0331 キャサリンとその仲間たち 2
新しい仲間と共に迷宮へ到着すると、キャサリンは怯える仲間を強引にレベル不相応な迷宮の階層に連れて行った。
どんな魔物が出ても自分が倒して見せると豪語して、無理やり連れて行ったのだ。
確かにキャサリンは楽に魔物を倒せるが、新しい仲間達には総がかりで一匹倒せるかどうかという場所だ。
俺はその様子を見てあきれ返った。
「おいおい、そのレベルでその場所はないだろう?」
俺の言葉にシルビアもうなずいて答える。
「初めての迷宮が我々と一緒に行っているので、感覚が麻痺しているのか、勘違いをしているのかしれませんね?」
「我々がキャサリンを鍛えたように、あの連中を鍛えるつもりなのかな?」
「いや、ありゃ単に思い上がっているだけでしょう」
デフォードはあきれている。
「おそらく基準が自分なので、自分が魔物を倒せればそれ以外はどうでも良いのでしょう」
「しかしひどいな・・・」
エレノアの説明に俺もあきれ返る。
しかも今度の組合せは最悪だ。
何しろ五人全員が、戦士、戦士、戦士、戦士、戦士と全員が魔法を使えない戦士なのだ!
いくらこの世界で魔法使いが少ない存在だと言っても、流石にこれはない!
五人も仲間がいるのであれば、最低限一人は回復魔法を使える仲間が欲しい所だ。
しかし新しい仲間の四人組は初心者なので、その組合せの異常さがわからないようだ。
登録してから今までの間、ずっとそれで通して来たからであろう。
誰も魔法が使えないのが当たり前になってしまっているのだ。
もちろんキャサリンは魔法を軽んじているので、そんな事は全く気にしていない。
意気揚々と四人を引き連れて迷宮へと入って行った。
しかし現実はそう甘くはない。
案の定、出てくる魔物を倒すので、メンバーはギリギリ一杯のようだ。
いつどうなるかもわからない状態なのに、リーダーであるキャサリンは全くそれに気づいている様子もない。
自分の率いているパーティの総合力を全くわかっていないのだ。
確かに魔物のほとんどをキャサリンが倒しているが、仲間にはそれを褒め称える余裕すらない。
流石に初心者でも、この状態が異常な事に気がついたようだ。
仲間たちがキャサリンに色々と言い始めた様子だ。
「仲間たちはもっと弱い魔物のいる場所に行こうと提案していますが、キャサリンが言う事を聞きません。
これでも低すぎる位で、この程度を相手に出来ないなら話にならないと説明をしていますね」
「無茶を言うな・・・」
俺があきれ返って話すとデフォードも賛同する。
「まったくでさ」
「しかし・・・これは最初に僕たちと組んでしまった弊害かも知れないな」
「どういう事です?」
「我々はいきなりキャサリンをレベル不相応な場所に連れていって、強引にレベルを上げてしまった。
これは不自然な事だ。
昨日までの彼女は我々の中では一番弱く、御荷物のような状態だった。
それが今日は最強だ。
しかも出てくる相手、出てくる相手を、ほとんど全て一撃で倒してしまっている。
これでは勘違いをしても仕方がないかも知れない」
「いえ、私はそうは思いません」
俺の説明にエレノアは納得しないようだ。
「どうして?」
「確かに我々がした事は通常ならありえない事です。
しかしまともな感覚を持っている人間ならば、それを理解するはずです。
事実、御主人様は私と初めて御会いして訓練をした時に、同様の事をしましたが、あのような愚かな事は考えませんでした。
シルビア、ミルキィも同様で、ルーベン氏やシャルル、ポリーナもその事はわかっていました。
それどころか、クラウスのような子供さえ理解していたのです。
ましてやあれほど愚かだった100番ですら、その程度は理解していました。
むしろそれを理解しないキャサリンの方が異常と考えるべきです」
エレノアの考えにシルビアとミルキィ、デフォードも賛同する。
「私もそう思います。
何も分からない、子供ならばともかく、仮にも大人ならば、その程度は分かるのが当然と思います」
「そうですね、何故あのように考えるのか、確かに不思議です」
「まあ、それに関しては、あいつがまともな頭を持っていないってこった」
「確かにそうだね」
みんなの意見に俺も納得した。
一方キャサリンたちは迷宮を進んでいたが、ついに仲間たちが全員で抗議をし始めた様子だ。
全員で猛然とキャサリンに詰め寄り、引き返す事を提案しているようだ。
しかしキャサリンは頑として聞かない。
「仲間たちが今度は強行に戻る事を提案しています。
キャサリンは自分が余裕なので、仲間の言う事は一切聞きません。
しかしついに仲間たちが、それならば全員でキャサリン一人を残して自分たちは引き上げると言い始めました」
エレノアの説明にシルビアがうなずく。
「もっと早くに言い出すべきでしたね」
「ああ、その辺も初心者だから経験不足は否めないな」
「キャサリンはそれに驚いたようですが、全員がキャサリンを無視して昇降機の場所に向かい始めたので、慌てて仲間たちを追いかけ始めました」
エレノアの説明どおりに仲間たちはキャサリンを置いて、さっさと来た道を戻り始めている。
それを見て俺が呟く。
「しかし、これは危険な賭けだな」
「そうですね」
俺の言葉にエレノアがうなずく。
この編成ではキャサリンが圧倒的に強く、彼女がいなければ、この辺りで魔物と会ったら、相当危険だ。
果たして無事に安全地帯まで辿り着けるか?
それは彼らにとっても大きな賭けだった。
しかし彼らはこれ以上キャサリンに付き合う事の方が危険と考えて、戻り始めたのだろう。
その判断自体は正しいが、もっと早くそれに気づくべきだった。
やはり経験不足は否めない。
キャサリンたちが昇降機へ向かっている最中に、運悪く、その辺りでは最強の魔物が出てきた。
レベル36、キラードールだ!
こいつは素早く、腕が刃物になっていて、とにかく人間を切りまくる魔物だ。
キャサリンは何とか勝てるだろうが、他の仲間たちは、たまったものではない。
何とか戦おうとするのだが、いかんせんレベルと実力が違いすぎる。
四人がかりでも防戦一方だ!
そうこうしているうちに、俺たちが見ている前で、仲間の一人が左腕をスッパリと切り落とされた!
「「「「「「 あっ! 」」」」」」
見ていた俺たちは叫んだが、どうしようもない。
一人が腕を切り落とされた仲間を庇い、残りの二人がキラードールと戦う!
ただでさえ少ない戦力は半減だ!
しかもこのパーティは誰も回復魔法や防御魔法を使えないのだ!
このままでは全滅してしまう!
ギルバートたちとキャサリンの出会いと詳細は、外伝「ギルバートと仲間たち」にて御覧ください。




