0104 家に帰って
無事、家に帰って来た俺たちは、アルフレッドとキンバリーに帰宅の挨拶をする。
「ただいま、アルフレッド、キンバリー!」
「お帰りなさいませ、御主人様、オフィーリアさん」
「もうエレノアで大丈夫だよ、アルフレッド」
「さようでございますか?
では改めてお帰りなさいませ、エレノアさん」
「はい、御二人とも留守をありがとうございました」
「お帰りなさいませ、その程度、何でもございません。
おや?その派手な猫はなんでしょう?」
キンバリーが俺の横に立っているペロンを見て俺に尋ねる。
ペロンはいつも通り、朱色の長靴を履いて、白い羽根飾りのついた朱色の帽子を被り、同じく朱色のマントを翻して、腰にはサーベルを挿している。
うん、確かに派手だ。
「これは猫じゃなくて、ケット・シーのペロンだよ。
今日からうちに一緒に住む事になるんだ。
ペロン、この二人はうちの家令のアルフレッドと家政婦長のキンバリーだよ。
それとオフィーリアというのはメディシナーでの偽名で、本当はエレノアなんだ」
「はい、わかりましたニャ」
「うん、そういう訳で二人もよろしくね」
「なるほど、承知いたしました」
「まあ!私はケット・シーという物は夫から聞いた事はございますが、本物を見るのは初めてでございます」
キンバリーは驚き顔で話す。
「はは、まあ珍しいらしいからね、無理は無いと思うよ」
「ケット・シーのペロンですニャ。
先日より、シノブ様の食客として仕える事になりましたニャ。
よろしくお願いしますニャ」
「ほほう、食客でございますか?」
「うん、普通ケット・シーはどこかの家に住みつくらしいんだけど、ペロンは僕の部下になりたいんだって。
だから食客って事にしたんだ」
「なるほど、確かに私の知っているケット・シーは、あちこちの貴族の家を彷徨っておりましたな」
「アルフレッドはケット・シーを見た事があるの?」
「はい、前の御主人様におつかえしている時に、知り合いの貴族の家にいたのを見た事がございます」
「そうなんだ」
「はい、ではペロン様は食客として我が家に居続けるという事に?」
「そういう事だね」
「ボクを呼ぶ時はただのペロンで良いですニャ。
飼い猫扱いでも別に構いませんニャ」
ペロンの言葉にアルフレッドがうなずき、改めて尋ねる。
「わかりました。
ではペロン、食事などはどうすれば良いですか?」
「ボクは人間の食べる物は何でも食べますニャ。
唯一だめな物がケット・シー・ポイズンですニャ」
そのペロンの説明に俺が驚いて尋ねる。
「え?そんなのがあるんだ?」
「はい、滅多にニャいのですが、たまにその辺に生えている事がありますニャ。
ケット・シーにとっては毒ニャのですが、とてもおいしそうな感じがするので、食べたくなるのですニャ。
実は御主人様と初めて御会いした時もそれを食べた時だったのですニャ。
ボクも話を聞いていただけで、ケット・シー・ポイズンを見たのは初めてだったので、うっかり食べて、危ない所でしたニャ。
でもそれは人間の食べ物ではないので、食事は皆と同じで大丈夫ですニャ」
「そうだったんだ」
「では、ペロンの食事は我々と同じでよろしいですね?」
「うん、ああ、だけどペロンは魚がとても好きらしいんだ。
だから少なくとも週に一度は魚料理にしてあげて」
「かしこまりました」
俺の説明にキンバリーがうなずいて返事をする。
その俺の言葉を聞くと、ペロンは目を輝かせて礼を言う。
「ありがとうございますニャ!」
「さて、ではペロンにも部屋をあげないとね。
どこにするかな・・・」
「別にボクは軒下でも、居間の片隅でも構いませんニャ」
「いや、ペロンは食客で飼い猫ではないのだから、ちゃんと部屋位はないとね。
エレノアの部屋の隣で良いかな?」
「はい、もちろん構いませんニャ。
ありがとうございますニャ」
こうしてペロンの部屋も決まったが、考えてみれば調度品はペロンの大きさに作り変える必要があるな。
ベッドはともかく、椅子とかはペロンには大きすぎるだろう。
まあ、それは近いうちに何とかしよう。
一通り、俺は留守の間の事や、ペロンに関する事を終わらせると、エレノアと二人で自分の部屋へ行った。
そして、俺はエレノアの前で勲章と金貨の山を差し出し、土下座して謝っていた。
「本っ当~~~に、僕が馬鹿でした。
今回は思い出せば思い出すほど、自分の馬鹿さ加減にあきれ返って恥ずかしくなります。
もちろん、この勲章と褒章の金貨は自分の力で貰ったのではない事など、自分がこの世で一番わかっています。
メディシナーではレオニーさんたちの手前、受け取りましたが、これは本来の受取人であるエレノア様にお返しします。
どうかこれをお納めして、僕に何か罰を与えてください。
さもないと僕は自分の馬鹿さ加減で身がつぶれそうです!」
そう、本来俺がこんな勲章や報奨金なんぞ、貰える訳がないのだ。
今回の事はエレノアが全てをやって、俺は一応その御主人様という事なので、名誉最高評議員たるエレノアの顔を立てるために、色々と配慮してもらった結果に過ぎない。
実際、俺は今回のメディシナーでやらかした数々の馬鹿な事で、少なからず参っていた。
最終的にはレオニーさんが最高評議長になり、めでたしめでたしという事で終わったが、自分のした数々の失敗を思い出すと、恥ずかしくてどうしようもなかった。
そんな俺が勲章をもらって、報奨金までもらうなど、まさにお笑いだ。
これで本当に受け取ったら、ずうずうしいにもほどがあるだろう。
しかし、エレノアはいつも通りに微笑んで俺に話しかける。
「いいえ、御主人様はもうわかってらっしゃいます。
ましてや奴隷の身分の私が罰を与えるなど恐れ多いことです。
それに私の事をもうエレノア様などと言うのはお止めください。
メディシナーの件はもう終わったのですから、私も普通の奴隷に戻ります」
「とんでもない!
いや、もう本当に今回は自分の馬鹿さ加減に呆れかえっているんだ。
僕は何もわからないくせに自惚れてヒキガエルみたいに膨れ上がって、あの様だもの。
最終的に事がうまく収まったから良かったけど、何かエレノアに罰を与えてもらわないと、逆に罪の意識で潰れそうなんだ。
だから僕を助けると思って、何か罰を与えてください、エレノア様!」
そこまで俺が頼むと、エレノアはやれやれと言った感じで首をかしげると、ふと、何かを思いついた様子で、クスッと笑って答える。
「では罰として、今日から3日ほど、私の体に触れてはいけない事にしましょうか?」
「ひっ!」
俺は震え上がった。
これは確かに俺に相応しいお仕置きだ。
俺がエレノアに3日も触れずにいられようか?
そんな事になったら気が狂いそうだ。
さすがエレノア先生!わかってらっしゃる!
俺に最も相応しい罰を容赦なく言ってくる!
俺はそれこそ鞭打ちでも、食事抜きでも、どんな罰でも受ける気だったが、これは予想していなかった!
唖然とする俺に対してエレノアは笑って答える。
「ふふ・・・冗談ですよ」
「・・・いや、我慢する!」
「え?」
「それに値する馬鹿な事をしたんだから、それ相応の罰を受ける義務がある!
それとその三日間はエレノアとは、もちろん風呂も一緒には入らないし、夜も一緒に寝ない!」
「無理はしないでください?」
こうして俺は3日間、エレノアに指一本触れずに過ごす事となった。
昼も夜もエレノアに触らないように我慢するのだ!
しかしその間は外に出て、街でエレノアに似ている人を見ると、無意識のうちにフラフラと近づいて、触りそうになってしまったほどだ。
その直前で気づき、慌てて正気に戻るが、俺がエレノアがいないと、いかにどうしようもないか、さらに身に染みた。
大丈夫か?俺!
今の俺が、エレノアなしでは生きていけないかがよくわかった。
そして今後は絶対に馬鹿な事をしないようにと自分の心に誓った。
それにしてもこれで果たして三日間持つだろうか?
俺、頑張れ!