0364 グレイモンへの挨拶
俺とエレノアはグレイモンにも挨拶に行った。
豪雷と疾風も紹介がてら一緒だ。
俺たちがマジェストンへ行く事を説明すると、グレイモンは感慨深く話し始める。
「そうか・・・いよいよシノブも正規の魔道士になるか・・・
しかし不思議な物だな?
正規の魔道士である私をあっさりと倒した君が、まだ魔法士ですらないのだからな」
「はは・・まあね」
普通に考えてそこら辺の魔士が正規の魔道士に魔法で勝つ事はありえない。
それは将棋のプロや相撲の十両が、そこら辺の腕自慢に負ける事がないのと同じで、何の資格もない魔士が、正規の魔道士に魔法勝負で勝つ事はまずありえない。
俺がグレイモンに勝ったのは、例外中の例外と考えて良いだろう。
「まあ、頑張ってきてくれ」
「ああ、そのつもりだ。
グレイモンも男爵仮面がいなくなるけど、頑張ってな」
「うむ、その話は私も聞いている。
何でも親友の仇を討つ旅にバロンと出るそうだな?
ここの所、私もかなり迷宮につき合わせてもらった。
その結果、私もレベルが100を越えてありがたくはあったがな・・・
よほど、私も一緒に旅立とうかと思ったのだが、流石に止められてな」
「そうか」
そりゃ男爵仮面もそうだが、グレイモンも伯爵で領主だ。
本来ならば、そうそうフラフラと旅に出る訳にもいかないだろう。
そして俺がグレイモンを鑑定してみると、なるほど、レベルが123まで上がっている。
これは中々凄い!
「領地の事も、しばらくは代官に任せるそうだ。
男爵はきっちりと領地の運営もしていたので、かなり心苦しい物があったそうだがな。
全く真面目な男だ。
そういえば男爵の影響もあって、私も最近は自分の領地の運営に興味が出てきてな。
正直、以前はそのような事には興味もなく、代官に任せきりだったのだが、男爵のおかげで色々と学び、考え方も変わった。
ここ最近は自分でも現地を視察して領民に直接会って、色々と話をするようになったのだ。
そのおかげで初めて気づく事が色々とあった。
そう言えばそれに関して、この間少々面白い事があってな」
「面白い事?」
俺がそう問い返すと、グレイモンはそれを思い出したのか、クックックと笑っている。
俺もグレイモンがこんなおかしそうな顔をするのを見るのは初めてだ。
一体、何があったのだろうか?
「ああ、先日たまたま私が自分の領地にいた時に、そこでキマイラが出たのだ。
もちろんこのような高レベルの魔物が人里に出る事は珍しい。
当然、大騒ぎになって、領民たちも慌てふためいた。
ここで普通の領主ならば自分の領軍や総合組合、もしくは魔法協会に頼んで退治してもらうのだが、私の場合はすぐさまテレーゼと一緒に現地に赴いて、二人でキマイラを退治してしまった」
「へえ・・・」
御領主様自らが魔物退治か?
そりゃ確かに珍しいな?
しかしグレイモンも今やレベル100を越えている。
そして何よりテレーゼのために自分で考えたグレイモン戦法がある。
今のグレイモンならば、キマイラ一匹程度ならば、簡単に退治出来るだろう。
ましてやテレーゼと一緒なら楽勝だろう。
「ところがそれを領民たちが知ると非常に驚いてな。
確かに領主でキマイラを倒せるほどレベルの高い領主は珍しいし、しかも倒せるからと言って、自分で本当に倒してしまう者はさらに珍しいだろう。
それで領民たちは領主自らが自分たちを守ってくれたと、偉く感激してくれてな・・・
正直私も驚いたよ。
男爵仮面と一緒にやったミッションでもそれなりに感謝はされていたが、私は自分の領民にあれほど感謝された事は初めてでな。
なんと言うか、その・・・気持ちの良いものだな?
だが、恥ずかしながら私も少々照れてしまったのだ」
「なるほどね・・・」
「そしてそのまま上機嫌で屋敷に戻ったら、うちの領軍の司令官に怒られてしまってな」
「え?何で?」
「領主が自分たちの仕事を取ってくれるな、とな。
これでは自分たちが雇われている意味がないと怒られてしまったのだ。
そして領主である事を考えて、もっと御自重くださいともな。
それを聞いて私は思わず笑ってしまったよ」
「そりゃ確かに面白いな」
言われてみればその通りだ。
領主様自らが魔物を倒してしまっては、何のために領軍がいるのかわからない。
しかしおそらくグレイモンとしては、領民が心配で一刻も早くキマイラを倒したかったのだろう。
全く、昔のグレイモンからは、とても考えられない行動だ!
「しかし今更ながら領主という者がどうあるべきかをやっとわかってきた気がする。
全くこれもシノブとエレノアのおかげだ。
改めて礼を言いたい。
ありがとうと」
そう言って深々と頭を下げるグレイモンに俺は驚きながらも答える。
「よせよ、確かにきっかけを作ったのは俺とエレノアかも知れないが、それに気づいたのはお前さん自身さ」
「うむ、これからもテレーゼや領民たちを自分の手で守って行きたいと思う」
「ああ、そうだな」
「しかし弱音を吐くわけではないのだが、男爵仮面たちがいなくなってしまうのは心もとないな・・・
私のレベル上げは彼らに頼っていた部分も大きいし、何よりも彼らがいなくなる事自体が寂しい。
しかもシノブとエレノアまでしばらくいなくなってしまうとはな・・・」
そう寂しげにグレイモンが呟く。
確かにこいつは今までが今でだっただけに、友人が少ないようだ。
その数少ない友人である男爵仮面とバロンがいなくなった上に、俺とエレノアまでがいなくなってしまったら、寂しくなるのはわかる。
それを聞いた俺は、ふとグレイモンに話した。
「なあ、グレイモン・・・しばらくの間、お前にガルドかラピーダを貸してやろうか?」
俺のその言葉を聞いてグレイモンが驚く。
「何っ?ガルドとラピーダだと?
あのレベル300のジャベックか?
それはとても助かるが・・・」
「ああ、今話した通り、俺はしばらくの間マジェストンに行ってしまって、その間はこの豪雷と疾風を護衛に連れて行くんだ。
そしてガルドとラピーダはこのロナバールの屋敷の警備に残して行く予定なんだ。
だから両方ともという訳にはいかないが、お前さんが迷宮へ行く時に、うちに寄ってもらえれば、ガルドかラピーダのどちらかを貸してやっても良いぞ?
そうすれば、レベル上げにはかなりの助けになるだろう?」
「確かにそれは助かる!
しかし本当に良いのか?
あんな貴重なジャベックを私に貸してしまって?」
「ああ、うちの屋敷の警備には他のジャベックたちもいる。
だからお前さんが迷宮へ行く時に、どちらか一体位は貸しても大丈夫さ。
友人が困っているなら、それ位は構わない」
自然に出た言葉だったが、その俺の言葉にグレイモンが心底驚いたように呟く。
「友人・・・私を友人と言ってくれるのか?」
「ん、まあ、そうだな・・・お前さんとは色々とあったが、今では友人の一人だと思っているよ」
そう、確かに最初はあれほど憎んでいたのに、今ではこんな和やかな気分で話していられる。
人の仲とは不思議な物だ。
「うむ、すまない、恩に着る。
では言葉に甘えて、私が迷宮へ行く時には、どちらかを貸していただく。
君のその好意に報いるためにも、私もシノブが学業に精をだしている間、迷宮で頑張るつもりだ」
「ああ、俺が魔法学士になって帰ってきたら、お前さんのレベルがどれ位になっているか楽しみにしているよ」
「ああ、そうだな」
俺はグレイモンと別れをつげた。
俺は家に帰るとアルフレッドとガルド、ラピーダに事情を話して、グレイモンが来たらどちらかが迷宮へ付き合ってやるように言っておいた。
俺はエレノアに話しかける。
「しかし僕とあのグレイモンがこんな間柄になるとはね?
なんだか信じられないよ?」
「そうですね。
それは私もそう思います。
でもそれは御主人様の御人柄ですよ」
「そうかな?」
「ええ、御主人様が彼にテレーゼを贈らなければ、このような事にはなっていなかったでしょう」
「そうか」
「ええ、それは間違いありません」
俺の言葉にエレノアも感慨深そうに答える。
まったく人の縁とは不思議な物だと思った。




