0280 望遠鏡
俺はこちらに転生する時に神様から様々な物をもらっていた。
中にはこちらの世界にはまだない物もあるだろう。
その中から一体何を選ぶべきか?
そして総督閣下は、どうも科学的道具に興味が強いらしい。
俺はそう考えて、ふとエレノアとミルキィに尋ねた。
「そういえばこの世界、いや、国にはまだ望遠鏡はないんだよね?」
「ええ、そうです。
私は御主人様から初めて見せていただいた時には驚きました」
「私もです」
俺は魔物蜂やいくつかの機会の時に、二人には双眼鏡を見せて一つずつ与えてある。
そして単眼鏡もだ。
二人ともそれを始めて見た時はかなり驚いていた。
俺たちの話を聞いてデフォードとシルビアが不思議そうに話す。
「なんでぃ?そのボーエンキョーってのは?」
「私も初めて聞きましたが?」
「ああ、君たちにはまだ見せた事はないか?
望遠鏡というのは遠くを見る道具で、これだよ」
俺は20倍の折畳み式の双眼鏡をマギアサッコから出して、さらにそれが入っていたケースからだして、デフォードとシルビアに見せる。
それは折り畳むと手の平に乗るほど小さいが、性能は良い。
デフォードは初めて見る、おかしな筒が二つ重なったような形の物に驚く。
「こりゃ一体何だい?」
「これは望遠鏡の一種で双眼鏡と言って、まあ、遠くの物が近くに見える物さ」
「ソーガンキョー?
遠くの物が近くに見える?
魔法道具の一種かい?」
「いや、科学道具さ」
俺が笑って答えると、デフォードはキョトンとする。
「カガク道具?」
「まあ、百聞は一見に如かずだ。
見て御覧。
こうして広げて、この覗き口から遠くの見たい物を見るんだ。
焦点を合わせるのが、最初はわかりにくいかも知れないけどね」
俺は折り畳まれていた双眼鏡を広げて見せて、その使い方をデフォードに教えた。
同じ物をもう一つ出して、シルビアにも使い方を教える。
二人が窓から外の景色を双眼鏡で見て、驚きの声を上げる。
「おわっ!何だこりゃ?
本当に遠くの物がこんなに近くに見えやがる!
こいつぁ、本当に魔法道具じゃないんですかい?
大将?」
「ああ、そうだよ」
シルビアも驚いて話す。
「本当に驚きです!
遠くの物がこんなに近くに見える道具があるなんて・・・」
「ああ、これは双眼鏡でもかなり性能の良いものだからね。
大きく綺麗に見えるだろう?」
俺が双眼鏡の説明をすると、デフォードが感心する。
「ふむむ・・・こりゃ便利だ!
しかも魔力を全く使わないで済むとはね!
こいつぁ全く驚きの品物ですぜ!大将?」
「ええ、本当に」
「ああ、そういえば君は諜報活動をしているんだから、そういう物があった方が便利だろう?
それを一つ君にあげるよ。
シルビアにもね」
その俺の言葉にデフォードが驚いて尋ねる。
「こいつを?こんな珍しい物をいいんですかい?大将?」
「うん、君にも色々世話になっているのに、レベルを上げる以外に、まだこれと言った報酬も上げていないからね。
これも報酬代わりさ。
シルビアも何かの時には使うだろうし。
ああ、それとこれもあげておくよ」
そう言って俺は二人に小型の単眼式望遠鏡も渡した。
「それは拡大率は10倍程度だけど、小さいから使いやすいだろう?」
実際にそれを覗いて使ってみたデフォードが感心して呟く。
「なるほど!確かにこいつは小さいし、使いやすい!」
「ありがとうございます。御主人様」
シルビアも俺に礼を言う。
俺は神様にまだアースフィアには望遠鏡の類がないと聞いて、その関係を大量に貰っておいた。
顕微鏡以上に使い所が多そうだと思ったし、贈答用にも顕微鏡以上に喜ばれると思ったからだ。
この20倍の折り畳み式小型双眼鏡も20個ほど貰ってあるし、伸縮式の倍率が30倍の望遠鏡も、30個ある。
そして数は少ないが、もっと高倍率の双眼鏡や、大型望遠鏡、反射式の大口径天体望遠鏡もいくつか貰ってある。
さらにデフォードとシルビアにあげた、小型の薬瓶ほどの大きさの小型単眼式10倍望遠鏡などは、贈答も考えて専用のケース入りで100個も持っている。
何かの時に贈答用に役に立つだろうともらっておいたのだが、相手が科学道具が好きな人間と言うのであらば、まさに今回はそれが役に立ちそうだ。
そしてデフォードは双眼鏡と単眼鏡を相当気に入ったようだ。
喜んで礼を言ってくる。
「こいつはありがてぇ、遠慮なくいただきますぜ!
確かにこれがあれば、俺の仕事にも便利だ!」
嬉しそうなデフォードに一応俺が釘を刺す。
「まあ、言うまでもないが、二人ともそれをあまり人には見られないようにね」
「もっともだ!」
「承知いたしました」
「うん、それでこれを総督閣下は喜ぶと思うかい?」
俺の質問にデフォードは大きくうなずいて答える。
「ああ、これなら奴さんは大喜びなのは保証しますね。
俺と違って仕事に使う訳じゃないが、喜ぶのは間違いない!」
「なるほど、ではこれを一番の土産にするとしよう。
いや、双眼鏡の方じゃなくて、伸縮式の望遠鏡と小型単眼鏡の2つにしておくか?
その方が説明しやすいし、僕が持っている数も多いからね。
後は何かもう少し別の物も見繕って・・・・
それとプリンだね」
「ああ、それがいいと思うぜ、大将。
それで総督閣下は大喜びだ」
その後もみんなで他に何を持っていったらよいかを考えた。
エレノアとミルキィはある程度知っていたが、シルビアとデフォードは俺の珍しい持ち物に色々と驚いたようだ。
もっとも大型反射望遠鏡など、あまりにも珍しい、いくつかの物は、まだエレノアにすら見せた事がない。
そしてみんなと相談して土産物が大体決まったところで、俺たちはゼルバトロスさんに会いに行った。
「お話はわかりました。
それでは総督閣下に会おうと思います」
「それは良かったです。
実はこちらにもちょうど閣下からの知らせが来て、どうなっているのか?と聞かれた物ですから」
「はい」
「では今度の自由日でよろしいですか?」
「はい、構いません」
「それとやはり、総督閣下はあなたの所有する奴隷の三人には興味をお持ちのようで、その三人とペロンは是非お連れするようにと言われております」
「わかりました」
それはもちろん想定の範囲内だ。
というか、おそらくそれが相手の一番の目的だろう。
「そしてこれは私の提案ですが、その際には必ずグリーンリーフ先生とシルビア君は、それぞれ魔法学士章と魔道士章をつけていた方がよろしいでしょう。
総督閣下はともかく、他の皆さんが一目置くでしょうから」
「そうなのですか?」
「ええ、総督閣下は非常に聡明で気さくな方で、相手の身分が庶民だろうが、奴隷だろうが、一定の敬意を払う方なのですが、その取り巻きにはそうでもない者もおりますからね。
奴隷身分の者が総督閣下に拝謁するなど恐れ多いと考える者もいるでしょう。
そういった者たちに対する牽制としても、そうした方がよろしいでしょう
正規の魔法学士と魔道士ならば、例え奴隷といえども誰でも敬意を払うでしょうからな。
そしてその二人に敬意を払った行動を取るのであれば、同じシノブさんの奴隷の立場であるミルキィさんにも迂闊な行動は取れますまい」
「なるほど、わかりました」
確かにそれはこの人の助言に従った方が良さそうだ。
「そうそう、それと総督閣下があなたに「プリン」を、必ず持ってきていただきたいと伺っております。
何しろ私がシノブさんの所で食べて非常に美味だったと話しましたら、偉く興味を持たれましてなぁ・・・
是非とも食べてみたいそうです」
プリンの情報元はあんただったんかい!先輩!
そういえば昇降機設置の時にうちに来た時に、この人にも御馳走した事があったっけ?
まあ、いいか?
どっちみち持っていくつもりだったんだし・・・
「承知いたしました。
数はどれ位必要でしょうか?」
「そうですな・・・20・・・いや、30個も持ってきていただければよろしいかと・・・
かなりな数になりますが、大丈夫でしょうか?」
「はい、それ位なら大丈夫です」
「ではよろしくお願いいたします。
私は先日言った通り、当日は御一緒させていただいて、何かの時は御諌めさせていただきますので」
「はい、その点はよろしくお願いします」
当日、ゼルさんが一緒にいてくれるならば心強い。
こうして俺たちと総督閣下は御対面する事となった。
俺は当日に備えてプリンと望遠鏡の他にも、もう一度いくつかの贈答品を考え直してみる事にした。
せっかく会うのならば、喜んでもらいたいしね?
俺は自分の持ち物の中で総督閣下の好みそうな物を、再びエレノアたちと検討して選び出した。
そして6つほど土産として持って行く物を決定したのだった。




