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転生したら髭クマ系オッサンだった件

作者: わい

 

 どうやら転生したらしい。

 その事に気付いたのは十歳の時だった。


 世界にはたまに前世の記憶を持った人間がいる。

 そういった人達は総じて能力が高かったり幼少期から鍛錬を欠かさなかったりで、偉人になることが多いらしい。


 俺こと、ザック・ドルングが自分がその前世持ちだと気づいたのは遅かった。

 そもそも記憶があやふやで、はっきり思い出せるわけじゃなかった。

 しかも前世の記憶を持った人間は頭がいいと言われているせいで、あまり頭の回転がよろしくなかった俺は、自分の前世の記憶を妄想や空想の類だと思っていたのだ。


 まさか自分が前世の記憶を持ってるなんて、夢にも思わなかった。




 そして前世の記憶を持ってると確信した時に今世の自分を客観的に顧みた。


 十歳にして同年代の友人より頭みっつぶんほど飛び抜けた身長。

 父親譲りのガッシリとした、骨太で肉厚の体。

 線が太くていかにも脳筋です!と言わんばかりの顔のつくり。


 髭クマ系の父親にそっくりな、言わば子グマ系男子だった。


 その時の絶望がわかるだろうか。

 友人達は線が細く、いわゆるイケメンだった。

 男の友達は多かったが村の女の子達は俺を見るとそそくさとどこかへ行ってしまう。

 村で一番かっこいい友達が女友達だと言い張る女子と出かけた日、俺はこれから先自分がモテない事をはっきり自覚した。


 その日は枕を濡らしたものだ。


 それでも少しでも強くなろうと鍛錬をし、村を出て冒険者になりがむしゃらに生きてきた。

 幸い体格に恵まれたので力は強く、モンスターは顔の美醜を気にしない。


 成人して大きな街へ移ってからも俺を見てはひそひそと何か囁きあう女性たち。

 目が合ったらさっと視線を逸らされる。


 それに意気消沈しながらひたすら冒険者として過ごしていたら、気づけば父親そっくりの髭クマ系オッサンになっていた。


 目をそらされるのが嫌で必要以上は自分からあまり人に話しかけなくなった。

 幼少期あれだけいた友人も村を出てからは特別親しくしている人もおらず、完全にボッチだ。

 ボッチ、多分一人ぼっちのことだろう。

 なんか響きが悲しい。


 ずっと戦っていたので冒険者として言えばかなり強い部類に入る。

 モンスターの討伐報酬で比較的裕福にもなれた。


 なのに、髭クマ系なのでモテない。

 どうせ転生するならテンプレ系超絶イケメンハーレム人生が良かったとふっと頭に浮かんだ。


 記憶があやふやすぎてテンプレ系超絶イケメンハーレムがなんの事かはちょっとよく分からないが、多分今より人と交流があるはずだ。


 冒険者ギルドに依頼されていたレッドドラゴンの討伐成功を伝え報酬を待ちながら、悲しくなってため息を吐いた。




 ザック・ドルングは知らない。

 この世界は力が強い人間の方がモテるということを。

 なまじ前世の記憶を中途半端に持っているせいで、髭クマ系がモテないと思い込んでいるザック・ドルングは気づかない。


 街の女性たちがザックを見ては頬を染めていたことを。

 ヒソヒソと囁きあっていたのはザックが思っていたような否定的なものではなく、むしろ好意的な噂ばかりだったことを。


 ザック・ドルングは気づかない。

 通常パーティを組んで活動する冒険者のなかで、ソロの冒険者としてA級にまで登りつめた数少ない冒険者だということを。


 余計な軽口は言わず寡黙でクールだと言われていることを。

 同年代から下の世代から憧れの眼で見られていることを。


 あまり人と関わらずに過ごしたせいで自分の感覚が少し世間とズレていることに気づかない。


 モテないのではなく、自分が寄せられるアピールに気付いてないだけだということを。


 誰にも靡かないザックを硬派だと思っている周囲も、また気づかない。


 ザックがただのちょっと頭の回転が遅い普通の男だということを。

 なまじこの世界で持て囃される見た目と、その強さのせいで気づかない。


 人間は自分の見たいものを見る生き物で、経験則以上のことに気づくことはとても難しいので。



 そうして本来ならモテモテハーレム人生も夢ではないはずのザック・ドルングは今日もボッチでモンスターを狩る。


「あー、せめてモテなくても友達が欲しいなぁ」


 ザックの心からの願いを聞いたのは、直後にザックに討伐されてしまうワイバーンだけだった。


世の中イケメンがモテるとは限らない。

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