第53話 勧誘
シャル様を追いかけて行った先で、待ち受けていたのは暗闇だった。
肌に触れるざらりとした奇妙な感覚を受けて、まず最初に「しくじった」という思いが滲む。
結界のようなものの中に閉じ込められた。
シャル様を見失ってしまったことに不甲斐なさを感じつつ、同時に普段のわたしならむざむざ入り込む前に気づいてみせるのに、という悔しさもある。
どうしてこんな結界にむざむざと閉じ込められてしまったのか。
理由は…………分かっている。心が乱れていたからだ。心が穏やかじゃなかったからだ。
アル様とシャル様。二人が仲良く……違う。恋人のように仲睦まじく、甘い時間を過ごしていたから。それを眺めていることしか出来ないから。
普段ならこんな感情、心の奥底に仕舞えるのに。
ルーチェ様の一言がきっかけで揺らいで、アル様にあんなにも触れることが出来て……心が揺らいだ。
浅ましい。未練がましい。
記憶もない。何もない。空っぽの、薄汚い子供の分際で、一体何を望んでいるのだろう。
普段から傍に居るから勘違いしそうになるんだ。分不相応な望みを持ってしまうんだ。
わたしはわたしが嫌いだ。アル様にとって邪魔にしかならない感情を持ってしまったわたしが、大嫌いだ。こんなもの消えてしまえばいいのに。なのに、消えてくれない。どれだけ願っても消えてくれなくて、笑って、茶化して、誤魔化すことしか出来なくて。
…………わたしがこの結界に閉じ込められたのは、かえって良かったのかもしれない。
少なくとも独りで居られる。時間をかけてこの胸の中にある邪魔な感情を押し込めることが出来る。底に。底に。ずっとずっと先にある、奥の底に。
「ごきげんよう――――マキナさん。少しだけお話、よろしいですか?」
聞いているだけで癇に障る声と共に現れたのは……ルシルだ。
すぐに『機械仕掛けの斬撃型』を展開して臨戦体制に移行する。
「…………そんなことだろうとは思ってましたけど、やっぱりアナタでしたか。丁度いいですね。すぐにぶっ潰して、牢屋にぶち込んでやりますよ」
「ふふっ。苛立ってますねぇ。……まあ? シャルロットさんがあれだけ甘ったるい恋の味を漂わせていたら、そうもなっちゃいますか」
その何もかもを知っています、とでも言わんばかりの語り口がますます苛立つ。
……いや。落ち着け。それが相手のやり口なんだ。きっと。
正直レオル様にはあんまり良い印象はなかったんだけど……今なら、同情は出来る。このクソムカつく女の被害者であるという点では。
「『機械仕掛けの斬撃型』……アナタが持つ、『王衣指輪』モドキ……」
ルシルは私の右腕や右足に展開されている機械仕掛けの魔導装備をじっくりと観察すると、
「まだ未完成のようですね。少なくとも、私が知っている姿とは形状が異なりますし」
「なっ……!?」
彼女の言葉に、思わず反応を示してしまう。そのことに気づいて唇を噛む。
またしくじった。くそっ。動揺した。してしまった。そんなわたしを見て、ルシルはくすくすと余裕げに笑う。
「その様子だと、まだ記憶は戻ってないようですね?」
「……なんで、そんなことを…………」
「だって、知ってますから。アナタが何者なのか。一体どこの誰なのか」
「…………っ!?」
一瞬で、頭の中が真っ白になった。
――――わたしには記憶がない。唯一覚えていたのは、この「マキナ」という名前だけ。
気づいたらこのガーランド領にある森の中で、独りぼっちで倒れていた。それ以前のことは何も覚えていない。
わたしは……過去のわたしのことを、知らないままだった。
「…………知ってるの? わたしの、こと……」
わたしが剣を下ろすと、ルシルは静かに頷く。
「ええ。知ってますよ? 記憶を失う前のアナタのことをね」
ルシルが、近づいてくる。
「教えてあげましょうか?」
かつん、かつん、と。
「アナタの知らないアナタのことを」
一歩ずつ、優雅な足取りで。
「………………何が、望みなの」
「大したことじゃありません。ただ……」
「……………………」
「私に協力してほしい、とだけ」
悪魔が、囁く。
「知りたいんでしょう? 自分の過去を。自分が何者なのかを」
わたしは……わたしは――――。
「――――――――っ……!?」
一閃。
振り上げた刃の一撃が、ルシルの片腕を斬り飛ばした。
「なっ…………!?」
「いや、別にいいです。知らなくても」
不意打ちの一撃を喰らわせ、間髪入れず二撃目。
ちょこまかと逃げられないように両脚を切り落とし、ルシルを地べたに這いつくばらせる。
「生憎と、過去に興味はあっても執着はないんです。マキナちゃんは現在を楽しんでる系メイドさんなので」
――――わたしには記憶がない。唯一覚えていたのは、この「マキナ」という名前だけ。
気づいたらこのガーランド領にある森の中で、独りぼっちで倒れていた。それ以前のことは何も覚えていない。
……でも、それから後のことなら覚えている。毎日必死で生きた。独りでずっと生きてきて、限界が来て……アル様に拾ってもらった。アル様がわたしに日常をくれた。幸せをくれた。
それだけでいい。それさえあれば、何も要らない。
「あはっ……こんなことを、しても……私は……何も喋りませんよ……?」
「でしょうね」
地べたを転がるルシルの首。そのすぐ横に刃を突き立てる。
「……情報を……奪えなくなってもいいんですか……?」
「お前を放置してアル様に害が及ぶ方が、わたしにとっては最悪なので。それに……」
どうせこいつは何も喋らない。こういう手合いのことは分かっている。
わたしは何の躊躇いもなく刃を横に走らせ、ルシルの首を刎ねる。彼女の身体は瘴気の欠片となって砕け散り、霧散した。
「……どうせ偽物でしょ」
「あ、やっぱり分かっちゃいました?」
ルシルは、けろっとした顔で、どこからか姿を現す。
「実はさっき油断して、一発喰らっちゃいましたからねー。今度はちゃーんと警戒しておいたんです。……といっても、今のアナタの魔力では、私を斃せませんが」
「……何がしたいんですか?」
「取り引きをしにきたんです。けれど……うん。やはりアナタが欲しているのは、別のものだったみたいですね。大方の予想はついてたので、特別驚きはしませんが……ほんと、人間ってよく分からないですねぇ。ソレが、自分の過去より大事ですか?」
「知ったような口を……」
「知ってますとも」
人を小ばかにしたような悪魔の微笑み。
こんなのに付き合うのもバカバカしい。たとえ斃せないにしても、アル様のために少しでもこいつを消耗させておいた方がいい。
「マキナさん。私は、アナタの望みを知っています。そしてその望みを叶える方法もね。簡単なことです。だって……」
剣を構えて、呑気に口を動かすルシルへと飛び掛かり――――
「 」
「――――っ……!?」
剣が止まる。ルシルの眼前で、刃が制止する。
あと少し腕の力を加えればいいだけなのに……わたしの腕は、それ以上動いてはくれなかった。
「……どう、いう…………」
「どうもこうも、そのままの意味ですけど?」
「ありえない! デタラメ言うな!」
「デタラメじゃありませんよ。真実です」
動け。動け動け動け動け動け。
なんで。どうして。動いてくれないの。あと少し。ほんの少し刃を振るうだけで。
アル様に害をなすこいつの首を刎ねてやれるのに。
「……ま、急にこんなコトを言われても、混乱しますよね? 信じられませんよね?」
ルシルはくすくすと嗤いながら。わたしの耳元に囁きかける。
「でも……事実であってほしいと、真実であってほしいと、思ってるんですよね? だってこれが本当なら、アナタは欲しいものに手を伸ばすことが出来るんですから」
「…………っ……!」
「あはっ。露骨に表情を変えちゃって……」
何も言い返せない。言葉が出てこない。ただただ歯を食いしばることしか出来ない。
「浅ましい」
だって、いま、口を開いて、しまったら、わたしは、きっと――――
「……っ…………っっっ……!!」
――――この悪魔に、縋ってしまう。
「信じるも信じないも、マキナさんのご自由に。せいぜいゆっくり考えてみてくださいな」
ルシルはするりと目の前の刃から抜け出して、わたしの手にメモのようなものを握らせてきた。わたしはそれをただ、黙って受け入れることしか出来なくて。
「その情報は、お近づきの印に差し上げますよ。こちらとしても信頼していただきたいですしね」
わたしを横切り、ルシルはどこかへと歩いていく。
かつん。かつん。かつん。と、足音が遠ざかっていく。
「『土地神』の浄化、頑張ってください。……お返事はその時に」
悪魔の足音が聞こえなくなるまで――――わたしはその場から、一歩も動くことが出来なかった。
☆
「領主様ぁ? ……ここだけの話、あんまし良い印象はないんだよなァ」
「いつも偉そうだし、いばってるし、横暴だしねぇ」
「あの豚野郎、まーた税を上げてきやがった。これ以上は勘弁してほしいぜ」
柄にもない説教紛いのことをしてから、俺はネネルと共に街を散策していた。
ただ目的もなく外をうろつくだけではなく、ついでに領民から領主についての話を聞いて回っていたのだが……。
「…………分かっちゃいたことだが、評判悪いなぁ、あの豚野郎は」
びっくりするほど評判が悪かった。そりゃそうだ。俺だってそう思う。むしろこれで慕われていたら称賛していたところだ。詐欺師として。
「ねぇ、なんであんな豚の話をみんなから聞いて回ってるの?」
「お前は相変わらず他人に対して容赦がねぇな」
思えば、ネネルは俺のことだってエロエロ男などという不名誉なあだ名をつけるしな。
「……ま、簡単に言えばだな。あのシミオンって豚野郎は、俺やルチ姉を陥れようとしてるんだよ。恐らく今日にでも妨害工作を仕掛けてきてもおかしくはない。だから……」
「だから?」
「弱みでも掴んで脅せないかなと」
「普通に最低でびっくりした」
「やかましいわ」
本当に遠慮がないやつだなこいつは。
「それに、なんか悪者っぽい。そんなんだと友達出来ないよ」
「…………言うじゃねぇかよ」
つい最近まではその悪者という役割を演じて生きてきただけに、子供の一言がぶっすりと刺さる。
「もしかして友達いないの?」
「やめろ! 普段は辛辣な物言いのくせにこんな時だけ哀れむな!」
「……なってあげようか? 友達」
「ちくしょおっ……ちくしょぉぉおっ……!」
なんだこの凄まじい敗北感は!
「友達の件は置いといてだ。……おい。こらそこ。哀れみの視線をやめろ。『露骨に話を逸らしてるな。やれやれ乗っかってやりますか』みたいな目で見るのはやめろ」
ネネルのたっぷりと哀れみの籠った視線を無視しつつ、
「と、とにかく! 豚野郎のことをなんとかしないとこっちも公務どころじゃないんだよ。浄化の最中に妨害が入ればシャルにも危険が及ぶだろうからな」
「なんだ。女の子に良いかっこしたいだけじゃん」
「そんなんじゃねーよ。……ま、お子様にゃあ分からないだろうなぁ。デキる男の気遣いってやつが」
「友達いないくせに」
「躊躇なく禁止カード切るな」
こんだけ遠慮なく言えるのなら、こいつも少しは心の整理がついてきたってことかな。
(我ながら、柄にもねぇことしてるなぁ……)
子供のお守りなんて我ながら柄じゃない。それこそ少し前までの悪役なら、『土地神』に代わって憎しみの矛先を自分に向けさせる……とかしてただろうな。そっちの方が効率が良いし、実際、こうしてネネルの心の整理がつくようにしているのも効率の面でいえば悪い。
でも、今の俺はそのやり方を止めた。自分を使い、傷つけるようなやり方は卒業した。
効率は悪いのかもしれない。けれど……たぶん、きっと。ネネルの心には、こっちの方がいい。前までのやり方だったら、俺だけじゃない。ネネルや、色々な人の心を傷つけていたかもしれない。
(そういう意味じゃ、シャルに感謝だな。それと……)
ふと、浮かんだのはマキナの姿。子供の頃からずっと一緒で、俺についてきてくれて。
悪役を演じ続けることが出来たのも、マキナが右腕として支えてくれたからこそ。実力もそうだが、普段のおちゃらけた言動にも助けられることも多い。あいつが傍にいてくれなかったら、どこかで心が折れてたかもしれない。
(考えてみれば普段から世話になってばっかだしな。特に最近はレオ兄のことやガーランド領の下調べのことで働いてもらうことが多かったし、たまには労いの意味を込めて何か贈るか)
辺りに視線を巡らせてみるが、あるのは所謂、観光者向けのお土産の類が多い。
普段のお礼に贈るものだしお土産を渡すのもなんか寂しいな。とはいえ、問題は何を渡すかだな。あいつ、普段はあんななのに意外と物欲がないというか……俺が物をあげようとしても遠慮することが多いんだよな。特に手元に残る物は受け取らないことが多い。
食べればなくなる食い物系なら受け取ってくれることが多いから、そっちで攻めてみるか? 本人が要らないものを渡して押しつけがましくなっては感謝の意味も薄れる。
あいつの給料でも中々、手が出せないぐらい美味いものでも奢ってやるとしよう。シャルも連れて行って、みんなで食えばいいし。
「なぁ、ネネル。この辺に――――」
「………………」
「どうした?」
「な、なんでもないっ」
「本当になんでもないやつはなんでもないとは言わないんだよ」
下手な言い訳を指摘してやると、ネネルのお腹から可愛らしい音が鳴った。
ついでにさっきまでネネルが見ていた方には、美味そうな香りを漂わせる露店があった。どうやらガーランド領産の動物肉で作った串焼きのようだ。豪快に浸されたタレの香ばしいにおいが食欲を刺激してくる。
「そろそろ昼時だしな。腹も減るか」
「……っ…………!」
ネネルは恥ずかしそうにそっぽを向く。どうやらお腹の音を聞かれたのがそうとう恥ずかしいらしい。
「別にそんなに恥ずかしがることもないだろ。誰だって腹の音は鳴るもんだ」
「う、うるさいっ! デリカシーないとモテないって、お母さんが言ってたよ!」
「くっ……! 人が秘かに気にしていることを的確に……!」
よくマキナからも鈍い鈍い言われることがあるからな。じみーに気にしてるんだ。本当にじみーにだけど。…………本当の本当に、そんなに気にしてないんだからな!
「はいはい。デリカシーがなくて悪うございましたね。……とりあえず飯にするか。お前も要るだろ?」
「た、食べたいなら一人で食べればっ。あたしは要らない。『土地神』を浄化しようとする王族から施しは受けないもんっ」
「また小難しいことをいっちょ前に……あっそ。じゃあ、俺だけで食っちゃおうかなぁ。おーい、おっちゃん。串焼き三本頼むわ」
「あいよっ」
露店を営んでいるおっちゃんは愛想の良い元気な返事をすると、ぱぱっと串焼きを用意してくれた。指定の金額を支払い、串を受け取る。ネネルは興味の無さそうにそっぽを向いていたが、チラチラと視線を向けていることはバレバレだった。
「本当に要らねーのか?」
「い、いらない……」
「そうか。じゃあ俺が全部食っちまおうかなー」
ひとまず一本目にかぶりつく。……おおっ。噛んだそばから濃厚な肉汁が溢れてくる。ソースも絶妙だ。濃い味付けながら肉の味を引き立てている。焼き加減も丁度いい。固すぎず柔らかすぎずで満足度が高い。
「……………………」
「あー、美味いなぁ。これを食べないなんて勿体ない」
ネネルがめちゃくちゃ見てくるが、あえて見なかったフリをして、そのまま二本目にもかぶりつく。
「うーん。この濃厚なタレがまた絶品だぜ」
「…………………………………………」
……強情だな。仕方がない。こっちが折れてやるか。
「あー……美味いけど、もうお腹いっぱいになっちまったな。捨てるのも勿体ないし、誰かが代わりに食べてくれればなぁ……」
「…………………………………………!」
おっ。あからさまに反応を示したぞ。身体がぴくって動いてたし。
「誰か俺の代わりに食べてくれないかなぁ……」
「………………………………あ、あたしが代わりに食べてあげても……いいけど?」
「そうか。んじゃ、頼むわ。ほら」
「…………っ……! うんっ!」
ぱあっと笑顔を弾けさせて三本目の串を受け取るネネル。
そのまま夢中で肉にかぶりつき始めた。……ふぅ。やっと受け取ってくれた。
一息ついたところで、俺も串に刺さった残りの肉をかじっていく。
そんな俺を、ネネルは不思議そうに見ていた。
「なんだよ。欲しいならこっちもやろうか?」
「そうじゃなくて……なんか、へんなの」
「何が」
「だってエロエロ男は、王族なんでしょ?」
「その呼び方はいい加減マジでやめてほしいが、そうだな」
「王族の人って王宮でオシャレなお菓子とか、綺麗なテーブルでとっても豪華な料理を食べるんじゃないの?」
「普通はそうだろうなぁ。けど俺の場合、ちょっと普通とは違うからな。王都の街に出て買い食いすることなんかしょっちゅうだし、むしろ街で食事を済ませることも多いぐらいだ」
「…………ヘンなの。エロエロ男は、思ってた王族と違うんだね」
「逆にどんなイメージを持ってたんだよ」
「あの豚領主みたいに偉そうにして、威張ってばかりで…………お父さんに偉そうに命令する人だと思ってた」
「お前の父親って…………」
「彫金師だったの」
ネネルは串焼きを食べる手も止まり、俯きながら言葉をぽろぽろと落としていく。
「この領地で一番の彫金師で、『土地神』に奉納する指輪を作ってた。あたしの指輪を作ってくれたのも、お父さんだったの」
「…………ガーランド領の彫金師のことは知ってる。優秀な職人さんだったんだってな」
「うん。お母さんも、あたしも、お父さんの作る指輪が好きだった。……お祭りで奉納する指輪もね、頑張って作ってたんだよ。いつもあたしたちや、この土地を守ってくれる『土地神』様への感謝の気持ちを込めるんだって。一生懸命、作ったのに…………」
頑張りも。一生懸命さも。報われることはなかった。
死という結果だけをネネルにもたらした。
「だから嫌い。『土地神』なんて大嫌い」
「…………そうか」
ネネルの吐き出した感情を否定することは出来ない。
俺だって同じ立場に居たら『土地神』を嫌悪していただろう。だから否定はしない。あいつがどんな道を選ぶのかも、その選択は全て委ねる。
色々なモノを視て、知って。その上で復讐を選ぶのなら。俺はその選択を止めはしない。
「……あの豚領主も嫌い。あいつ、お父さんに偉そうに命令するんだもん。いつも言い争ってたし……」
「言い争ってた?」
「うん。よく分かんないけど、指輪作りのことで揉めてたみたい。奉納の役目でも、何か揉めてたし」
「奉納の役目って、いつもは誰か決まってるのか?」
「そうだよ。『土地神』に指輪を奉納する役目は、いつもお父さんがやってたもん。でも……今回は、豚が自分のところの兵士も連れて行けって、半ば無理やり同行させたの。結局、何も役に立たなかったけど」
兵士を連れて行くように指示したのは……表面から見れば「瘴気で汚染されて危険だから、奉納者の護衛として」という解釈が出来なくもない。
だが、確かマキナが調べてくれたところによれば……。
「実際の犠牲者は、奉納者の彫金師と、奉納に同行していた領民たちのみ。領主の兵士に関しては何も記載がなかったはずだ」
「うん。お父さんやお母さんみたいに、普段から奉納に関わってる人たちはみんな死んじゃって……あの兵士たちだけが生き残ったんだ」
「それはまた随分ときな臭いな」
つまり、シミオンと揉めてた相手が都合よく死んだ、ということになる。
「…………丁度いい」
串焼きを食べ終えた後、すぐにネネルを連れてその場を離れる。
マキナと合流したいが……居場所が分からないな。かといってネネルを放置してはおけない。
「お前を目の届かない場所に置いておく方が危険だしな……ネネル。悪いが、ちょっとばかし付き合ってもらうぜ」
「え? な、なに?」
ひとまず路地裏に入り込んで、その先に在る人けのない場所へと誘い込む。
ちょうど小さな広場のような場所を見つけたので、そこでピタリと足を止めた。
「なんでこんなところ来たの? 何もないけど……」
「ここの方がお話しやすいと思ってな」
俺は周囲にいる、姿を見せない何者かたちへと向けて、声をかける。
「出て来いよ。遊んでやる」




