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3.少女は帰宅する



初めて家族が私の力に気づいたのは、4歳のときだった。


それまでの私は、物探しや人探しが得意で、あっちの部屋にいるよ、お庭の花壇に落ちてるよ、とすぐに言い当てる子どもだった。だから、両親は私に探知系の能力があると考えていた。


「……リリィ、今、何をしたの」

「? かたづけておいたの」


目を見開き固まった母の顔を今でも覚えている。

ソファに一緒に座って、絵本を母に読んでもらっていた。そろそろ夕ご飯の時間ね、お片付けして食堂に向かいましょうか、そう笑った母に頷き、私は手元の絵本を自室に片付けた。


そう、私は片付けたのだ。


「わたしのおへやの、ほんだなにかたづけたの」

「……本当なの?」


何を驚いているのか分からなくて、首をかしげると、同じ部屋にいたメイド頭が慌てて部屋を出た。いつもは落ち着いているはずの彼女が、音を立ててドアを開けるのも初めて聞いたし、ドアを開けたまま廊下を走り出すなんて信じられなかった。


「……お、奥様! 本当にお嬢様のお部屋の本棚にございました!」


大きな足音を立てて、走ってきた彼女の手には、先ほどまで私の手の中にあった本があった。せっかく片付けたのに、どうしたんだろう。


「リリィ、もう1度お片付けできる?」

「……う、ん。できるよ」


メイドの手から絵本を受け取り、お部屋に片付ける。メイドが再び慌ただしく部屋を出ていき、また同じ本を持って帰ってくる。


「なぜせっかくかたづけたのに、なんどももってきてしまうの?」

「リリィ、本当のことを話してね。……貴女が手を使わずに運べるのは、どんなものかしら?」


いつもニコニコ笑っている母の顔が、真剣な物だったので少しだけたじろいだ。何かいけないことをしたのだろうか。


「? おもいものは、ちからがたりなくてできないとおもう」

「そう。たとえば、母様やリリィ自身を運ぶことはできる?」


お母様は無理そうだけれど、自分ならもしかしたら出来るかもしれないな、とそのとき直感的に思って、自分を動かした。


距離にしたらたったの数十センチ。

私は、お母様の近くからから、入り口に向かって移動した。


「あるいたほうがはやいわ」



ーー当時の私は知らなかったのだ。


この国には、目の前で体を動かせば出来ることを代わりに能力で実行できる人間が数万といる。魔力を使った特殊能力がありふれた国だ。物を浮かせて運んだり、洗濯物を洗ったり、貴族から平民までいろんな仕事を能力に頼っている。


そんな中でも、魔力を使い感覚や能力を広げたり、強めたりすることができる人間は千。大抵は能力さえあれば就職には困らないと言われる。


炎や水など自然を操る能力者は、かなり珍しく国中探しても百もいないだろう。望めば、ギルドや、軍の要職への道が約束される。


自然には発生し得ない現象を操る能力者は、一度に十も生まれない。不治の病気を治す、他者を呪う、時間を操る、……瞬間移動をする。国の最重要管理対象だ。





◇ ◇ ◇




次の瞬間、私たちはお父様の書斎にいた。


「っ! リリアーヌ!!」


険しい顔をしたお父様は、私と目が合うといつもは細い目を大きく見開き、私の元へと駆け寄ってきた。痛いくらいに抱きしめられたあと、身体中をペタペタと触られる。


「怪我はないか!? 私が不甲斐ないばかりに、怖い思いをさせて本当にすまない」


お父様に抱きしめられたタイミングで、アルノルト様の温かい手と繋いだ手が離れてしまって、少しだけ寂しかった。


「はい、しばられていたうでが少しだけ痛いですが、ほかは大丈夫です」

「それは不幸中の幸いだ。……一体どうやってここまで、無茶はしていないだろうね?」


お父様に事情を聞かれて、隣に立っていたアルノルト様を紹介した。


「こちらの、アルノルトさまが、犯人からかばって連れだしてくださいました。魔力もお借りしてここまできました」

「お初にお目にかかります、ベヒトルスハイム卿。アルノルト・エーベルハルトと申します」


アルノルト様は、右手を体に添え、右足を引き、自然にお父様に対して頭を下げた。やはり貴族の生まれだったようだ。


貴族だと魔力量も多くなるから、炎の使い手であるアルノルト様が貴族の生まれであることも納得できた。


「エーベルハルト子爵のところの……」

「三男で家から出ることは決まっておりますので、こうしてご挨拶することすらおこがましいことですが」


頭を下げるアルノルト様にお父様が慌てて近寄る。


「そんなことはないよ。娘を助けてくれて本当にありがとう。君がいなければどうなっていたことか」


少しだけ話がしたいんだが構わないだろうか、と問いかけるお父様に対して、アルノルト様が頷く。上位貴族からの誘いに対して、断れないのもあると思うが本当に大丈夫だろうか。


「リリアーヌは、身体も冷えているだろう。湯を用意させるから、湯浴みでもしてきなさい」

「えっ! いやです。わたくしも、アルノルトさまとお話ししたいです」


思いもよらない、お父様からの提案に食い気味で反対意見を述べる。せっかくアルノルト様とお話しできる機会なのに、1人だけ仲間外れは嫌だ。


「そうは言っても、そのままではリリィの身体が心配なんだ。……今日は時間も遅いし、アルノルトくんには客間を用意するから安心して温まっておいで。明日の朝にみんなで食事をすればいいだろう」

「でも、お父様……」


未だに渋る私の様子を見かねて、アルノルト様が私の横に寄ってきて腰を落とした。先ほど、魔力を分けていただいた時のように、両の掌をぎゅっと握ると、彼は口を開いた。


「リリア嬢。やっぱり身体も冷えてるみたいだから、温まっておいで」

「でも……」


未だに決心のつかない私を見て、彼は青い優しい瞳に笑みを浮かべた。


「大丈夫。リリア嬢が帰ってくるまで、待っているよ。寝る前に少しだけお話をしよう。行っておいで」

「わかりました、絶対にあとでお話ししましょうね。……行ってまいります」


本音は嫌だったが、聞き分けのない子だと思われるのも嫌で、アルノルト様の両手を離した。でも、話した後にやっぱり名残惜しくて、同じ目線にしゃがんだアルノルト様にハグをしてから、お父様の書斎の扉を潜った。


お父様に、絶対にアルノルトさまに失礼なことしないでください、と釘を刺すのも忘れずに。




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