0244 ブローネ党
俺がシルビアを金貨千枚で買って町の噂になった。
俺はリュドミラ以外にも、もう少し何か言ってくるやつがいるかと思っていたのだが、意外にもそんな人間はいなかった。
どうやらエレノアの時のグレイモンの話が、かなり尾鰭を伴って町に浸透しているらしい。
それとも下手に関わると、俺たちだけでなく、ボイド家にも睨まれると思ったのかも知れない。
それに俺とシルビアが長い間、屋敷の中に引きこもっていたせいで、噂も下火になったようだ。
しかしそんな俺たちに言いがかりをつけてきた者たちも少しはいた。
ある時、エトワールさんと買い物の待ち合わせるために、俺はシルビアと二人で町を歩いていた。
普段だったらガルドやラピードがいたり、護衛のタロスを出しているのだが、その時は俺もシルビアとのデートを楽しみたかったので、あえて二人きりで行動をしていたのだ。
俺は機嫌よくシルビアと話していた。
「こうしてシルビアと二人きりで町を歩くのは初めてだね?」
「ええ、そうですね」
「えへへ・・・初めてのデートか・・・何だか嬉しいな」
「私もですわ。
もっとくっついて歩きましょうよ」
「そうだね」
俺は必要以上にベッタリとシルビアにくっついて歩いていた。
周囲から見れば、完全なリア充と言うか、バカップルだ。
そのイチャラブな俺たちを見て、相手もイラついて絡んできたのかも知れない。
俺たちがイチャイチャとしながら歩いていると、不機嫌そうに荒々しく声をかけてきた者がいる。
「おうおう!小僧!ずいぶんとベッピンな姉ちゃんを連れているじゃねぇか?」
おや?どこかで見たような記憶のある連中だ、誰だっけ?
しかしどう見ても、まともな連中には思えないが、一応、俺は何者かを尋ねてみる。
「え~と、あなたがたはどちらさんで?」
「俺たちか?俺たちはこのロナバールの東地区を仕切る、ブローネ党よ!」
「そしてこのお方がブローネ党の党首ザジバ・ブローネ様だ!
よく覚えておけ!」
ああ、そうか?思い出してきた。
そういえば以前そんな名前を名乗る連中に会ったような記憶がある。
「はあ、まあ一応覚えておきましょう、それじゃ・・・」
俺がそう言って通り過ぎようとすると、慌ててその部下たちが止める。
「まてまて!お前、何を勝手に行こうとしてるんだ?」
「え?だって別にあなたがたに用事はないし?」
「そっちがなくともこっちがあるんだよ!」
「何の用事でしょう?」
「それはな!このベッピンさんをちょいと借りようってのさ」
そう言って一人がシルビアの手を引っ張って連れて行こうとする。
しかし俺がそいつをどうにかしようとするよりも早く、シルビアがパーン!と強烈な平手の一撃を容赦なく相手の頬に加える。
うおっ?手が早いな?シルビア?
そしてシルビアがその男に冷たく言い放つ。
「私を借りる?何を勘違いしているのです?」
「何しやがる!このアマ!」
「あ、ザジバ様!
この小僧、よく見たら、以前あのベッピンエルフや獣人娘と歩いていた奴ですぜ!」
「何?では、こいつはあの二人がいながら、またもや別の女といちゃついておるのであるか?」
「そうです」
「そいつは許せんな!」
「確かに許せませんな!」
「やっちまえ!」
俺たちを取り囲んだブローネ党を見て、やれやれ面倒な事になりそうだな~と考えていると、シルビアが俺に話しかけてくる。
「御主人様、この連中は私が始末をしますので、少々お待ちください」
「うん、わかった」
そう言って俺は後ろに少々下がる。
シルビアの周囲を男たちがズラリと囲むが、もちろんシルビアは怯む様子はない。
むしろ先ほどよりも生き生きとしているように見える。
何でだ?
「あ~ん?俺たちを始末するだと!?」
「このアマ!今からでも素直に従えば許してやるぞ!」
「先ほども言いましたが、何を勘違いしているのですか?
あなた方のような愚かな無法者に従う意思はありません」
「なんだと!てめえ、泣く子も黙る俺たちブローネ党に逆らおうってのか?」
意気込むチンピラたちに対して、シルビアはむしろため息をついて話す。
「ふう・・全く・・・以前、あれほど言ったのに、あなたたちはまだ懲りないのですか?
言っておきますが、今日の私は機嫌が悪いですよ?
せっかくの御主人様との初デートを邪魔されたのですからね!
今日はいつものように手加減などしませんよ?
あなたたち、その覚悟は出来ているのでしょうね?」
「あん?何を寝言を言ってやがる?このアマ!やっちまえ!」
そう言って飛びかかろうとするゴロツキどもを一人がふと止める。
「いや、ちょっと待て!
こいつよく見たら、悪魔じゃないのか?」
その言葉に他の連中も反応する。
「え?」
「悪魔だと?」
「げっ!本当だ!
協会の制服を着ていなかったからわからなかったけど、こいつテリブルペアの片割れの悪魔のシルビアですぜ!」
テリブルペア?
なんだ、そりゃ?
しかし悪魔って・・・・シルビアはこいつらに一体何だと思われているんだ?
悪魔って、確かこの世界では実在の上位魔物のはずだが・・・
しかもペアの片割れって事は、誰かもう一人いるのか?
誰だろう?
「なんだと!」
「そういえば、あいつは奴隷になったって聞いたな?」
「ああ、ざまあみろ!と思っていたが、まさかこんな所で出会うとは・・・」
「落ち着け!例え悪魔のシルビアだろうが、一人なら、どうって事はない!」
「おう!鬼のエトワールがいないならこっちのもんだ!」
あ、もう一人はエトワールさんだったのね?
それにしても「悪魔のシルビア」に「鬼のエトワール」って、ずいぶんだな?
しかしそんな男たちをシルビアは見下すような目線で見ながら話し始める。
「・・・なるほど、私一人ならあなたたちでも勝てると思ったのですか?」
それを見ている俺は何だかゾクゾクしてくる。
何かムチとかを持たせたら女王様!と呼びたくなる雰囲気だ。
何だか俺も危ない物に目覚めそうだ。
いや、もう目覚めているか?
ついこの間、シルビア先生やシルビア御嬢様に散々色々とされたからなあ・・・
「うるせえ!やっちまえ!」
「確かに以前の私ならあなたたちに負けないまでも、一人では相当手こずったでしょうね・・・しかし、ちょうど良い機会です。
御主人様から習った物を試してみましょう」
男たちは一斉にシルビアに飛び掛るが、当然の事ながらレベルが150以上もあるシルビアが相手では話にならない。
俺は合気道のような護身術を多少知っていたので、それを三人に教えていたのだが、特にシルビアはそれを気に入って練習をしていた。
その練習の成果で飛び掛ってくる男たちを文字通り捻り、片っ端から投げ飛ばしていく。
あっという間に一人残らず、シルビアに投げ飛ばされて地面に這い蹲る結果となる。
「な、なんだ・・・この女・・・」
「冗談みたいな強さだ・・・こいつ、こんな強かったか?」
「いや、以前とは段違いの強さだ」
「ああ、まるで別人だ」
「一体この技はなんなんだ?」
「わからねぇ・・・気がついたら飛ばされていた」
驚愕する男たちにシルビアが凛とした感じで言い放つ。
「さあ、準備運動は終わりです。これからが本番ですよ?
もちろん、覚悟は出来ていますね?」
そう言うと、シルビアは自分のそばに女性騎士型のタロスをサァッ・・・と、十体ほど出してみせる。
例え魔法協会の制服を着ていなくとも、タロスを従えて優雅に立つシルビアの姿は美しい。
流石は正規の魔道士だ。
シルビア一人にも敵わないのに、戦闘タロスまで出されたら、もう御終いだ。
男たちは一気に逃げ腰になる。
「ひいっ!に、逃げろ~!」
「あ、兄貴~」
「覚えてろ!お前たち!」
「あっ!待て!お前たち!我輩を置いていくでない!」
「ザジバ様!早く逃げましょう!」
一人が逃げると全員が一目散に道の反対側へ逃げていった。
「あ、逃げた」
「いいえ、逃げられやしませんよ」
「え?」
そのシルビアの言葉に俺が、逃げていくブローネ党の連中を見ると、その先に一人の女性がいた。
あ、あれは・・・




