0027 エレノアとの生活 2
部屋へ戻ると、エレノアが荷物を置いて話し始める。
「買った物の説明をした方が宜しいでしょうか?」
「うん、よろしく」
「まずはコップ、歯刷子、歯磨き粉ですが、先ほども説明しましたが、これは歯を掃除するための物ですね。
巾着は貨幣を入れたり、小物を持って歩く時必要なので買いました。
浴布、たらいは御主人様の体を拭く物、紐と洗濯板は洗濯と、その後で干すための物ですね」
「なるほど」
「では、もう一度出かけましょうか?」
「え?もう一度?」
「はい、今度は御主人様の武器や防具を揃えませんと」
「ああ、いや・・・それは良いかな?」
武器防具なら一通り持っている、それは今更買う必要があるとは思えない。
「え?よろしいのですか?」
「うん、武器と防具は一応持っているから」
「どういった物ですか?出来れば一応拝見させていただきたいのですが?」
「うん、防具はこの服と、指輪で・・・」
そう言って、俺が自分の着ている服と指輪を見せる。
「え?防具が、その服と指輪だけなのですか?」
うん、やっぱり驚くか・・・
そりゃ、普通はもう少し鎧っぽい物か、盾とか持っているもんなあ・・・
「うん、実は鎧とかあまり好きではないので・・・」
そう、俺は鎧の動きにくい感じやガチャガチャとした感じがあまり好きではなかったので、こうして動きやすい普通の服を着ていたのだった。
申し訳なさそうに答える俺にエレノアが尋ねる。
「鑑定させていただいてよろしいでしょうか?」
「うん、別に構わないけど」
鑑定した瞬間にエレノアが驚いて声を上げる。
「えっ!?」
あ、やっぱ、驚いた?
「こ、これは一体・・・」
「これって、やっぱり凄い物なの?」
「凄いどころか・・・私も長年生きていますが、このような防具は見た事がありません。
初めてです」
「そうなんだ・・・」
500年以上生きていて、レベルが681のエルフが始めてみる道具って・・・
「当然です。
一つの指輪に異常状態回復、耐電、魔法力九割削減の機能がついている指輪など見た事がありません。
服の方も魔法の鎧並みに防御力が高いうえに、冷熱遮断、耐電、体力回復、魔力回復、魔法反射がついているなど、聞いた事もございません。
御主人様はこれを一体どこで手に入れられたのですか?」
「いや、まあ、ある人にもらったんだけど」
神様にもらった道具の数々は、どうやら相当貴重品のようだ。
うん、まだ他にも色々ある事は黙っていた方が良さそうだな。
「・・・武器の方は、どんな物をお持ちですか?」
「それもいくつか持っているんだけど、どれを見る?」
「どれ位お持ちなのですか?」
「え~と、20種類くらいの武器を全部で百個以上持っているかな?」
「百個以上?
それはちょっと今すぐに全部は見切れないですね。
では、普段使っている物を何本か、拝見させてください」
「わかった」
俺はそう言うと、銅の2倍剣、鋼の3倍剣、ミスリルソード3倍剣、アレナック5倍刀を見せた。
「まあ、普段使っているのはこの4本かな?」
その剣を鑑定したエレノアが再びあきれたような声で答える。
「・・・これは・・・銅の剣に2倍攻撃効果がついている上に、それ以外の剣には、全て3倍や5倍攻撃効果がついていて、さらに体力・魔力吸収まで付いているではありませんか?」
「う・うん、そうだね」
「御主人様はお年も若いというのに、防具といい、武器といい、これほどの品をこんなにお持ちとは・・・御主人様・・・あなたは一体・・・?」
うわあ・・・これって、そんなに貴重な物だったんだ・・・
俺はいたずらが見つかった子供のようにかしこまってしまった。
「・・・」
どう返事して良いか、わからない俺にエレノアが再び話し始める。
「御主人様」
「はい?」
「御主人様は今私に見せていただいた物以外にも、色々と驚く物を持っていらっしゃるのではないですか?」
「うん・・・多分そうだと思う」
多分どころか、俺の持ち物を全部見せたらエレノアは気絶するかも知れない。
それほど俺は貴重な品物を数多く持っている。
それは間違いない。
「しかも御主人様の御様子から察するに、その武器防具の能力は把握していても、その価値は御存知ない?
そうではありませんか?」
「う、それも多分、そうだと思う」
そういう観点は確かに今の俺に抜けている気がする。
もちろんそれぞれの能力は、自分で希望したのだから詳しく知っているが、この世界での価値はよくわからない。
おそらく希少なのはわかるが、それがどれほどなのかは全くわからない。
しかしこのエルフ、いちいち鋭いなあ・・・さすがはレベル681だ。
「この事を知っている方は、エレノア以外に誰がいますか?」
そう言われて俺は考えた。
今まで会った人はサーマル村の人たち何人かと、ここの宿屋の主人、奴隷商人、魔道士のお姉さんたち、それに屋台のおっさん位だ。
誰にもこの装備を見せた記憶はない。
いや、クラウスには見せたか?
メリンダさんには特殊な武器を持っているような事はほのめかしたが、実際には見せていない。
サーマル村長たちには魔法を使った所は見せたが、武器はずっとしまったままだった。
いや、ルーポの群れをを倒す時に、ちょっと見せたか?
でも多分あの時はそれどころじゃなかったからロクに見てないよな?
・・・うん、クラウス以外には誰にも見せてないし、クラウスに見せたのは鋼の剣だけだな。
「子供に鋼の3倍剣は見せたけど、多分わかってないと思う。
後の人たちは服と指輪は見ているだろうけど、特に何も気づいてないと思うな」
俺がそう言うと、エレノアがため息をついた。
「まだエレノア以外にこれに気づいている人がいないのはようございました。
御主人様、もちろん、エレノアもこの事を誰にも話しませんが、御主人様も決して御主人様の持っていらっしゃる特殊装備の事を話してはいけません」
「そ、そうなの?」
エレノアの真剣な眼差しに俺もタジタジだ。
「はい、いざという時以外は、その装備はマギアサッコにしまっておいてください。
今すぐはずした方がよろしいです。
服の着替えはございますか?」
「うん、この町に来た時に、一応少し買った」
「では、それに着替えて、指輪も取って、マギアサッコにしまってください」
「うん」
俺はエレノアの言うとおりに、その場で着替えて指輪をしまった。
それを確認すると、エレノアはホッとして言った。
「はい、それでようございます、まったく驚きました」
「そんなに、あの二つは凄い物なの?」
「凄いも何も・・・あの服と指輪、どちらか片方だけでも、いえ、その鋼の剣一本でも、町の盗賊や、やくざ者に知られれば、この宿を夜中に襲撃してでも奪いにやってくるでしょうし、王侯貴族や高位魔道士に見せれば、買うために金貨をどれほど積むかわからないほどです」
「そ、そんなに?」
「ええ、ですから余程の事がない限り、使ってはいけませんし、人に見せてはいけません」
「そこまで?」
「もう少しわかりやすく、俗的に表現すれば、たとえば先ほどの服ですが、すべてを金塊で作って、表面全部を宝石で飾られた鎧よりも価値があります。
それも比較にならないほど高い価値です。
指輪もそうです。
その指輪一つで、かなり良い家が土地つきで買えましょう」
「そんなに?」
希少価値なのはわかっていたが、それほどとは思わなかった。
「はい、ですから決して誰にも見られてはいけませんし、持っている事も話してはいけません。
御主人様の命にかかわります」
え?命にかかわるって・・・こ・こわ・・・俺って、そんな物を着て、今まであちこちをフラフラ歩いていたのか?
無知って恐ろしい・・・
「え?ちょっと待って、それじゃこれだと、どれ位の価値になるの?」
俺は持ち物の中からゴルドハルコンの指輪を取り出した。
俺の持ち物の中でも、おそらく相当な価値になるはずの物だ。
それは黄色く光り、異常状態回復、耐電、魔法力九割削減、体力回復、魔力回復までもが特殊効果でついている。
それを鑑定したエレノアはまさに絶句した。
「こっ・・・!」
エレノアは指輪と俺を交互に見比べてからようやく言葉を話し始めた。
「正直、このような物が存在するとは思いもよりませんでした。
もし、これを売りに出せば、国によっては、爵位が城と土地付で買えるでしょうね。
いえ、それ以上です。
もっともこれを買える様な人物が、そもそもこの世界に何人いるか・・・」
「そうなんだ・・・」
「それどころか、その指輪の奪い合いで、戦争が起こる可能性もございます」
「そこまで?」
「はい、今まで誰もそれを鑑定しなかったのは本当に幸いでした。
もし誰かが気づいていたら大騒ぎになっていた事でしょう。
いえ、エレノアにも見せない方が良かったかも知れません。
どうか今後は御自重ください」
「はい・・・」
この分では、どうやら俺の持ち物の中には、簡単に人に見せてはいけない物がゴロゴロとありそうだ。
持ち物を装備したり、人に見せたりする場合はよくよく注意するか、場合によってはエレノアに聞いてみよう。
「では町に出て、御主人様の装備を買いましょう」
「うん、そうするよ」
今度は俺も素直に同意した。
町に行って武器屋と防具屋で装備をそろえる。
俺は鎧はどうも苦手なので、魔道士のローブとやらにした。
おかげで鉄の鎧と同程度の防御力で20倍近い値段になってしまった。
盾も同じような理由で俺が嫌がったので、軽量のいわゆるバックラーのような物となった。
かくして鋼の剣にバックラーを装備した魔法使いが誕生したが、俺は別にそれで満足だった。
「では装備も整えた事ですし、宿に帰りましょうか?」
「ああ、そうだね。あれ?でもエレノアの分の装備は?」
「私の分は持っておりますので大丈夫です」
「そうなんだ?」
「はい、ご安心ください」
宿に帰ると、そろそろ夕食の時間だったので、二人で食堂で食事をする事にした。
「じゃあ、食事をしに行こうか?」
「いえ、私は御主人様が終わるのを部屋でお待ちしております」
「え?なんで?一緒にしようよ?」
「奴隷が御主人様と一緒に食事をするなど、恐れ多い事でございます」
「いや、別に僕の場合は一緒で構わないから」
「そんな恐れ多いことを・・・」
「だって、一人で食事するのは寂しいじゃない?」
「そうは申されましても・・・」
なかなかエレノアは遠慮して折れない。
ついに俺は初めてエレノアに対して、御主人様としての権限を発動した。
「わかった!じゃあこれは命令!
僕の奴隷でいる間は一緒に食事をすること!いいね?」
「承知いたしました」
命令という形で、ようやくの事でエレノアを説き伏せて食堂に行く。
「あの・・・出来れば隅の方の席にしていただけますでしょうか?」
「隅?別にいいけど?」
俺が隅に空いていた席に座ると、エレノアはそこの床に正座をして座る。
俺がエレノアに尋ねる。
「何してんの?」
「いえ、御一緒に御食事をという事でしたので、ここで一緒に食事をいただこうかと」
「いやいや、そこじゃ一緒に食事をした事にならないでしょ?ちゃんと椅子に座ってよ」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も、一緒に食事をするって言うのはそういう事じゃないの?」
「いえ、奴隷が御主人様と一緒に食事をする場合は、このように床でするのが一般的ですが?」
「・・・一般的って・・・それじゃ一般的でなくていいから、僕と一緒の時は同じテーブルで椅子に座って食事をして、これも命令、いいね?」
「はい、承知しました」
またもや、ようやくの事でエレノアは椅子に座る。
食事が持ってこられて、一緒にエレノアと食べる。
自分の料理と俺の料理を見比べたエレノアがおずおずと話す。
「あの・・・これは、御主人様と同じ料理に見えますが?」
「そうだよ、僕がそう頼んでおいたから」
「御主人様と奴隷が同じ料理を?」
「別に構わないさ」
「はい、ありがとうございます」
こうして食事も何とか無事に終わった。
ふう~・・・
何か奴隷の扱いに慣れるまでは逆に気疲れしそうだ。
さて、食事も終わったし、後は寝るだけか・・・
そうか・・・この巨乳美女と一つの部屋で寝るんだ?
エヘヘ・・・こんな美人がいると、やっぱり期待しちゃうよね?