0266 「青き薔薇(ブルア・ローゾ)」の誕生
デフォードが俺の仮雇いの部下になった翌日、いよいよ俺たちは戦団を登録すべく、総合組合へと向かった。
制服を作ってからここ2・3日、色々とあったが、ようやく戦団の登録が出来る。
「こんにちは、アレクシアさん」
「はい、シノブさん、今日は何の御用事でしょう?」
「実は我々の戦団登録をしようと思って」
「なるほど、いよいよシノブさんも戦団を作るのですね?
それでしたら新規登録窓口へどうぞ」
「はい、わかりました」
俺たちは新規登録窓口へ行くとロッテさんに話しかける
「すみません、戦団登録をしたいのですが?」
「あっ、シノブさん、戦団を作るのですか?」
「はい、そうです」
「ではこちらの登録用紙に記入してください」
俺は渡された用紙を受け取りながらロッテさんに尋ねる。
「はい、わかりました。
ところで戦団の名前って、どんな名前でも登録できるのですか?」
「基本的にはどんな名前でも大丈夫ですが、文字数が20文字を越える場合と、すでにある戦団の名称の場合は受け付けられません。
それとすでにある名称と紛らわしい場合などは、受け付けられない場合がありますね。
それ以外にも登録不能な特殊な事例はいくつかあります」
「そうですか?じゃあうちの名前もまだ登録されてないと良いなあ・・・」
登録用紙を見ると、団長、副団長、団長補佐が必須条件で書かれている。
それを見て一応俺がエレノアに聞く。
「団長はやっぱりボク?」
「ええ、もちろんでございます」
「エレノアじゃなくて?」
「はい」
エレノアはにっこりと微笑んで答える。
そうですよね~?
実力から言ったら、どう考えてもエレノアなのだが、御主人様という事なので、ここはおとなしく俺が団長に納まろう。
副団長はエレノアとして、後は団長補佐か・・・?
「エレノアに副団長をしてもらうとして、団長補佐はシルビアとミルキィのどちらが良いかな?」
「そうですね・・・確か団長補佐は何名かまで良いのでしたよね?」
エレノアの質問にロッテさんが答える。
「はい、団長はもちろん1名ですが、副団長と団長補佐は何人か登録ができます。
両方とも最低1名は必須ですが、副団長は2名まで、団長補佐は3名まで登録可能ですよ」
「ではシルビアとミルキィを両方とも団長補佐にしてしまおう」
「ええ、それがよろしいかと思います」
そしてもちろんガルドとラピーダもうちの団員として登録をする。
当面はこの人員でミッションをこなして行く事になるだろう。
これで戦団「青き薔薇」の人員体制も整った。
その他の要綱も埋めて用紙を書き終える。
そして登録には金貨1枚が必要なようだ、
俺は全ての項目を記入した登録用紙を、金貨1枚と共にロッテさんに戻す。
戦団名を見たロッテさんが軽く驚いたように話す。
「まあ、名前が「青き薔薇」ですか?
シノブさん達らしい、不思議な名前ですね?
青い薔薇と言えば、奇跡や不可能な事の象徴ですからね。
不可能を可能にし、困難なミッションですら、易々とやってのけるシノブさんたちには、相応しい素晴らしい名前だと思います」
ロッテさんも俺たちの名称に感銘を受けたらしい。
うん、不可能を可能にするか?
そのキャッチフレーズいいな!
俺はリーダー、シノブ・ホウジョウ大佐!
奇襲戦法と変装の名人だ!
俺のようなオネショタ好きでなけりゃ、このショタ好きお姉さんたちのリーダーは務まらん!
自慢のルックスに、お姉さんはみんなイチコロさ!
ハッタリかまして、ブラジャーからパンティまで、何でも脱がして見せるぜ?
おっさん?変態?だから何?
皇帝でもぶんなぐってみせらあ!
でもエレノアのお仕置きだけはカンベンな!
俺たちは道理の通らぬ世の中に敢えて挑戦する。
いや、だからそれって、どこの特攻野郎だ?
「・・・助けを借りたい時はいつでも言ってくれ」
「は?」
イカン!妄想が膨らみすぎて外に出た!
「あ、いえ、その名前で大丈夫ですか?」
「ええ、調べてみますから、お待ちくださいね」
そう言ってロッテさんが台帳を調べる。
「・・・そうですね・・・あら?これは・・・そうですね・・・大丈夫です」
「大丈夫ですか?」
「ええ、似たような名前があったのですが、それはもう無効ですので大丈夫です」
「へえ?似た名前があったんですか?」
「ええ、1年半ほど前に「青い薔薇」という名前で登録されていた戦団があったのですが、2ヶ月ほど前に無効になっているので、大丈夫です」
「え?無効?無効って、どういう場合になるんですか?」
どんな場合が無効になるのか、俺は心配になって聞いてみた。
「戦団規約に反した場合ですが、この場合は年間ミッション不履行の問題ですね。
3ヶ月前に勧告もしていたのですが、結局何も手続きをしなかったので、規約違反で戦団解散となりました」
「年間ミッション不履行?」
「ええ、戦団には個人登録の場合のように義務ミッションはないのですが、年間ミッションが義務付けられていて、休眠措置を取ってない限り、戦団として、最低でも代表が特級の場合でも年間1ミッション、一般等級の場合は3ヶ月に1ミッションはこなさないと、活動していないとみなされて、登録を抹消されます。
この戦団の場合、半年以上ミッションをしていないし、休眠届けも出していないので、抹消扱いですね。
もっとも休眠措置を取っていても、特別な場合を除いて、5年以上は無理ですが・・・」
「そういった事は結構あるのですか?」
「ええ、そこそこありますよ。
それに戦団を作った物の、結局それを維持できなくて、解散、もしくは登録抹消というのはかなり多いです。
新規戦団のうち、1年で3割、3年で半分以上の戦団がなくなります」
「3年で半分以上?そんなになくなるんですか?」
想像以上の消失率に俺は驚いた。
「ええ、新規登録された物で5年以上持つのは二割にも満たないですね。
それだけ戦団の維持は難しいとも言えます」
「どういった理由が多いんですか?」
「一番多いのは団員の欠損ですね。
戦団は団員に特級2名以上がいるなら最低3名で構いませんが、それ以外だと5名以上は必要ですからね。
それが七級程度の最低限の人数で構成すると、何かの理由ですぐに人数が足りなくなってしまえば、それで即登録抹消になってしまいます。
いなくなる理由は病気、怪我、死亡、失踪、個人的理由による退団など色々です。
一応こちらでも戦団を作る時に最低人数でない方が良いと忠告はしているのですが・・・」
「なるほど・・・」
どうやら団員は登録する時だけでなく、常に最低限の人数がいなければならないようだ。
それだとうちのようにまず人員が減る可能性がない団体ならともかく、そこら辺の寄せ集めの最低限の人数で登録するのは危険だな。
「後は今回のこの登録抹消された戦団のようにミッション不履行の規約違反や、どこかの戦団との吸収合併、逆に内輪もめで分裂して消失なども結構ありますね」
「そうなんですか・・・」
「それから年間登録料未払い、功名に逸って無理な魔物と戦って全滅して登録抹消という最悪の場合も、もちろんあります」
「ははあ・・・」
確かに色々と理由はあるようだ。
うちもそんな事にはならないように、気をつけなくては・・・
俺がそんな事を考えていると、ロッテさんが笑って答える。
「でも、シノブさんたちの場合は特級が4名もいる訳ですし、お仲間の関係も良好のようです。
そして何よりも実力がありますから、そういった心配は無用だと思いますよ」
「ええ、ありがとうございます。
ところでせっかく戦団として登録したので、我々もたまには派手なミッションをしてみようと思うのですが、何かそれらしいのはありますか?」
「派手なミッションですか?」
「ええ、うちはどちらかと言うと、今までは地味な物が多かったですからね。
別にそれがいやと言う訳ではないのですが、今回は戦団登録をした事ですし、たまには何か派手なミッションでもしてみようかと思いましてね。
それにどうも我々は変な名前で記憶されているようなので、ここらで正式名称を登録してちゃんと覚えてもらおうとも考えまして」
俺の説明にロッテさんもうなずく。
「なるほど・・・」
俺たちの今までの活動は結構地味だ。
組合員登録をして以来、ゴブリン退治や魔物蜂退治、商隊の護衛など、ごく普通の仕事が多い。
たまに金剛杉の伐採や、昇降機の設置など大きな仕事もあったが、それも言わば裏方のような仕事で、派手な仕事と言うほどではない。
知る人ぞ知る、というような類の仕事だ。
組合員や魔道士ならば知っている人も多いだろうが、一般ではまず知られてはいない。
例えるなら東京タワーやスカイツリーは日本人なら誰でも知っているが、それを設計した人や建築した会社を知っている人は少ないだろう。
清水寺や東照宮を知っている人は多いが、その材料の木を切り出した人間の名前など、誰も知りはしない。
そんなもんだ。
ましてやミルキィとの囮捜査など秘密ミッションだ。
関係者以外知る由もない。
俺も別に有名人になりたかった訳ではないので、そんな事は気にしなかった。
しかし今度は戦団として登録するので、少しは自分の所属する物の知名度を上げようかと考えた。
なぜならば、組合員の間では、どうも俺たちの事を、シノブ・エレノア組とか、肝いりな連中、白銀のアレ、などと好き勝手に色々と名づけているようなのだ。
この状態は流石によろしくない。
それだったらいっその事、「青き薔薇」という、ちゃんとした公式名称で覚えてもらいたいと考えたのだ。
そこで派手な仕事をやってみようと思ったのだった。
そうすれば勝手につけられた、おかしな名称ではなく、「青き薔薇」と言う名前が、組合員の間にも浸透するだろう。
そのためにも2・3回位は派手なミッションを受けてみた方が良いだろう。
「青き薔薇として初めてのミッションなので、珍しく私も結構気合が入っているんです。
ドラゴン退治とか、何かそんなミッションはありますか?
集団としての知名度がグッ!と上がるような?」
「そうですねぇ・・・・あ、」
「何かあるんですか?」
「ええ・・・あると言えばあるのですが・・あれは・・・」
どうも何かあるらしいが、ロッテさんは言葉を濁している。
「何ですか?」
「それはちょっと・・・詳しい事はヘイゼルの方に聞いてみてください」
「ヘイゼルさん?相談依頼の方ですか?」
「ええ、そうです」
「わかりました」
俺は新規登録窓口を後にすると、相談依頼窓口へと向かった。
「こんにちは、ヘイゼルさん」
「あら、こんにちは、シノブさん」
「実は我々はたった今、登録窓口で戦団として登録をしたのです」
「それはおめでとうございます」
「そこで登録記念に、たまには何か派手なミッションをしようかと思ったのです。
それをロッテさんに聞いたら、何かあるらしいのですが、ヘイゼルさんに聞いて欲しいと言われてこちらに来たのです」
「ああ・・・それですか・・・」
「何か心当たりのあるミッションがあるんですか?」
「ええ、あるといえばあるのですが・・・」
やはりヘイゼルさんもロッテさんと同じで思い当たる物はあるらしいのだが、言葉を濁している。
よほど面倒な案件なのだろうか?
「なんですか?
知っての通り、我々は大抵の事は何でも受けますよ?
遠慮せずに言ってみてください」
俺たちは今まで組合の面倒な案件をかなりこなした自負がある。
組合員の等級としても、全員が特級で、大抵の事を遂行するのに問題はないはずだ。
その俺たちに対してミッションを言い淀むとは余程の案件なのだろうか?
しかし俺が重ねて聞くと、ヘイゼルさんは意を決したように俺に話した。
「マルコキアスの討伐です」
その言葉にエレノアとシルビアが即座に反応する。
「え?マルコキアスが出たのですか?」
「マルコキアスですって?」
マルコキアスの討伐だって?
その言葉に俺も驚いた!
どうやらこれは中々大変なミッションになりそうだ。