0368 戦団?「黄金の輝き」
翌日から俺とミルキィは組合に頼まれた囮捜査をする事にした。
その間にエレノアとシルビアは、豪雷と疾風、そしてアンジュを迷宮で鍛えておく事になった。
アンジュも一緒に囮捜査をしたがったのだが、流石にまだ色々と経験不足なので、まずは迷宮で魔物相手だ。
こいつと一緒に捜査すると、いきなり相手を消し炭にしそうだしね?
そして仕事とはいえ、ミルキィは俺と二人きりになれたので、上機嫌のようだ。
俺とミルキィは二人でイチャコラとしながら囮となって森を行き来する。
しかもミルキィは以前にも増して必要以上に俺にイチャついてくる。
どうも昨日のアンジュのおんぶを見て、自分も俺とイチャつきたいらしい。
まあ、俺もミルキィとイチャつくのは好きなので、問題は無いけどね?
ある時などは、俺とミルキィが森の中で完全にその気になってイチャついている時に盗賊が出てきた。
「おうおう!お前ら!こんなトコでイチャついてんじゃねえぞ!」
「あ、お構いなく・・・!」
その気になっていた俺は、そう言って盗賊を無視してミルキィにキスをする。
しかし当然の事ながら盗賊どもは黙っていない。
「アホか!このガキ!」
「お構いなく・・・じゃねぇんだよ!」
「おう!とっとと身包み脱いでもらおうか?」
「え?いや、もうちょっと待って・・・」
「誰が待つか!このボケが!」
「ちくしょう!このガキが!ちくしょう!この成金のボンボンが!ちくしょう!」
う、何かこいつ、涙流しながら怒って訴えているぞ?
まあ、気持ちはわからないでもないが・・・
「しょうがないな・・もう・・・」
盗賊たちは迫って来るし、これも仕事なので仕方がない。
俺も諦めて盗賊たちを捕縛する事にした。
「全く・・・気分台無しですね・・・」
あ、ミルキィはかなり怒っているようだ。
いや、一応コレ仕事だからね?
ミルキィ?そこ、わかっている?
俺たちはあっと言う間にその盗賊たちを叩きのめして捕縛すると、組合へと連行した。
その後でミルキィが俺の手を引いて強引に連れ出す。
「シノブ君、ちょっとこっちへ来てください!」
「え?そっちは馬車乗り場じゃないよ?」
「いいんです!ちょっと休憩です!」
その後、我慢しきれなくなったミルキィが、俺を近くにあった元トランザムのアジトの一つに連れ込んで、少々仕事をサボっていたのはみんなには内緒だ。
この場所は今はうちの無人倉庫で、ジャベックだけで警備しているので、ミルキィには好都合だったらしい。
当然、オリオンたちは俺とミルキィの事は素通しだ。
その中の空き部屋で欲求不満を解消してスッキリとしたミルキィは、元気よく伸びをすると、囮捜査を再開した。
「ん~!サッパリしました!
さあ、シノブ君!休憩は終わりです!
御仕事を再開しましょう!」
「う、うん、そうだね」
うん、俺はちょっと疲れていたけどね?
そういえば、ふと思ったけど、前世でその手のホテルとかって、出入口に「御休憩」と「御宿泊」って書いてあったけど、何で「御休憩」なのに入る前より疲れるんだ?
これって、全然「休憩」してないだろ?
むしろ疲れているじゃないか!
あの表示はおかしい!
アレは何か別の表示に変えるべきだ!
う~む、しかしアレを「御休憩」と言い始めたのは一体誰なのだろうか?
やはり昔、武術の達人で「呉弓慶」さんとか言う人がいて、戦いの最中に女性を無人の寺に連れ込んだのが語源で、それは言うまでもない事なのだろうか?
どこかにそれを説明している本はあるのだろうか?
あの何でも知っている鯰ヒゲの人に聞いたら教えてくれるだろうか?
前世でその手のホテルを利用した事のない俺だったが、今更ながら何故かそんな事を考えつつ、ミルキィと一緒に囮捜査をしていた。
前回と同じく盗賊たちは俺たちの見事な初心者演技に引っかかり、何組かを捕まえて組合に連行していた。
昼が過ぎて、囮捜査を順調に進めていた俺とミルキィは食事をする事にした。
「少し遅くなったけど、そろそろ食事にしようか?」
「ええ、そうしましょう」
俺とミルキィはデパーチャーでミクサードとオレンジジュースを乗せた盆を持って、席を探す。
折悪しく、今日は結構混み合っているようだ。
あまり空いている場所がないようだが、俺は空いている場所を見つけた。
「ああ、あそこが空いているよ」
「はい」
俺たちは空いている場所に行くと、そこへ座った。
すると、丁度その向かい側に座っていた相手が俺たちに話しかけてきた。
「おや?君達は確か?」
「あ・・・」
それは組合三馬鹿だった。
あちらも俺たちの事を覚えていたらしく、そのまま話しかけてくる。
「どうした?まだ組合員になっていないのかい?」
「いや、そういう訳ではないのですが・・・」
「ふふふ、わかるぞ?
組合員としてやっていける自信が無くて登録するかどうかを迷っているのだろう」
あまりにも誤解させるのもどうかと思うので、一応俺は組合員である事を言ってみた。
「いえ、ちゃんと組合員としては登録してありますが・・・」
しかし俺の言う事をこの連中は本気にしなかったようだ。
「無理をするな。
例え君たちが組合員としてやっていけなくとも問題はない」
「ああ、人には分相応というものがあるからな」
「ああ、無理をして登録をする事もない」
どうもこの連中にとっては俺たちが組合員である事はあり得ない事のようだ。
俺たちの格好は前回この連中に会った時と同じ囮捜査仕様で、派手な金持ちの初心者カップルを装った格好だ。
当然、二人とも登録証などつけていないので、まだ登録をしていないと思われたのだろう。
しかし正体を明かす訳にもいかないし、どうしたものかと俺が考えていると三馬鹿たちがしたり顔で話しかける。
「ふふっ・・・まあ、それも仕方がないな?」
「ああ、俺たち「黄金の輝き」のような者ならばともかく、普通の人間ではな」
「そうだな」
「黄金の輝き?」
初めて聞くその言葉に俺は思わず問い返すと、三馬鹿たちが答える。
「ああ、俺たちの戦団名だ」
「いずれ有名になる。
今から覚えておいた方が良いぞ?」
「はあ・・・でも確か戦団は特級でもない限り、正式に登録するには5名は必要なのでは?」
こいつらは一般等級で三人しかいない。
明らかに戦団としては人数不足だ。
その俺の指摘に両脇の二人が焦る。
「そ、それはだな・・・まあ確かに正式に登録するのは後日になるだろうが、とりあえずと言う事だ」
「そうだ」
「後日って・・・まさか特級になるまで登録をしないつもりですか?」
「うっ・・・」
「それは・・・」
その俺の言葉に二人は怯むが、リーダーが落ち着いて答える。
「ふふっ・・・我々がまだ登録が出来ないのは、俺たちと釣り合いが取れる者がまだ見つからないからだ」
釣り合いが取れる者ねぇ・・・
こいつは現実が見えていないのに、相変わらず余裕たっぷりだなあ・・・
どこからその余裕が出て来るのか羨ましい位だよ?
ある意味感心する俺に、残り二人が慌ててリーダーの言葉に追従する。
「そ、そうだ!そういった連中が見つかればすぐにでも登録をするつもりだ!」
「その通りだ!」
うん、確かにこいつらと釣り合う仲間を見つけるのは難しそうだ。
こいつらが考えているのとは別の意味でね?
それにしても、一体どうやってそんな仲間を見つけるつもりなのだろうか?
俺はその点を尋ねてみた。
「集めるのって、どういった仲間ですか?
それにどうやって集めるんです?」
その俺の質問に3人は少々困った様子だ。
「そ、それは・・・我々に相応しい仲間だ!」
「うむ、あまり仲間内で実力に差があるとバランスを乱す。
そのためにも仲間を迎えるには吟味する必要がある」
「その通りだ。
いずれ、そういった仲間が見つかれば、その時にこそ、この名を登録して大々的に名乗る事になる訳だ」
それっていつの事になるんだろうか?
しかも集める基準に全く具体性がなく、答えになっていない。
集め方も不明だ。
何でそうまでして見栄が張りたいんだろうか?
こういう連中の心理はわからん・・・
しかし、あくまで大物ぶろうとする三人に、俺は少々からかうつもりで質問をしてみる。
「え?相応しい仲間って・・・例えば全身ミスリル装備の美女剣士が突然目の前にやって来て、自分を仲間にして欲しいと言ってくるとか?
まさか、そういうのを待っているんですか?」
その俺の言葉に三人は恐ろしく動揺する。
いきなり三人とも無言で青ざめた表情となった。
どうやらキャサリンの件は、この三人に取っても相当痛い経験だったようだ。
しばらくの沈黙の後、かろうじてリーダーが返事をする。
「・・・そ、そんな事はない!」
「そ、そうだ!そんな事はないぞ!」
「ないぞ!」
そんな3人に俺はさらに別の突っ込みを入れてみる。
「そうですか?そういえば以前会ってから結構経つのに、まだ皆さん六級なんですね?
僕は皆さんほどの腕だったら、もう四級位にはなっていると思っていましたよ?
何しろたったの1ヶ月で七級から六級になったと言ってましたからね?
一体どうしたのですか?」
以前、こいつらは正規の魔法士で組合の初等訓練所を出ていると言っていた。
ならばそこを卒業した時点で、すでにレベル30になっているはずだ。
つまり登録時点で組合には七級で登録が出来て、フラーモジェールとグラツィオジェールさえ倒せば、即座に六級に上がれる状態だ。
それならば1ヶ月どころか、3日間で六級になっても不思議はない。
しかしそこから五級になるのは険しい道のりだ。
まずはレベルを40まで上げなければならないし、ミノタウロスを単独で倒せるようにならなければならないのだ。
こいつらは一応正規の魔法士なので、魔法を使えば単独でミノタウロスを倒そうと思えば倒せるだろうが、まだレベル40にはほど遠い。
俺のように特殊能力を持っているか、エレノアのような高レベルの人間に上げてもらいでもしない限り、それはかなり時間がかかるはずだ。
しかもこいつらはどうやら話を聞いた限りでは、商隊護衛などを主な仕事にしているようすだ。
俺もやった事はあるが、あの仕事は大抵は食事もつくし、道中滅多な事では魔物や盗賊などは出てこないので、かなり割りの良い仕事だ。
しかしその一方で拘束時間は長いし、レベルはほぼ上がらない。
つまりレベルの向上を目指している人間には不向きな仕事なのだ。
それなのにこいつらはそれを主な仕事にしているようだ。
事実、鑑定をしてみると、こいつらのレベルは32で、前回から比べてもほとんど上がっていない。
この調子では恐らく五級になるには、まだ最低でも1年以上はかかるだろう。
そう考えて俺はこいつらにさりげなく等級の事を聞いてみたのだ。
その場で聞いた限りでは褒めて心配しているような俺の言葉に、またもや動揺しながらも三馬鹿が答える。
「そ、そうか?ま、まあ、我々にも都合が色々とあるのでな」
「そ、そうだ!都合があるぞ」
「その通りだ」
その答えに俺はさらに不思議そうに質問をする。
「え?都合って?昇級するのに何か都合が悪い事ってあるんですか?
それは驚きました!
そんな事を聞いたのは初めてです!
後学のためにどういった理由なのか、是非聞いておきたいのですが?
昇級するのに都合が悪い場合って、どういう場合なんでしょう?
どうか、今後のためにも浅学な私に教えてください」
うん、俺も結構意地が悪いかな?
俺たちみたいなアレナック等級や、カベーロスさんみたいな特殊な事情があるならともかく、普通の一般等級でそんな事がある訳ないんだからね?
ましてや四級未満の陶器等級で、そんな理由がある訳がない。
100番みたいな例外は別としてね?
ま、もっともこんな奴らには、これ位言ってやった方が良い薬かも知れない。
そして俺の予想通り、この連中は答えに窮する。
「そ、それはだな・・・」
「うむ、それは少々こみいった話になるのでな・・・
我々も忙しいので、その話はまた今度時間がある時にしよう、ではさらばだ!」
「おう、次のミッションが我々を待っている!」
そう言って三人組はそそくさと去って行った。
まあ、そりゃそうなるわな?
理由なんかないんだから。
「あ、逃げた」
「そうですね」
そう言って、俺とミルキィは顔を見合わせて笑った。
三馬鹿が去った後で、俺たちがゆっくりと食事をしていると、そこへ今度は別の四人組がやって来た。
その中の一人が俺たちに話しかける。
「こちら、よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ、もちろん構いませんよ」
そう言って、その四人組の顔を見て俺は驚いた。
奇しくも今度は三馬鹿の後で、キャサリンと組んだ例の四人組だ!
だが、登録証を見ると、全員が木片等級で●●になっている。
どうやら全員が8級に昇級したようだ。
しかし俺が驚いたのはそこではない!
以前は全員の下半分が赤線、つまり戦士だったのが、今度は全員が黄色い線、すなわち魔戦士になっている!
これはつまり全員が魔法を使えるようになったという事だ!
あの時、俺はこの連中に魔法を使えるか試した方が良いと言っておいたが、ちゃんと魔法を覚えたようだ。
興味を惹かれた俺は話しかけてみる事にした。




