0161 ジャベック工場と魔石生産の見学
早速次の日になると、ユーリウスさんの案内でジャベック生産工場の見学をした。
エレノアはガルドと一緒に講義の準備をするので、俺とミルキィとラピーダで見学となった。
生産工場に向かいながらユーリウスさんが説明をしてくれる。
「まず、魔法ジャベックを作る、高位魔道士がいて、その人たちが魔法ジャベックを作るんですよ。
その魔法ジャベックを作る工程は厳しく決められていて、そのチェックはとても厳しいです。
何しろジャベックを作るジャベックですからね。
これを間違って作ったら、そのジャベックで作ったジャベックは、ずっと間違った物を作り続ける事になってしまいますから、その検査は厳しいです。
ですからそのジャベックは種類にもよりますが、1ヶ月から半年に一体作られるかどうかという所ですね。
複雑な物になると、何年もかかります」
「そうですね」
確かにそれは地球の工場で言えば、生産ラインを丸ごと間違えて作るような物だ。
エレノアもエルフィールやガルドやラピーダの製作には三年以上かかったと言っていた。
優秀なジャベックを作るためのジャベックならば、かなりの時間が必要なのもわかる。
「こちらがその生産工場の一つになります」
それは一見何の変哲もない普通の建物に見える。
「この生産工場で作られているジャベックの大半は、汎用ジャベックと言われていて、もっとも一般的で応用が利くジャベックです。
つまり水汲み、薪割り、門番、護衛、都市防衛、迷宮での戦闘、そういった大抵の単純作業に対応可能な物です」
「なるほど。
しかしそんなにジャベックを生産するとなると、魔石も大量に必要ですよね?」
「ええ、その通りです。
そこでここノーザンシティでは、まず人工魔石の大量生産を考えました。
結果として、現在では一週間に数百個の人工魔石を生産可能となり、ここでのジャベック生産をまかなうだけでなく、各地へと輸出可能となりました」
「それは凄いですね?」
「ええ、ここは今の所、唯一、人工魔石の大量生産に成功した街で、それで潤っているんですよ」
「へえ」
確かに魔石を人工的に作れるなら、買い手には事欠かないだろう。
「このノーザンシティではマジェストンやメディシナーのように伝説的な英雄はいませんが、初代の移民の頃から北の方の土地なので、タロスやジャベックの利用が盛んだったのです。
開拓や土木作業には眠らずに作業を続けられるゴーレムはうってつけですからね。
そこで初期の移民の何人かにジャベック使いがいたので、ゴーレムの利用が発達して、百年ほど前に人工魔石の大量生産が可能になった時に、ジャベックを作るジャベックも開発されたのです。
もっともジャベックを作るジャベックはそれ以前からもありましたから、ここはそれを大量に作り始めた街という事で有名ですね。
その事に限らず、このノーザンシティでは画期的な物など、何一つ発見も発明もされていません。
人工魔石ですらそうです。
ここがゴーレムの街として有名になったのは、単にそれらを大量に作って、効果的に利用しているからです」
「なるほど・・・」
「ではまずは実際に魔石を作っている所をお目にかけましょう」
案内された工場の一角では、水がダバダバと大きな水槽のような物に注水されていた。
「これは近くの海から取った海水です。
御存知のように大抵の物質には魔素を吸収する性質がありますが、海水には特にその傾向が強く、天然の魔鉱石ほどではありませんが、通常の物質の数倍は魔素を吸収します」
「へえ・・」
「そこで不純物を取った海水に、さらに魔法で魔素の吸収効果を高め、魔石に近い魔素濃度になるように加工します。
さらにそれを保持し吸収力を持続させるために、砂から作ったガラス状の器で封じ込めます。
これが人工魔石です」
「なるほど・・・」
へえ?
人工魔石って、そんな風にして作るんだ?
実際に俺が見ていると、濾過されたような海水が、そこにいたジャベックに魔法をかけられると輝き始めて、何だか粘液性の高い光る液体のような感じになっている。
それがガラスの器に注入されて封入されると、確かに魔法協会で見た人工魔石と同じ物になった。
なるほど、これを各都市に輸出している訳か?
俺が感心してその流れを見ていると、ユーリウスさんが説明を続ける。
「こうして魔石を作る訳です。
これはマジェストンで考案された方法で、ここではそれを大規模に行っている訳です。
最初は品質にばらつきがありましたが、今は極めて高品質で、均衡の取れた物が作られています。
そして出来上がった後で、一応検査をして規定に満たない品質の物は、取り除かれて回収されます」
「なるほど」
「そして最近、と言ってもかれこれ30年以上前ですが、人工魔石にもっと魔力量を増やした物、すなわち人工魔結晶がマジェストンで考案されたので、それを使った魔法ジャベックも製作可能となったのです」
「魔法ジャベックを?」
「ええ、シノブさんも御存知かと思いますが、本来、魔法ジャベックを作成するには魔石では魔力量が少なく、起動できません。
どうしても魔力量の大きな魔結晶が必要なのです。
実は魔法ジャベックを作る生産ジャベックはそれ以前からも作られていたのですが、魔法結晶自体が高価なために、作られる魔法ジャベックも非常に高価な物になっていたのです。
しかしこれを自然鉱石の魔鉱石から作るには、かなり難しい工程が必要です。
それがマジェストンでその人工魔結晶を作成する方法が考案されたので、一気に魔法ジャベックが作れるようになりました」
「それで今回のゴーレム大会で大々的に売り出したのですね?」
「そうです。
高レベルな魔法ジャベックの生産計画自体は50年以上前からあったのですが、安価な魔結晶がないために大量生産化は頓挫していました。
そこへ人工魔結晶の開発で一気に計画が進んだのです」
「なるほど」
「そこで4種類の汎用ジャベックが考案されて、それぞれがレベル150程度を目標に試作されて実用に耐えうるかの研究を十年以上の時間をかけてしていたのです」
「4種類?10年も?」
確かゴーレム大会で売られていたのは3種類だ。
あと一つはどうしたのだろうか?
それに試験に10年も時間をかけるとは中々凄い。
「ええ、それぞれ戦士型、魔戦士型、戦魔士型、魔法使い型の4つの試作品が作られて、それを数年かけて実用に耐えうるかの研究をしていたのですよ」
「あれ?確かゴーレム大会で売っていたのは3種類でしたよね?」
「おっしゃる通り、4つのうちの戦魔士型は事情により、間に合いませんでした。
それは4つの型の中でも最高作品と言われ、目玉になるはずでしたのですがね」
「それは残念でしたね」
「ええ、それでも他の3つは何とか間に合ったので、良かったです。
しかしさすがにレベルが高い上に、複雑な作りなので、生産ジャベックがこの高レベルジャベック一体を作るのに戦士型は2ヶ月、他の物は6ヶ月もかかってしまいますが、これでも昔に比べれば大変効率的で画期的な事です」
「そうですね」
レベル150ものジャベックを作るには相当時間がかかる。
ましてや汎用で日常会話が可能で、さらに魔法まで使えるとなると、半年か1年かかっても不思議はないだろう。
それが6ヶ月で1体作れるとなるとは、かなり早い方に違いない。
「今回も2年前、つまり前回のゴーレム大会後にすぐ生産に入ったのですが、それでも出来上がったのは、全部で50体程度でした。
お蔭様で全てが一日目で売り切れて、予約まで入りましたからうちとしては大成功ですね」
「なるほど」
「では次はいよいよジャベックを生産している所を見ていただきましょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
いよいよ生産ジャベックのお目見えか?
一体どうやってジャベックがジャベックを作っているのだろうか?
中々に興味深い。