1021 エレノアの杖 後編
エレノアを加えて32階層でさらに10日ほど過ごした俺たちは、再び35階層へと向かった。
そこではすでに1体の「エレノア・ワンド」と、数十個の「エレノア・ブレスレット」、それに数百個の「エレノア・タクト」が完成していた。
それを見たレオンとアルデイスさんは驚いた!
「うひゃ~本当にこんなにたくさん杖と腕輪が完成しているぜ!」
「ええ、理論上はわかっていても、実際に見ると本当に驚きですね?」
「さあ、じゃあ実際に試験をしてみようじゃないか?」
しかしそうは言ってもこれは中々難しい。
単に発動させるだけなら確認可能だが、実際に効果があるかは怪我をした者などがいないとわからないからだ。
仕方がないので俺たちは35階層の訓練場で魔物たちを呼び寄せて、その魔物たちを叩きのめし、そいつらにエレノアの杖を使って治療効果を試し、また叩きのめして治療をするという事を繰り返した。
その光景は少々悲惨だ。
「これは流石に何だか魔物が可哀そうになってくるな?」
「ええ、相手が魔物とはいえ、確かにこれはちょっと可哀そうですわね?」
「でも実際に効果を確かめるにはこうして試すしか方法がないからなぁ・・・
ボクの故郷でもこういう場合はネズミや猿で効果を実験してたしな」
「確かに人間でやる訳にもいかないしなあ・・・」
「ええ、地上に戻ればいくらでも治療対象はいるでしょうけど、時間的制約で戻る訳にも行きませんからね?」
「まあ、これは仕方がないなあ・・・」
そんな事を話しながらも俺たちは魔物を中途半端に攻撃しては治療魔法を使って見たり、手足を切断した後で再生魔法をかけてみたり、石化解除や解毒してみたりして実験をしていた。
「うん、これで後は実際に試験をしてないのはSTMと、例のタロス治療くらいだね?」
「ええ、それだけはさすがにここでは実験するのは無理ですからね?」
「ああ、それは地上に戻ってから実際にやってみよう」
俺たちは地上に少々戻って、難病患者に「エレノア・ワンド」でSTM治療をしてみた結果、無事に患者は完治した。
さらに軽症の怪我をした患者を集めてタロス治療をしてみた。
「エレノア・ワンド」が発生させた数十人の美女型タロスは、そこに集まった患者たちの傷の部分に手をかざして治療を行うと、見る見るうちにその傷は治って行った。
「うん!成功だ!」
「さすがは御師匠様の作品ですわ!」
「よし、これで実験は全て終わった!
これで3本とも問題なく売り出せるね?」
「ああ、そうだな」
「ええ、御師匠様、ありがとうございました!」
そして俺たちはこの「エレノア・タクト」「エレノア・ブレスレット」「エレノア・ワンド」の三つをホウジョウ伯爵領、メディシナー侯爵領、アッタミ聖国の3カ所限定で販売する事にした。
但し、「エレノア・ワンド」だけは大アンジュだけの専売とした。
例によって遠くで来れない人間で購入を希望する場合は、ビンセントに頼む事にした。
ちなみに値段は「エレノア・タクト」が金貨30枚、「エレノア・ブレスレット」が金貨350枚、そして「エレノア・ワンド」は何と「アンジュ・ワンド」よりも高い金貨3200枚となってしまった!
これはエレノアがこの治療道具はなるべくたくさんの人の役に立つようにと願って、可能な限り販売価格を抑える事になったからだ。
ただし、「エレノア・ワンド」だけはそうそう量産も出来ないし、希少品なので、さすがに金額は高額になってしまった。
もっともエレノアはその「エレノア・ワンド」を一本目は大アンジュの診療所へ、二本目は小アンジュの診療所へ、三本目から五本目はヒッタイトの診療所へ、六本目から10本目はメディシナーへ、11本目から15本目まではアッタミ聖国に寄贈した。
そして「エレノア・タクト」も「エレノア・ブレスレット」も定期的にメディシナーとアッタミ聖国に卸すようにしたので、レオンとアルデイスさんは大喜びだ!
ちなみに今回の要請ミッションの報酬は、このエレノア製品を今後アッタミとメディシナーに卸す代金による事となった。
まあ、実際には二人ともその事に喜んでいるけどね。
「エレノア・タクト」は販売用と贈答用の二種類を製造し、販売用は「E」で始まる番号を、贈答用は「G」で始まる製造番号を刻まれている。
こちらもアンジュ・タクト同様に白木の箱に入れられて、売る時や贈答される時はちゃんと製造番号と販売日、相手の名前を控える事になっている。
もちろん、約束通りにレオンとアルデイスさんを初めとして、例の連判状に名前を連ねている人々には、贈答用のエレノア・タクトをレオンとアルデイスさんが責任を持って届けるそうだ。
それに関しては後日、何人かからはエレノアに礼状が届き、大変感激したとの事だった。
俺はさらにレオンが帰る時にある事を頼んだ。
「ああ、そう言えばレオンは第3無料診療所のルーベンさんって覚えてる?」
「ああ、あのじいさん魔法治療士だろ?
もちろん覚えているぞ!」
「あの人はまだ第3で働いているの?」
「ああ、もう150を超えてるってのに、元気で魔法治療士をやっているぜ。
もっとも最近メディシナーに戻って来てだけどな?」
「え?それどういう事?」
「ああ、実はあの人には、あるジャベックの実験を頼んでみたんだ。
それでここ数年はあの人は全国各地を回って留守だったんだよ。
それが最近メディシナーに帰って来て、また魔法治療士をやっているのさ」
「え?実験って?」
「ああ、メディシナーで造った魔法治療ジャベックが実践でどの程度役に立つか、知りたくてな?
あのじいさんに半分休暇がてら各地を回って、実地試験をやってもらってたんだよ。
引退した魔法治療士のふりをしてもらってな。
ほかにペロリンと汎用ジャベックを供にして諸国漫遊さ」
「へえ?そんな事をしていたんだ?」
「ああ、要は昔俺がやっていた旅みたいな事だな?
本人も中々面白がっていたぞ。
しかも今やレベルも100を超えて正規の魔法士だからな」
「そうなんだ?
それであの人にも「エレノア・タクト」を一本あげてよ。
シノブからだと言ってね」
「ああ、わかった」
あの人は治療するのに魔力が少なくて大分困っていた。
レベル100を超えたなら、もうそれほど魔力量には困ってはいないだろうけど、エレノア・タクトがあった方が便利なのは間違いないだろう。
こうしてエレノアの魔法の治療具は世間に広まって行った。
最初はレオンとアルデイスさんの我儘から始まった物だったが、物が治療具だけにかなり世間では役に立っているようだ。
エレノアもそれで満足しているので一安心だ。
すみませんが、職場で大移動があって、しばらく忙しくなりそうです。
原稿を書く時間があまり取れそうにないので、次の更新は5月2日の予定です。
追記:すみません、まだ時間が取れないので、更新が遅れます。
何とか5月中には復帰したいと思います。
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