0370 その名前は・・・
俺がこの連中に何か良い礼は無いかと考えていると、ギルバートが話し続ける。
「実は我々は同じ村から仲間が後二人来る事になっているのですが、その二人が来て、全員が七級になったら、その6人で戦団を結成しようと考えているのですよ」
「え?戦団を?」
「ええ、今の青き薔薇にあやかって、何か名前を考えたいのですがね・・・」
「なるほど・・・」
「しかしあの方たちが奇跡を起こす青い薔薇ならば、我々などその辺に咲いている名もない花なような物ですからね」
ギルバートがそう言うとウォルターが笑いながら答える。
「ああ、いきなり誰かに踏みつけられて終わりそうだな?」
それを聞いて俺はふとある言葉を思い出して呟いていた。
「名もない花を・・・踏みつけられない男になる・・・か」
するとギルバートがその言葉に反応する。
「え?何ですか?今の言葉は?」
「え?あ、いや、私が知っている話で、昔、名もない花を踏みつけられない男になるんだぞ・・という話がありまして・・・」
「名もない花を踏みつけられない男・・・なるほど・・」
「何か格好いいな?」
「ああ、その言葉気に入った!」
四人は何故かその言葉が気に入ったようだ。
まあ、確かにそれは格好いい男ではあるのだが・・・
「その人の名は何と言うのですか?」
「え?」
「その人の名前ですよ!」
「え・・・ギャバソ・・・」
う、しまった!
ついうっかり俺のお気に入りの怪しい動画の方の名前を言っちゃったぁ!
俺も前世で散々変な動画に毒されていたからなあ・・・
しかし四人はその言葉に即座に反応する。
「ギャバソですか!」
「いいですね!」
「うん、中々良い響きの名前だ!」
「俺も気に入った!」
「それじゃその「ギャバソ」って言うのを、俺たちの戦団の名前にしよう!」
「ああ、それがいい!」
ええ~?!
いや、その名はちょっと・・・
俺の失言からとんでもない名前の戦団が誕生してしまいそうだ。
「そ、そうですか?」
「ええ、良い名前だと思いませんか?」
「え・・・その名前は・・ちょっと・・・」
俺が少々否定的に話すと、ギルバートも少々考え込んだ様子だ。
「う~ん・・・確かに戦団名が「ギャバソ」だけでは少々短いかな?」
考え込むギルバートに他の団員たちはさっさと決めさせようと煽る。
「ほら、男なんだろ!」
「グーズグズするなよ~!」
おう!やめろ!
そんな俺のエンジンに火をつけるようなマネはやめてくれ!
「俺は一足お先に、名もない花を踏みつけれない男になるのさ!」
「いいね!」
「いい!」
「いい!」
いや、そうじゃなくって!
ああ、若さ、マッカーサーって何だ?
振り向かない事なのか?
俺がそんな事を考えていると四人の中で一番年下らしい男がギルバートに叫ぶ。
「兄貴ィーーッ!」
「ん?なんだ?」
「まわレメらわない・・」
あ、こいつ舌噛んだ・・・!
他の三人が笑って話しかける。
「あはは!落ち着けよ!」
「何、舌噛んでんだよ!」
「いや、周りの連中に惑わされないうちに、とっとと俺たちの名前を決めたいと言おうと思ったからさ」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、青い薔薇と今の言葉を使って、俺たちの戦団名を決めるか?」
「賛成だ!」
なんだ?そりゃ?
ぬう・・・この連中のセンスがよくわからん・・・
「では青い薔薇にあやかって、我々の名前は「青いギャバソ」にしよう!」
ギャアーーーー!!
「うん、「青いギャバソ」それがいい!」
ババーーン!
なんだ!そのめちゃくちゃな名前はっ!
おいっ!そんな名前でいいのか?
それだったら「青いギャ○ン」の方が遥かに格好いいのだが・・・
いや、それではシャ○ダーか?
うう、今から訂正させた方が良いかな?
でも何か盛り上がっちゃっているしな~
この連中の考えを変えさせて否定するには、俺が正体を明かさないと無理そうだし・・・
むむむ・・・ここで俺の正体を明かしたら大変な事になりそうだしな?
それにこの後、囮捜査も出来なくなりそうだ。
・・・うん、聞かなかった事にしよう!
そう考えた俺は、話の方向を変える事にした。
「ところで皆さんはどんな魔法を使えるのですか?」
俺の質問にギルバートたちが気軽に答える。
「私は回復魔法で、そっちの二人は火炎魔法と凍結魔法、そしてこいつはタロス魔法を使えます」
「ほう?タロス魔法を?」
それはウォルターだった。
一番最初に覚えた魔法がタロス魔法とは珍しい。
「ええ、物は試しにやってみたら使えたのですよ。
我々は4人なので、もう一人位、戦ってくれる仲間がいたらいいなと、軽い気持ちで覚えようと思ったのですがね」
「それにしちゃ、覚えるのに苦労していたな?」
「ああ、随分とてこずっていた」
「アレは結構難しいんだよ!」
興味を持った俺はウォルターに頼んでみた。
「是非、ここで見せていただけませんか?」
「え?ここでですか?」
「はい、タロス魔法は私も色々と研究していて、非常に興味があるのです。
是非後学のためにも見せていただきませんか?」
その俺の言葉にギルバートがうなずく。
「そうですね、あなたの魔法の勉強になるのであれば・・・」
そう言ってウォルターの方に向かってうなずく。
ウォルターも少々躊躇した様子だったが、うなずいて答える。
「ええ、まあ、構いませんが・・では、・・・アニーミ・エスト」
ウォルターが呪文を唱えると、そこに一体のタロスが現れる。
頭と拳の部分だけが卵形の銀色で、他は筋骨隆々たる木人形のような感じのタロスだ。
特に拳に相当する部分は銀色の卵型でかなり金属的だ。
恐らく相手を殴打するのに特化しているのだろう。
これは中々珍しくて面白い。
銀色の頭は頭突きか、体当たり用だろうか?
ちょっと見には、少々ペプ○マンっぽい。
俺は全体をしげしげと眺めてから、ピタピタとあちこちに触ってみる。
まあ、可もなく、不可もなくと言ったほどの出来だ。
少なくとも悪くはない。
「なるほど、中々の出来ですね?」
「そうですか?」
「ええ、この手首の部分が銀色の卵型なのは、相手を殴るためですか?」
「ええ、そうです
私はまだ剣を使えるほどの器用なタロスは作れないので、代わりに戦闘に向いている物をと考えたらこうなりました」
やはりそうなのか?
「なるほど、とても興味深いです。
これで時間はどのくらい持ちますか?」
「そうですね・・・まだせいぜい1時間という所でしょうか?」
「なるほど・・・頭と両手の部分が銀色というのは面白いですね」
「ええ、戦闘用に頭と拳部分を強化しようと金属をイメージしたらそんな具合になったのです」
「なるほど、しかしまだ強度が今ひとつのようですね。
生成する時にもう少し金属のイメージを具体的にすると良いと思いますよ?
例えば鋼とかミスリルをイメージして生成するとか・・・」
「なるほど、御助言ありがとうございます。
ひょっとしてあなたもタロス魔法を?」
「ええ、そうです。
お見せしましょうか?」
「はい、是非お願いします」
「承知しました。アニーミ・エスト」
俺が呪文を唱えると、そこには紺色に金色を縁取った、エレノア式甲冑型戦闘タロスが一体現れる。
そのピシッ!とした、いかにも戦闘的なタロスを見て、ギルバート一行が驚く。
明らかに見た目が自分たちよりも年下の成金のボンボンのようで、組合にも登録していない初心者のような俺が見事なタロスを出したので驚いたようだ。
「これは・・・!」
愕然とするウォルターに、俺が出したタロスを薦める。
「せっかく出したのですからこれは差し上げましょう。
皆さんはこれから迷宮へ行くのですよね?」
「ええ、そうです」
「ではこのタロスを参考に使ってみてください。
あなたがたの命令を聞いて、明日の夜位までは持つように作っておきましたので」
「え?このタロスはそんなに持つのですか?」
このウォルターという人間のレベルと魔法量からすると、一日に作れるタロスの数は、まだせいぜい3体という所だ。
さきほどタロスを生成するのに少々躊躇したのはそのためだろう。
何しろ1日の3分の一の魔法量を俺のために使ってしまうのだから。
その貴重なタロスを俺の好奇心のために1体分使わせてしまったのだ。
ならば、これ位の償いは当然だろう。
いや、これではまだ少ない位だ。
「ええ、あなたの魔力を私のわがままで無駄に消費させてしまいましたからね?
申し訳ないので、是非これを迷宮へ連れて行って使ってみてください。
そうすればあなたのタロスの代わり位にはなるかと思います」
「ありがとうございます」
「それともう一つ・・・アニーミ・エスト」
俺が呪文を唱えると、今度はウォルターが作った物とそっくり同じ形のタロスが出現する。
頭と両拳が銀色の卵型のタロスだ。
それを見てギルバートとウォルターが驚く。
「えっ?」
「これは・・・」
自分が作ったのとそっくりなタロスを俺が作って見せたので、かなり相手も驚いたようだ。
「あなたのタロスをまねて作ってみました。
一応、先程私が言った部分を考慮して、両腕の部分はミスリル並の強度で作ってみました。
こちらも明日の夜位までは持つように作ってみましたので、参考までに使ってみてください」
「これは凄い!ありがとうございます!」
「それとこれもどうぞ」
そう言って俺は自分のベルトに挿してある緑色のマギアグラーノを確認すると、4つばかしギルバートに渡す。
これは秘密基地のコンストラードの作ったザクが封じ込められているマギアグラーノだ。
俺は気まぐれで使う事があるので、いつもいくつかベルトに挿して持っていた。
この連中は俺たちの熱烈なファンなようなので、ちょいとサービスしてみたくなったのだ。
「これは・・?」
「それは戦闘タロスが入っているグラーノですよ。
見掛けは違いますが、強さは今出したタロスと同じ位です。
使用する時は「起動、ザク」という言葉で戦闘に使えます。
皆さん、お一人に一つずつさしあげます。
そちらは三日ほど持つので使ってみてください」
「え?三日も?本当によろしいのですか?」
「ええ、構いません。
ちょうど誰かに使ってもらって、使った感想を聞いてみたかったのでね。
試供品のような物です。
ですからもし今度会う事があったら、そのタロスたちを使った感想を聞かせてください」
俺の言葉に納得したギルバートが礼を言って、マギアグラーノを4つ受け取る。
「わかりました。
それでは遠慮なくいただきます」
「ええ、どうぞ。
それでは私達はこれで・・・」
俺がミルキィと共に席を立って去ろうとすると、ウォルターが話しかけてくる。
「あの・・・あなたは組合員ではないようですが、かなりの迷宮上級者なのでは?」
「いいえ、単なる通りすがりのちょっとしたタロス使いですよ。
お気になさらずに」
そう言って俺はミルキィとそこを後にした。
あのタロスは全てタロス限界値のレベル100だ。
はっきり言って、戦闘に関しては、あの4人よりも遥かに強い。
迷宮で使えば、彼らにも色々と参考になるだろう。
うまく使えば一気にレベルも上がるはずだ。
そうすれば今後とも何かと楽になるだろう。
お詫びとファンサービスを兼ねた俺のちょっとした気持ちだ。
「おや?」
俺が通りがかりにふと掲示板を見ると、たまたま火炎激愛団がまた人員募集をしていた。
明日、大規模な魔物狩りをするので、飛込みを含めて火炎魔法を使える者を募集しているようだ。
例によって火炎魔法さえ使えれば、種族、年齢、身分等、何も問わずと書いてあって、正体を隠しての参加も可と書いてある。
ふむ、今日はは囮捜査で色々と神経を使っていたので、何だか久しぶりに俺も何も考えずに魔法を撃って見たくなってきた。
明日はこれに参加して見るかな?
そんな事を考えながら俺は再びミルキィと囮捜査をするべく、馬車で森へと向かった。