0188 究極のゴブリン殲滅方法
「実は高祖父アルマンに最後に口伝で伝えられた対ゴブリン戦法があります。
これは高祖父アルマンも考案しただけで、実行した事はありません。
間違いなく、まだ誰もやった事がない方法だと思います。
私がレベル100を越えたら試してみろと言われた戦法で、それまでは危険なので、決して試してはいけないと言われておりました。
非常に特殊な戦法で、私以外には現在実行不可能な戦法なのです。
それは私の持っている、ある特殊な道具が必要なためです。
しかし、もしこれを実行する事が可能になれば、究極のゴブリン退治方法になるだろうと高祖父は言っておりました。
今、それを試す時が来たと思います」
レベルが100を越えないと出来ない方法?
そんな特殊な戦法なのか?
しかも究極のゴブリン退治方法だって?
一体どういう戦い方なのだろうか?
「ですからこの戦法での実践は私も初めてです。
正直、こんなに早く実際に試す機会が来るとは思いませんでした。
これも皆さんのおかげです。
おそらく大丈夫だと思いますが、万一私の作戦が失敗して、逃げるゴブリンがいたら皆さんで討ち果たしてください」
「わかった。好きなようにやってみて。
危なくなったら我々が助けるから安心して大丈夫だよ」
「ありがとうございます。
これはかなり変わった戦法なので、皆さんは驚くかも知れませんが、見ていてください」
「わかった」
「ではヴェルダ、反対側の入口を潰してきてください。
潰した後はあなたにあちら側を任せます。
ゴブリンが出てきたら全て倒してください」
「かしこまりました」
命令されたヴェルダは古城の反対側の入口へと飛ぶ。
この古城は出入り口が2つしかない。
反対側を塞げば、出入り口は我々がいるこの場所だけだ。
大きな音がしてヴェルダが反対側の入り口を破壊したのがわかる。
するとこちら側の入口からゴブリンたちが溢れるように出てくる。
ポリーナは一応申し訳程度にタロスを出して防衛を敷いているが、俺の目から見てもその防衛線は薄い。
これではゴブリンどもに突破されてしまうのではないだろうか?
しかし、ポリーナは両手を握り合わせて、何かを祈るような感じで動かない。
すると不思議な事に出てきたゴブリンたちが、いきなり同士討ちを始めた。
一体どうしたのか?
俺が不思議がるうちに残ったゴブリンたちは今度は古城の中に戻って行き、さらに中のゴブリンと同士討ちをしている様子だ。
しばらくするとポリーナが祈りをやめて俺たちに話しかける。
「これで相当数が減ったはずです。
私達も中に入って残りを討伐しましょう。
皆さんにも一緒に入っていただきたいのですが、万一のためにガルドとラピーダは入口で待機させていただいてよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
色々と聞いてみたい事はあったが、今はポリーナの集中を妨げないようにしよう。
後でいくらでも聞けるはずだ。
他の皆もそう考えたようすで、うなずく。
「では・・・出でよ!ロカージョ!」
ポリーナが一声叫ぶと、岩石型のジャベックが出てくる。
これがアルマンさんが使っていたという岩石型戦闘ジャベックか?
なるほど中々強そうだ。
さらにポリーナは何体かの戦闘タロスを出して自分と俺たちの周囲を囲む。
中から逃げて来るゴブリン掃討用にガルドとラピーダを入口に残して、俺たちはポリーナと共に古城の中へ入っていった。
ロカージョを先頭にして俺たちはどんどん先へ進む。
驚いた事に俺たちと出会うゴブリンは全てクルリと向きを変えて内部へ突撃し、他のゴブリンと同士討ちをする。
何が何だかわからないうちに、俺たちは何の抵抗も受けずにソーサラーがいる広間へと辿り着く。
そこでもゴブリンたちは同士討ちをしていて、残っている数は、ほんの少数だ。
すると今度はポリーナが杖のような物を掲げる。
その途端、ポリーナはがっくりと膝をつくが、俺たちに指示を出す。
「皆さん、今です、ゴブリンたちを倒してください」
「うん、わかった」
ポリーナに言われて俺たちもゴブリンを退治するが、驚いた事にどいつもこいつも恐ろしく弱い。
ポリーナは膝をついて休んでいるが、その代わりにロカージョと戦闘タロスが暴れる!
そしてどのゴブリンも一撃で葬り去る!
数体のタロスがポリーナの護衛についているが、残りの戦闘タロスはロカージョと共にゴブリンを倒しまくる!
どいつもこいつも一撃で終わりだ!
普通のゴブリンはともかく、ゴブリンキャプテンやゴブリンチーフですら弱い!
元々ゴブリンは弱い魔物ではあるが、この弱さには驚きだ!
しかもゴブリンソーサラーと言えば、中位攻撃魔法を操る、ゴブリンの中でもかなり手強い部類のはずだが、それすらミルキィがかすった程度であっさりと倒してしまい、その手応えのなさに驚いたほどだ。
俺たちはあっさりとゴブリンソーサラーを倒し、ミッションは完了した。
掃討が終わると、ポリーナが少々苦しそうに話す。
「これでとりあえず成功だと思います。
みなさん、外に出ましょう」
「わかった」
ポリーナの指示に従い、俺たちは外へ出る。
その頃にはポリーナも謎の体調不良から回復した様子だ。
「ふう・・・皆さん、ありがとうございました。
やはり皆さんと一緒の時にこの作戦をやって正解でした。
私一人でやっていたら危なかったと思います」
一息ついた所で、エレノアがポリーナに質問をする。
「大丈夫ですか?ポリーナ?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「ポリーナ、もしやあなたが指にしている物は「ゴブリンの指輪」なのではないですか?」
「はい、さすがはエレノア先生です。
これは「ゴブリンの指輪」です」
「やはり・・・それでは先ほどゴブリンソーサラーに使っていた杖は「ゴブリンワンド」ですね?」
「はい、その通りです」
「なるほど・・・」
エレノアは納得した様子だが俺にはわからない。
俺がエレノアに説明を求める。
「エレノア、それはどういう事?」
「はい、「ゴブリンの指輪」というのは、ゴブリンキングが持っていると言われる指輪で、周囲にいるゴブリンに魔法念話で、ある程度の簡単な命令を強制可能だそうです。
例えば、「自分の周囲にいるゴブリンを攻撃せよ」などの命令です」
そのエレノアの説明にポリーナがうなずく。
「はい、まさに先ほど私がした命令がそれです」
「そして「ゴブリンワンド」はゴブリンウイザードが所持している杖で、ゴブリンがそれを持てば強化されるそうですが、逆に人間が使えば、ゴブリンが弱体化するそうです」
「その通りです」
それでさっきのゴブリンたちは同士討ちをしたり、やたらと弱かったのか!
俺はやっと先ほどの現象を納得した。
「ええ、しかしそれは両方とも非常に希少な品物で、まず持っている人はいないはずです。
それを持っていたとはさすがゴブリンキラーの娘ですね?」
「はい、これは高祖父の遺品の一部です。
先生のおっしゃる通り、ゴブリンの指輪はこれ以外には2つしか現存しないそうです。
しかもそれは大切に保存されていて、外部に出る事はないそうです。
ですから実際に使われたのは、これが初めてかも知れません」
「なるほど、しかし本来それはゴブリンが所持して使う物のはず。
人間が使うには相当の負担がかかるでしょう?」
「はい、全く先生のおっしゃる通りです。
高祖父はゴブリンキングを倒す時に、このゴブリンワンドを使いました。
その結果、確かに相手が弱体化はしましたが、高祖父も相当魔力を吸い取られて参ったそうです。
ですから私にはレベル100を越えない限り、決して使うなと戒めて亡くなりました」
「なるほど」
その話に俺も納得した。
効果が絶大な代わりに魔力消耗も激しい訳か?
「しかしこの2つをうまく使う事が出来れば、おそろしく効率的にゴブリン退治を行えるだろうとも言っていました。
今、まさにそれが証明されました。
私も今回が初めての事なので、魔力配分がわからずに倒れそうになりましたが、次からは大丈夫だと思います」
「そうですね。
しかしこれはあなたの書く本には載せない方が良いでしょう。
あなた以外にその2つを持っている人間がいるとも思えないし、また仮に持っていたとしても、まともに使えないでしょうから混乱するだけだと思います」
「ええ、私もそう思います。エレノア先生」
こうして俺たちのゴブリン退治は全て無事に終わった。
それにしても最後のゴブリンソーサラーの退治方法は凄かった。
流石はゴブリンキラーの後継者だ。
確かにあれは究極のゴブリン退治方法と言っても過言ではない。
この方法はゴブリン退治のみにしか使えないだろうが、恐ろしい方法を考えた物だと俺は感心した。
そしてポリーナはやがてこの戦法を完全に会得して己の物としていく事となる。
ヴェルダを初めとした数体のジャベックを使役するだけで、いかなるゴブリンをも全滅させる事が可能になり、世間を畏怖させる事となる。
それは後の世に「パーシモン式ゴブリン殲滅法」と呼ばれる事になっていく。
その姿は「祈り、杖を僅かに振り回すだけでゴブリンを殲滅する聖女」としてあがめられて、高祖父アルマンのゴブリン殺戮者をも上回る、ゴブリン絶滅者、もしくはゴブリン殲滅者として、世間に名を知られる事になる。