0208 ジャベックの名づけ
その夜、俺はエレノアに聞いた。
あれほどのジャベックをエレノアがどうして作ったのか不思議に思ったのだ。
「それにしてもあのジャベックたちは凄いね!
おかげで大助かりだよ!
あんなのをいつの間にエレノアは作っていたの?」
「はい、正確には私の作った生産ジャベックが作っていたのでございます」
「ああ、そう言っていたね」
「数十年ほど前に、私は将来おつかえする御主人様、つまりあなた様のために、秘かにジャベックを生産する場所を作っておいたのでございます」
「え?そんな前から?」
「はい、高性能なジャベックは製作するのに時間がかかります。
事実、あのレベル160のジャベックを一体生産ジャベックが製作するのに、6ヶ月はかかります。
しかも場合によっては数が必要になるかも知れません。
そこで私は可能な限り、高性能なジャベックを大量に作るために、ある場所に秘かにジャベック生産基地を作り、そこに生産ジャベックを数体おき、10数年をかけてジャベックを生産しておいたのでございます」
「え?じゃあ、あのジャベックはまだ他にあるの?」
「はい、私はそこに大量の人工魔石と魔結晶、そして6体の生産ジャベックを置いておきました。
2体はレベル160の汎用魔戦士型ジャベックを作る物、もう2体は同じくレベル160の汎用戦魔士型ジャベックを作る物、そしてあと2体はレベル65の一般汎用ジャベックを作る物です。
そのジャベックたちに生産させた結果、現在レベル160の魔戦士型が70体、戦魔士型も70体で、合計140体、それにレベル65の汎用ジャベックは800体ほどございます。
そしてそこには小規模ながら人工魔石の製造工場も完備しておりますので、理論的には通常のジャベックでしたら半永久的に製造が可能でございます。
今までは特に必要もないのでお話しませんでしたが、先日の昇降機設置の件や、今回の件で、多数のジャベックがあった方が良いと判断したので、お話した次第でございます。
これは全て御主人様の物ですから、必要な時は遠慮なく御利用ください。
今回はその完成したレベル160のジャベックを魔戦士型、戦魔士型を20体ずつ、計40体持ってまいりました。
あの5人に与えたのはそのうちの8体でございます。
またレベル65の汎用ジャベックの方も200体ほど持ち帰ってまいりました」
あんなのが全部で140体だって!
俺は純粋に驚いた!
「そ、そんなにあれがまだあるんだ?」
「はい、御言いつけくだされば、いつでも私が取って参ります」
「うん、でもとりあえず今エレノアは、それを三十体も持っているんでしょう?」
「はい、その通りでございます」
「それにレベル65の方も百体以上?」
「はい」
「じゃあ、しばらくはそれで十分足りると思うよ」
「かしこまりました。
必要な時はいつでもおっしゃってください」
「うん、ありがとう」
なるほど、昇降機設置の時にジャベックに当てはあると言っていたのは、この事だったのか?
確かにあの時にこのジャベックがあれば随分と助かった事だろう。
そして俺はエレノアが帰って来た時に、荷物一杯だった事にも合点がいった。
エレノアは大抵荷物の類はマギアサッコに入れていて、なるべく両手を空けておく主義らしいのだ。
せいぜい持つのは片手に魔道士の杖程度だ。
それがあんな大荷物をジャベックに持たせていたのは、それが全てマギアグラーノだったからだ。
マギアグラーノはマギアサッコに収納できない。
マギアグラーノ自体の構造がマギアサッコに似ていて、マギアサッコの中にマギアサッコを入れるような状態になり、それは出来ないからだそうだ。
たまに冒険者などで、腰にガンベルトのようなグラーノ入れを巻いていたり、肩から機関銃の弾丸帯のようにグラーノ帯を交差してかけて大量に持っている人たちがいるのも、そういった理由からだ。
もっともそちらはすぐに使えるようにしておくためと、相手に自分は大量にグラーノを持っているのだぞという威嚇も兼ねている。
どちらにしても200個以上ものマギアグラーノは、マギアサッコに入れられず、鞄か何かに入れて持ってくるしかなかったのだ。
だからエレノアはあんな大荷物で帰って来た訳だ。
ちなみにエレノアの腰の両脇にはそれぞれ3個ずつマギアグラーノが入れられる穴がある。
そして外からは見えないが、腰の後ろのマントに隠れている部分には、俺の脇のポシェットと同じような物で、もう少し大きな物を装着していて、そこに様々な小物を入れているのだ。
今はそこにいつも高性能ジャベックグラーノが挿してあって、いつでも使えるようになっている。
もっともエレノアは大抵の事は、自分かタロスで出来てしまうので、あまりそれを使う事はない。
しかしあんな高性能戦車か、小型ガ○ダムみたいな物が、まだ100体以上もあるとは驚きだ。
しかもレベル65の汎用ジャベック800体というのも、考えようによっては数個歩兵中隊ともいえる。
どうやら俺は自分でも知らないうちに、ちょっとした私設軍隊を持っていてしまったようだ。
それだけの戦力と俺とエレノアとミルキィの能力、それにエルフィールとガルドとラピーダが加われば、ちょっとした国を攻め滅ぼせるのは間違いない!
これは下手に人に知られれば、何をどう勘違いされるかわからない。
使用には細心の注意が必要だ。
そう考えた俺はエレノアに言った。
「それって、当然だけど、人に知られない方が良いよね?」
「そうですね。
少なくともその生産基地の存在は誰にも言わない方が良いでしょう。
当分は私と御主人様だけの秘密にしておいてください。
ジャベックの方は今回のように信用できる人物には多少分けても構わないとは思いますが、所有している総数は言わない方が良いでしょう。
魔道士級の方は特にです」
「そうだね」
魔道士級の魔法が使えるジャベックは珍しい。
しかもレベルが160の汎用ジャベックなどと言えば尚更だ。
そんな物を大量に持っているのが知れたら、欲しがる輩がいくらでも出てくるだろう。
人に言わないに越した事はない。
しかしその生産基地とやらの事が心配になった俺はエレノアに尋ねた。
「でもその場所は大丈夫なの?
誰かに見つかったりはしないの?」
「はい、その場所はここから遥か遠くの洋上にある無人島で、もちろん私以外に詳しい場所は、誰も知りませんし、もっとも近い他の島や、人の住処からも数百カルメルは離れております。
しかもその島はそこそこ広く、基地の周囲は幻惑魔法で隠されておりますので、上空からでも、上陸して探したとしても、決して見つかる事はございません。
仮に例え人が近づいたとしても、惑わされて中に入る事も出来ません。
そしてそこでは、私の作ったアイザックが管理をしております」
「アイザックが?」
俺もアイザックはメディシナー以外で見た事がない。
「はい、コンストラードと言って、レベル450のアイザックが、その場所の管理と守りをしております」
「レベル450?」
こりゃまた凄いアイザックだ!
そんな優秀なアイザックが管理して守っている生産基地とは頼もしい!
「はい、そこを防衛するのには、その程度のレベルは必要と判断して、私が鍛えてからそこに配置いたしました」
う~ん・・・主人のためにアイザックが秘かに守っている、誰にも知られず、見えず、侵入も出来ないジャベック生産基地か・・・
そう表現すると何だか凄いな?
本当に特撮かアニメの秘密基地みたいだ!
しかも将来の主人のためにエレノアはそんな物を昔から作っていたとは驚きだ。
まるで孫のために「これでお前は神にも悪魔にもなれるぞ!うわはははーっ!」と言って、秘かに無敵の光子力ロボットを作っていたマッドサイエンティストみたいだ。
それとも、惑星調査に来た途中で、宇宙船の故障で地球に不時着して、子孫のために砂嵐で守っている塔の中にコンピューターと三つの僕を用意した遭難した宇宙人の方が近いかな?
どちらにしても驚きだ!
「そうなんだ。
でも何十年も前から、そんな物を作っていたなんて凄いね?」
「はい、御主人様も御存知の通り、かつて私は一つの街を守った事がございました。
あれは厳しい戦いでございました。
そしてその時に優秀なジャベックがあればと思ったのでございます。
それで私が将来仕える御主人様のために、何かの時には即座に使えるようにと、いずれ高性能なジャベックを作っておこうと思ったのです。
そしてそのために百年以上前から実際に隠れて生産するのに適した良い場所を探し、そこに生産基地を作り上げました。
その後、色々とあって実際にジャベックを作り始めたのは20年ほど前になりますが、何とかここまで漕ぎ着ける事が出来ました」
「そうだったのか・・・」
確かにあのメディシナーの戦いが大変だったのはわかる。
だから次にそんな戦いがあった時は、即座に戦力になるようにと考えて作った訳か?
でもそんな大掛かりな物を作るのには、さぞかし苦労しただろうな・・・
それはきっとエレノアの数十年、いや、数百年分の苦労の結晶だ。
それなら、もし俺が何かでそれを使うとしても、本当に感謝して使わないといけないな。
「ありがとう、僕が使う時は、そのジャベックは感謝して大切に使わせてもらうよ」
「勿体無い御言葉でございます。
つきましてはそのジャベックたちに御主人様が名前をつけていただきますか?」
「名前?」
「ええ、シャルルたちに渡す時に説明をしましたが、まだそのジャベックたちには名称がございません。
形式番号だけなのです。
それでは呼びにくいので、これを機会に御主人様に名前をつけていただきたいのです」
「名前ねぇ・・・
ジャベックは全部で何種類あるの?」
「レベル160の魔戦士型が男女それぞれの型が、レベル160の戦魔士型がやはり男女それぞれの型が、そしてレベル65の汎用ジャベックも男女の型がございます」
「全部で6種類って事?」
「ええ、そうです。
それとジャベックではありませんが、レベル100の戦闘タロスのグラーノと、レベル360の上級タロスのグラーノが大量にございます」
「レベル360?!」
そのレベルに俺は驚いた!
タロスとはいえ、ガルドやラピーダよりレベルが上じゃないか!
「はい、それはコンストラードに時間がある時に作らせていた物です。
戦闘タロスなので、あくまで戦闘にしか使えませんし、タロスですから魔法も使えないので、実質は戦闘となればガルドやラピーダの方が強いですが、純粋な格闘戦などにはかなり使いでがあるでしょう」
そりゃそうだろう。
それにしても凄い!
エレノアに色々と言われて俺は考え込む。
「う~ん・・・そうだねぇ」
もちろん何百もあるジャベック全てに名前などつけてはいられないし、区別もつかないだろう。
ここは6種類の名前を考えて、あとはその番号を順番につけていくのが得策だろう。
しかし魔法を使える戦士ねぇ・・・
どんな名前が良いだろう?
あまり長いと番号までつけるのだから余計長くなるし、呼びにくい。
しばらく考えた俺は無難な名前を考えて、4つの名前をエレノアに伝える。
「では魔戦士ジャベックの男性型は「オリオン」、女性型は「バルキリー」、戦魔士ジャベックの男性型は「セイメイ」、女性型は「ヒミコ」でどうだろう?
それを使用順に番号を振っていこう。
人に上げた分も含めてね」
ありきたりだが、こんな所だろう。
俺も覚え易いしね。
「はい、それでよろしいかと思います」
「後は汎用ジャベックか・・・」
一般的な事が出来る男女別のジャベックか・・?
うん、ここは単純に名づけてしまおう!
「じゃあレベル65の男性型の方は「ボーイ」で、女性型の方は「メイド」にしよう!」
「ボーイとメイド・・・でございますか?」
「うん、そう」
あまり聞いた事のないであろう単語にエレノアはキョトンとするが、俺は素直にうなずく。
「承知いたしました。
これからは汎用男性型ジャベックをボーイ、汎用女性型ジャベックをメイドと呼ぶ事にいたしましょう」
「うん、よろしく」
「戦闘タロスのグラーノの方にも名前をつけますか?」
「そうだねぇ・・・見た目はどういう感じなの?
やっぱり甲冑式?」
「実際にお見せいたしましょう」
エレノアがグラーノを取り出し解呪すると、そこにはいつもの甲冑型タロスをもっと単純化した、緑色のツルンとしたロボットのような感じのタロスが立っている。
「単純に戦闘専用に特化した所、このような感じになりました。
これは森林戦を想定しているために緑色ですが、他の配色の物もございます」
なるほど、優秀で大量にある緑色の単純な戦闘タロスか?
しかも多種多様な変種もあるようだ・・・うん、もう俺的にはアレしかないな。
「じゃあ、レベル100のタロスは「ザク」で」
「ザク・・・でございますか?」
「そう、それでレベル360の方は「ギガント」で」
「承知しました。
これよりレベル100の戦闘タロスを「ザク」、レベル360の戦闘タロスを「ギガント」と呼称いたします」
「うん、それで良いよ」
「はい、そしてそれとは別に、私は今非常にレベルの高いジャベックを作っておりまして、まもなく完成する予定でございます」
「え?まだそんな高性能な物を?」
「はい、御主人様の護衛ジャベック群としては、これがおそらく最後に製作するジャベックになると思います。
それは護衛であると同時に生産ジャベックでもあります」
「そうなんだ」
「はい、あと数日お待ちください」
「わかった」
それほど高性能な護衛兼生産ジャベックとは一体どんな物なのだろうか?




