0034 マギア・デーヴォの心得
俺の疑問にエレノア先生が答える。
「はい、「魔法使いの義務」と言う意味の言葉です。
魔法と言う物は誰にでも彼にでも使える物ではありません。
それは我々のように、運良くその才能を生まれ持った者が使えるのです。
しかし、それに驕り、決して魔法を無法に使ってはいけません。
我々はたまたまその才能を持って生まれただけであって、それを社会に役立てるようにしなくてはなりません。
魔法の力を持って生まれた我々は、それを持たない人々への義務を負うべきだという考えです。
これは魔法を使う者の基本の考えとして、魔法学校では、まず最初に教えます。」
「つまり、魔法の力や才能を持っている人は、それを持っていない人のために魔法を役立てなければならないという事ですね?」
「はい、その通りです」
なるほど、つまり地球の西欧で言う所の「ノブレス・オブリージュ」みたいな物か?
魔法の才能を持つ者は、持たない人たちへの義務があるって事だな?
それは納得だ。
特に俺なんぞは神様に反則技で魔法の才能をもらったのだから、なおさらその義務はあると思う。
これはしっかりと頭に入れておかないとな。
マギア・デーヴォ
マギア・デーヴォ
・・・と、大事な事なので、二回心の中で言いました。
俺がそう考えていると、エレノア先生の話が続く。
「そういった事から始めて、魔法協会は色々と教えたい事があるのですが、教える人手が足りていないというのが現状ですね」
そのエレノア先生の説明に、俺はふと思い出して尋ねる。
「そういえば代行教師という資格もあるんですよね?」
「はい、今説明した通り、魔法教師の数が足りないので苦肉の策といった所ですね」
「魔道士補というらしいですが、それはどういう人たちなのですか?」
「魔道士補は3段階に分かれていて、それぞれ1級、2級、3級と分かれています。
1級は魔法士の称号を持っていて、何らかの魔法が検定に受かり、魔法学士級な者、
同じく2級は魔法士の称号を持っていて、何らかの魔法が検定に受かり、魔道士級な者、
そして3級は何らかの魔道士級以上の魔法検定を受かって、魔法を使える魔士が、代行教員の試験を受けて合格した者です。
魔法協会と契約している国では、最低でもこの魔道士補の資格を持っていないと、魔法を教える行為は犯罪となってつかまります。
これは初等学校卒業資格である魔法士はかなりの数がいるのですが、何らかの理由で魔道士になれない人々がたくさんいます。
その魔法士たちに魔道士に準ずる称号をという事と、魔法を教える者を可能な限り増やすという双方の考えからきています。
またここロナバールのような大都市では魔道士がたくさんいますが、小さな町や田舎の村では魔道士がいない場合もあるので、そのような場合も魔道士補の人たちに頼らざるを得ません」
そのエレノア先生の説明に俺は疑問を感じて尋ねる。
「では魔道士補3級の人は正規の魔法使い扱いではないのですか?」
正規の魔法使いは最低でも魔法士の資格を持っていなければならない。
魔道士補3級は魔法士の資格を持っていないので、正規の魔法使いではないはずだ。
そう考えた俺は質問をしてみたのだった。
「いいえ、そんな事はありません。
魔道士補3級も正規の魔法使いです」
「しかし、正規の魔法使いの資格である魔法士の称号を持っていないのに、正規の魔法使い扱いになって良いのですか?」
「はい、魔道士補3級の資格を取る試験には、魔法士になるのと同じ程度の魔法規範や魔法道徳の部分が含まれているので、それに受かるという事は十分正規の魔法使いの資格があります。
それに実際には魔道士補3級という人は、ほとんどおりません。
おそらく1級の10分の1、2級の100分の1もいないでしょう」
「え?何でそんなに少ないんですか?」
普通に考えれば、一番下の等級というのは一番数が多そうな物だ。
「そもそも魔道士補3級の基本規定が、何かしら魔道士級以上の魔法が使えるという前提条件があるからです。
それだけの魔法技量があれば、大抵は魔法士の資格を持っている筈です。
何らかの理由で魔法士の資格を持っていなかった人も、3級に受かった場合、魔法協会が推薦して初等学校に入学する事が可能です。
そういった人たちは大抵そのまま魔法士の資格を取るので、すぐに魔道士補2級に昇格しますから、実質3級はほとんどいないのです。
また逆に魔道士級の魔法を使える人は自尊心があって、魔道士補や魔法士の検定を受けたがらない人もいます。
そう言った理由も手伝って3級は少ないですね」
「なるほど」
「ですから魔道士補というのは、実際には1級と2級がほとんどですね。
特に2級が9割以上です」
「え?何でそんなに2級が多いんですか?」
「まず、1級に関してですが、魔法学士級の魔法を覚えるというのが、大変です。
ですから1級が少なくなるのは当然の事となります。
その一方で、魔道士をめざしていて、中等学校を何らかの理由でやめた者は、すでに何らかの魔道士級の魔法を使える場合が多く、大抵はそのままで魔道士補2級の資格があるので、所定の書類を提出して、申請さえすれば、すぐに魔道士補2級になれます。
また先ほど説明したとおり、3級の人も大抵はすぐに2級に昇格するので、魔道士補のほとんどが2級となる訳です」
「なるほど」
その説明に俺も納得した。
「ですから魔道士補2級という人は、魔法士以外では魔法協会に登録されている称号の中ではおそらく一番多いはずです」
「他の人たちはどれくらいいるのですか?」
「そうですね。
魔法学士を基準にするならば、次に少ないのは魔道士補1級、次が正規魔道士、魔道士補2級、魔法士の順でしょう。
そして魔道士補3級は魔法学士の数より少ないはずです。
一般魔士は、おそらくこの正規魔法使いたちを合わせた3倍くらいの人数がいると予測されています。
この魔士の人たちも、出来れば正規の魔法士になった方が良いのですが・・・」
「なるほど、では僕もその魔法検定を受けた方が良いですね?」
「はい、もちろん本来はそうです。
しかし、この3ヶ月、いえ、あと2ヶ月少々ですが、その間は時間が惜しいので、とりあえず、私が教えられる限りの事をお教えいたしましょう。
検定や入学はいつでも時期が来ればできますから」
「はい、お願いします」
「この2ヶ月ほどの間に、先生はシノブ君を最低でも魔道士、出来得れば魔法学士の水準まで学んでもらおうと考えています」
「え?魔法学士?」
「はい」
「それって、普通どれくらい時間がかかるのですか?」
「魔道士になるのは3年、魔法学士はそこからさらに2・3年かかりますね」
「え?じゃあ合計で6年位?無理、無理!そんなの無理ですって!
2ヶ月でそんな事出来る訳ないじゃないですか!」
本来6年もかかる物を、たったの2ヶ月で会得させようなどと無茶にもほどがある。
「いいえ、私の教育とシノブ君の能力があれば、それも可能だと思います」
「嘘でしょ?」
「大丈夫です。
シノブ君の魔法の才能は群を抜いていますし、何と言ってもレベルが30倍の速さで上がる特殊な能力があります。
どうか私に任せてください」
「はい、それはかまいませんけど・・・」
「では、早速魔法の授業を始めましょう」
こうしてエレノア先生の特訓が始まった。
次の日から1週間のうち、1・2・3日目は魔法の習得で、新しい魔法を覚える。
4,5,6日目は実地訓練で、7日目は休みだ。
朝はエレノアの蕩ける様な声と奉仕で起こされ、朝食を食べ終わると、いよいよ地獄の訓練が始まる。
魔法習得の日は、まず座学で魔法の理論を教わり、その後で宿屋の庭先を借りて、魔法の習得をする。
広い場所が必要な時は航空魔法で移動して訓練するために、まずは航空魔法から教わった。
空中に浮遊する事から始まって、推進魔法で思った方向へ進むように訓練する。
何とか1日目の午前中には空中に浮き、夕方には時速100kmほどで飛行する事が出来るようになったので、俺も嬉しかった。
人が何の器具もなく、生身の体で、空を鳥か飛行機のように飛べるようになるのは、とても楽しい。
しかしエレノア先生に言わせると、この2ヶ月の間に音速を突破できるようにしたいとの事だった。
そんな無茶な・・・
そして実地訓練の日は、あちこちの迷宮やら魔物地帯に連れて行かれ、覚えた魔法を実地で使った、様々な特訓をする。
時には泊りがけで訓練する事もある。
しかも、その時は一切の特殊装備はなしだ。
何の特殊効果もない、普通の鋼の剣に、ごく普通の魔道士の服にバックラーという、中級クラスのありふれた装備だ。
いや、確かに方法は任せると言ったよ?
確かに言ったけどさあ・・・・
俺はヒイヒイ言いながらも何とか耐えているが、もう嫌だという状態に近づいてくると、恐ろしいほどに巧妙にエレノアが言葉をかける。
これが終われば膝枕で休憩ですよ~とか、今日までにこの課題を終われば、宿に帰ったらとっても良い事が待ってますよ、とか、とにかくタイミングと状況を読んで俺を操るのがうまいのだ。
そして宿に帰ると、食事をした後で、エレノアはその肉体と手管と魔法を使って、俺を徹底的に癒し、奉仕する。
そのエレノア御姉様の御奉仕に俺は骨抜きでメロメロだ。
そして週に一度は特訓は休みだ。
その日はいくらでもエレノアを自由にできる。
一日中エレノアの体を好きにしても、エレノアは一切文句は言わず、笑顔で俺を受け入れる。
・・・何?この壮絶なアメとムチ?
天国と地獄の振れ幅が半端ないんですけど?
俺、絶対騙されているよね?これ?
もちろん、一切を拒否して、一日中エレノアといちゃつく事はできる。
なんと言っても仮にも3ヶ月間は御主人様と奴隷の関係だ。
しかし、俺が自分から特訓を言い出した以上、それを撤回したくはなかったし、何より、エレノアの叱咤激励と甘やかしさ加減、それに俺の気持ちの読みが絶妙で、俺はどうしても訓練をせざるを得ない状況になっていた。
何なの?このエロフ?
実は元の職業は犬の調教師か、何かなの?
俺は過酷な訓練を経て芸を覚えて行く忠犬のように、エレノアに従って訓練を続ける。