0981 地方反乱
俺がガルゴニア帝国を滅ぼして半年ほどが経った。
俺やエレノア、レイモンドを始めとした部下たちは、ヒッタイト地方の再構築に奔走した。
その間は押しなべて平穏だったが、一つだけ大きな騒ぎがあった。
元侯爵である伯爵家が反乱を起こしたのだ。
その伯爵家は「ガルゴニア帝国正統政府」を名乗り、周囲の領地の貴族たちに「我が軍に参加して、かつての偉大なるガルゴニア帝国を復活せん!」と檄を飛ばした!
しかし周囲の領主たちは動揺こそしたようだが、流石にその言葉に乗って反乱軍に参加する者はいなかった。
何しろここ半年近く、どの領地も以前よりも生活は向上し、平和に暮らしているのだ。
おまけに反乱に参加するとなれば、敵は「あの」ホウジョウ伯爵軍になるのだ!
そんな状況で軽々と反乱などに参加する訳が無かった。
もちろんアムダール帝国ヒッタイト地方総督としては、こんな事を放って置く訳にはいかない。
俺はバルターとガース、及び竜人部隊に命じて直ちにその反乱を鎮圧させた。
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バルターはその手腕をいかんなく発揮し、僅か数日でその反乱を鎮圧した。
反乱を起こした伯爵は自室に追い詰められ、バルターとガースを目の前にして、錯乱したように叫んだ!
「わしではない!
わしはホウジョウ総督閣下に逆らって反乱など起こしたくはなかった!
しかし仕方が無かったのだ!
あの御方に!あの御方に命令されては逆らえなかったのだ!」
そう言って、その伯爵は用意しておいた毒を煽って死んだ。
「あの御方?」
「誰の事でしょうな?」
二人はさらに反乱の中心を追及すべく、捜査を進めた。
しかし捜査の結果、その意外な黒幕を暴いて、バルターとガースは少々驚いた。
その伯爵は皇帝一家の一族と繋がりがあり、その経緯もあって反乱を起こしたのだが、そこには何と先帝であるガルゴニウス三世がいたのだ!
彼は先のガルゴニア動乱以降、行方不明となっていたのだが、これによってその所在が判明した結果となった。
ガルゴニウス三世と接見したバルターとガースは驚きながらも淡々と話した。
「これは先帝陛下、このような所で暗躍していたとは驚きです。
なるほど、「ガルゴニア帝国正統政府」とは、そういう意味だったのですね?」
二人はそんな名称は単なる反乱のためにでっち上げた大義名分だと思っていたのだが、それに先帝陛下が関わっていたというのであれば、それも納得する話だ。
バルターにそう指摘されたガルゴニウス三世は、弱弱しい笑いを浮かべて二人と言葉を交わす。
二人と先帝ガルゴニウス3世は、最後の別れからまだ数年しか経っていないが、その表情は以前よりも遥かに老けてそれこそ半世紀ぶりにあったと言っても違和感が無いほどだった。
「バルターにガースか、久しいな」
「ええ、そうですね」
「全くです」
二人もガルゴニウス三世の言葉に同意する。
そしてかつての皇帝はしみじみと話す。
「まさかお主らが揃って余を捕らえる日が来るとはの・・・
まるで夢を見ているようだ・・・
これでガルゴニア帝国もついに最後か・・・」
「お気持はお察しいたします」
「私もです」
そしてガルゴニウス三世はまるで遠い昔を懐かしむかのように話す。
「ふふふ・・・かつて我が筆頭魔法技官であるオズワルドが貴様を重く用いなければ、ガルゴニア帝国の災いとなるので殺せと言っておった意味がやっとわかったわい」
「そうですか?」
するとガルゴニウス三世は、今度は目を閉じて、遠い過去を思い出すかのように話す。
「あれからまだ数年しか経っておらぬと言うのに、まるでもう何十年も昔のような気がする・・・
まさにガルゴニア帝国建国以来の激動の時代であった・・・
この数年は一体、何だったのであろうか・・・?」
「・・・」
そして先帝は再び目を開けると、バルターに話し始める。
「どうじゃ、バルターよ!
ここでもう一度余に仕えてはみぬか?
今度は余もお主を重用するぞ?
今のお主の3倍の給料も約束しよう。
何なら領地の5つ6つもくれてやるぞ?」
しかしバルターはキッパリと断る。
「お断りいたします。
今の私はホウジョウ伯爵閣下の忠実な部下。
今更他の方に仕える気など、毛ほどもございません」
「そうか?しかしいずれホウジョウめにもお主は煙たがられて命を狙われるとは思わぬか?
余ならそのような事はないぞ?
何しろ一度こういう目にあって、お主のありがたみもわかるからのう?」
「いいえ、ホウジョウ閣下は最初から私の命など狙わず、例え私が何の役に立たなくとも、食客として無駄飯を食べていろと笑っておっしゃいました。
そのような方が今更私の命を狙うなど考えられません。
むしろ私の命を一度狙った方が、また私の命を狙う方がよほどあり得るでしょう。
なぜ小官がそのような話を受ける訳がありましょうや」
バルターが無理だとわかると、今度はガルゴニウス三世はガースの説得にかかる。
「ではガースはどうだ?
再び余に仕えてみる気にはならんか?んん?」
「残念ながら今の私はホウジョウ総督閣下に仕える身です。
その言葉に従う訳には参りませぬ」
「ふむ、それは残念じゃのう・・・
ところでこの後、余はどうなるのじゃ?」
「今回の反乱の主要人物はヒッタイト地方総督であるホウジョウ閣下の下へ連行する事になっております。
先帝陛下には当然、小官と共にホウジョウ総督閣下に会っていただき、そこで処罰が決定されます」
それを聞いたガルゴニウス三世は自嘲気味に笑いながら話す。
「ふふふ・・・ヒッタイト地方か・・・かつてのガルゴニア帝国も、今やアムダール帝国の一地方と成り果てたか・・・
もっともそれも余があのホウジョウめの力量を見誤った結果で自業自得か?
しかし悲しいものよのう・・・
ところでバルターよ。
皇帝一家はどうなったのだ?」
「特別終身流刑と伺っております」
「それは余も聞いておる。
しかしその「特別終身流刑」とはどういう刑なのだ?
どうも言葉からしても、普通の流刑ではないような気がするのだが・・・?
しかも聞けばすでにガルゴニア帝国の歴史は終わったと称し、ホウジョウめはその博物館までも建設して展示しているという。
残念ながら余はそこを見ていないが、噂ではすでにガルゴニア帝国の最後の部分まで完成しているのに、その部分は何故かまだ未公開になっているという。
一体、どういう事なのだ?」
「小官には総督閣下やアムダール帝国上層部の考えている事など、想像もつきませぬ」
「小官もです」
「ふふふ・・・さようか・・・
のう?バルターにガース、せめてもの情けだ。
少々余に今後を考える時間をくれぬか?」
「さよう、しばしの間でしたら猶予いたしましょう」
「うむ、助かる」
そして二人が先帝の侍従と見張りのタロスを残して部屋から出て行き、ガルゴニウス三世が自室に籠ると、ほどなく彼の侍従が部屋の外に出てきてバルターに報告する。
「自害なされました」
「そうか」
それは予想された事ではあったので、バルターもガースもさほど驚きはしなかった。
念のために部屋に入って死体を確認した二人は、その死体を棺桶に入れてシノブに拝謁した。
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「以上のような経過で反乱を鎮圧いたしました。
なお、首謀者である伯爵と先帝陛下は双方とも御自害なされました」
「そうか、ご苦労だった、バルター、ガース」
「「はっ!」」
少々気がかりだった行方不明のガルゴニウス三世も見つかり、これでガルゴニア帝国の件も完全に終わったようだ。
この一件は瞬く間にアムダール帝国全体へ、電撃の様に伝わり、ヒッタイト地方の各領主たちは、やはりヒッタイト総督ホウジョウ伯爵恐るべし!と再認識する事になった。
そしてそのガルゴニア帝国の件以来、部下と共に食客として我が領に逗留していた元ボート伯爵こと、バイリー・ボート氏が俺を訪ねて来た。
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