0984 スターク・メッシーナの大アンジュ来訪 前編
ロプノールの件も無事に終わり、ようやくある程度の時間が出来た俺は、かねての約束通り、クジョウに流された元三公爵家の一つ、メッシーナ公爵家の生き残りと聞く、スターク・メッシーナとやらを大アンジュへ1週間限定と言う事で招待する事にした。
ジェイルによって小型魔法飛行艇で大アンジュに連れて来られたスタークとやらは、早速俺に礼を言って来た。
「初めまして!伯爵閣下!
私がスターク・メッシーナです。
この度は私の願いを叶えてくださってありがとうございます!」
「大アンジュへようこそ、私がシノブ・ホウジョウ伯爵だ」
「ようやく憧れの大アンジュへ来れて嬉しいです!」
「ははは、何、私は科学を学ぼうとする者には甘いものでね?
しかも君は公爵家の宝物まで売って科学に傾倒していると聞いてね?」
「ははは、あんな物は私が持っていても何の役にも立ちませんからね?
さすがに家宝と言われている二度と手に入らない物のいくつかは売らないでおいてますよ。
それでも最初は他の元公爵家の人々に貴族の誇りが無いだの何だのと色々と言われましたがね?
もっとも彼らも最近は、そんな陰口を叩く余裕もなくなりました」
「ほう?それは何故だい?」
「ああ、それは彼らが2ヶ月もしない内にアムダール帝国からの年金を使い果たしてしまったからですよ。
しかも自分たちが持って来た金貨も含めてですね。
何しろ公爵家で日常に使う金額は平民からみたら信じられないような金額ですからね?
ですから金銭感覚もろくな物ではないです。
それでもクジョウはそれほど贅沢が出来るような場所ではないので、持った方でしょう。
もし帝都、いえハットウサや他の大きな都市などだったら、1ヶ月も持たなかったでしょうね?
それで彼らはクジョウでの生活を始めて金を使い果たしてしまったので、代官のジェイル様にもっと金を寄越せと文句を言ったのですよ。
しかも公爵家の者である自分たちにはもっと金を貰う権利があるなどと馬鹿な事まで言ったそうです。
それを私にまで得意げに吹聴したので私は呆れましたね?
私はそれを聞いて「君たちは罪人で流刑されている自覚があるのかい?」と聞いたら鼻で笑われましたよ。
もちろんジェイル様がそんな要望を聞く訳もなく、追加の金などある訳がありません。
私に借金の申し込みにも来ましたが、当然断りました。
何しろ連中は当初、公爵家の物を売るなどとは恥知らずだと私に言っていたくらいですからね?
しかし彼らも背に腹は代えられなくなりました。
そこで連中も泣く泣く持って来た財宝などを売ったそうです。
しかも二束三文ではなく、相応の金額で売ったそうなのですが、それでもまたすぐに使ってしまって、同じ事の繰り返しだそうです。
何しろ私のように目的があって売った訳ではなく、ただ散財する金が欲しいためだけに売った訳ですからね?
あれでは家宝を売らなければならなくなるのも時間の問題でしょう。
その後はどうなるかわかりませんがね?」
「なるほどね。
しかし君も公爵家の人間なのに、金銭感覚はずいぶんとしっかりしているみたいじゃないか?」
するとこの男は笑って意外な事を話し出した。
「ははは、公爵家と言っても本来私は傍流で、母が出戻っていたので、たまたま一緒に公爵家で暮らしていただけですよ。
ですから本来ならば公爵家を継ぐ事もなかったですね」
それを聞いて俺は少々驚いた。
「えっ?では君は本来ならば流されるはずではなかったのではないか?」
その俺の質問にスタークはうなづいて答える。
「ええ、そうかも知れません。
何しろ数年前に母が亡くなった後は、行く場所もないので、単にお情けで追い出されずに、本家に居座っていただけのような存在でしたからね?
それと曾祖父のいざと言う時の捨て駒としてですね。
本家の者から見れば、吸盤鮫か寄生虫のような者でしょう。
ですから本家の連中が私を見捨てて脱走しようとした気持ちもわかりますよ。
もっとも例え誘われたとしても断りましたけどね?」
「そうかい?」
「ええ、だってどう考えても無駄な行動ではないですか?
クジョウを出て行ったとしても行く当てもない、例え旧ガルゴニア領に戻ったとしても匿ってくれる者もいないでしょう。
何しろそんな事をしたら反逆罪ですからね。
仮に匿ってくれる者がいたとしてもあの連中の事です。
当然、大人しくなんぞして居られないでしょう。
しばらくすれば我慢できなくなって派手に遊び始めるにきまってます。
それが周囲にばれない訳がありません。
どちらにしろ通報されて、結局は捕まるのが落ちです。
それだったらクジョウで大人しくしているのが一番正解です」
「なるほど、確かにその通りだ」
俺はそのスタークの見事な説明に感心した。
「まあ、確かにクジョウは田舎で不便な場所ではありますがね?
しかし私は元々部屋に籠って読書などをするのが好きな方なのでね?
それは別に構いません。
しかもそのおかげで「科学」を知る事が出来たので、何も後悔はありません。
いえ、むしろそのおかげで年金もいただけているので、感謝したいほどです。
本家の連中にとっては雀の涙ほどの年金だったのでしょうが、私にとっては年間で金貨260枚の年金は大金です。
おかげで私はクジョウで働きもせずに、のうのうと暮らしていけるのですからね。
感謝しかありません。
そしてクジョウで科学とも出会いました!
一応私は初等魔法技官でタロス魔法使いなのですが、この科学とやらには参りました!
まさに魔法を超えています!
それで是非科学の本場である大アンジュへ来てみたかったのです!」
「なるほど、それで君は今回、大アンジュへ何をしに来たんだい?」
その俺の質問にスタークは興奮して話す。
「まずはもちろん科学関係の買い物ですね。
何しろクジョウにはホウジョウ伯爵閣下から送っていただいた物以外にはそんな物はありませんからね。
それとここでは素晴らしいジャベックを売っていると聞きましたので、それも何体か購入したいです。
それと様々な料理に関する事も勉強できると聞いたので、それも学びたいのですが、そこまでの時間はないでしょうから、まずは購入したジャベックにその料理関係の事を学ばせたいですね。
他に色々としたい事は盛りだくさんなので、すべてやってみたいのですが、一週間では無理がありますね」
興味津々のスタークに俺が答える。
「なるほど、ならば私の権限で少しくらいは滞在を延長してあげても良いよ?」
「ありがたい事ですが、それでなくともこうして流刑の身を特別扱いで大アンジュに招待していただいているので、他の元公爵家の連中に恨まれているのです。
他の流刑者たちにも滞在は一週間と言って来てあるので、それ以上こちらに滞在しては示しがつかないので結構ですよ。
但しクジョウに戻って落ち着いて、科学を改めて学んで何らかの成果が出たら、出来ればまたいつかここへ来訪する事を許可していただければ幸いです」
「そうか、わかった。
それも考えておこう。
では今回はその1週間、目一杯楽しんで学んでくれたまえ」
「ええ、もちろんそのつもりです!」
俺はスタークをまず科学商店へ案内してやり、そこで様々な商品を見せた。
スタークは全ての物に興味を示したが、特に写真機と蓄音機に興味を示したようだ。
「これは何でしょう?
ホウジョウ様からいただいた科学道具の中にはありませんでしたし、かなり複雑な道具のようですが?」
俺は写真機と蓄音機は仕組みが複雑だし、扱いを説明するのも難しかったので、スタークへの贈り物の中からは外していた。
「ああ、それは写真機と蓄音機と言ってね・・・」
俺が写真機の仕組みと蓄音機の事を説明すると、スタークは興奮する!
「なるほど!これは凄い!
是非これも購入して帰りましょう!」
スタークは興奮して写真機と蓄音機をいくつか購入した。
さらにそれの使い方などももちろん説明をした。
現像の仕方などはその場で全て説明するのは難しかったので、後日大アンジュに滞在中に説明をして、何とかそれも覚えたようだ。
もちろん、それに付随して、現像液や定着液、蓄音円盤なども大量に購入していた。
そしてそれに伴い、カミラたちの存在を知ってそれにも驚いていた。
「ほほう!こんな人々がいるとは・・・!
私は歌を歌う者など、貴族子飼いの歌姫か、辻での歌唄い位しか知りませんでした。
ガルゴニア帝国ではそれしかおりませんでしたからね?
これは驚きの存在です!」
そう言いながらもカミラたちの音声円盤を買いあさっていた。
何しろ資産は金貨が10万枚以上もあるので、何でも購入する気は満々のようだ。
そして次にはうちのゴーレム店とバーゼル労働商館の大アンジュ支店へ案内した。
まずはバーゼル労働商館だ。
そこで売られている美女ジャベックを見てスタークは驚いた!
「むむむ・・・これが噂に聞いたバーゼル商館の美女ジャベックですか?
なるほどこれは素晴らしい!
人間と全く区別がつきませんね?
しかも会話も非常に流暢で淀みがない!
これもいくつか購入していきましょう!」
スタークは吟味して三体ほどの美女ジャベックを購入したようだ。
さらにホウジョウゴーレム店にて、またもやスタークは感心した。
「ふむ、やはり伯爵閣下直営のゴーレム店は優秀ですね?
特にこのレベル145の魔法ジャベックは凄いです!」
「ああ、それはうちの自慢の一品でね?
いつもある訳ではないのだが、今回はたまたま何体か入荷しているようだね?
希少品ではあるが、うちで売っているジャベックの中では、今の所一番優秀さ。
それはノーザンシティでの高性能ジャベックにも匹敵するよ。
あれは一体でキマイラを倒す事が出来るのが売りの汎用魔法ジャベックだが、うちのイグナートもそれ位は出来るよ。
何しろそれを売るには、購入者に審査が必要なほどでね」
それはソーニャの造っているレベル145の執事型魔法ジャベック「イグナート」だった。
現行でうちの量産型の中ではもっとも優秀なジャベックだ。
これ以上にうちで優秀な量産ジャベックは、アメシスとオリオン級しかない。
そして高性能すぎるためにアメシスとオリオン級は非売品で、その運用はホウジョウ領内での公的な事に限定している。
ソーニャはこれの生産のために、大アンジュ迷宮の35階層に定期的に行って、この「イグナート」を生産している。
スタークはこのジャベックに目を付けたようだ。
「何と!キマイラを一体で?
なるほど、ではこれを3体ほど購入したいのですが、宜しいでしょうか?」
「ああ、君なら構わないよ」
「それとこちらのラボロは今までの者と少々違うようですが?」
確かにそのラボロは見た目はほぼ同じだが、その白い両腕には肩から手首まで黒い線が入っており、左胸には大きく「2」と書かれていた。
それは最近うちで開発した新型ジャベック「ラボロ2型」だった。
「ああ、それはラボロ2型と言って、ラボロの改良型さ。
見た目はほとんど変わらないし、身体的な性能も同じだが、知識面で大幅に改良されていてね?
今までのラボロより遥かに多芸で様々な事が出来るようになっているんだ」
「なるほど、ではそれも10体ばかり購入して行きましょう。
それとサーバントとヘルパーも3体ずつ」
「おやおや?ずいぶんとうちのジャベックを気に入ったようだね?」
「ええ、私もクジョウに戻ったら迷宮をもっと奥まで探索したり、ほかにも色々とやって見たい事がありますのでね?
それに最近ではジャベックの貸出業なども始めたのです。
そこで優秀なジャベックがいくつか欲しいのですよ」
「なるほど」
他にもスタークは知り合いの少女への土産だと言って、テディも買った。
どうやらこの人物はまだまだ大アンジュを楽しみたいようだ。
面白そうなので、俺もそれに付き合う事にした。
スタークたちを初めとしたガルゴニア帝国公爵家の人々の顛末は、外伝「スターク・メッシーナ」をご覧ください。
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