0132 ミッション!ミッション!ミッション!
俺たちは巣の近くまでやってくると、双眼鏡を出して巣を眺める。
そこにはちょっとした家ほどの大きさの巨大な巣があり、周囲を魔物蜂が数匹警戒のためか飛んでいる。
それを確認した俺が驚いて二人に話す。
「うわあ・・・こりゃ確かに凄い巣だね?
しかも中型犬くらいの大きさの蜂が、ブンブン巣の周りを飛んでいるよ?
どうしようかねえ?」
レベルは17なので、一匹一匹は大した事はないが、これだけの数がいると、確かに厄介だ。
囲まれたりしたら、俺だって苦労するだろう。
下手に火炎呪文などを放っても、かなりの数が散って逃げてしまうだろうし、巣はかなり大きいので、中の蜂まで焼き殺すのは難しいだろう。
これは一体どう処理すれば良いだろう?
誘導魔法弾でも使えば良いだろうか?
俺が考え込んで入ると、エレノアがあっさりと返事する。
「そうですね。昔、私が処理した巣よりも少々大きいようですが、問題はありません」
「これはどうやって処理するの?」
「先ほどのゴブリンより簡単です。
私一人で十分です。
ミルキィにはまだ無理ですが、御主人様は一度やり方を見れば覚えますよ。
時間もせいぜい30分ほどで、すぐに終わります。
今回は二人とも、私のする事を見学していてください」
「うん、わかった」
「はい」
これを30分で終わらせるとは、さすがにエレノアは頼もしい。
俺たちとの話を終えると、エレノアは防壁呪文を唱え始める。
あのグレイモンを閉じ込めたのと同じ呪文だ。
あの時と違う部分は、内側に電撃と高熱を連続で放射するように仕込んでいる部分だ。
なるほど、巣全体を防壁で覆って、逃げられないようにしてから、中を丸焼きにするのか?
電子レンジとオーブンを併用するような感じだ。
確かにそれが一番確実そうだ。
俺がそんな事を考えていると、蜂の巣は釣鐘状の黒い防壁にスッポリと覆われる。
その後でエレノアは説明し始める。
「あの巣を丸ごと防壁呪文で囲んで、現在その中を電撃と高温の火炎呪文で焼いております。
巣の中心まで火が通るのには少々時間がかかりますが、あの大きさの巣でも、20分もあれば、中まで丸焦げになって殲滅できるでしょう。
後は現在外に出ている蜂が戻ってくるのを待って、一匹ずつ倒すだけです。
そのための鳥型タロスを出して警戒と攻撃に当たらせます。
最後の確認と後片づけを含めても、30分はかからないでしょう」
エレノアに淡々と説明されると、まるで料理番組の解説を聞いているみたいだ。
説明が終わるとエレノアは鷹のような鳥型タロスを3羽ほど出して空を警戒させた。
その鷹型タロスが巣の側で待ち、時々帰ってくる殺人蜂を倒す。
確かにこれならば先ほどのゴブリン退治よりも簡単だ。
俺たちは何もする事がない。
「確かにこれなら楽だね?」
「ええ、待つ間は特にする事もないので、座って飲み物でも飲みましょうか?」
「そうだね」
こうなると、ピクニック気分で楽なものだ。
俺たちは敷物を敷いて座って飲み物を飲み始めた。
のんびりとしたものだ。
俺はミルキィの膝枕で寝転がって、猫のように御満悦だ。
たまに帰ってくる魔物蜂を鷹型タロスが迎撃して片付けるのが見える。
やがて20分ほど経つと、防壁呪文が解けて中が見える。
「終わったみたいだね?」
「ええ、そうですね」
まるで電子レンジがチン!と鳴ったのりで、焼けた巣の様子を見る。
中は何もかも真っ黒焦げで、巣は完全に燃え尽きている。
生き残っている魔物蜂はいない。
俺たちはその中に女王蜂がいるのを見つけて、息絶えているのを確認する。
その後、5分ほどピクニックの後片付けに時間がかかったが、その間にもはや戻ってくる蜂はいなかった。
エレノア曰く、殺人蜂の行動半径から考えて、ここまで待って帰って来なければ、もはや出て行った蜂は全て帰ってきているはずとの判断だ。
仮にいたとしても、このまま明日までは鷹型タロスをこの辺に警戒配置しておくので、戻ってきた魔物蜂は完全に撲滅されるそうだ。
これにてミッション終了となった。
「では帰るか?」
「ええ、そうしましょう」
俺たちは言われた通り、証拠の品として、殺人蜂の女王蜂の死骸を組合に持ち帰った。
今度は全部で一時間もかからなかった。
再びアレクシアさんに報告をすると、またもや驚かれる。
「え?もう、終わったのですか?」
「ええ、これが巣の中心にいた女王蜂です」
そういって俺が持って帰って来た、焼け焦げた女王蜂を見せる。
「確かにそのようですね?
それにしても先ほどのゴブリンの件といい、これほど早く完了してくるとは驚きです」
「うちの師匠のおかげです。次は何でしょう?」
「よろしいのですか?」
「ええ、ちょうど良いですから組合で溜まっている案件があれば、我々に出来る物であれば、この際、全て片付けていきましょう」
「それは非常に助かります。
ではまた相談窓口の方へお願いします」
「はい」
窓口へ着くとアレクシアさんは、興奮してはしゃいだように話す。
「ヘイゼル!この方たちはもう蜂の巣の撤去を終えたのよ!」
「ええ?もうですか!
今度はまだ1時間も経っていないですよ!
先ほどのゴブリンと言い、信じられないほどの早さですね?」
「ええ、それでまだ他の案件もしていただけるそうよ」
「それは助かります!」
再びヘイゼルさんが書類をめくり、俺たちに話す。
「では次はこれはいかがでしょう?
山里に近い場所のルーポの大集団なのです。
これも手を焼いているのですが、とにかく数が多く、中々対応が出来なくて・・・」
こうして俺たちは3日間ほどの間、組合に溜まっていた案件を片端から片付けていった。
そのほぼ全部が厄介な魔物退治だった。
数が多かったり、辺鄙な場所にいたり、強い割に報酬が安かったりと色々だ。
その間、アレクシアさんとヘイゼルさんは、受付や他の依頼相談そっちのけで、何だか俺たちの専用窓口になってしまったほどだった。
「とても助かりました!
この三日間で溜まっていたほとんどの問題案件が片付いて、後は一件だけです」
「いよいよそれが最後ですか?
ではそれもやってしまいましょう」
「そうですか?ですがこれは・・・」
「かなり面倒な物なのですか?」
「そうですね、金剛杉の伐採ですから、さすがにこれは時間がかかると思います」
「金剛杉?」
「はい、数は50本以上です」
金剛杉か?
その単語は今までにも何回か聞いた事はある。
しかし木の伐採がそれほど大変なんだろうか?
魔物を倒すのに比べれば、木を50本切り倒す事など簡単そうだが、その言葉を聞いた瞬間に、エレノアもミルキィも唸る。
「金剛杉50本ですか・・・」
「それは確かに大変そうですね」
え?そんなに大変な事なんだ?
「金剛杉の伐採って、そんなに大変なの?」
俺が質問すると、エレノアとミルキィがそれぞれ答える。
「ええ、金剛杉は非常に硬い木で、普通の木より魔素の吸収率が高いので、鋼鉄よりも硬くなるのです。
ですから直径半メルほどの木でも、レベル20程度の人間が切って倒そうと思っても、1ヶ月ほどはかかりますし、レベル100の人間がやっても、半日はかかるでしょう。
それを50本以上となると・・・」
「そうですね、私の住んでいた村の近くにも数本生えていて、村人が総出で切った事がありますが、それでも1本を切り倒すのに、1週間近くかかりました」
なんと!金剛杉って、そんな凄い木なのか?
直径半メルと言うと、50cm位か?
それを切るのにそんなに時間がかかるのか?
そりゃ確かに大変そうだな。
「なるほど、出来るかどうかわからないけど、とにかくやってみようよ」
「ええ」
「そうですね」
俺の言葉に二人が賛成すると、ヘイゼルさんが説明をする。
「では、東の大森林の入り口に近くに金剛杉の木こりたちがいます。
その木こりたちがこのミッションの依頼主です。
そこの村というか、砦のような場所にこの紹介状を持って行ってください。
後はその木こりたちの話を聞いてあげてください。
申し訳ありませんが、斧などの必要品はそちらの経費になります。
その代わりと言っては何ですが、このミッションの報酬はかなり高く、金貨60枚となります」
「わかりました」
「切っている最中に魔物もかなり出てくるでしょうから、注意してください。
もっとも出てくる魔物のレベルは30前後ですから、皆さんなら問題はないでしょうが」
「はい」
俺たちはロナバールで何種類かの斧やのこぎりを買ってみて、実際に金剛杉の森へと向かった。
しっかし、鋼鉄よりも硬い木なんてちょっと想像がつかないな?