0345 アンジュの値段
アルヌさんが戻って来ると、俺はアンジュを買う事を話す。
「アルヌさん、さっきの娘を買う事にしますよ」
「さようでございますか?
それはありがとうございます!
それでおいくらにいたしますか?」
そうだった。
忘れていたが、俺が値段を決めるのだった。
どうしよう?
相場通りにするか?
いや、あの娘は自分に自信を失っているので、少々自信をつけさせてあげた方が良さそうだ。
少し考えた俺は金額を言った。
「では金貨240枚で」
ちょうど、相場の倍だ。
これならあの娘の自尊心を多少は回復できるのではないだろうか?
アルヌさんはうなずいた。
「かしこまりました。
ではアンジュを金貨240枚で御購入という事で」
「お願いします」
金額が決まった所で、全員でアンジュのところへ行くと、アルヌさんがアンジュに話す。
「アンジュ、お前をシノブ様が金貨240枚で購入となった」
「え?金貨240枚?本当ですか?」
やはり自分に予想以上の値段がついた事に驚いている様子だ。
俺はうなずいてアンジュに話す。
「ああ、君にはそれ位の価値があると思ったからね」
「・・・ありがとうございます」
こうしてアンジュを購入した俺たちは、家へと帰った。
家に連れて帰ったアンジュをアルフレッドたちに紹介する。
「今度新しい奴隷になったアンジュだよ。
一応、「外組」の予定だ」
「アンジュです。
役立たずですが、よろしくお願いします」
「家令のアルフレッドです、よろしく、アンジュ」
「家政婦長のキンバリーです。よろしくね」
「副家政婦長のミルファよ」
そしてキャサリンの時と同じように、全員の紹介を終えると、アンジュに一通り、屋敷の説明をして部屋を一つあげる事になった。
「では部屋を用意するか。
キャサリンが使っていた部屋は縁起が悪そうだから、その向かいの部屋にでもするか?」
「そうですね」
その俺たちの会話にアンジュが驚く。
「え?部屋?」
「そうだよ、君の部屋だよ」
「奴隷に部屋・・・個室があるのですか?」
「ああ、うちではね、今の所ではあるけどね」
いずれ人数が増えたらどうなるかはわからないが、今の所は一人に一部屋ずつあてがう事は出来る。
「しかし、私は皆さんのように魔法が使える訳でも、戦闘が出来る訳ではないのですよ?」
「別に構わないさ」
「そうですか・・・でも、それでしたら私の部屋は、その縁起の悪い部屋とやらにしてください」
「え?何で?」
自分から縁起の悪い部屋にしようとするとは驚きだ。
「私は魔人の癖に魔法も使えない縁起の悪い女です。
そんな私が部屋をいただいたら、その部屋も縁起の悪い部屋になってしまいます。
わざわざそんな部屋を増やす必要は無いでしょう?
一つで十分です。
それでしたら私の部屋はその縁起の悪い部屋で十分です」
なんとまあ、そういう考えとは・・・・
「う~ん」
俺は唸ってしまった。
これは相当意固地になってしまっているようだ。
どうしようか?
俺は少々考えてからアンジュに言った。
「よし、わかった!
君にはその縁起の悪い部屋へ入ってもらう」
「はい、ありがとうございます」
「だが、それは縁起の悪い部屋を増やさないためじゃないぞ?
むしろ逆だ!」
「え?」
「この家には魔法指導の出来る正規の魔道士が二人もいるんだ。
それに幸運を招くケット・シーもいる。
これで君に魔法力が発揮できない訳がない。
必ず魔法が使えるようになるさ。
そうなれば、その部屋は今度は縁起の良い部屋になるという訳さ。
つまり我が家には縁起の悪い部屋がなくなって、全部良い部屋になる。
そのために君をその部屋に入れるんだよ」
「縁起の悪い部屋が・・・良い部屋に・・・?」
呆然とするアンジュにエレノアたちも話しかける。
「ええ、その通りですよ。アンジュ?
あなたはきっと魔法が使えるようになります。
希望を持ちなさい!」
「そうですよ。
それにうちの御主人様はめちゃくちゃなんですから!
どんな不可能だって、可能にしてしまいます」
「私もそう思います」
「ボクもそう思いますニャ。
御主人様は凄い人ですニャ!」
「そう・・なんですか?」
アンジュの言葉に俺たちがうなずく。
「そういう事さ、君だってそのつもりで僕の所へ来たんだろう?
じゃあ、次はアンジュの装備でも買いに行くか」
部屋を決めたら次は装備だ。
「え?装備ですか?」
「ああ、取り合えず、君はこれから迷宮に行くからね。
君のここでの仕事は「外組」と言って、僕の身の回りの世話と迷宮での戦闘だ。
いずれ我々と揃いの本格的な装備にするかも知れないが、まずは一般的な装備からだな」
「でも、私は迷宮に行っても戦闘が出来ない上に、ロクにレベルも上がりませんよ?
魔法が使えない上に、格闘や剣術などはまったく出来ないのですから迷宮へ行く意味がありません。
それでは単なる邪魔な荷物です!
普通に雑用に使っていただいた方が良いのでは?」
「大丈夫さ、その辺も実際に戦闘をした結果で決めるから。
迷宮の中では君はただ見ているだけでいい。
じゃあこれからみんなで武器屋に行こうか?」
「「「 はい 」」」
「ペロンもお供しますニャ」
この娘もいずれ俺たちの正式な仲間になれば、同じ紺色と金の制服を作る事になるだろうが、まだ見習いのような物なので、まずは初期装備だ。




