0116 ミルキィの訓練と新装備
装備を整えて、迷宮に着いた俺がミルキィに説明をする。
「まずは安全を考えて、レベル50前後の所から始めるか。
ミルキィは最初は見ていればいいからね」
「はい」
俺たちは3人で迷宮に入る。
念の為に、ミルキィにはタロスの護衛を二体ほどつけて迷宮で戦う。
このやり方はルーベンさんで一回やっているので、慣れている。
出てきた魔物を、いきなり俺とエレノアで葬り去る。
その途端、ミルキィのレベルが上がったようだ。
「え?これは・・・」
「どうだい?レベルがいきなり上がっただろう?」
「はい、その・・・レベルがいきなり3つも上がりました!」
「3つか・・・今のは大した魔物じゃなかったから、それほど上がらなかったみたいだね、まあ、これからドンドン上がっていくから」
「はい、わかりました」
レベル18だったミルキィは初回の戦いを見ているだけでもレベルが上がり、その後もグングンと上がって行く。
エレノアが魔物の腕輪をつけているので、魔物は次々と出てくる。
「凄いです!私、まだ何もしていないのに、レベルはもう31です!」
「31か・・・それじゃ、まだこの辺で戦うのは無理かな・・・」
「いえ、この辺の魔物の動きは段々わかってきました。
邪魔にならない程度に手を出してみても良いですか?」
「うん、じゃあ、やってみて」
次の戦いからはミルキィも参加し始める。
確かにミルキィが言う通り、まだレベルはこの辺の魔物よりも低いのに、遜色なく戦う。素早さだけなら、すでにレベル50の魔物よりも早く、驚いた事に、決して相手の攻撃が当たらない。
俺はエレノアと場所を変える事を相談する。
「これだったら、一気にレベル100辺りの場所に行っても平気かな?」
「そうですね。護衛のタロスもつけますから大丈夫でしょう」
「はい、お願いします」
ミルキィもやる気満々だ。
俺たちは一気にレベルが100を越える魔物が出る場所まで行く。
流石にここまでのレベルになると、まだミルキィはあまり手出しを出来ないが、無理をして馬鹿な事もしないので、足手まといにもならない。
自分の能力をわきまえていて、中々使える子だ。
ミルキィのレベルが40を超えたあたりで、俺たちは一旦、休憩もかねて、地上に戻る。
「中々勘がいい子だね?」
「ええ、やはり戦闘感覚には光る物があります。
とても迷宮初心者とは思えません」
「いえ、とんでもないです」
「しかし、まだレベル40程度なのに、倍以上もあるレベルの魔物相手に一回も攻撃を受けないとは凄いね?」
「そうですね」
俺の言葉にエレノアも感心する。
「そういえばミルキィは盾でも殴っていたよね?」
「ええ、私は盾を守るために使うためよりも、攻撃のために使った方がよさそうです」
そりゃ、全部相手の攻撃を避けちゃうんだからそうだよなあ・・・
「うん・・・では短剣使いにでもしてみるか?
それも両手持ちの?」
「そうですね、それが良さそうです」
「では、もう一度今から武器屋に行ってみよう」
「よろしいのですか?」
「うん、ミルキィも自分にあった武装にした方が良いだろうからね」
「はい」
そのまま、俺たちは武器屋へと向かった。
キャンベル武器屋につくと、ミルキィが短剣を色々と試してみる。
銅の短剣や鋼の短剣も、それなりに気に入ったようだが、ミスリルの短剣を持つと驚いて話す。
「これは軽い上に、ずいぶんしっくりと来ますね?」
「ああ、ミスリルは軽くて丈夫だからね」
「これがミスリルですか?
見た事はありますが、触るのは初めてです」
「それは使い易そうかい?」
「ええ、とても・・・」
「ではそれを2つ買っていこうか?」
「え?でもミスリルはかなり高いと聞いております。
迷宮初心者で、レベルも低い私が持つのには贅沢品なのでは?」
「大丈夫、ミスリルと言っても短剣だし、気にする事はないよ。
それが使い易いんだろう?」
確かにミスリルの短剣は、一本大銀貨七枚ほどはするが、それでミルキィの攻撃力が上がり、使い易いのならば、問題はない。
「はい」
「では、それをミルキィの主武装にしよう」
「はい、ありがとうございます」
こうしてミスリルの短剣を二つ買って、ミルキィに渡す。
これで気に入ったのなら、いずれ俺が持っている、3倍攻撃のついたミスリルの短剣や、5倍攻撃のアレナックの短剣を、ミルキィにあげよう。
その前にまずはこれで実戦を試してみようと思った。
「それと、せっかく買っていただいたのですが、この帽子は蒸れるし、音も聞こえにくいので、脱いでもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうか・・・」
ミルキィの耳は柴犬の犬耳のようにピョコンと立っている。
その上に皮の帽子を被っては、確かに耳も聞こえにくいし、蒸れるだろう。
「そうだね、でも何か頭を守る物はあった方がいいよね?」
俺の意見にエレノアも賛成する。
「そうですね、何か額当てのような物はあった方がよろしいでしょう」
「うん、何か良い物はないかな?」
「そうですね。一応獣人用の穴の開いた兜もございますが・・・」
俺がキャンベルさんに聞くと、主人はしばらく考えて一つの防具を出してきた。
「これはいかがでしょう?」
それは額当てから両頬に鉄の板が延びているような感じの鉄製の防具だった。
ああ、半首か・・・
鎌倉時代の武士とかが使っていた奴ね。
確かにそれがいいかも知れないな。
ミルキィは獣人だから平人の位置に耳は無い。
だから頭の両脇を金属で囲っても影響は無い。
頭の上に耳がある獣人には最適な防具かも知れない。
それなら頭だけでなくて顔もある程度守れるし、音も妨げない。
「うん、これはどうかな?ミルキィ?」
商人から渡された半首をミルキィが装着する。
「・・・悪くはないようです。
これなら耳も聞こえやすいし、蒸れません」
「では、それでもう一度戦ってみよう」
「はい」
こうしてミルキィの新装備は、ミスリルの短剣2本と鉄製の半首となった。
再び迷宮に3人で入ると、ミルキィを前衛に立たせてみる。
後ろの守りはタロスに任せる。
ミルキィは敵に突っ込んでいき、ズバズバと敵を切り裂く。
敵の攻撃は全く当たらない。
短剣なので、一回一回の攻撃力は小さいが、回数が多いので、半端ない攻撃だ!
魔物たちは、あっという間にミルキィに切り刻まれて絶命する。
「凄いな!」
俺の感想にエレノアも満足そうにうなずく。
「ええ、どうやらこれが正解だったようです」
「頭の方はどうかな?ミルキィ?」
「はい、これなら音も聞こえやすいし、軽いので問題ありません」
ミルキィは踊るように攻撃をして、遥かに自分よりも高レベルの敵を翻弄しながらミスリルの短剣で切り刻んでいく。
そのミルキィを俺とエレノアがフォローし助ける。
たった1日で、ミルキィのレベルは52にもなった。
こうしてミルキィはうちの斬り込み隊長となった。
ミルキィを購入してから3週間、迷宮に行くようになってから5日ほどが経った。
迷宮で手に入れた物を3人で山ほど持って魔法協会に行く。
迷宮で入手した通常アイテムは普通の道具屋に売っていたが、魔法関係の物は魔法協会で売った方が良いので、溜め込んでいたのだ。
それとミルキィに魔法の事や、魔法関係の事を実践で教えるためにも取って置いたからだ。
ミルキィが来てからは、ずっと迷宮の訓練に終始していたので、ミルキィを連れて魔法協会に行くのは初めてだ。
受付で俺たちを見つけたシルビアさんとエトワールさんが声をかけてくる。
「あら、シノブさん、エレノアさん、こんにちは!久しぶりね」
「こんにちは」
早速、ミルキィを見つけたシルビアさんが俺に質問をする。
「そちらの可愛い方はどなたかしら?」
「はい、うちの新しい二番奴隷のミルキィです」
「獣人なのね?それじゃ戦闘に向いているんじゃないかしら?」
「ええ、もの凄い速さで動いて、ズバズバ魔物を切り裂いて、とても頼りになります」
「凄いわね、見た目はこんなにかわいらしいのに、そんなに強いなんて・・・」
「そういえばレベルはいくつなの?」
「はい、昨日107になりました。
つい先週までは18だったのに信じられないくらいです」
「107?1週間でレベル18から107になったの?」
「迷宮に入って5日です。
これも御主人様とエレノアさんのおかげです」
「5日間?相変わらずシノブさんの所の人たちは、とんでもない人ばかりねえ」
「いえ、これは御主人様やエレノアさんが凄いので、私はただそのお供をしていただけで上がったです。
ですから、私自身は大した事はありません」
「そんな事ない!
これはミルキィの実力だよ」
「私もそう思います。
ミルキィの実力は素晴らしいです」
「ありがとうございます、御主人様、エレノアさん」
こうしてミルキィの訓練が続いた。
さらにエレノアが迷宮訓練と平行して、ミルキィに魔法も教えていた。
才能を見て分かっていたが、ミルキィはそこそこ魔法の才能もあり、エレノアの教え方が良かったせいで、すぐに魔法を覚えていった。
まずは俺と同じく「マギア・デーヴォ」の心得から始まり、初歩の魔法を覚えていき、レベルが100を超える頃には、十分に魔法士を越える魔法を覚えた。
エレノアに言わせると、すでに実力的には魔道士補二級程度の実力はあるそうだ。
それからさらに2・3日して、ミルキィがレベル120を越えた頃、エレノアがある提案をしてきた。
「ミルキィもずいぶんレベルが上がった事ですし、そろそろ組合に登録して、ミッションでもやってみましょうか」
「え?組合とミッションって何?」
どうやらエレノアは、俺とミルキィを次の段階に引き上げようとしているようだ。