0260 ロナバール魔法協会本部長
エトワールさんに連れられて、本部長室と書かれた部屋の中に入って行くと、広い応接間に案内された俺たちは、フカフカの椅子に座らせられた。
その部屋にいた女性に、エトワールさんが俺たちの引継ぎをする。
「シノブ・ホウジョウさんと、そのお仲間をお連れしました」
「はい、承知いたしました。こちらでお待ちください」
そう言った女性の顔を見て俺は驚いた!
よく知っている顔だったのだ。
「あれ?マドレーヌさん?」
それはついこの間、一緒に昇降機設置作業をしたマドレーヌさんだった。
マドレーヌさんも笑顔で俺に返事をする。
「はい、シノブさん、お久しぶりです。
その節はどうも」
「マドレーヌさんって、ここで働いていたんだ?」
「ええ、私はここの本部長つきの秘書をしております」
「そうなんだ?」
マドレーヌさんが魔法学士で魔法協会の職員だというのは知っていたが、どこの所属かまでは聞いていなかった。
本部長つきの秘書をしていたとは驚いた!
さすがは魔法学士といったところか?
「ええ、そうです。
今、本部長を御呼びいたしますので、お待ちくださいね?」
「はい」
マドレーヌさんにそう言われて、俺たちはおとなしく座っていた。
しばらくすると、二人の男性らしき人たちが入ってくる。
「男性らしき」という表現なのは、先に入って来た一人は、兜を被っていて、甲冑のような物を着込んでいるので、年齢も性別も、いや、種族さえもわからないからだ。
ただ体格と見た目の雰囲気が男性っぽいので、男性かな?と思っただけだ。
後ろの人はよく魔法協会の挨拶をしている老人だ。
ゴーレム大会や昇降機記念式典の時に挨拶をしていた人で、俺も何回か見た事がある。
いかにも老練な魔道士と言う感じで、太い銀色の横線が入った黒い三角の帽子を被っていて、黒と銀の魔法協会の制服を着て、魔法学士章をつけた上で、黒と銀の外套を羽織っている。
だがもう一人の人物は!
その人物は魔法協会の黒と銀の制服を着ていて、その上で要所に防具と言うか、甲冑を装着していて、後ろの老人同様、黒と銀の外套を翻している。
ちょうど魔法協会の魔道士職員と審判の騎士を合わせたような格好だ。
格好的には間違いなく魔法協会の関係者に見える。
しかしその首から上の部分は・・・
頭には古代ギリシャ式の兜のような物を被っていて、顔の部分には黒い仮面・・・と言っても男爵仮面やグレイモンたちがつけている、どっかの飛騨の忍者のような仮面や、仮面舞踏会の仮面ではなく、オペラ座の怪人のような仮面、つまり仮面と言うよりは、無表情な「お面」のような物をつけていた・・・
全体的な見た目を一言で表現するならば、なんつーか、闇堕ちしたどっかの騎士?
いや!違う!
これの全体的な見た目って、俺的にはアレだ。
宇宙警備隊のアンドロメダ星雲支部隊長みたいな感じだ。
え?宇宙警備隊の隊長って言ったらゾ○ィーだって?
知名度低いけど、アンドロメダ方面にも隊長が一人いるんだよ!
しかもウルトラ族のくせに、何故か普段は全身が甲冑で覆われている謎の隊長が!
大抵は隊長一人で行動しているから、支部がどの程度の規模か知らないけどね?
知名度は低いけど、俺が一番好きなウルトラ戦士なんだよ!
最初に出てきた時は「謎の超人」とか言われてたけど、この人もまさにそんな雰囲気で、いかにも「謎の超人」という感じだ。
その人は静かに俺の前に来ると、被っていた銀色の兜を黒い面の部分ごとグッ!と外す。
その出てきた顔を見て、俺はまたもや驚いた!
マドレーヌさん同様、その顔も見覚えのある顔だったのだ!
「え?ゼルさん?」
謎の超人の正体は、俺と一緒に昇降機設置作業をした、あのゼルさんだった!
「やあ、お久しぶりです!シノブさん!
私がゼルこと、ゼルバトロス・コールドウェルです。
ここの本部長を勤めさせていただいております。
こちらは副本部長のブルーノです」
ゼルさんに紹介された副本部長のブルーノさんが俺たちに頭を下げて挨拶をする。
「ロドリオ・ブルーノです。以後お見知りおきを」
「はい、シノブ・ホウジョウと申します。
よろしくお願いします」
俺たちも立ち上がると、頭を下げて挨拶をする。
久々にあったゼルさん、いやゼルバトロス本部長は俺に握手を求めてくる。
「いやいや、やっとこうして御会いできて、私も嬉しいですよ」
「ゼルさん!?
ここの本部長だったんですか!」
俺は握手をしながら質問する。
道理でレベルが400以上もある筈だ!
あの時は皮の鎧に鋼の剣と言う、ごく平凡な迷宮探索者の格好をしていたが、今は黒と銀の立派な魔法協会幹部服と甲冑を装着して、表が黒と裏が銀のマントを翻している。
何だか俺やエレノアの紺と金のマントとは対照的だ。
制服自体も似ているしね。
もっともこっちが魔法協会の制服を真似したんだから当然だけど。
「皆さんには突然の事で驚かれたでしょうな?」
「ええ・・・」
「何しろ私は普段、表向きの式典や祝辞はこのブルーノ副本部長に任せて隠れておりますからな。
何かで出る場合も、大抵はこのように兜で顔を隠しております。
その方が色々と都合が良い物でしてね。
特に一人の市民として市井の様子を知るためには都合が良いのです。
ですから私の事をここの本部長と知っているのは魔法協会の中でも上層部と、特定の一部職員だけです。
そして対外的には総合組合長のグレゴール氏や組合役員の数人、ロナバール総督閣下など、ほんの一部の人々だけです。
しかしあなた方には私の正体を明かしておこうと思いましてね。
実は今回お呼び立てしたのは、半分は仕事、そしてもう半分は、はっきり言ってしまえば、単なる私の興味本位でしてな。
そのような事でお呼びたてして申し訳ありません」
「仕事半分、興味半分?」
俺の質問にゼルバトロス本部長が説明を始める。
「ええ、実は近頃、ここロナバールでメキメキと力を上げている方がいると伺いましてな。
何しろまだ若いのにも関わらず、レベルが私に匹敵するとか・・・
しかも組合の困難なミッションを着実にこなし、あろう事か、金剛杉の相場にまで影響を与えるほど、金剛杉も伐採しているとか・・・
そんな話が総合組合のグレゴール組合長との会合で、たびたび出ましてね。
さらに話を聞けば魔道士どころか、魔法士ですらないのに、様々な魔法を使いこなし、ジャベックまで使いこなすとか、聞けば聞くほど、とてもただの魔士とは思えません。
しかもお供の方たちまで全員相当なレベルで、集団としても侮れません。
そこまで聞けば、いやでも興味が湧くというもんじゃありませんか?
それにそのような人物でしたら、今後のためにも御会いしてどのような人物か話してみたいと思いましたし、また私の立場上、知っておかなければならないのも義務でしてね。
そう思っていた所で、例の昇降機設置事業の話です。
グレゴール氏からあなたがうちの職員を借りたがっているという話を聞きましてね。
これは良い機会だと思って、シルビアとエトワールに頼んでおいたのですよ。
私とマドレーヌを一緒に昇降機設置の仕事に使ってもらえるようにして欲しいとね。
人間どういう人物か知るには、一緒に働いてみるのが一番わかりますからね」
「なるほど」
その言葉に俺は納得した。
確かに俺のレベルはいまや300を超えている。
この広いロナバールでもそうそうはいないだろう。
そんな奴を野放しにしておくのは、この人の立場上捨て置けないだろう。
そこで俺に会って人物鑑定をしてみたかったと・・・
それで昇降機設置の時に、これ幸いとわざわざ志願して俺の様子を見に来た・・・そういう事か?
そう言えば、マドレーヌさんが時々、ゼルさんを呼ぶ時に何か一瞬、詰まって別の名前を呼びそうだった事が何回か記憶にある。
その時は特に気にしていなかったけど、今にして思えば、あれは「本部長」と呼びかけそうになっていたのか?
「しかし、実際に御会いして、すでに疑問のほとんどは解けました」
「え?そうなんですか?」
俺が驚いて尋ねると、ゼルバトロスさんは俺ではなく、エレノアの方を向いて挨拶をする。
「はい、その通りです。
グリーンリーフ先生、先日は大変お世話になりました」
そう言ってゼルバトロスさんは、深々とエレノアに頭を下げる。
ぬおっ?
グリーンリーフ先生と言う事は・・・この人もエレノアの弟子の一人なのか?




