0127 上げ屋
建物の外にいた男は、登録窓口で俺たちの前に並んでいて、騒いだ挙句に、外に放り出されたあの男だ。
何とまあ、あれからずっとここに座り込んでいたのか?
その男は呆然として座り込んでいたが、俺たちを見ると、ハッとしたように立ち上がって話しかけてきた。
顔が傷だらけな所を見ると、相当衛兵の人たちに世話をかけたようだ。
「おい、お前ら!確か窓口で俺の後に並んでいた連中だよな?」
「そうだけど?」
「お前たちは登録できたのか?」
「ああ」
男は俺とエレノアの上白銀等級の登録証を見ると、不思議そうに質問して来る。
「それは見かけない登録証だな?
一体何級なんだ?」
「これか?これは上白銀等級だよ」
「ハイ・シルバー?聞いた事がないな?
それは一体どれ位の等級なんだ?」
「一級の一つ上さ」
「一級の上?一級が一番上じゃないのか?」
「ああ、一級の上に特級と言うのがあって、それがまたいくつかの等級に分かれていて、これはその特級の中でも、一番下の等級だよ」
「何?それでも一番下の等級だと?
では、まだその上があるのか?」
「ああ、特級には、ゴールドとか、アレナックとか、色んな等級があるぞ」
「そんな・・・」
この男は一級が一番上だったと思っていたらしく、その上にさらにまだそんなに色々な等級があるのを知って、驚いたようだ。
「何でお前はそんな等級の登録が出来たんだ!?」
「そりゃ等級試験を受けて、色んな魔物を倒して受かったからさ」
「等級試験?一体どんな魔物を倒したんだ?」
「キマイラとかグリフォンとか色々だな」
「キマイラにグリフォンだと?
嘘を言うな!
そんな冗談みたいな魔物を、人間が一人で倒せる訳がないだろう?」
「いや、本当だよ」
「キマイラはレベルが100以上だって聞いた事があるぞ!
お前のレベルは一体いくつなんだ?」
「俺のレベルか?280だ」
あっさりと答える俺に、男は信じられないと言った顔をして驚く。
「に、280・・・だと?」
「ああ、そうさ」
「そんな人間が・・・いるのか?」
「まあ、現実に今お前さんの前にいるんだから、いるんだろうな」
俺の答えに呆然としていた男が、やがてゴクリと唾を飲み込むと、もう一度俺に質問をする。
「それは・・・ここの組合員としては普通のレベルなのか?
迷宮探索者や魔物狩人ってのは、みんなそんなレベルなのか?」
「いや、ここまでのレベルは、多分珍しい方だろうな」
「・・・普通はどれ位のレベルなんだ?」
「聞いた所によると、だいたいレベル30から80位らしいな。
一級になるのに100以上は必要らしいからな。
特に150を超えると、かなり少なくなるらしいぞ」
それを聞いた男は今度はちょっとホッとしたようだ。
「そうか・・・」
「どうした?納得したか?」
「ああ・・・いきなり色々と聞いて悪かったな、じゃあな・・・」
そう言って男はトボトボと去っていった。
どうやら色々とショックを受けたようだ。
これを機会にまともな感覚を取り戻してくれれば良いと思うが、どうなるだろうか?
俺たちがその男と別の方向へ行くと、そこにはまた別の連中が7・8人待っていた。
その中の一人は、赤銅色の板を首から下げている。
銅板についている石の色は赤だ。
という事は四級か?
下半分は赤い横線なので、おそらく魔法は使えない。
他の連中は全員白い陶器の登録証をぶらさげている。
●の数は色々だ。
どうやら一人だけ四級で、他は全員が五級から七級のようだ。
その男たちが俺たちに話しかけてくる。
「お前ら、一体どういうつもりだ?」
「どういうつもりって?」
「どうやって白銀等級になったかって事だよ!」
「どうやってって、さっき組合長のグレゴールさんが話していたでしょ?
昇級試験を受けたんだよ」
「そんな話を信じられるか!
てめえらみたいな奴らがいきなり来てシルバーに受かる訳がねえ!」
「訳がねえ・・・ったって、実際に受かったんだからしょうがないでしょ?」
「けっ!どっかのボンボンが高い「上げ屋」にでも頼んで調子付いてんのか?」
「上げ屋?何それ?」
俺がまたもや相手の言っている意味がわからず、尋ねると逆ギレする。
「はっ!すっとぼけるのもいい加減にしろや!」
俺は仕方がないのでエレノアに聞いた。
「上げ屋って何?エレノア知ってる?」
「上げ屋というのは、レベルの低い者を短期間でレベルを上げる者の総称です」
「エレノアが僕やミルキィにしたみたいに?」
「そうです」
「ああ、なるほど」
「しかし、そういった者が引き受けるのは、せいぜいレベル50か60辺りが限界で、それ以上を引き受ける者は少ないですね。
上げ屋というのは短期間で相手のレベルを上げるのが仕事ですから、上げる相手よりも最低でも50か60以上は高くないと仕事になりません。
相手をレベル60以上に短期間で上げるとなると、自分のレベルが120以上程度はないと、話になりませんからね。
ですから相手をレベル100以上に上げる「上げ屋」などは、まずいません」
「なるほど、確かにね」
この世界ではレベル120以上の者は少ない。
そんなレベルの者だったら、上げ屋なんぞをするよりも、よほど他に儲かる方法があるだろう。
俺たちがそんな話をしていると、男たちは痺れを切らしたように話してくる。
「何をごちゃごちゃ話してやがんだ!」
「この侘びをどう入れるつもりだ?」
「そうだ!侘びを入れろ!」
「侘び?」
またもや男たちが訳のわからない事を言ってくるので、俺は質問してみた。
「侘びって、どういう事さ?」
「はっ!だからすっとぼけんのもいい加減にしろって言ってんだろ!」
「お前はどうせ、金かコネでも使って、その等級を貰ったんだろ?
そんな卑怯な手段を使って、白銀になりやがって!
その侘びをどうするかって聞いているんだよ?」
は?こいつら頭悪いのか?
あのシステムでそんな事できる訳ないだろうが?
大体レベル制限があるんだから、鑑定能力がある者が見たら一発でばれるっつーの!
そんな事もわからないのか?
こいつらよくこれで四級とか五級になれたな?
むしろ、こいつらがコネとかで四級とかになったんじゃないかと疑いたくなる位だ。
いや、本当にそうなんじゃないだろうか?
試しに先頭にいる四級の男を鑑定してみると、レベルは51、四級の下限ギリギリだ。
先ほどの男が52でも、まだ四級になれてない事を考えると、こんな男が四級になれるとは、ますます怪しい。
しかし、どうしたものか?
俺は例によってエレノアに相談してみる。
「やれやれ、どうすれば良いかな?」
「こういった連中はこちらが何を言っても聞かないものです。
ですから、先ほど組合長にも言われた通り、「軽く揉んで」あげましょう」
「そうだね」
あまり本格的に諍いを起こすと組合の規則にも触れる。
しかし、多少の組合員同士の揉め事は、大目に見てもらえるようだ。
俺がちょいと揉んでやろうかと一歩前に出た時に、突然どこからか声がかかる。
「君たち!やめたまえ!」
ん?一体誰だ?
俺はその声の方向を見た。
そしてそこにいる人物を見て、驚いた!