0020 踊るゴーレム
俺がそんな事を考えていると、エトワールさんが、突然笑いながら話しかけてきた。
「んふふ・・・ちょうど今、私グラーノを持っているわよ」
「え?」
「ここで見せてあげるわね」
「え?いいんですか?」
こんな場所でゴーレムを出して戦闘をするつもりなのか?と俺は驚いた。
「大丈夫、大丈夫、私の趣味で作った安全な奴だから」
そういうとゴソゴソとハンドバックの中身を探ると、紫色に光る、どんぐりのような物を取り出す。
その代物は確かに俺が屋台で見たアレだ。
「は~い、でてらっしゃ~い」
エトワールさんが、そう言ってテーブルの上にグラーノを放ると、そこに小さなゴーレムが出現する。
ちょっと小さめなフィギュアか、デッサン用の木で出来た人形のようだ。
そのゴーレムはテーブルの上で踊りだす。
それは俺の作ったゴーレムのようにめちゃくちゃな踊りではなく、滑らかなちゃんとした踊りだった。
綺麗にクルクルと回ってみたり、ジャンプをしたりと、まるでバレエでも踊っているのを見ているようだ。
これに比べれば、俺のゴーレムの踊りなど、ただその場で暴れて適当に動いているだけだ。
「うん、ずいぶん滑らかに動くようになってきたわね」
シルビアさんが感心したようにその踊りを見る。
「でしょ~?苦労したもん」
エトワールさんは得意満面だ。
一通り、テーブルの上で踊りを終わると、丁寧にお辞儀して、そのゴーレムはパアッと四散して、光となって消滅する。
俺は思わず拍手をした。
ゴーレムでこんな芸術的な使い方も出来るとは驚いた!
「凄い!こんなの初めてみました!
ゴーレムって、こんな風にも使えるんですね!」
俺の惜しみない賞賛に、エトワールさんも得意げだ。
「ええ、他にも上手く作れば、楽器を弾いたり、歌を歌わせたりも出来るわよ」
「歌まで?」
「ええ、発声部分の作りが複雑で難しいけどね」
「へえ~」
本当に使役物体魔法は奥が深い。
俺は改めてそう思った。
素直に感心する俺にシルビアさんが、説明する。
「ま、確かにゴーレムは便利だけど、あくまで道具であって、仲間というにはちょっと無理があるわよねえ」
「あら?でもジャベックの質の良いのなら、それなりに使えるし、簡単な会話もできるから仲間とも言えるんじゃないかしら?」
そのエトワールさんの意見にシルビアさんは首をかしげて答える。
「そうねぇ、微妙な線かしら?」
考え込むシルビアさんに、エトワールさんが含みを持った淫猥な笑いで答える。
「ふふっ、それにジャベックならお楽しみもできるしね~」
「年端もいかない人間に、そういう知らなくてもいい、余計な事を教えるんじゃない!」
そう言ってシルビアさんが、エトワールさんの頭をドスッ!とチョップする。
エトワールさんが両手で頭を押えて叫ぶ。
「なによぅ、いいじゃない!」
「え?どういう事ですか?」
俺が質問すると、二人は顔を見合わせたあとに、仕方ないかという感じで、シルビアさんが説明を始める。
「あのね、まあ、つまりジャベックの上級のになると、その・・・殿方の夜の御相手とかもできるくらいのがあるのよ」
「え?夜の?」
夜の御相手って、やっぱりアレだよな?
ゴーレムとアレしちゃうのか?
「そうそう・・・ジャベックの上物になるとね、見た目とか触感とかも、かなり、人間に近いのができるのよ、見た目がすっごくかわいいのとか・・・」
エトワールさんの説明に俺が再び考える。
え~と・・・?
つまりそれは21世紀日本風に考えると、エッチもできちゃうアンドロイドとか、セクサロイドみたいな感じですかね?
「そ、それは、なんと言うか・・・寂しい男の人たちのための・・・?」
「そうそう、町にはそういった事の専門のゴーレム屋もあるくらいなのよ。
「美女ジャベックあります」とか看板が出ている店とかね・・・」
せ、専門店・・・あるのか?
そういうのが・・・?
美少女アンドロイドならぬ、美少女ゴーレムか・・・どういうのだろうか?
ゴーレムと言えば、自分の作った土くれで出来たゴーレムしか知らなかった俺にはちょっと想像が出来ない。
でも今見せてもらったエトワールさんの踊るタロスは驚くほど滑らかな動きをしていた。
それから考えると、美少女なゴーレムって、ちょっと店に行って見てみたい気がする。
「だから、そういう余計な事を教えな~い!」
再びシルビアさんのチョップが、エトワールさんの脳天をビシッ!と直撃する。
「いった~い!別にいいじゃない?
シノブさんだって、そういうのに興味あるわよねぇ?」
「はあ・・・まあ・・何というか・・・」
「だから前途ある少年を変な世界に引き釣り込むなっつーの!」
グイッとグラスをあおったシルビアさんが、さらにチョップをしようとするのを、今度はサッとエトワールさんが避ける。
「なによう!シルビアだって、興味はあるくせいにぃ~」
「な・な!私がいつそんな物に興味を・・・!」
「あら?まだ酔いが足りないようね?」
「なんですって?」
何か怪しい雰囲気になってきたので、俺が中に入って止める。
「まあまあ、その話はわかりましたから・・・」
俺がそう言って止めると、二人もおとなしくなる。
この二人、ひょっとして酔うと厄介なのか?
俺は話を変えようとしてゴーレムの話を続けた。
「それじゃあ、仲間にするならジャベックではなくて、その上のアイザックなら・・・」
そう言いかけた俺を二人が同時にさえぎる。
「「 それは無理!! 」」
「え?」
ジャベックではなく、さらにその上級ゴーレムである、アイザックなら旅の仲間として良いのではないか?
そう考えた俺の質問を、全部言うまでもなく、二人が揃って否定する。
「あの・・・無理って・・・?」
戸惑う俺に、エトワールさんが勢いよく説明する。
「確かにアイザックなら自分で判断もするし、魔法も私達魔道士か、それ以上に使えるわ。戦闘でも日常でも、とても頼りになると思うわ。
普通に話も出来るし、人間と変わらないわ。
旅の仲間としては最高でしょうね。
でもそれは無理なのよ」
その言葉にシルビアさんもうなずきながら説明する。
「タロスやジャベックと違って、アイザックは桁外れの値段なの。
下手な奴隷よりも高いし、そもそもその辺では売ってないわ。
とても庶民には手が出ないのよ」
エトワールさんも相槌を打って、教えてくれる。
「そうね、高級なジャベックでも高い物は金貨1千枚以上はざらにあるけど、アイザックとなると、最低でも金貨三千枚以上、実際には大抵1万枚以上になるわね」
金貨1万枚とはたしかに高い!
俺は驚いて聞いた!
「そんなに高いんですか?」
「ええ、アイザックを持っているのは王侯貴族か、よほどの上級魔道士、後は中規模以上の国家よ。
そもそも作れる人を探すのが大変だしね」
国家?そんなレベルなのか?
それは確かに個人で所有するのは無理ってもんだな。
「国家?アイザックって、そんな凄い物なんですか?」
「ええ、だって戦闘用上級アイザックなら、一体で中規模の町程度なら殲滅できるもの、下手すると、小さな国だって滅ぼせるわ」
国を滅ぼすって・・・まるで核兵器扱いだ。
俺はただの質の良い上級ゴーレムかと思っていたけど、実際のアイザックって、そんな凄まじい代物だったのか?
俺は驚いて質問する。
「そんな凄まじい代物なんですか?」
「ええ、戦闘用上級アイザックは上級の魔法学士と同等よ。
いえ、それ以上ね。
だから個人が所有するなんて、余程の事がない限り無理よ。
値段だって高ければ金貨5万枚を越える事だってあるわ」
「なるほど」
金貨5万枚を越える金額とは凄まじい。
確かにそんな代物を個人で所有するのは難しそうだ。
感心する俺に、さらにエトワールさんが説明を続ける。
「例えば、このロナバールの魔法協会本部はかなり大きいけど、それでも戦闘用上級アイザックは六体しかいないわ。
その六体はロナバールの「六名石」と言われているわ」
「ろくめいせき?」
「ええ、名のあるゴーレムの場合は「巨石」とか「名石」と言われる場合があるのよ。
特に「名石」と言われるのは、名のあるアイザックなどの場合が多いわね。
その六体はどれ一つとっても、ちょっとした街の一つや二つは消し炭に出来るわ」
「なるほど」
「そして一つの都市にアイザックが六体というのは多い方なのよ。
普通はせいぜい一体か二体、多くても三体ね。
六体以上の上級防衛用アイザックがいるのは、ここ以外ではマジェストンと帝都しかないわ。
後は確かノーザンシティに四体か五体いると聞いているわ。
まあ、あそこはゴーレムで有名な町だから・・・それ位、アイザックは重要で貴重よ」
その説明に俺も納得した。
魔法大全には単に上級ゴーレムとしか説明をされていなかったが、こうやって話を聞くと、どうやら実際のアイザックというのは、とんでもない代物のようだ。
しかし、この人たちの話を総合すると・・・
「話を元に戻して・・・そうすると、今の僕に仲間を作るという点で向いているのは、奴隷を買うって事ですか?」
その質問に落ち着いたシルビアさんがうなずいて答える。
「そうね、今の中ではそれが一番いいわね」
「私もそう思うわ」
どうやらエトワールさんも同じ考えのようだ。
やはり、そうなのか。
正直、奴隷を買うという行動にはまだ抵抗があるが、これからの事を考えると、そうも言ってられないかもしれない。
ゴーレムは一応戦力になっているけど、それだけじゃなあ・・・
それに「郷に入れば郷に従え」という言葉もあるしね。
「う~ん、どこか良い奴隷商館って、シルビアさん、知っていますか?」
「ああ、ここを出て大通りを行った所に「バーゼル奴隷商館」というのがあるわ。
そこならあなたみたいな若い人でも、ちゃんと対応してくれるはずよ」
ああ、サーマル村長たちに案内してもらったあそこか!
「そこ、僕以前に見学した事があります」
というか、俺はそこしか知らない。
「そうなの?では明日にでも、試しにそこに行ってみたらどうかしら?」
「はい、ありがとうございます!
シルビア先生とエトワール先生の魔法講座は大変ためになりました!」
俺が頭を下げて礼を言うと、二人が笑って答える。
「ふふん、確かに大変素直でよろしい!
このタロス使いのエトワールに質問がある時はいつでも聞きたまえ!」
「ええ、こんな程度で良ければいつでもどうぞ」
「はい、よろしくお願いします」
俺がそう言うと、ちょうど食べ物がやってきた。
「はい、ワインの水割りと、ソーセージと黒パン、それに焼きじゃがいもお待ち!」
そう言いながら店の人が俺の前に料理を並べる。
俺はきた料理を食べながら考えた。
う~ん、それにしても奴隷か・・・
俺が無言で食べながら考えていると、突然シルビアさんが抱きついてくる。
「きゃははは!まあ、そんなに深刻に考えないで!
何か困った事があれば、いつでも私が相談に乗るわ!」
そう言いながら酔ったシルビアさんが俺にグイグイとしがみついてくる。
その大きな胸が、俺の体に押し付けられる。
うお~~っ?巨乳が!服越しに柔らかい物がグイグイ!と俺に~
・・・え?何?この人?突然どうしたの?
いや、嬉しいんですけど!
「あら?とうとう酔いが回ってきたのね?
この人、酔うと年下の男に抱きつく癖があるから。
特に気に入った男だと思いっきりね。
この様子だと、あなた相当気に入られたみたいよ?」
なんですって?
わお!酔っ払い万歳!
もっと酔っ払ってください!
「シルビア?わかってる?
あなた、また酔ってるわよ?
ごめんなさい、シノブさん。
ほらほら離れて・・・」
酔ったシルビアさんをエトワールさんが引き剥がそうとする。
ああ・・・そんな事しなくてもいいのに・・・
「いいえ、別に構いません」
むしろご褒美です。
ありがとうございました。
そのまま寝込んでしまったシルビアさんを、食事が終わった後で、エトワールさんと両脇で抱えて、家まで送っていった。
二人は魔法協会の寮に住んでいるようだ。
「本当にごめんなさいね。今日は助かったわ」
「いいえ、どういたしまして。
こちらこそ色々と話をしていただいて助かりました!」
しかもシルビア先生の御褒美がいただけて嬉しかったです!
「あ、何か困った事があったら、本当に魔法協会に来てね。
私もシルビアも相談にのるから」
「はい、ありがとうございます」
そう礼を言うと、俺もオルフォン亭に帰った。
ふう~、今日はこの世界に来て、美人と話せて食事まで出来て良い日だった・・・
オマケに巨乳美人の御褒美までいただけて最高でした!
あ、別にメリンダさんが美人じゃないって事じゃないよ?
そう自分で自分に突っ込みを入れながら今後の事を考えた。
(魔法と仲間か・・・)
果たしてどちらを優先すべきだろうか?