0155 芸術部門決勝戦
そして次の自由日の午前で、いよいよ決勝戦となった。
全員決勝戦に残るだけあって、中々演技が凄い。
その中でもエトワールさんと、ユーリウスさんとやらのタロスの演技はずば抜けていた。
エトワールさんのタロスは予選同様華麗に踊り、その演技を終えた。
その瞬間、観客たちは盛り上がり、拍手と歓声の嵐だった。
すると、演技が終わり御辞儀をしていたエトワールさんのタロスは、観客に向けて大きく両手を振るような動作をしたので、観客はさらに盛り上がった。
そして最後にその場でクルクルと高速で回り始めて、やがて花が散っていくように、その場で四散していくと、観客たちの歓声は最高潮になった。
エトワールさんは願い通り、芸術部門で準優勝が出来て、憧れのユーリウスさんとお近づきになる事が出来たらしい。
優勝はもちろんユーリウスさんだ。
ユーリウスさんのタロスは何と3体で楽器を操り、三重奏を奏でたのだ!
バイオリンやチェロのような弦楽器と、フルートのような横笛での三重奏だ!
俺はそれを見て驚いた。
「うわ、何ですか?アレ?
あんなのありなんですか?
三体で演技するなんて?」
驚く俺にエトワールさんが解説をする。
「ええ、特に出すタロスに制限はないのよ。
ただ結局それを制御できなければ、意味はないから。
それに数は三体でも、それぞれにあれほど複雑な演奏をさせて、しかも全く曲が乱れないなんてさすがね。
とてもあんなまねは私には出来ないわ」
「なるほど・・・」
確かに俺にもあんなまねは出来ない。
エレノアはどうだかわからないが・・・
こうして優勝者と準優勝者の間柄として、エトワールさんはユーリウスさんとお近づきになれて、はしゃぎながら控え室に向かっていた。
「それでね、最近とってもゴーレムに詳しい人と知り合って、その人に色々と教わったんですよ!
今日準優勝出来たのは、その人のおかげみたいな物なんです!」
「へえ、それは良かったですね?
でもそんな詳しい人なら私も会ってみたいですね」
「ええ、今日は私の友人として来ていますから、選手控え室に行けばお会いできると思いますよ?
そうそう、そういえば、その人、確かユーリウスさんとお知り合いみたいでしたよ?
いかがですか?」
「そうなんですか?
では、私はこの後で戦闘部門の決勝に出なければなりませんが、まだ少々時間があるので、是非よらせてください」
「ええ、もちろんです」
エトワールさんが扉を開けて、俺たちが待っている、選手控え室に入ってくる。
「あ、みんな~!ねえ、聞いて聞いて!
私ユーリウス先生と仲良くなっちゃった!」
「それは良かったですね」
「ユーリウスさん、これが私の友人たちで・・・」
エトワールさんが俺たちを紹介するよりも早く、ユーリウスさんとやらが、エレノアを見つけると、思わず声を上げる。
「グリーンリーフ先生?」
「あら、ユーリウス、お久しぶりですね」
「お久しぶりじゃないですよ!
一体今までどうしていたんです?」
「ええ、まあ色々と・・・」
「え?え?どういう事?」
エトワールさんが驚いて、ユーリウスさんとエレノアを見比べる。
俺もどうしたのかと驚いていると、ユーリウスさんが説明をする。
「この方、エレノア・グリーンリーフ先生は、私のゴーレム魔法の師匠ですよ」
「「「「え~っ!」」」」
これにはその場にいた全員が驚いた!
何と!
エトワールさんの憧れのゴーレム魔法の達人はエレノアの弟子だったのか!
これには俺も驚いた!
それにしてもメディシナーに続き、またか!
確かに560歳なんだから、あちこちに弟子がいても不思議はないが・・・
そのユーリウスさんは、久しぶりに会ったエレノアに感激した様子で話しかける。
「こうして会えたからには、また先生に色々と教わりたいです!」
「いえ、私があなたに教えるような事など、もう・・・」
「そんな事はありません。
まだまだ私は先生には遠く及びません!」
ユーリウスさんの言葉に、ふとエレノアが思い出したように話す。
「・・・そうですね、そういえば、一つありました」
「おお、何でしょう?」
「御主人様、この者をうちに招いてもよろしいでしょうか?
少々ジャベックの講義をしたいのですが?」
「ああ、流れ図の?」
「はい、そうです。
お蔭様で、御主人様とミルキィがミッションを行っている間の時間を使って、ほぼ完成しましたので、一度誰かに講義をしてみようと考えていた所ですから」
「うん、いいんじゃないかな?」
「では、ユーリウス、今度うちにいらしていただきませんか?」
「もちろんです。
私はこの大会が終わっても、数日はロナバールにいるつもりでしたから是非お伺いしますよ!」
すかさずエトワールさんも手を上げて声を大きく出す。
「はい!はい!だったら私も!」
「ええ、当初の予定ではエトワールさんとシルビアさんにお願いするつもりでしたから、もちろん構いません」
エレノアの言葉にシルビアさんも嬉しそうに話す。
「あら、では私もよろしいのですか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ。
それでは明日は休日ですが、いかがでしょう?」
「ええ、もちろん、私は構いませんよ」
「私も~」
「私も大丈夫です」
こうして急遽、我が家でエレノアのジャベック講習会が開かれる事となった。
しかし、この直後、このゴーレム大会の表彰式で、ちょっとした事件があるとは誰も思っていなかった。