0022 奴隷魔女サロメの話
アルヌさんの説明は続く。
「そういった奴隷もいるので、我々奴隷商人は所有者死亡後の解放設定をあまりおすすめしておりません。
しかし奴隷になった者の中にはそういった狡知に長けた者もまれにいますので、いくら我々が止めても、ごくまれに奴隷に騙されて、そういった方法で殺されてしまう方もいらっしゃいます」
「そんなに巧妙なのですか?」
「ええ、例えば有名な事件に「奴隷魔女サロメ」の話がございますね」
「奴隷魔女サロメ?」
「はい、サロメは美貌の女でしたが、非常に狡知にたけ、自己中心的で、人を人とも思わない女でした。
ある時、自分の夫殺しの罪で、奴隷の身分に落とされたのですが、その主人を今度は自分の美貌を持って、たらしこんだのです」
「なるほど」
「サロメは主人に頼み込んで、まず自分の設定を解放設定にしてもらったのです。
そして次に同じ奴隷身分の男を、やはり自分の虜にして、その男を主人から貰い受けて、自らの専用奴隷としたのです」
「つまり奴隷の奴隷という事ですか?そのような事も可能なのですか?」
「はい、俗に孫奴隷と言いまして、お気に入りの奴隷や、優秀な奴隷には、そのように専属の奴隷をつける事が、ごくまれにございます」
「なるほど」
「そして、自分の奴隷となった男に、サロメは主人を殺すように差し向けるのです。
主人を殺せば自分は奴隷から解放される。
他の奴隷は殉死で死ぬが、お前は私の奴隷だから殉死しないですむ。
そうしたら自分と一緒にどこかへ逃げて暮らそうとそそのかしたのです。
サロメの肉体に溺れていた男奴隷は言われるがままに主人を殺し、主人殺しの罪で捕まり、裁判にかけられました。
男は当然サロメに言われてやった事だと主張しましたが、サロメはそれを否定しました。自分がやさしい主人を殺すような事を言うはずがない。
これはその男の独断でやった事だと主張し、涙を流して訴えました。
他の奴隷たちは主人が死んだ瞬間に殉死していましたから、他に証言する者もおりません。
美貌のサロメが涙を流してまで訴えたために、裁判官たちはサロメを信用して、サロメは無罪となり、奴隷から解放され、残った奴隷男を主人殺しの罪で死刑としました」
「うわ~・・・」
恐ろしい女だ。
確かに魔性の女とか、魔女といわれるような女は、こういった女の事を言うのだろうと俺は思った。
「しかし、数年後、窃盗の罪を犯したサロメは再び奴隷となり、その新しい主人を相手に再び同様の事を行いました。
しかしその時は、サロメ以外にもたくさんの奴隷が解放状態になっていたので、証言者はたくさんいました。
その人々からサロメの性格、主人を殺した男奴隷との関係を証言する者たちが次々と現れた上に、過去の裁判を覚えていた者が、あまりにもやり口が似ているので、前回も今回と同じような手口で主人をサロメが殺したのではないかと疑われました。
サロメはまたもや涙を流して裁判官たちに自分の無実を訴えましたが、今度の主人は前の主人と違い、奴隷たちに非常に尊敬され、慕われていました。
自分たちの敬愛する主人をサロメに策略で殺された元奴隷たちは、決してサロメを許さず徹底的に追及しました。
サロメには何の得にもならないのに、なぜそんなに死んだ人間のために奴隷たちが自分を追求するのか理解が出来ませんでした。
その結果、相手によってサロメの証言に大きく矛盾が生じ、それをサロメは説明できなくなりました。
自己中心的で保身しか考えないサロメには自分の身をなげうってまで、亡き主人の無念を晴らそうとする元奴隷たちの気持ちが最後まで理解できなかったのです。
そのために、サロメは自分で自分の証言に縛られて、ついに有罪となりました。
そして主人殺しの大罪と、他人にそれをなすりつけようとした事で、計画的な上に、極めて自己中心的として、当時としても珍しい公開火あぶりの刑となり、処刑される事となりました。
サロメは火あぶりになる直前まで、自分の無実を訴え続けましたが、それが受け入れられないとなると、火あぶりにされる間、死ぬまで自分の主人や他の奴隷たちを呪う言葉を吐き続け、ついには絶命しました。
これが有名な「奴隷魔女サロメ」の事件でございます」
俺はその話を聞いて、この世界の奴隷の歴史に、そんな凄絶な話があったのかと驚いた。
「・・・凄い話ですね」
自業自得とはいえ、そんな方法で殺されてはたまらないなと俺は思った。
「はい、これは「魔女サロメ」「主人殺しのサロメ」として、最も有名な話でございますが、似たような話は他にもございます」
「なるほど、よくわかりました。
非常に興味深いお話をありがとうございます」
これって、基本は奴隷を簡単に信用するなって話だけど、きっと奴隷を大切にしろっていう教訓も含んだ話だよね?
「はい、そういった理由で、この2つ、探知と主人死亡時設定は必須ですが、他に所有者の希望によって、設定する機能もいくつかありますね」
「それはどういう物ですか?」
「例えば仕置機能です。
犯罪等の理由で奴隷になった者の中には反抗的な者もいますから、そういった手合いが主人に逆らうと、首輪から電撃などが流れるような機能も付けることができます。
これは即死機能を弱めた物ですね」
「ははあ・・・」
「それとこれは滅多に使いませんが、奴隷が魔法使いの場合で、魔法を使われると都合が悪い場合には、魔力を封じて、魔法を使えなくする機能なども設定できます」
「なるほど」
「こうした様々な機能があるので、皆様は安心して奴隷を扱う事ができる訳です。
そして奴隷は老若男女、力仕事や家事、事務仕事など様々な種別に分けられて売られます。
そして我々奴隷商人が、そういった奴隷の売買、仲介をするわけです」
「奴隷商人以外では奴隷を扱う事はできないのですか?」
「まったく例がないとは言いませんが、よほどの事がない限り、奴隷の扱いは奴隷商人がいたします。
武器職人でない者に鋼の剣を作らせたり、漁師でもない者に魚を取りに行かせたりしないように、やはり奴隷を扱う者も専門家がした方がよろしい訳です」
「なるほど」
つまり、餅は餅屋ということか。
納得だ。
「奴隷になった者は、先ほど説明した専用の首輪をはめられて、それが奴隷の証となります。
この首輪をしていれば、その者が例え、どんなに豪奢なドレスや立派な戦士の装いをしていても奴隷ですし、逆にこの首輪をはめていない者は、どんなにみすぼらしい格好をしていたとしても奴隷ではない訳です」
「なるほど」
「もっともそういう特殊な格好をさせるのは、娼婦として働かせたり、護衛としての役目を持っている場合に限ります。
そういった特殊な事情がない限り、通常は奴隷用の格好という物がございまして、大抵はそれを主人が着せておりますね」
「そう言った奴隷の服は町で売っているのですか?」
「もちろん売っている物もございますし、家にある布切れなどで、似たような物を奴隷自身に作らせる場合もございます」
「なるほど」
「そしてこの首輪は魔法がかかっており、腕力で外す事はできませんし、魔法ではずすにしても専用の特殊な魔法が必要です」
「特殊な魔法?」
「はい、基本的に奴隷商人しか使えない魔法で、はずすにしても所有者が近くにいて、同意がなければ、その魔法も発動しません。
つまりこの首輪をはずすには所有者と奴隷商人の双方がいなければできない訳です。
したがって奴隷が逃亡を試みて首輪をはずそうとしても無駄なわけです」
「うまくできていますね」
「はい、その通りでございます。
いかがでしょう?
ざっと説明をさせていただきましたが、奴隷制度に関して基本的な事はご理解いただけたでしょうか?」
「はい、大変わかりやすい説明でした」
「ありがとうございます。
何か質問はございますか?」
「そうですね、やはり気になるのは奴隷の金額で、いくら位になるのですか?
もちろんその奴隷の能力や年齢などによって、かなりの幅があるのはわかりますが?」
「おっしゃる通り、奴隷はその能力や年齢、容姿などによって、かなりの幅がございます。
相場としては、読み書きもできない単なる雑役用の者ならば、金貨1枚、1万ザイ程度ですが、農作業用なら金貨5枚から10枚前後です。
読み書きや簡単な計算ができる者ならば金貨50枚前後、若い容姿の良い女性や特殊技能を持つ者ならば、金貨100枚、すなわち百万ザイ以上が普通で、200枚を超える者も、さほど珍しくはありません」
「なるほど」
それは確かに当然の値段と俺にも思えた。
「では説明はこんな所にして、実際に奴隷を御覧になりますか?」
いよいよ来たか・・・
もちろん、それが目的で来たので、断る理由はない。
サーマルさんと来た時には、それほどよくはみていなかったし、奴隷という物を実際にまじまじと見るのは初めてになるが、果たして奴隷とは一体どういう感じなのだろうか?
俺は緊張してドキドキとしてきた。
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