0258 制服の完成
翌日になると、俺たちはいそいそとスペンサー魔法服装店へと向かった。
スペンサーさんや店員たちが注文した服を持って俺たちに話す。
「お待たせいたしました。御注文の品物が出来上がっております」
「こちらになりますね」
「早速試着してみてください。不具合があれば直しますから」
「はい、わかりました」
試着室は3つしかなかったので、シルビア、エレノア、ミルキィが先に入って、俺とペロンが待つ事にした。
シルビアは一番新参者の自分が御主人様をさしおいて試着するなど恐れ多いと言ったが、俺が早くシルビアの服を見たいのだと言って、問答無用で試着室に押し込んだ。
最初に出てきたのはミルキィだった。
やはり紺と金は映える。
紺のベストと同じく金色の線が入ったズボンは、精悍そうな上に、動きやすそうな服装で見栄えも良い。
うん、やっぱりミルキィは可愛いね?
次に出てきたのはエレノアだった。
エレノアの場合は以前の服とほとんど変わらない。
結局、今までの通りが一番良いと判断したからだ。
しかし以前が若草色が基調だったのに対して、今度は紺色が基調だ。
服は紺色で、肩当は金色、マントは表が紺で裏地が金色だ。
紺と金色で、エルフの高貴さを如何なく発揮した衣装の神々しさは恐ろしいほどだ。
その気品に俺は思わず土下座してしまいそうなほどだ。
「うん!いいね!二人とも!」
「恐縮です」
「ありがとうございます」
そして中々肝心のシルビアが出てこない。
待ちかねた俺がシルビアに声をかける。
「どうしたの?」
「はい、今終わりましたので出ます」
出てきたシルビア、いやシルビア様の前で俺は自然に土下座した。
「はは~っ」
「何してるんですか?」
「いや、つい」
俺はシルビアに言われて立ち上がった。
「ちゃんと見てください」
「うん」
俺は立ち上がってシルビアの姿を今度はじっくりと見た。
「うわあ・・・!」
出てきたシルビアは以前着ていた戦闘法務服よりも数倍格好良かった!
俺もこれほど似合うとは思っていなかった。
まさに想像以上だ!
俺がシルビアをこのまま魔法協会に連れていって、これが新しい上級魔道士の戦闘法務官の制服だと言っても全員が信じるだろう。
「凄い!凄く似合うよ!」
「ありがとうございます」
ビシッ!と決まった格好のシルビアはかつての凛とした戦闘法務官時代のシルビア以上だ!
これこそが俺の望んだ物、その物だ!
いや、それ以上だ!
写真や動画が撮れれば絶対、撮っておくのにぃ~。
あ、そうだ!俺、映像記録ジャベック作ったから撮っておけるんだった!
今度みんなを集めて撮影会をしよう!
「どうだい、その服は?」
「はい、以前の制服より気が引き締まる気がいたします」
やはり、そうなのか?
「うん、いいよ、いいよ」
気高く高貴なエレノア、キリッとして精悍なのに可憐なミルキィ、凛としたシルビア。
それぞれがいい!
これはたまりません!
俺が絵から抜け出たような三人を感激して見ていると、シルビアに促される。
「さあ、御主人様もどうぞ」
「うん、わかった」
次に空いた試着室に俺とペロンが入った。
俺の服は基本がシルビアの制服と同じ物で男性仕様だ。
そして肩にエレノアと同様の金色の肩当をしていて、表が紺、裏地が金のマントを羽織っている。
中々派手だ。
そして肩当には3つ、両肩で6個のフィネーロを装着可能になっている。
いや、しかしこれは我ながら本当に凄い格好だな?
まるでどこかの魔法軍団の司令官か、何かみたいな格好だ。
俺が着替えて出てくると、それを見たシルビアがいきなり黄色い声を上げる。
「キャア~ッ!御主人様!素敵ですわ!想像以上ですわ!」
「え?そうなの?」
「ええ、そのお姿をそのまま絵にして取っておきたいほどですわ!
あ~っ!もうっ!本当になんて素敵なのかしら?」
ううむ・・・何だかさっきの俺と同じ反応だな?
やはり俺とシルビアの感覚って同じなのか?
「ええ、とても素敵です!」
「ええ、まるで別人のようです」
ミルキィとエレノアもうなずいて答える。
実は俺、シルビアと同じような感覚の部分があって、コスプレすると気が引き締まって気分が変わるんだよね・・・
例えば新選組の格好をしたら、その気になって町を練り歩いたりとか・・・
そして他人から見ると、雰囲気が別人のように変わるらしい。
だから俺が変わった格好すると、知り合いでもわからなくなるらしいんだ。
実際、三つ揃いのスーツを着たりすると、知り合いにあっても誰も俺に気づかなかった事が何度もあった。
そういう意味ではシルビアと全く同じかも知れない。
うん、それにこの服装が格好良いのは、もちろん俺にもわかるんだよね。
俺はコスプレも好きなので、実はこういう格好をするのも結構好きだ。
では何で普段そういう服装にしないかと言うと・・・単純に疲れるんだな、これが。
普段着慣れない服装のせいもあるけど、服装に合ったキリッとした感じにしてなきゃならないんで、精神的に面倒なんだよ。
半日位着ていると、ドッと気疲れするんだ。
でもこれだけ喜ばれたら、これっきりって訳にもいかないしな・・・
それにこの三人には俺の趣味の服装を強要しているのに、俺だけ拒否するって訳にもいかないしねぇ・・・
仕方がない。
これからは寝ている時以外は、なるべくいつもこの服装でいて、それが当たり前の状態に持っていくしかないな。
まずはこの服装になった時の気を張った気分を消すことからはじめた方がいい。
その後、基本的な修行からやり直そう。
遠回りなようだが、それが一番だとオラは思う。
うん、どっかの変な人造人間たちと戦った時に引き篭って修行した、戦闘民族の気持ちがよくわかったよ。
俺がそんな事を考えていると、ペロンも着替え終えて出てくる。
ペロンは基本的に以前の格好と同じだ。
長靴を履き、白い羽根飾りのついた帽子を被り、マントを翻している。
但し、朱色だった部分は紺色になり、帽子と長靴には金色の線が入っている。
そしてマントは俺やエレノアと同じく表が紺で裏地が金色だ。
そのマントの左右の襟には「北条」の徽章と、青バラの徽章がついている。
うん、ペロンも格好良い!
「ペロンも中々似合っているよ」
「ありがとうございますニャ」
「ええ、そうですね」
「朱色の服も良かったですが、紺色の服もよく似合いますね」
「ええ、本当に」
ペロンの様子にみんなも納得する。
俺は全員に尋ねる。
「じゃあ、皆これで良いかな?」
「はい、問題はございません」
「私もです」
「はい、私も問題はないです」
「大丈夫ですニャ」
どうやら全員が納得した様子だ。
俺たちが納得していると、スペンサーさんが話しかけてくる。
「いかがですか?」
「ええ、思ったよりも軽くて、何より暑くなくて良いです」
「特殊な生地ですから、多少魔力を込めれば、防寒や断熱効果もありますよ。
その効果で長袖ですが、夏は涼しく、冬は暖かいですよ。
そもそも魔法攻撃をある程度防ぐ物なのですからね」
「なるほど」
そう言われればそういう物だったか?
つまり春夏秋冬、これ一着で問題なしという事か?
そういえばシルビアもエトワールさんも一年中あの制服だったな。
流石に高いだけはあるな?
「では今脱いだこちらの服は、後でこちらで予備と一緒に御屋敷の方へお届けいたしましょうか?」
「そうしていただけると助かります」
「では全部で金貨130枚になります」
「はい」
俺は大金貨13枚をスペンサーさんに渡す。
結構な散財だったが、全員の防御力も格段に上がったようだし、これは意味のある買い物だったと思う。
「お買い上げありがとうございます。
そうそう、こちらがオマケで作った物ですよ」
スペンサーさんにそう言われて、俺は二つの布切れを渡された。
「これは?」
「あの二匹の首に巻いてあげてください」
「はい、ハムハム、ムサビー出ておいで」
俺が呼ぶと二匹はすぐさまに出てくる。
俺は二匹の首にその布切れ、スカーフを巻いてあげた。
それは紺色の生地に金色に縁取られている。
そして中央よりやや右よりな部分に、青薔薇と金色の葉が刺繍してあって、中々格好良かった。
「へえ、中々似合うね?」
「ええ、そうですね」
「とても素敵です」
「ありがとうございました。
スペンサーさん」
「いいえ、どういたしまして、これからも御贔屓に願います」
「はい、こちらこそ」
スぺンサーさんの店を出て俺たちはすぐ近くにある「ガーンズバック魔法武具店」という店に入った。
ここもシルビアの紹介で知った店で、特注の武器・防具を作る店だ。
こちらでガルドとラピーダの鎧を注文した。
ガルドはミスリルの全身鎧と盾で、ラピーダはミスリルの軽装鎧だ。
両方とも全体的に紺色で、一部金色の塗装がしてあって、こちらもやはり俺たちの一員である事が一目で分かる。
さらに鋼の剣だったガルドは柄が紺色のミスリルの剣を、ラピーダは同じくミスリルの槍を装備させた。
そしてミルキィと俺は同じ、軽いミスリルの篭手をしている。
それは両方とも紺色に塗って端を金色に縁取りしたお揃いだ。
ペロンにも柄の部分が紺色と金色で彩られたミスリルのサーベルを新調した。
俺は今までは鋼の剣が標準装備だったが、今日からはアレナックの日本刀だ。
そして腰にはもう一本、脇差代わりにミスリルの短剣も差している。
ミルキィもミスリルの短剣からアレナックの短剣に変えて左右の腰に差している。
さあ、これで全員が揃いの服装が出来上がった!
全員の装備が揃った所で、改めて見ると、中々壮観だ!
早速これでちょいと街を歩いてみるか?




