ーなぜこの世はこんなに狭いのだろうか?ー
今、何時何分だろう?
そんなことを考えながら、
俺、田中晴翔はある疑問にも駆られていた。
ーなぜこの世はこんなに狭いのだろうか?ー
別に居場所がないわけではない。 ただ、『この世は優勝劣敗なのだ。』
強いものは勝利し、弱いものは敗北し続ける。
この世での敗北は、’’死’’ を意味する。
しかし、俺は幸運にも才能に恵まれている。
この世界では、10歳から20歳までの10年間、毎年体力試験がある。
体力試験といっても少し変わったものかもしれない。
五竜(黒竜、青竜、黄竜、白竜、赤竜)や、ワイバーンと呼ばれる竜と戦ったことがある。
もちろん丸腰で戦うなんてことはしない。
俺たち、奇跡族は一人一人違う才能を持って生まれる。
嵐系や氷結系、またマグマ系、天震系などいろいろな才能がある。
そして俺は、聖なるものしか、与えられないとされる『解析・付与』という
才能を与えられた。
普通、才能は一人につき一個だけしか持てないそうだ。
ごく一部を除いて・・・。
稀に両眼が紅赤色で、髪が青碧の子供が生まれる事があるが、
そのような場合のみ複数の才能を持ち合わせるようだ。
俺は、この2つの条件を十分過ぎるほど満たしていた。
さて俺の才能についてだが、
『解析』は言葉の意味通り、相手の力や潜在能力がどれほどのものか測ってみたり、
そこらへんに落ちているものだって測ることができる。
『付与』はこの世に存在する能力や才能を
自分や相手に宿すことができるという力がある。
俺は今20個の才能、49個の能力を持ち合わせている。
・・・・そういえば、今からちょうど1ヶ月後に
体力試験があるんだった!
よし!練習でもしに行くか!
俺は自分の家から出て、『瞬間移動』でいつもの練習場へ行った。
俺が着くといつも出迎えてくれる奴がいる。
深井玲といい、一応友達だ。
「晴翔〜! 一緒に練習やろう!」さっそく来たみたいだ。
「おう!何処でやる?」
「うーん、どうしよう?ここにあった練習場は晴翔が全部破壊しちゃったし・・・。」
「ははは、ごめんな。」
ふと、俺はあることを思いつく。
「空中でやるのはどうだ?」
「・・・あ、ああ、いいね。それだったら壊れるものもないし!」
玲の了承を得たところで、俺はまず玲に『身体操作』の能力を付与することにした。
飛べないと空中戦ができないからな!
まず、俺が脳内で身体操作の様子を思い浮かべなければならない。
俺は『身体操作』で背中に翼を生やし、飛ぶ時の様子に全ての感覚を集中させた。
・・・よし!これでOKだ!
あとは『思考訓導』により、玲にその感覚を定着させてから能力を付与するだけだ。
俺は玲の頭の上に手を乗せた。
その瞬間、玲の顔から笑いが消え失せ、「真剣」そのものとなった。
何を覚悟してるんだか・・・?
「よし、じゃあやるぞ?いいな?」
「うん、よろしく!」 玲は目をつぶり、拝むようにして手を合わせた。
俺に拝んでるのか? ・・・てか俺は神じゃないぞ?拝むな!
俺はさっそく実行することにした。もう後には戻れない。
俺は『思考訓導』を発動した。
玲に乗せた手の平から紅碧色の赤とも青とも言い難い光が漏れ出てきた。
その光がなくなってすぐ、俺は『付与』をし始めた。
今度は金剛色の光が溢れ出してきた。
俺はその光が消え失せたところで、手を離し、
「もういいぞ。」と言った。 玲がやっと目を開けた。
「よし!じゃあまずは、細胞一つ一つに神経を集中させて、
翼を背中から生やすことだけを考えるんだ。」
「うん、わかった!」快い返事が返ってきた。
その後・・・翼は生えたものの、
脚から生えてきたり、脇から生えてきたり、手から生えてきたり・・・
上手く背中に生やせないのだ。
「いいか?背中に眼があると思え! そうしたら生えてくるはずだ!」
俺は半分冗談で言ったはずだった。が・・・生えた!
信じられない!
「じゃ、じゃあ次は行きたい方向を見ながら、肩を前後に動かせばいい。
それだけだ。」
「ふーん?意外と簡単なんだね?」そう言って玲は飛んで行った。
しかし、案の定、ドスン!と鈍い音を立て墜落した。
おそらく、止まろうとして肩を前後に動かすのを怠ってしまったのだろう。
その点を指摘し、もう一度玲を飛ばせてみた。
上手くいった。さっき注意した点も改善されている。
まあ、俺はわざわざ翼なんか生やさなくても、
『空中歩行』で歩いていけるのだが・・・。
うーん、玲だけずっと肩を動かしてるのは疲れるからなあ・・・。
あ!そうだ!
俺は『空間操作』の能力で、空中に練習場を作った。
ここだっただら誰の邪魔にもならないだろう。
どうせ壊れても元の空間に戻るだけだし!
「よし!準備も整ったし、練習やるか!」
てか、能力付与する必要なかったじゃん! まあいっか!
「うん、ちょっと待ってね!」そう言い玲は降り立ってきた。
翼を無くす方法は教えた覚えがないんだが?
まあ、教えるな手間が省けたということで、喜んでいいのかな?
「じゃあ手加減はいらないから、本気でかかってきてね。」
こいつは本気で言っているのか?
俺が本気になったら、良くて粉砕骨折、悪かったら走馬灯を見ることになるぞ?
「え?じゃ、じゃあ本気で行くけど、後で後悔しても知らないからな?!」
そう言い俺は玲に攻撃を仕掛けた。
もちろん、いつもの如く最初の攻撃はかわされた。
俺は玲が攻撃をかわす隙を見計らって、『解析』を使用した。
体力:153 攻撃:244 防御:236 才能:『紅炎神剣』
能力:『身体操作』『熱電池』 『自己再生』『無限結界』
対して俺は、
体力:462 攻撃:669 防御:638 才能『解析・付与』他省略
能力:『空中歩行』 『身体操作』 『空間操作』 『思考訓導』 『瞬間移動』他省略
『熱電池』はかなり厄介だな。
熱を感知するだけで、能力が強化されるという能力だ。
だが俺の方が数値的には玲を圧倒的に上回っている。
熱系の攻撃をしなければいいだけだ。
いける!そう思った時、玲が攻撃を仕掛けてきた。
危機一髪!俺は危ういところで避けた。
お?玲の周りが何かに包まれたぞ? ・・・『無限結界』の能力か?
まあそんなものはすぐに壊せれるんだけど!
俺は『漆黒の穴』によって結界を破壊した。
が、練習場も破壊されてしまった。
玲は間一髪助かった。『身体操作』で翼を生やし、ゆっくり地上に降りることができたのだ。
それができていなかったら、それこそ走馬灯を見るところだった。
危ない危ない。
俺はすぐに地上に降りた。
また練習場を壊してしまったな。 まあ誰にも迷惑がかかるわけではないが・・・。
ちょうど正午になった頃か。
少し休憩してまた練習を再開するか!
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休憩所にて・・・
「もう、晴翔〜! もうちょっと手加減してよ〜!」
いやいや、玲が「本気でかかってきてね」って言ったんだろ!
「あ、ああ。ごめん。」俺はそう言って一応謝っておいた。
別に俺が悪いわけではない。 用心しなかった玲が悪いのだ。
「そういえば、さっき使ってた『無限結界』って大きさとか変えられるか?」
「うん、変えれるよ。」 「じゃあ、後でその中で練習しようぜ。」俺は言った。
結界の中だとわかっていたら、さっきみたいなこと起こらないしな!
「うん、わかった!」 玲が頷いた。
俺と玲は静かに茶を啜りただひたすら作戦を練り続けた。
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俺たちが外に出た時、また厄介な奴が現れた。
名を姫神姫楽という。
こいつも俺と同じく、複数の才能を持ち合わせているが、
左目は青、右目は赤だ。また、髪は見事な真っ黒である。
胸は結構でかいな!
要するに、両眼が紅赤色で、髪が青碧だったら複数の才能を持つという
常識をぶち壊した女だ。
「さて、こんな奴のことは無視して、と。」
そう思って立ち去ろうとしたら、まるで心を読まれていたかのように話しかけてきた。
「あ!ちょっと待ってよ!なんで無視するの?」
おいおい、俺はお前の友達になったつもりもないし、
増してやこれからだって、お前みたいな陽キャと関わるつもりは一切ない!
「え?いや、これから俺たち練習に行くから急ぎたいんだけど?」
「あ!じゃあ私も一緒に練習していい?」
「うん、いいよ!」・・・玲〜! 勝手に許可すんなー‼︎‼︎
「・・・じゃ、じゃあ行こうぜ・・・。」
なんで俺がこんなうるさい奴と練習しなければいかんのだ?
てか、その胸は反則だろ!
俺はトボトボと歩き出した。 一歩一歩の足取りが重い・・・。
・・・・・・・・・「ここら辺でやるか! じゃあ玲、あとは頼む!」
「うん!」 玲は数歩歩き、そして止まった。
そこで、玲は右手を上げた。すると、玲の手から何か透明なものが出、
ドーム状に広がっていった。
全て形が形成された時、玲はドームの中から出てきて、
「もういいよ〜」と言ってきた。
俺たちは、ドームの前に立った。
一体どこから入るんだろう?
と思っていたら、玲がそのまま突き進んでいった。
へー!わざわざ悩むことなかったんだ!
そう思い、通ろうとしたら・・・通れない!
「あ!晴翔!ちょっと待ってね?」
今度は俺の方向に向けて、俺の前にあった壁を少し取り除いてくれた。
「早く入って!」
おいおいそんなに慌てることないだろ。 俺と姫楽は、ドームの中に入った。
それからまた、玲が壁を元通りにした。
俺は瞬時に姫楽を『解析』した。
体力:398 攻撃:655 防御:647 才能『環境破壊・能力閉鎖』
能力:『紅炎弾』 『身体増強』
うーん、勝てるか微妙だなあ・・・。
「・・・何見てんの?
まさか、こ○される前に目の前にある大きなものをガン見してるわけないよねえ?」
ニヤニヤしながら言ってきた。
ムカつく〜! 『解析』してただけだっつうの!
うーん、てかこいつ見た目ほどヤワじゃねえぞ?
どう対応しよう?
『能力閉鎖』っていうのも結構厄介だなあ・・・。
いざとなったら、さっきみたいにこの結界を破壊して終わらせるのもありか?
「よし!じゃあやるか!」と俺が言うとまた邪魔をしてくる。
「あれれ〜無視か〜図星だったのかなあ〜? ならしょうがないかあ。
そういう人だということで認識しておこうかなあ?」
嫌味ったらしく言ってきた。
「いや、だから今さっきのは胸を見てたわけではなくて・・・」
「あれれ〜? 胸とは言ってないんだけどなあ? おかしいなあ?」
「ったく、じゃあ大きなものってなんだよ? ちなみに俺は『解析』してただけだよ!」
「え?何を? 胸を〜? 超ウケる〜www」
「もう、ふざけてないで早くやろうぜ。」俺が言っても姫楽はまだ笑っている。
「はじめ!」と俺が言い、炎を打ち上げた。
俺は真っ先に姫楽を攻撃した。
玲の攻撃で俺たちが倒されるわけないのだ。
そう思っての判断だった。
だが、俺は始まりと同時に大きな誤算を犯してしまっていた。
炎を打ち上げてしまったのだ。
玲が『熱電池』の能力を所有していることをすっかり忘れていたために、
誰も思うことのなかった結果を誘き寄せた。
玲の身体能力がとてつもなく増加してしまったのだ。
『解析』をしたところ、
体力:892 攻撃:964 防御:869 才能『紅炎神剣』
能力:『身体操作』 『熱電池』 『自己再生』
いやいやいや、身体能力上がりすぎだろ!
姫楽の『身体増強』より強いんじゃね?
しかも雰囲気変わってね?
目、充血したみたいに赤いし、
髪の毛ワックス塗りまくったみたいに逆立ってるし!
そんなことを考えている間にパワーアップした玲に太刀打ち出来ず、
俺と姫楽はコテンパンに叩きのめされた。
はあ、俺ももっと頑張らないとな!
そういえばあの時、試合中に『身体不能』で玲をダウンさせたら
もうちょっと試合が楽しめたのになあ・・・。
そう思って、気晴らしのために田中晴翔は街を一つ消滅させるのであった・・・。