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7.少女は結婚したい②



次は、お母様にでも聞いてみようかしら。

お母様は元々公爵家から、お父様のところへ嫁いできている。王太子の婚約者候補にもなっていたとも聞くから、侯爵家と縁を結ぶことに反対もあっただろう。


お父様の書斎をあとにして、お母様の自室に向かう途中、後ろから突然声をかけられた。


「リリィ!」


聞き慣れたその声に振り向けば、廊下の奥から小走りに近づいてくる姿が。


「お兄さま」

「昨日のことは聞いたぞ。怪我はないか?」


近づいてくる私より少し背の高い少年は、身内の贔屓目に見ても、かなり整った顔をしている。私とお揃いの翠の瞳に、銀色の長髪。すっと通った鼻筋には、シルバーの細いフレームの眼鏡が乗っており、知的な雰囲気が本人の魅力を引き立てていた。


「はい、たまたま通りかかった親切な方に助けていただきました。魔力を分けていただいて」

「……なに? では、リリィの力でここまで来たのか。そいつは信用できる人間なのか?」


そう、ただ私に対して過保護すぎるところが、玉に瑕だが。それさえなければ、成績優秀で眉目秀麗……自慢の兄なのだが。


「はい、とても優しくてカッコ良い方でした」

「……かっこいい?」


ピクリと、お兄様の眉が動いた。


「はい。わたくし、その方と結婚したいと思いまして、今家を出る方法を探しているんです。……お兄さま? ジルベールお兄さま?」


今度は、お兄様の動きがピタリと止まり、動かなくなった。

心配になって、顔を覗き込む。ひらひらと目の前で手を振るが、お兄様の焦点はあってない。


「大丈夫ですか? お兄さま?」


動かない兄のことが、いい加減心配になってきて、お父様かお母様を呼ぼうかしら、と一旦兄の目の前から離れようとした瞬間。


「リリアーヌ!!!」

「は、はいっ」


大声で名前をよばれ、両肩を強い力で掴まれる。あまりの大声に、驚き返事をする声が裏返ってしまった。


「どこのどいつだ……、僕のリリアーヌを誑かした不届き者は」


腹の底から絞り出すような低い声で、思いもよらないことを言い始めた。硝子の向こうに見える、緑の瞳が怪しく光る。


「わたくしは、お兄さまのものじゃありませんし、たぶらかされてもいません」

「可愛くて素直なリリアーヌが、家を出たいなんて。そんなことを言うなんて。どこのどいつだそんなことを吹き込んだのは」


私は兄を過大評価していたようだ。想像の数十倍、この兄のシスコン度合いは酷かった。


「……家を出る方法を教えてくれたのは、お父様です」

「何!? なんてことを言うんだ、それでも父親か!?」


興奮したお兄様は、今にも父の書斎に向かって抗議に向かいそうな勢いだ。このままでは、家庭崩壊免れないので、腕を掴んで兄を引き止めた。


「お兄さま、少し落ち着いて、わたくしの話をきいてください」

「こんな状況で落ち着いていられるか」


あまりにも興奮冷めやらぬ兄の様子に、野放しにしたら天災レベルで暴れるかもしれないと冷や汗をかく。不幸なことに、成績優秀な兄は、11歳という年齢ながら、大人顔負けの魔力量に、雷の特級能力を持っている。


――これは、本気で止めねば怪我人が出る。死人が出る可能性すらある。


「お願いだから、落ち着いて!!! お兄さま」



◇ ◇ ◇



「では、その男は本当にリリィを助けてくれただけだと?」

「そう何度も言っているではありませんか……」


どっと疲れた。結局殴り込みにいきそうなお兄さまを止めるために、普段誰も使っていない離れに一緒に瞬間移動して、なんとか宥めて昨日の経緯を説明した。アルノルト様は、本当に好意で助けてくれたに過ぎない。結婚したいと言ったのは、私が勝手に思ってるだけだから気にするな、と繰り返し説明した。


「いいですか? お兄さま。絶対に、アルノルト様に迷惑かけないでくださいね!」


何度説明しても面白くなさそうな表情をする兄に、不安しか感じなくて、強く念押しする。


「迷惑かけたら、お兄さまとは絶交です。一生口聞きませんからね」


ぜっこう、と、私の言葉にショックを受け、言葉を繰り返す姿をみて、少しだけ胸を撫で下ろす。これだけ、言っておけば、アルノルト様に迷惑はかからないだろう。


――だまっていれば、頭も良くて、かっこいいお兄さまなのに。


「ときに、賢くてかっこいいお兄さま」


褒めれば少しだけ嬉しそうに、お兄様は顔を上げた。言い方は悪いが、チョロすぎる。


「話は戻るのですが、わたくしが爵位を持たない男性と結婚するにはどうしたら良いと思いますか?」

「……リリィが爵位を継いで婿に迎えるか、リリィが家から独立して生計を立てるか」


私の問いに、お兄様は一瞬で苦虫潰したような顔になる。ただ私の言葉を無視はできなかったようで、心底に嫌そうに答えた。


「独立するにしても、他の家と縁を結べる以上にベヒトルスハイム家にメリットがないと、父様が許さないだろう」


諦めたようにソファに体を沈めながら、投げやりに答える。


「特産品で地域を盛り上げるか。公共事業に手を出すか。……どのみち簡単じゃないな。僕は、君が独立できないことを神に祈っておこう」


嫌そうにしながらも、答えてくれるところが、兄の優しいところだ。この兄は、実際に邪魔をしてくることもないだろう。


――なんだかんだ、妹に甘い。






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