0156 戦闘部門決勝戦
芸術部門の決勝戦が終わると、いよいよ最後の戦闘部門の決勝戦だ。
まずは単体部門からで、レベル30同士の戦いだ。
こちらの決勝戦は屈強な男戦士型と華麗な女性戦士型だ。
レベル30とは言っても流石に決勝戦に残った二体は中々強く、これならおそらく一体でもミノタウロスに勝てるだろう。
両方とも攻守のバランスがよく、中々決着がつかなかったが、結局、男性型の方が勝ち、優勝となった。
次はレベル無制限の決勝戦だ。
こちらはやはり双方共にタロス限界レベル100同士の戦いとなった。
片や2mほどの男性型戦士で、一方はレンガで出来たような大きさ規定限界ギリギリの3mほどの石型ゴーレムだ。
男性型戦士はモーニングスターのような武器で攻撃をする。
このタロスは確か準決勝では剣を使っていたはずだが、どうやら決勝の相手を考えて打撃系の武器に変更したようだ。
石型ゴーレムを棘付き鉄球でボコボコと攻撃する。
石型ゴーレムの方も攻撃をするが、大振りで素早く動く相手には中々当たらない。
何とか1回だけ当てる事が出来たが、結局は素早く動き、着実に体力を削いで行った男性戦士型の勝ちだった。
パワーではレンガゴーレムの方が勝っていたようだが、それに頼りすぎている相手の弱点を見抜いた勝利という感じだ。
その次は団体戦だ。
まずは人間型ゴーレムが争う通常戦の旗取り戦だ。
しかし俺はこれを見て驚いた。
決勝戦だというのに作戦もへったくれもない。
ただただお互いに全力で相手の陣地に突入し、目の前にいる物は当たるを幸いになぎ倒し、前進あるのみだ!
これでは殲滅戦と何も変わらないような気がする。
「ねえ、これって旗取り戦の意味があるの?
何も考えずにただ相手とぶつかり合っているようにしか見えないんだけど」
思わず質問した俺にエレノアが答える。
「そうですね、本当の戦争でしたらもう少々考えるのですが、こうした試合形式ですと、大抵はこうしてぶつかり合うのが基本ですね」
「別に何か作戦を立てちゃいけないって訳ではないんでしょ?」
「ええ、たまにそういう試合もありますが、そういった事をすると、観客から不平が出る事が多いので、あまりしないようです」
う~ん・・・神様がこの世界では戦術とか作戦とかが軽視されていて、ほとんどそういった感覚がないと言われていたが、本当にそうみたいだ。
そして次は同じく異種戦の旗取り戦だ。
こちらも通常戦とさほど変わらず、一方の相手はただただ全力で相手の陣を攻めて、旗を取りに行くだけだ。
いくら何でも、もう少し考えないものだろうか?
ただし、この決勝のもう一方の相手はユーリウスさんだった。
さすがにユーリウスさんはある程度作戦を考えていたようで、尖兵を虎のような獣型タロスと大猿のような大型タロスにして相手に向かう。
さらに鷹型の大型タロスが相手のタロスを鷲掴みにして相手のタロスが集中している場所へ落っことす。
しかし俺としては、どうしても不思議だったのでエトワールさんに聞いてみた。
「ねえ、あの鳥型タロスで相手の旗を取ってしまえばすぐに勝ちだと思うんだけど、なぜそうしないのかな?」
「ああ、それはそれだとすぐに試合が終わってしまって、観客から文句が来るからなのよ。
でもそろそろそうするんじゃないかしら?」
エトワールさんが説明してくれた通り、敵の数がほとんどいなくなって防衛をする事もままならなくなってくると、ユーリウスさんの鷹型タロスが敵の旗に近寄る。
いつの間にか、その鷹型タロスには小型の猿のようなタロスが背中に乗っていて、その小型猿タロスが鷹の背中に乗ったまま、華麗に敵の旗を奪い去る。
そして自陣の大猿型タロスの近くに戻ると、その大猿の肩に降りて、得意げに奪い取った敵の旗を大きく振り回す。
これでユーリウスさんの勝ちが決定した。
中々のパフォーマンスに観客も大喜びだ。
どうもこの旗取り戦というのはどちらが勝つかというよりも、どちらが観客を喜ばせて勝つかというのが目的になってしまっているようだ。
それが終わると、いよいよ最後の殲滅戦だ。
まずは人間型の殲滅戦が始まる。
こちらはもう完全に文字通りの殲滅戦だ。
旗のような目標物などないので、まるで騎馬戦か、大昔の漫画の川原で不良がする決闘のようだ。
お互いに当たるを幸いに相手をぶちのめしている。
戦っている者がタロスなので、血飛沫こそ出ないが、やられると光りが四散して消滅するので、散り際も中々派手だ。
これを見ると先ほどの旗取り戦はまだ頭を使っていたのだという事がよくわかる。
しかし観客には大うけだ。
まあ、ローマの闘技場などでもこういった感じの物が大評判だったと何かで読んだ事はあるし、基本的にこの世界は古代ローマから中世西洋よりなので、これが一番受けるのもわかる気はする。
そしてついにお互いに最後の一体同士の戦いとなり、一方が倒れて、勝者が決まる。
凄まじい殲滅戦に観客も大喜びだ。
興奮未だ冷めぬ中で、今度は異種型の殲滅戦が始まる。
こちらも虎型、熊型、鷹型、蛇型、大猿型と何でもありで、先ほどの通常人型戦と同じで、全力で相手とぶつかり合う。
それはもう何だか腹の減った動物園の猛獣たちを放って、お互いを餌にして飛び掛っているような感じだ。
さきほどの人間型戦同様、タロスなので、血飛沫こそ舞わないが、どうも俺にはこの光景は楽しむ気にはなれない。
俺は前世でもロボットが大好きで高専のロボコンなどは毎年楽しみにして見ていた。
各校の考案したロボットは意表を突いていたり、驚くほど高性能だったりして、見ていてとても面白い。
しかしある時、俺はアメリカのロボット戦を見て驚いた!
それは日本の試合のようにいかに知力を尽くして目的を達するか?のような物ではなく、単純に戦い、いや、いかに相手を確実に破壊するかという物だった!
それ自体の目的はわかるし、俺も科学系の人間としてもちろん興味はある。
だが、その試合内容を見て驚いた!
試合が始まった途端にロボットは御互いに相手を切り刻み、体当たりをして、相手を徹底的に破壊し始める。
相手の動きが鈍くなってきても当然の事ながら容赦などしない。
とにかく相手が徹底的に動けなくなるまで破壊の限りを尽くすのだ!
やりすぎ、というのは言いすぎだろう。
俺も自分が設計したロボットでその試合に参加してみたいと思ったし、参加するからにはそのロボットたちと同様か、それ以上に確実に相手を破壊する方法を考案して参加した事だろう。
しかしその大会でやったある事が俺の心を逆撫でした。
そのロボット戦の試合前にデモンストレーションとして何の抵抗も出来ない子供の恐竜型ロボットを相手に、出場ロボットがいかに徹底的に壊す事が出来るかという事をしていたのだ!
戦闘力が皆無の無抵抗な小型恐竜ロボットを相手に、科学の粋を集めた戦闘ロボットが破壊する様子を見た俺が感じた物は爽快感ではなく、嫌悪感だった。
俺はそれを見て吐き気がしてきたが、試合を見ている連中はヒャッハー状態で大喜びだ!
もっともそれはロボットの性能を試し、実証するための事が目的だったので、意味があるのはわかるが、それに対して俺はある種の嫌悪感を感じたのは事実だ。
今回の試合もそれと同じ物を感じた。
感情のない戦闘タロスたちは相手のタロスを容赦なく叩き潰して行く!
まあ、相手が無抵抗でないだけに、それほど悲壮感がないのは救いだ。
俺としても見るに耐えないというほどの物ではない。
それはある意味ボクシングや空手の試合を見るのと同様だったから。
しかし観客たちは大興奮だ。
俺はエトワールさんとシルビアさんに聞いてみた。
「エトワールさんやシルビアさんは戦闘部門にはなぜ出ないんですか?」
「う~ん、正直せっかく作ったタロスを潰しあいに使うっていうのがあまり好きではないのよね。
でもこれでも一応、私は魔法協会の戦闘法務官だから自分が戦う時の参考にはなるわね」
「私も似たような物ね。
それに悪人相手ならともかく、何の恨みもない相手を問答無用に叩き潰すのにも抵抗があるわね。
それと日常でこれと似たような事を実際にやっているのに、試合に出てまでやりたくはないという気持ちもあるかしら?」
なるほど、二人ともそんな感じなのか?
まあ、その方が俺も共感はするなぁ。
俺がそう考えながら試合を見ている間にも、あちこちで噛み付き合ったり、殴り合い、突き合い、巻き付き合い、やがて一匹の熊型タロスが残り、勝者が決定した。
観客たちも今回の勝者が決まり、大興奮状態だ!
こうして全ての戦いが終わり、昼の休憩を挟み、いよいよ午後は表彰式となった。