんの弟子で、あのエレノアのジャベック流れ図講義に出席した最初の20人の内の一人だった。
その後で、教本の印刷の事やら色々と手伝ってもらったので、俺もよく覚えていた。
とても熱心に流れ図法の事を学び、講義が終わった後でも、俺やエレノアに色々と質問をしてきたのだ!
特に数字の事を詳しく聞いてきたので、俺は九九や少数、分数、根号なども教えて、感心したシンドラーさんに、完全にホウジョウ先生扱いされていた。
一緒に食事をして魔法の事を話し合ったりして、20人の中でも特に俺と仲が良かった人の一人だ。
俺とエレノアはユーリウスさんにも手紙でマジェストンの魔法学校に行く事を詳しく伝えておいたが、どうやらユーリウスさんは面白がって、弟子のシンドラーさんをこの教室の担当になるよう焚き付けたようだ。
そのシンドラーさんが楽しそうに話す。
「はは・・・それにしてもこの私がホウジョウ先生やミルキィさんに魔法を教える事になるとは光栄ですね!
この教室にいる皆さん!
こちらのシノブ・ホウジョウさんは、まだ若いながらも、わが師ユーリウスにジャベック魔法を教えるほどの方です!
皆さんも使役物体魔法を覚えたいのなら、私よりこの方に教わった方が良いくらいですよ?
何しろ伝説のゴーレム魔道士と言われるわが師に、ジャベック魔法を教えるほどの御方ですからね!」
そのシンドラーさんの言葉に教室がどよめく。
「え?あの伝説の魔道士に?」
「あんな小さい子が?」
「そんな馬鹿な・・・?」
「うそだろ?」
「さっきの話は本当だったのか?」
教室の奇異の目が俺に集中して痛いほどに刺さる。
アインも驚愕の目で俺の事を見つめる。
アンジュもだ!
ひ~っ!やめてぇ!シンドラーさん!
これ以上この人たちに、余計な事を吹き込まないでぇ~!
俺が慌ててシンドラーさんに話しかける。
「あ、いや、シンドラーさん、いえ、シンドラー先生、それは勘弁してください。
それに私はまだ、ただの魔士なんですからそんな資格はありませんよ?
何しろこれからやっと魔法士になるくらいなんですから」
「ははは・・・何をおっしゃっているんです?
魔法士など先生には問題外でしょう?」
「いや、本当に勘弁してください。
教室のみんなの視線が痛いです。
どうか普通の生徒として扱ってください。
御願いします」
俺がそう頼み込むと、シンドラー先生も納得したようにうなずく。
「はい、わかりました。
しかし、またエレノア大師匠と一緒に私を導いてください。
魔法の事に限らず、ホウジョウ先生の教えは、どれも画期的ですからね!
しかもとても面白い!」
この話を早く終わらせたいために俺はうなずいて答える。
「はあ、それは私はともかく、エレノアには頼んでおきます」
「ええ、是非よろしくお願いしますよ?」
「はい、それよりも授業の方をよろしくお願いします」
「わかりました!」
ようやくシンドラー先生は授業に戻ってくれた。
教室のみんなは俺の事を奇異な目で見ている。
まあ、今の会話を聞いたらそうなるよな?
アインも相当驚いたようだ。
「お前・・・一体、何者なんだ?」
「いや、ただの普通の生徒だから!」
俺がキッパリと強引にそう言い切るとアインは驚く。
「なっ・・・・!」
アンジュも驚いて俺に聞いて来る。
「御主人様とミルキィさん・・・
シンドラー先生と知り合いだったんですか?」
そのアンジュの質問に俺はうなずいて答える。
「うん、ほら、さっきユーリウスさんの所にジャベックの講義に行ったって話したでしょ?
その時にいたユーリウスさんの弟子の一人で、色々と手伝ってもらったんだよ!
講義用の教本を作るのとか、印刷屋の手配とか色々とね?」
「なるほど!さすがは御主人様とミルキィさんです!」
なんだかアンジュもそれで納得したようだ。
とにもかくにも授業は普通に進んで助かった。
当然の事ながらここで習う事はまずは「マギア・デ-ヴォ」の心得から始まり、基本的な事ばかりで、俺やミルキィ、アンジュも、エレノアとシルビアに習っていたので、何も問題はなかった。
そして短期初等魔法学校の初日が無事に終わり、学校の帰りにエレノアが俺たちを迎えに来ていた。




