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第15話 篝石の洞窟

 倒した。倒れた。

 時間が経つごとに、それは確信に変わっていく。


「あー……疲れた」


 急に向こうが盛り上がったりして、勢いが増した時は驚いたけど。

 何とかなったみたいだな。魔指輪リングは砕かれてしまったが、予め外しておいた『王衣指輪クロスリング』を使わずに済んでよかった。


 デオフィルが意識を失っていることを確認してから、ひとまず彼の指に装備されている『誓砕牙クランチ』を含めた魔指輪リングを回収していく。


 こっちの魔指輪リングは砕かれちまったからな。ついでに利用させてもらおう。得意属性とも合致しているようだし。


「『大地鎖縛バインド』」


 回収した『大地鎖縛バインド魔指輪リングを使わせてもらい、土属性の鎖でデオフィルを拘束する。

 ついでに服を調べて懐に忍ばせたり仕込んだりしている武器も取っ払う。魔指輪リングも回収したし、これでデオフィルは無力化されたといってもいいだろう。


「……ホントに勝っちまいやがった」


 思わずといった様子で言葉を零したのはエリーヌだ。

 デオフィルにはこっぴどくやられたせいか、抜けたような顔をしている。


「もう大丈夫だ。泣いて喜んで感謝したっていいぜ」


「はっ……言うじゃないか。まあ、何にしても助かったよ。クソガキ王子。いや……」


 エリーヌはどこか彼方にある過去を懐かしむような、柔らかい表情を見せた。


「……アルフレッド」


 多少は認めてくれたのだろうか。だったら俺も、少しは礼儀というものを返してやらないといけないのかもしれない。


「ま、そっちも大怪我が無くて何よりだ、ババア。いや……エリーヌ」


「おいコラクソガキ。今ババアって言う意味はなかっただろ」


「うるせぇ。テメェも呼んでるからお互い様だろうが」


 これだけ言い合えるということは、エリーヌの怪我は本当に大したことがないらしい。


「アルくん!」

「アル様!」


 戦闘が完全に終息したことを見たシャルとマキナが駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか!? どこか怪我は……!」


「特にないよ。あってもかすり傷程度だし」


 返事をすると、シャルはほっと息をついて安堵した。

 隣ではマキナが呆れ気味だ。


「まったく……ひやひやしましたよ。よりにもよってA級賞金首とタイマンはるんですから」


 マキナが焦るとは珍しい。だいたいいつも心配をかけてる気がするが、今回はちょっと無茶が過ぎたみたいだ。


「悪かったな。心配かけて」


「……ま、別にいいですけどね。心配させられるのはいつものことですし? マキナちゃんは健気系メイドさんなので、慣れっこなのですよ」


 すぐにいつもの調子に戻るマキナ。

 二人に心配をかけてしまったことに多少申し訳ないと思いつつ、俺の関心はデオフィルたちが入り込もうとしていた洞窟の入口へと向けられていた。


「気になるのかい」


「そりゃあな」


「はっ……まあいい。助けてもらったんだ。見るぐらいの権利はあるだろうさ」


 エリーヌは立ち上がると「ついてきな」とだけ言い、洞窟の中へと入っていった。

 俺たちもまたその後ろをついていく。洞窟の中を進んでいくと、ぽっかりと空いたような開けた空間に出た。


 ドーム状になっているその空間は、壁や天井から結晶が剥き出しになっており、仄かな光を放っていた。薄暗くも全体が淡い光に囲まれているその景色は、神秘的でありながらもどこか温かさを感じさせる。


「綺麗……」


 隣では景色に見惚れているようなシャルが、無意識の内に感想を呟く。

 確かにこの景色は……綺麗だ。見ていると不思議と心が落ち着いてくる。


「この結晶は……篝石かがりいしか」


「あー。あの魔力で発光するやつですか。魔道具にもよく使われてますよねー」


「ここいらは純度の高い天然の篝石が採れるのさ。暇な時は、ここでよく飲むんだよ」


 エリーヌはそのまま、空間の中心まで歩いていく。その背中についていくと、この空間の中央にあるものが建てられていることに気づく。


「墓……?」


 天然の篝石とは違い明らかに人為的に建てられたソレは、墓だ。

 エリーヌはその土を黙々と掘り、地中から包みにくるまれた何かを取り出した。心なしか大切そうな手つきで包みを解いていく。その間、エリーヌは一切喋らなかった。


 包みの中から現れたのは……神秘的な金色の輝きを宿した、魔法石。


「凄い……! こんなにも純度の高い魔法石は初めてみました……!」


「俺もだ。単純な質だけで言えば、『王衣指輪クロスリング』に使われてもおかしくはないな。こんな魔法石、滅多にお目にかかれるものじゃないぞ」


「……さっきの盗賊共の狙いは、おそらくこいつだろう」


 語るエリーヌは、言葉も表情もどこか固い。

 しかしなぜこんなものが墓の下に埋められていたのか。それに『彫金師』であるエリーヌがこれを魔指輪リングに加工していないというのも気になる。


「……なんであたしが、これを加工しないのかって顔をしてるね」


「そんな顔をしたつもりはないんだけどな」


「書いてあるさ。ま、当然の疑問さね」


 黄金の輝きを瞳に捉えるエリーヌ。しかし彼女の眼は、目の前の景色を映していないように見えた。それは恐らく遥か彼方。いくら手を伸ばそうとも、二度と届くことのない久遠。


「……アンタらには借りが出来た。盗賊共がこいつらを狙って、そいつらとの戦いに巻き込んじまった以上……話さないってわけにはいかないんだろうね。それが筋ってもんだ」


 どこから語るべきなのか考えているのだろう。エリーヌは少しの間だけ無言になった後……。


「そもそも、このちっぽけな魔法石。こいつはね――――」


 彼女は息を吐き、その真実を言葉に変える。


「――――元は、人間だったのさ」



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