0036 エロフと異世界キャンプ
「それでは明日はまた野営を含めた訓練をしましょう」
エレノアが明日の予定を言った時に俺は質問した。
「え?じゃあ、また一泊二日で、どこか外に泊まるって事?」
「はい、その通りです。御嫌ですか?」
「ううん、そんな事ないけど・・・でも、今度は野営の準備は僕がしても良い?」
「御主人様がですか?・・・もちろん別に構いませんが、よろしいのですか?」
「うん、ちょっとしてみたい事があるんだ」
前回の野営の時は、初めてで何もわからないので、エレノアの指示通りにしてみた。
野外の訓練が終わった後で、エレノアが防御結界を周囲に張り、念のために四方にタロスの見張りを立てた上で、草原で筵のような物を敷いて、持って行った薄い毛布をかけて、寝るだけだった。
食事も、干し肉と乾パン、それに水だけだった。
それはそれで楽しかったし、エレノアと外で二人で一緒に寝るのは、また楽しかった。
天気の良い晴れた日だったから、夜は星もきれいに見えたので、エレノアにこちらの世界の星や月の事を色々と教わった。
俺は別にそれに不満はなかったが、せっかくあちらの世界仕様のキャンプ道具を持っているので、今回はそれを使ってみたかったのだ。
俺はその日のうちに、肉屋に行って肉を買い、ねぎのような野菜を買って、さらにパンを少々とハーブ茶と果物いくつか、それに大皿を1枚買っておいた。
翌日になって、エレノアの指示通りに草原へ行き、そこで一日の訓練を終わると、俺は疲れていたが、食事の支度をし始めた。
何しろこれが楽しみでエレノア先生の訓練を堪えていたのだ。
エレノアは防御結界だけは張ったが、奴隷である自分が食事の支度をせずに、主人である俺が仕度を始めるのを申し訳なさそうに見ている。
「よろしいのですか?本当にお任せして?」
「うん、大丈夫だから、あ、もし良ければ薪だけは、集めてきてくれないかな?」
「かしこまりました」
エレノアが薪を集めに行っている間に、俺は日本式キャンプの仕度をはじめる。
俺は神様からキャンプ道具をテントや飯盒、給水タンクなど色々ともらっていた。
それらは全てマギアサッコに収納してある。
まずはテントを張る所からだ。
俺はマギアサッコから四人用テントを出して組み立てを始めた。
自立式テントは一人でも簡単に組み立てられる。
内側を組み立て、外側を張って、ペグを地面に固定すると、あっと言う間に四人用のテントが出来上がる。
俺はキャンプが好きで、色々なテントを何回も組み立てた事があるので、慣れたものだ。
次に折りたたみ式のテーブルやら椅子やらを出して、テントの外に並べる。
ミスリル製のフライパンやら、飯盒、コッヘルを出して、テーブルの上に並べておく。
さらに水が満タンに入っている、蛇口付きの給水タンクを載せる。
そして飯盒に米を入れて、米を研いで、水を適量入れて、置いておく。
それからその辺の石で竈を作っていると、薪を集めたエレノアが戻ってくる。
「これは・・・一体?」
初めて自立式テントを見たエレノアは驚いている。
「これはテントと言って、僕の国の野営の道具だよ。
結構住み心地もいいんだ」
「いえ、私もテントなら見た事がありますが、こんなに一人で短時間で簡単に組立てられて、しかもこのように住み心地が良さそうな物は初めて見ました」
まあ、そうだろうな、素材は違うとはいえ、基本的には地球の21世紀の最新式のテントを模倣して作ったからね。
見た事はないけど、おそらくこちらのテントは両端に杭を打って、紐を張る、おなじみの型なんだろうな。
「うん、僕の国では、結構こういうので、野営をするのが流行っているからね。
だから色々と便利な物が作られてあるんだ」
俺がそう言うと、エレノアはテーブルの上に並べられた様々な物を、興味深そうに眺める。
「このテーブルに載っている品々も、そういった品物なのですか?」
「うん、そうだよ。
これが給水タンク、これは水が10リットル・・・ええと、コップ50杯分位かな?
それだけ水が入るし、注ぎ口もついているから便利だよ。
それとこれは飯盒と言って、米を炊く道具なんだ」
「米・・・ですか?
大陸の東の方の国では米を主食にしていますが、御主人様の国は東の方なのですか?」
「うん・・・位置は僕もよくわからないけど、そうかもしれない」
この世界に日本はないが、どうやらアースフィアでも東の方の主食は米らしい。
機会があったら行ってみたいな。
「東の国の主食はみんな米なの?」
「そうですね、ロナバールの東の方に金剛杉の大森林という物があり、さらにその東に大砂漠が広がっているのですが、その辺りより、東の国の主食はだいたい米を食べているようです」
「へえ?そうなんだ?
まあ、とにかく、この飯盒というのは米を野外で炊くのに向いている道具なんだよ」
「これはミスリルで出来ているようですが、御主人様の国では、この飯盒と言う物を全てミスリルで作っているのですか?」
「いや、これは特別製である人にもらった物なんだ。
普通は鉄とか、別の金属で作っていると思う」
「そうでしょうね・・・このフライパンや、こちらの平たい取っ手のついたコップのような物もミスリルで出来ているようですから」
「うん、それもみんな特別製なんだ」
「なるほど」
うん、やっぱりフライパンだの、コッヘルだのをミスリルで作ったのは贅沢だったみたいだ。
でもアルミやステンレスがない世界じゃ仕方がなかったしなあ・・・
「ともかく、竈を作ったから、これで夕飯を作るよ」
「はい、お願いします、私は何をすれば良いでしょうか?」
「エレノアは今日は見ていてくれれば良いよ」
「よろしいのでしょうか?御主人様に全てお任せしてしまって?
訓練でお疲れでしょうに?」
「うん、確かにそうだけど、今日の所はね、まあ、見ていてよ」
「はい、承知いたしました」
俺は竈に火をつけて、薪を燃やす。
「火炎魔法!」
こういう時に魔法を使えるのは、ものすごく便利だ。
飯盒を火にかけると、もう一つ竈を作って、頃合を見計らって肉とねぎを焼き始める。
やがて御飯が炊き上がると、皿に盛り、醤油で味付けした、肉とねぎを上に乗せる。
これで焼肉丼風な御飯の出来上がりだ。
それだけでは寂しいので、ハーブ茶と大皿に華麗に盛った果物が良い感じで演出をしている。
果物の皿のそばには何となく、その辺に咲いていたいくつかの花も飾り付けに使ってみた。
その横にはオイルランプを置いて光を灯してある。
魔法の光でも良いのだが、何となくこっちの方が雰囲気が出ているのでオイルランプにしてみた。
まだこっちの世界に慣れてないし、設備も不十分なので、飾りつけも最初としてはこんな物だろう。
それでもエレノアは結構驚いたようだ。
「さあ、どうぞ、エレノアも食べてみて」
「はい、ありがとうございます」
焼肉丼もどきを食べ始めたエレノアが驚いて話し始める。
「これは大変変わった味ですが、おいしいですね」
「そう、良かった」
「それにしても野営で、このような普通の御飯が食べられるとは驚きです。
まるで軍隊の司令官か、王侯貴族の旅行のようです。
しかもそれがこんな簡単に出来てしまうとは・・・」
確かにこのアースフィアでは野営でこんなテーブルと椅子があって、そこに座って出来立ての料理で食事をするなんて、王侯貴族でもない限り珍しいのかも知れない。
「うん、僕の故郷では、こうして外で食べ物を作る道具も結構色々あるんだ」
「ええ、私も驚きました。
しかしこの設備や道具もさる事ながら、御主人様の料理の腕や飾りつけも大した物ですね?
とても素人のした事には思えません」
「へへ・・・ありがとう」
俺も料理の腕や、飾り付けの見栄えを褒められて嬉しい。
そして食事が終わると、テントの中に二人で入る。
テントの中の作りにもエレノアは感心した様子だ。
四人用のテントなので、中も結構広い。
「これも非常に驚きですね?
野外で暮らすのに、これほど快適に暮らせるようなテントがあるとは・・・
これなら迷宮の中でも広場でなら使えますね」
「うん、防御結界を張って魔物を防げば、十分使えると思うよ」
そして、いよいよテントの中で就寝だ。
そう、俺はこんな事もあろうかと、こんな事もあろうかと!
ちゃんと神様に頼んで、二人用の寝袋を用意しておいたのだ!
しかし、まさか本当にこんな物を使う日がこようとは・・・
万一の時を考えてこれを用意しておいた俺、偉い!
あの時の俺!褒めてつかわす!
「え・・・と、じゃあ、これが寝袋って言って、寝る道具なんだけれども・・・
これは二人用なんで、エレノアと一緒に寝るんだ」
「はい、かしこまりました。ではいつものように体をお拭きしましょうか?」
「うん、そうだね」
エレノアはたらいと布を出すと、水を張り、魔法で適温にする。
四人用のテントなので、二人ならば中はそれなりに広い。
いつものように俺の体を拭くが、テントの中だと、何だか新鮮でドキドキする。
テントの外の月明かりと、中の魔法の光で二重に照らされた裸のエレノアは、幻想的で、まるで妖精みたいだ。
俺はそんな幻想的な姿をうっとりと見ながらエレノアに体を拭いてもらう。
ああ・・・こんな月夜の下で、絶世の美女と裸でテントの中にいるなんて、何か夢みたいだ・・・
俺が先に体を拭いてもらって、寝袋に入ると、エレノアも自分の体を拭いて、寝袋に入ってくる。
「では、失礼して私も中に入れていただきますね」
「うん、入ったら、そこのボタンを留めてね」
「はい」
この世界にはチャックやマジックテープがないので、寝袋の端を留める道具はボタンになった。
エレノアがボタンを留めると、寝袋の中に体をうずめて入ってくる。
うわわわ~二人用とはいえ、寝袋だとさすがに密着するな~
もうすでに何回もエレノアとは裸で一緒に寝てるとはいえ、キャンプで寝袋の中では、また格別だ。
「狭くはないですか?御主人様?」
「ううん、むしろ、エレノアとくっついて気持ちいい~」
「あら?それだったらもっと私にくっついても良いのよ?」
おう!いつも通り、エレノアはスーパー御姉様エロフモードに移行だ。
「エレノア~」
「うふふ・・・こうしてシノブ君と狭い寝袋の中にいるのも、中々楽しいわね♪」
「うん」
「それにしてもシノブ君は今日は訓練の後も一杯頑張ったわね?」
「うん、エレノアを喜ばして驚かしてみたくて頑張ったんだ」
「まあ、そうなの?では今度は私がシノブ君を喜ばせてあげなくてはね?」
そういうとエレノアは俺の口を塞いでくる。
「あう・・・エレノア~」
「ふふ・・・頑張ったシノブ君には、いつも以上に楽しい事が待っているわよ~」
エレノアのその言葉に、もう俺の脳内も体も溶けている
こうして、俺とエレノア御姉様の楽しい野外での一夜は過ぎていった。
翌朝になると、俺は昨夜残った肉とねぎをパンではさんだサンドイッチを作った。
それに湯で溶いた粉ミルクを出すと、またもやエレノアが驚いていた。
「これは、パンの方はともかく、この白い飲み物は・・・乳ですか?」
「うん、これは粉ミルクと言って、水で溶くとこうして牛乳みたいになる飲み物だよ。
缶に入れてあって、水やお湯で溶くとすぐに飲めるから便利なんだ」
「ええ、これにも驚きました。
それにしても今回の野営は驚く事ばかりです。
大変過ごし易く、とても野営とは思えないほどです
是非次からの野営はこの方式でする事にいたしましょう」
こうして訓練を兼ねた地球式キャンプは無事に終わった。
そしてエレノアの言う通り、これ以降のエレノアの野外訓練は、この地球式キャンプでする事となった。
もっとも次からはエレノアが全部準備をする事になったけどね。




