0175 画像中継ジャベック
一通り今後の予定が立つと、やはり問題はデニケンの事となった。
「さて、そうなると後は偵察だな。
デニケンの家をある程度探れるといいんだが・・・」
「エレノアがハインリヒを探った時のやり方でいいんじゃないかな?」
俺がエレノアにメディシナーでハインリヒを監視した時の虫型タロスの事を話すとエレノアは首を横に振って否定する。
「いえ、あの時はハインリヒがどう行動するかがある程度わかっていて、それを確認すれば良いだけでしたが、今度は誰をいつ見張れば良いのかがわかりません。
デニケンに見張りをつけるにしても、一日中誰かが見ていなければなりませんし、しかもそれはある程度事情がわかっている者が見ていない限りわからないでしょう」
「そうか・・・じゃあ、とりあえずハムハムとムサビーをシャルルに連れて行ってもらえばいいんじゃないかな?
この子達ならある程度状況も理解するだろうし、記憶もするから」
「え?ハムハムとムサビーを?
いくら小さいと言っても家の者に見つかると思うよ?」
「その点は大丈夫、ムサビー!隠密行動だ!」
「はい、御主人様」
そう言うとムサビーは透明になって見えなくなる。
「こうすれば基本的には見えなくなるから、家を探るには良いんじゃないかな?
シャルルの部屋の戸をちょっと開けて置いて貰えれば、出入りは出来るだろうし」
「なるほど、では連れて行ってみるよ」
こうしてハムハムとムサビーはシャルルに連れて行かれてデニケンの偵察をする事となった。
シャルルがハムハムたちを連れて帰った後で、俺はエレノアに質問をしてみた。
俺は以前エレノアがタロスを使って映像と音を水晶玉に映すのを思い出して聞いてみた。
「エレノアはタロスを使って、どこかの風景を水晶に映し出せるんだよね?」
「はい、そうです」
「それって結構この世界、いや、この国では誰でもするのかな?」
「いいえ、これは結構難しい魔法なので、たまに上級の魔道士がやるやり方ですね。
鳥などのタロスを使って、相手を見に行かせて、その目に映った物を水晶玉に映すのです」
「それをタロスと水晶ではなくて、タロス同士で出来ないかな?」
「タロス同士でですか?」
「うん、例えば、小鳥型のタロスが見た物を水晶型のタロスに映すとかさ」
「そうですね、それはやった事はありませんが、おそらく可能だと思います」
「では、ちょっと実際にやってみてよ」
「はい」
エレノアは水晶型タロスを作り出し、その後で小鳥型タロスを作り出して外に放ってみた。
成功だった。
小鳥型タロスが見ている画像を水晶型タロスに映す事が出来た。
「よし、じゃあ次の段階だ。
この水晶型タロスを平面にして大きくする事は出来るかな?」
「平面にして大きく・・・ですか?」
「そう例えるなら大きな窓ガラスに画像を映す感じだよ」
「はい、それも多分出来ると思います」
エレノアは俺の言う通りに魔法を調整すると、水晶型タロスを大きな板のような物にしてみた。
要は大型の液晶画面のような物だ。
「こんな感じでしょうか?」
「うん、そうだね」
そうして小鳥型タロスを表に出してみると、ちゃんと大型画面に映像が映し出された。
俺の指示で作ったエレノア自身も驚いたようだ。
「確かにこれは水晶よりも大変見やすいですね?
しかも一度に大人数で見れます。
私は映像は水晶球に映す物だとばかり考えていましたから、こんな事は考えてもみませんでした」
「うん、そうだね」
俺とエレノアはその日、この映像セットタロスの研究をして、何度か二人で試作品を作り、その日の内に、ほぼ完全な映像中継セットを作り上げていた。
数羽の小鳥型タロスが見た物をそのまま中継して、小鳥毎に見た物を大型画面に映す事に成功したのだ。
「御主人様、これは大変画期的な物です」
「うん、明日はこれをもう少し、研究してみよう」
「はい」
翌日になると、今度はそれをジャベックで作り、映像記録を魔法結晶として保存する事まで可能となった。
まだ長い距離は無理だが、数km程度ならば、何とか念話の受信が可能だ。
しかも映像記録を音声付で記録する事も出来る。
これで目的の物は出来た。
さらに小鳥では家の中に放すと目立つので、ハインリヒの時と同じく虫型のジャベックを作ってみた。
俺はシャルルを訪ねてこの虫型ジャベックを渡してデニケン邸の内部を偵察する事にした。