0986 定期便の帰還
年末になり、第4回目の貿易隊でもあり、今回から定期便となった隊商が戻って来た。
大アンジュへ戻った俺はアンカーを呼び報告を聞いた。
「どうだったい?今回は?」
「ええ、これで4回目ですからね。
我々も手慣れた物ですよ。
特にこれと言って問題はなかったですよ」
「そうか、それは良かった」
「それよりもこちらの方が大変だったでしょう?
勝ったとは言え、私も気が気では無かったですよ」
何しろ今回の貿易隊が出る直前にガルゴニア帝国との戦争が始まったのだ。
心配するのは無理もない。
「まあ、それは確かにそうだね?
君にも心配をかけてすまなかった」
「ええ、ホウジョウ様には伯爵の昇爵をおめでとうございますと言ってよいやらどうか・・・」
「まあ、一応それは祝い事だと思っておく事にするよ」
「ええ、それにしてもフリッツ様の事は残念でした」
「ああ、それに関しては悔やんでも悔やみきれないがね?
今後はそれを糧にして、私の部下がひどいめに会わないようにするよ」
「それがようございましょう」
「診療部隊と移動遊園地はどうだった?」
俺が話を戻すとアンカーは嬉しそうに話す。
「ええ、両方とも大好評でしたよ。
診療隊長のヴァイスさんは張り切って各オアシスで診療をしていましたよ。
但し、医療費を支払い出来ない人々には本来の治療が出来ず、最低限の事しかしてあげられないのが残念だとは言っておりましたが・・・」
「それは私も思う処はあるが、仕方がない部分でもある」
「それは私たちも承知しております」
「ヴァイスもそれで大丈夫だったかい?」
「ええ、かなり苦しんでいるようでしたが、ホウジョウ様とベサリウス様の御言いつけは守っていました。
それとやはりベサリウス様の話が一番効いたようですね」
「うん、それなら良い」
そう、いくら可哀そうだからと言って、何でもかんでも無料で治療してしまうのは問題だ。
そんな事をすれば、うちの診療部隊の後を追って、治療を望む者まで出て来てしまうだろう。
それに医療で金銭を取る事が、まるで悪事のように取られるようになってしまう。
そんな本末転倒な事をする訳にはいかない。
かと言って金が無ければ何も治療しないと言うのも、理屈ではわかっていても無慈悲だ。
そこで俺はベサリウスやヴァイスと相談して、メディシナーの無料診療所を基準として移動診療所を運営する事にした。
現地に着いたら移動診療車の横に無料診療所を開き、簡単な症状の者はサーバントやペロリンで治療をして、それでも難しい病気や怪我などは移動診療車の中で相場の金額で診療をするのだ。
もちろん重い病気などで金が無くて診療できない者も出る訳だが、こればかりは仕方がない。
我々は神ではない。
魔法治療するにも魔力がいる。
高価な薬を買うには大金がいる。
それらは全て無制限ではない。
従って無制限に人々を助けられる訳ではなく、手助けできる人々は限られるのだ。
それを勘違いして無制限に人を助けようとすれば、自分の財産を失うだけではすまず、その命さえも失ってしまう。
ベサリウスもかつてその件で、師であるガレノス様を失っており、その話をメディシナーを出奔した後に、旅の途中で聞いた時には愕然としたそうだ。
そしてこの数百年で各地を放浪してそれは痛いほどに経験している。
その事をベサリウスはこんこんとヴァイスに話して聞かせたらしい。
俺も同じことをかつてエレノアから教わった。
それはヴァイスも承知しており、苦渋の選択を迫られたようだ。
「移動遊園地の方はどうだった?」
「そちらも大好評です!
アストリーはかなりのやり手ですね!
彼は興行師としてまさに一流です!
各オアシスに到着すると、遊具の組立と宣伝を素早くして、客を集めるのも上手です。
観覧車は大人気ですし、大型滑り台も子供たちがそれこそ服が擦り切れるほど滑っておりましたよ。
ドラゴンの見世物も大人気で、芸人感覚を持っている竜人が見世物になる時は、色々と芸を見せたりして大うけでしたね」
「へえ?芸ってどんな事をしていたんだい?」
「そうですね、子供に籤を引かせて当たりを取った子供を背中に乗せてちょっと空を飛んでみたり、何十人もの子供たちと綱引きをしてみたりなどですね」
「ほう!そりゃ中々楽しそうだね?」
「ええ、実際、子供だけでなく、大人にもして欲しいと要望が出た位ですよ」
「なるほど。
ところで同行商人たちはどうだったかな?」
「はい、今回は全てホウジョウ様の知り合いだったせいもあって、非常に良かったですよ。
問題があってもすぐさまこちらと検討して解決し、予想外の事は何もなかったですね」
「そんなに問題なかったのかい?」
「ええ、何しろ今回の方々は全員がホウジョウ様の「東西見聞録」とビンセントさんの「東西の行き来とその商売に関して」を全員が熟読しておりましたからね。
大抵の事は想定していたようです。
毎回こんな人々ばかりならば良いのですが、いずれはそうもいかなくなって来るでしょうね」
「そうだねぇ」
初めての定期便は中々成功したようだ。
そして俺は大アンジュに到着した友人たちにも会ってみた。
「やあ、ビクトールにアイン!
旅はどうだった?」
「やあ、ホウジョウくぅん!
久しぶりぃ、いやあ、正直に言ってちょっと拍子抜けしちゃったねぇ」
「ああ、そうだな」
アインもビクトールの意見にうなづく。
「そうかい?」
「ああ、君やビンセントの本を読んでいたから、さぞかし凄い目に遭うだろうと覚悟していたんだが、タルギオスも盗賊も一回も出てこないし、砂嵐にも遭わなかったよ。
多少魔物が出たがあんな物はどうってことないしねぇ?」
「ああ、俺も砂漠の魔物なんて珍しいんでぶっ倒そうとしたんだが、護衛の連中に客なんだから引っ込んで大人しく見ててくれって言われてな?
それでも一回は頼み込んで魔物の始末をさせてもらったくらいさ」
「ははは、それで?商売の方はどうだったんだい?」
「ああ、無事に大アンジュで買った砂糖は全てウガヤナ王国で売れて、その金で今度は岩塩を購入して、その売り上げ全てを今回は絹の反物にしてきたのさぁ。
今うちの馬車は絹織物でいっぱいだよ。
これをこれから半分を帝都で半分をうちの領地で売るつもりさぁ。
さぞかし儲かるだろうねぇ」
「ははっ、そりゃ良かったじゃないか?」
「ああ、俺も面白そうなんで着いて行ったんだが、確かに正解だったな?
全く所変われば品変わると言うが、まさにその通りだったぜ。
もう一回位は経験してみても良いな?
ああ、但しホウジョウ領のB型馬車でな」
「それは間違いないねぇ?
あの旅を徒歩や普通の馬車でするとなると、とてもする気にはなれないねぇ」
「ああ、まさにB型馬車様様だな!
あんな馬車があるとも思わなかったが、一旦あれに乗っちまったら長距離の旅なんぞ、他の普通の馬車じゃとても出来ないな!」
「それには全面的に賛成だねぇ?
まさにこの砂漠の旅はあのB型馬車あってだからね」
「なるほど、まあ、良い旅で良かったよ」
続いて俺はカベーロスさんの弟であるコメルツォさんに会いに行った。
少々驚いた事にそこにはカベーロスさんも来ていた。
「おや、カベーロスさん?
あなたも大アンジュまで来たのですか?」
「やあやあ!シノブ君!久しぶりだな!
ああ、貿易の事が気になって仕方がなくてね?
あっちの店の方は部下に任せてこっちに来てみたのさ」
「兄さん!失礼ですよ!
伯爵閣下にシノブ君などとそんな気軽に!」
「な~に、俺はそれでいいんだとさ?
なっ、シノブ君?」
俺は笑って答える。
「ええ、何と言ってもカベーロスさんは私が貴族になる前からの貴重な知り合いですからね。
別にそれで構いませんよ」
「そうですか?
それにしても今回の旅は非常に有意義でした」
「おう、俺も今回ばかりはシノブ君には参ったぜ!
まあ、前からそれに関しちゃそうだけどな?」
そう言ってカベーロスさんが話し始めた。
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