0134 大森林での実験
夕飯時に木こりたちが俺たちに話しかけてくる。
「いや、それにしても凄いな!
俺も長い事この仕事をしているが、これほど金剛杉を切る連中は初めてみた」
「全くでさ、あの木をまるで普通の材木みてぇに切っちまうんですからね」
「ええ、これならおそらく明日には全ての作業が終わると思います」
「そりゃ願ったり叶ったりだ」
翌日になって作業を続ける。
タロスたちは一晩作業を続けていて、ちゃんと枝打ちと運搬をしたようで、砦の横には金剛杉の材木がきっちりと山積みにされていた。
それを見たドワーフたちが感心する。
「こりゃ、大したもんだ!」
「全くだ!夜の間にゴーレムを使って、ここまで仕事を出来るとは・・・」
俺たちは昨日の続きを初めて、午前中には50本の金剛杉を切り終わり、後は枝打ち作業と運搬だけとなった。
その俺たちの仕事に感心したガーリンが熱心に相談を持ち込む。
「なあ、あんた、頼みがあるんだが?」
「何ですか?」
「出来れば、これから定期的に金剛杉の伐採をしてくれないか?
月に1回、10本ずつでいい、いや、半年に50本でも構わん!
報酬は今回と同じだけ、金貨60枚を出す」
「え?定期的に?」
「ああ、実はここにいる我々は本来全員木こりじゃない。
本職は金剛杉専門の大工と、建具屋と指物師なんだ。
だが金剛杉は知っての通り、中々切りにくい。
本来はもっと金剛杉の建物や小物の注文は多いんだが、切り出してくれる連中がいなくて俺たちが木こり代わりをしていたんだ。
どうせ、材料がなけりゃ仕事にはならないからな。
だがあんたたちが金剛杉を切ってくれりゃ2・3日で、今の半年分以上の仕事に使う分の杉が手に入る。
そうすりゃ俺たちは本来の仕事が出来る。
だから半年に一回でも、こうして金剛杉を切ってくれりゃ助かるんだ」
半年に一回50本か・・・
大体今回と同じ位という事だよな?
という事は多めに見て3日かかるとして、同じ依頼料なら1日当たり金貨20枚か?
それはかなりの稼ぎだ。
俺は二人に相談してみた。
「何か問題はあるかな?エレノア?ミルキィ?」
「条件が同じならば、特に問題はないと思います」
「私もそう思います」
二人とも賛成のようだ。
「それは構いません。
半年に一回で50本であれば可能だと思います。
ただ、多少日にちがずれても良いのであれば」
その時に何か仕事をしていれば、数日はずれ込む事もあるだろう。
一日もずれずに伐採すると言うのには多分無理があるだろう。
俺がその点を確認すると、ガーリンはうなずいて承知する。
「ああ、日にちなんぞ1週間や二週間くらいならずれても構わん
一片に50本伐採してもらえるなら、1ヶ月くらいずれたって構わん位だ」
「では、必要になったら組合の方に我々を指名して仕事を依頼してください。
そうすれば我々が金剛杉の伐採に来ますので」
「ありがたい!頼んだぜ!」
「そういえばこの金剛杉の森って、本来誰の持ち物というか、土地なんですか?」
俺はふと誰かの土地に生えている木を勝手に切って良い物かと思って聞いてみた。
「あん?ここは誰の持ち物でもないぜ?
どこの貴族の領地でもない。
知っての通り、木は切りにくいし、強い魔物は出る。
下手に所有権なんぞ言い出したら、ここの管理を任せられる事になるから貧乏くじだ。
俺たちみたいな木こりがたまに来る以外は誰も来ないし、誰も欲しがらんよ」
「そうなんですか?」
確かに下手にここを所有して管理しろなどと言われたら薮蛇だ。
管理をする分、赤字になってしまうだろう。
「ああ、そうだ、土地自体は悪くないみたいだが、こう魔物が多くちゃな。
しかも知っての通り、魔物のレベルが結構高い。
だから俺たちも最低でもレベル45はある奴じゃないと、ここにはこないようにしている。
もっともそれ位のレベルがないと、どっちみち金剛杉の加工なんざ無理だがな。
交通の便も不便だし、一番近い村からも結構遠いから、生活に必要な物を持ってくるのも大変だ。
おまけに反対側は大砂漠だしな。
こんな所、誰も欲しがらないさ」
「そうですね。
そういえばここって、生活物資は街から持ってくるにしても、水とかはどうしているんですか?」
他の物は町から持ってくるにしても、水だけはどうしようもないだろうと思った俺は、その点を聞いてみた。
「水はこれ位の人数なら井戸を掘ってあるから大丈夫だ。
後は念を入れて森の中にある小川から水道を引いてある」
「水道を?」
「ああ、森を100メルほど入った場所に小川があってな。
そこから大した物じゃないが、砦の中まで水道を引いているんだ。
その水道を使って下水にもしている。
この程度の人数ならそれで十分さ。
もちろん、ここまで水を引くのに最初はかなり手間がかかったがな」
木こりの親方の話に俺も納得した。
「俺たちは仕事の都合でこうしてここにいる事があるが、それでも本来は2・3人で管理をしている程度のはずなんだ。
こうして12人もいる事は珍しい。
ま、それも仕事の材料がないんで、仕方なく大勢で切り出し作業に来ていた訳だけどな。
だからあんたたちが年に二回、切り出し作業をしてくれれば、ここにいるのは、その管理する2・3人で済む」
「なるほど」
「とにかく今回は助かった。
依頼終了のサインをするから書類を出してくれ」
「はい」
俺が依頼書を出すと、ガーリンがそれにサインをする。
「そら、これで組合に持っていけば、依頼料の金貨60枚をもらえるはずだ」
「はい」
「それじゃ、また次もよろしく頼むぜ」
「わかりました」
これで無事ミッションは終了だ。
しかし俺はふとある実験を思いついていた。
「ねえ、エレノア?
ちょっとした実験を思いついたのでやって欲しいんだけど?」
「はい、何でしょう?」
「ここの森をエレノアの魔法で、どれ位吹き飛ばせるかやってみて欲しいんだ」
「はい、それは構いませんが、どれ位の力でやりましょう?」
「そうだね・・・とりあえず20%位でやってもらおうかな」
「かしこまりました。
しかし、それですとかなりの規模の爆発になるでしょうから、一応ここの皆さんに了承を得た方がよろしいでしょう」
「そうだね」
俺は砦の代表のガーリンに実験を申し出る。
ドワーフの親方は機嫌よく了承する。
「火炎爆発呪文?構わないぜ?
そんなもん、いくらでも好きにやればいいさ」
「いえ、うちの師匠の呪文は半端ないので、一応断りを入れておこうと思いまして」
「ふ~ん?何だか知らんがやってみるがいいさ」
「わかりました」
一応、現地住人?の許可は取ったので、俺はエレノアに指示する。
「大丈夫だよ、好きにやっていいそうだから」
「承知しました。
では参りましょう」
俺たちは森の入り口まで行って場所を決める。
「ここから東の方へ向かって、幅20メルほどで、どれ位先まで吹き飛ばせるかやってみて欲しいんだ」
「かしこまりました」
エレノアが呪文の詠唱態勢に入る。
俺はミルキィと事の推移を見守った。
「ドゥーデク・プロセント・フェブラ・ボンバルディ・・・」
エレノアの前に巨大な魔方陣と火炎球が膨れ上がり、発射体勢となる。
「パーフォ!」
呪文を唱えると同時に轟音と共に、魔法が放たれる。
ズドドドド・・・・・!
凄まじい火球が発生し、轟音と共に森の東に向かって突き進む!
まるで炎の蛇のように東へ向かって進むその爆炎はしばらくしてようやく落ち着く。
森の入り口から中心方向へまっすぐに幅20mほどで、真東に火の道が進むと、そこには何もなくなって、道が出来上がっていた。
「な、何だ!今の音は?」
凄まじい轟音に、砦にいた男たちも外に出てきて、森に道が出来ているのを見ると、口を開けて驚く。
「なんだ、こりゃ・・・?」
驚く木こりたちに俺が説明をする。
「さっきも言ったように、エレノアがちょっと爆裂呪文を放ったらどうなるか実験してみたんです」
「爆裂呪文を?」
「ええ、今後のために森の中へ入っていくために道を作ってみたらどうかと思って実験をしてみたんです」
「あ、ああ・・・」
さすがのガーリンたちも度肝を抜かれたらしい。
上空に上がって見ると、15kmほど先まで道が出来ているようだ。
その先の金剛杉も倒れていないだけで、相当遠くまで消し炭になって、立ち枯れしているようだ。
どうやら50km位先までは燃えたようだが、元々金剛杉は難燃性のために、それ以上は影響がないらしい。
しかしこれでエレノアの実力の片鱗が見えてきた。
今まではとにかく凄まじい魔力を持っているのはわかっていたが、具体的にどれほど凄まじいのかはわからなかったが、これで何となくはわかってきた。
俺たちは放心状態のガーリン親方たちに挨拶をすると、ロナバールへと帰った。
俺たちの今回の金剛杉の伐採ミッションは、最後の実験も含めて、何とか2日で終わった。
そして俺たちは金剛杉の伐採を半年に一回する事となった。
これで半年に一回は、定期的に金貨60枚は稼げる計算だ。
つまり1年で金貨120枚は稼げる計算だ。
これは中々の稼ぎになるだろう。
俺たちはロナバールの組合に帰ってアレクシアさんに報告をした。
「はい、確かに中々大変でしたけど、何とか終わりましたよ」
「え?金剛杉をもう50本も切ってきたのですか?」
「ええ、確かに大変でした。
はい、これが依頼書です」
俺がガーリンが署名した依頼書を見せるとアレクシアさんも驚きながらも納得した。
「確かに・・・それにしても金剛杉をこれほど早く切ってくるとは本当に驚きですね」
「ええ、もちろんエレノアがいなければ、とてもこんなに早くは出来ませんでした」
もし、俺とミルキィだけでやっていたら、おそらく1週間から10日ほどはかかった事だろう。
「なるほど、どちらにしてもありがとうございました」
アレクシアさんはそのままヘイゼルさんに報告へ行く。
「ヘイゼル、この方たちは金剛杉も切り終わったそうよ」
「え?こんなに早くですか?
ありがとうございました!
これで滞っていた案件が全て片付きました!
生憎、組合長は出かけていて留守ですが、よろしくと言われております」
「そうですか、それは良かったです」
こうした俺たちの働きは、かなり組合員たちの噂になったようだ。
ある者は素直に感心したし、ある者は組合に対する点数稼ぎだと揶揄した。
単なる御人好しの馬鹿者だと思った人間もいるようだし、人それぞれのようだ。
俺としては様々なミッションをこなして色々な経験を積んだので満足だ。
次の日から様々なミッションを探して受けてみる。
魔物退治から始まって、希少な品物の探索、貴族や商隊の1日護衛など色々とこなしてみた。
しかし、最初に面倒な案件を色々とやっていたので、普通の案件などは楽に感じられるほどだった。
俺たちは次々にミッションをこなして、様々な経験を積んでいった。
そして1週間ほど経った頃に、エレノアが俺とミルキィにある提案をしてきた。