0293 襲撃部隊の全滅
逃げようとする賊たちに対して、もちろん屋敷の外で待ち構えていたタロスたちが迎撃して戦闘に入る。
うまくくぐりぬけたように見えた賊たちにも、その先は無かった。
そこにはすでにエレノアがポリーナ式針鋲陣を敷いていたからだ。
しかもそれはポリーナが考案した物よりも小さく、黒かったので、街灯などのないこの世界の夜の道に散布されると、ほぼ見えなかった。
ましてや賊どもはポリーナ式針鋲陣の存在その物を知らないのだ!
当然の事ながら賊どもは、その一見何もないような場所に無防備に飛び出して、思いっきり地面を踏んだ!
そして自分の全体重をかけた足の裏を、その鋭利な太い針先で貫かれた!
「ぐわっ!?」
「ぎゃああああっ!」
「あがっ!」
足をザックリと貫かれた男たちが、思わず激痛に転び、その辺の地面に手をつくと、そこにも針は転がっており、手や足だけでなく、全身を針が貫く!
針鋲陣はその先の十字路まで高密度で散布されており、そこまではとても辿りつく事は出来ない。
一体自分たちの身に何が起こったのか、全くわからない賊たちだったが、とにかく動けば全身を貫かれるので、動く事も出来ず、そこで呆然と立ち尽くすしかない。
しかも後ろから他の連中がやってきて、前にいる連中を押すからたまらない!
「どうした!早く先へ行け!」
「やめろ!押すな!」
「何で止まっているんだ?」
「押すなと言っているだろ!」
「やかましい!どけ!」
後ろから逃げてきた連中が前の者を押しのけて前へ進む。
「グギャ~ッ!」
「あぎゃっ!」
「なっ!何だ?」
たちまちその連中も足を貫かれて、叫び声を上げる。
そして後ろから押されて針鋲陣の上に倒れる者もいて、周辺は阿鼻叫喚だ。
航空魔法が使える者が数人いて、空を飛んで逃げようとした者もいたが、その連中も上空で待機していたオリオンやバルキリーに撃墜される。
「ぐわっ!」
「そんな!」
「ギャ~ッ!」
落ちた先がうちの敷地内なら戦闘タロスにボコボコにされ、外ならば針鋲陣に体を貫かれる!
どちらにしろ、たまった物ではなかった。
散々打ちのめされた賊どもに対して、エレノアが叫ぶ。
「明日以降も生きていたいのならば、武器を捨てて投降しなさい!
武器を捨てない者は戦う意志有りとして容赦しません!」
その言葉を聞いて、もはや攻撃する気など微塵もなくなった賊共が次々に投降する。
残った者の全員が、持ってきた棍棒や剣を捨てておとなしく両手を挙げる。
「助けてくれ!」
「降参だ!」
「殺さないでくれ!」
こうして俺の屋敷を襲った賊どもは一人残らず壊滅した。
ざっと見た感じでは、敵の親玉を初めとして、数十人が死亡、重軽傷者多数、生きている者は全員投降、逃走者はなしだ。
一方、こちらは戦闘タロス以外に被害は一切なし、全員が怪我一つしていない。
大方の予想通り、こちらの圧勝だ!
しかもその間、3分も無かった。
戦いが終わって、ゼルさんがぼやく。
「全然物足りませんなあ・・・」
途端に二人の隊長が抗議めいた事を口走る。
「何を言っているんですか?本部長!
敵の8割方をあなたが倒してしまっているんですよ!」
「全くです!
肝心なシノブさんやグリーンリーフ先生がほとんど何もしておりませんぞ!」
「あ、すまん・・・」
子供のように詫びるゼルさんに、エレノアがクスッと笑って二人をなだめる。
「まあ、こちらの戦力が戦力ですからね。
ゼルだけでなく、私達の誰一人とってもこの程度の戦力が相手ではお釣りが来ます。
仕方がありませんね。
ゼルも私と一緒の戦いは久しぶりなので、つい張り切ってしまったのでしょう。
許してあげてください」
「まあ、そうですな」
「承知いたしました」
エレノアの言葉に隊長二人も納得する。
何しろこちらの迎撃部隊は誰一人とっても、小さな町ひとつを一人で潰せる人員なのだ。
ましてやゼルさんは大きな町でも一人で殲滅可能なほどの戦力なのだ!
案の定、予想通りで100人程度のゴロツキなど片手間にもならない。
3分もかからずに襲撃隊が全滅するのを確認すると、俺は当初の予定通り、すかさず相手の根拠地への攻撃へと向かった。
「では報復攻撃に出発しよう!
計画通り、僕が敵の本拠地へ、シルビアとミルキィは各アジトへ。
エレノアはこのままゼルさんたちと一緒に、この屋敷の防衛と、こいつらの片付けを頼む」
ここに襲撃に来た連中は100人を越える。
これからそいつらを全員捕縛して、連行するのは一苦労だろう。
「はい、了解しました」
俺の指示にエレノアがうなずくと、ゼルさんが残念そうにぼやく。
「我々も行きたいのですが、そういう訳にもいかないですからなあ」
「そうですね。
さすがにそれはやめた方が良いかと」
迎撃の方ならともかく、報復攻撃にまで魔法協会の上層部が関わったとなると、色々と問題もあるだろう。
ついて来たそうなゼルさんたちだったが、俺は丁寧に断った。
「まあ、我々の代わりにシルビア君も頑張ってきてくれ」
ロンブルさんの声援にシルビアもキッとした顔で話す。
「ええ、私、以前からあの一家が大嫌いでしたの!
こんな好機をいただいて感謝します。
戦闘法務官の時は遠慮していましたけど、今日は何の遠慮もなく思い切り出来ます!
必ず敵を殲滅してきますわ!」
シルビアは、よほどトランザム一家に対して嫌悪感を持っていたようだ。
そりゃ、あんな奴に付き纏われていたら、そうもなるか?
「私も頑張ります!」
ミルキィもキッとした表情で返事をする。
どうやらこっちも容赦をする気は欠片もない様子だ。
しかし考えてみれば、ミルキィがジャベックを部下として率いて、部隊長として戦うのはこれが初めてだ。
大丈夫だろうか?
もっともたまに空いている自由日や休日に、迷宮へダイアとウルフを連れて自主訓練に行っているようなので、問題はないだろう。
「では行こう!」
俺たちはそれぞれ分かれて航空魔法で目的地へ飛び立った。
さあ!待ってろよ、トランザム!
ここまでは、ほんの前座。
これからが今夜の本番だ!




