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第九話

 私は海斗の交通事故の事件後、家族の支え、そして何より隣に住む同級生の幼馴染と言うだけで海斗のことを全部任せろと言って私を再び夢に向かって送り出してくれた雷蔵の力添えもあって、一人暮らしをしながら福岡のダンススクールに通っていた。

 そんな福岡でのダンス漬けの生活を送っていたある日、私は久し振りに土門さんに電話した。

「もしもし、土門さんですか?」

「ああ、久しぶりですね、水稀さん。どうしたんですか?こんな夜遅くに。早く寝ないと明日もダンスのレッスン、午前中からあるんじゃないですか?」

「あ、はい、そうです。でも大丈夫です。もうスクールに通い始めて二か月くらい経ちますから、レッスンにも一人暮らしにも結構慣れましたから」

「そうですか。でも良かったですね。ずっと心に閉じ込めていた夢を追いかけられるようになって」

「はい、これもみんなパパとママ、海斗がいてくれたから。それに・・・」

「雷蔵くんのおかげだね」

「はい、雷蔵がいなかったら私、まだ、宮崎の実家にいて介護の仕事をしてたはずですから」

「本当だね。しかし凄いよね、雷蔵くんの水稀さんへの愛情には僕も感服したよ。あの時、病院から帰ってきて、ちょっと自分の家に戻ると言って何をするのかと思ったら、仕事で付き合いのあるダンススクールの経営者にいきなり電話して水稀さんの入校を決めちゃうんだからね。それに授業料も水稀さんの暮らす場所も決めて家賃まで負担してくれたって言ってたもんね」

「そうです。ダメ、この話をすると涙が出てきちゃう。雷蔵のバカを付けたくなるくらいの優しさに胸が痛くなってしまって。本当に雷蔵には頭が上がらないです」

「それだけ水稀さんを愛してるって証だよ。本当に雷蔵くんは体もデカいけど、心もデカいよね。頑張らなくちゃね、水稀さん」

「はい」

「で、今日の用件は?」

「あ、そうそう、今日はこんな私の話をするために電話したんじゃないんです。土門さん、今、スマホ手元にありますか?」

「うん、大丈夫だよ。もう僕も寝ようと思ってベッドの中にいたところだったから」

「すいません、寝ようとしてた時に。でもどうしても土門さんに教えたかったし、それにどうするか相談したくて」

「何?どういうこと?」

 私は土門さんについ最近見つけた“不思議な痣マニア”のHPアドレスを伝えた。

「開きました?」

「うん、開いたよ。な、何、このHPは」

「私、内容を一通りみたんですけど、何か不思議な模様の痣があれば、教えてほしいから痣の写真付きで投稿してほしいと言うような内容のサイトみたいなんですけど。土門さんと私のこの痣に何か関係してるのかな?と思って。土門さんが調べてる内容に関係があるなら、二人の情報を投稿してこのサイトの管理者と接点を持った方がいいのかなって、色々考えてしまって。一人で考えてるなら、土門さんに相談した方がいいのかなと思って、夜遅かったんですけど、電話してしまいました」

「なるほど、そう言うことでしたか。ありがとうね、水稀さん、本来、僕が調べなきゃいけないことを。僕のことまで忙しいのに気にかけてくれて」

「いえ、だって土門さんには、海斗のことで本当にお世話になったし。それに何とか土門さんが調べてるあの絵の謎に少しでも近づけるヒントがあるなら、私もお手伝いしたいし」

「ありがとう。でもどうしようかな?確かに気にはなるサイトだけど、悪く言えば少し不気味なサイトでもあるね。ただ単に人の痣だけに興味があって、その痣をコレクションにしたいマニアのサイトかもしれないしね。どうしようかな。でも動いてみないと真実には近づけないな。よし、水稀さん、ありがとう、いい情報をくれて。僕が投稿してみるよ。これ以上は危険があるといけないから、水稀さんはこれ以上は足を踏み入れない方がいい」

「いえ、土門さんが投稿するなら私だって。もしこれで土門さんに何かあったら、こんなサイトを教えた私の責任だもん。私も土門さんと一緒に投稿する。あの絵に関わりのある可能性がある人間として、私も、お願いします、土門さん」

「本当に君って人は。分かったよ、それなら一緒に投稿しよう。でも何かこのサイトの管理者から何かしらのコンタクトがあった場合は、一人で動かないこと、僕に相談すること。分かったね」

「はい」

 私は土門さんに謎のサイトの情報を提供し、このサイトに二人一緒に痣に関する情報を投稿した。



 あのストーカー事件以来、俺は恵に今まで住んでいたコーポを引き払わせて、瑠々と三人で新たな生活を始めていた。

「おはようございます、優風さん、起きて下さい。大学に遅れますよ」

「あ、ああ、すいません、恵さん。目覚まし掛けておいたのに、消してしまってました」

「ほら、優兄ちゃん、早く起きて。もう、優兄ちゃん、恵先生が家にいるからって安心しすぎなんじゃないの。起きれなくても、恵先生が起こしてくれるからって」

「あ、いや、それは。ごめん、否定できない。確かに幸せすぎて。そうだな、瑠々の言うとおりだな。すいません、恵さん、これから気を付けます」

「いいですよ。だって家賃も払わずに私は同居させてもらってる身ですから。目覚ましで起きれないなら、私が毎日、起こしに来ます」

「うーーん、本当に幸せだな。毎日、恵さんの美味しい料理は食べれるし、恵さんの優しい声で起こしてもらえるし。こんな最上の幸福ってあるんだな」

「もう、優兄ちゃん、一人で恵先生に起こしてもらった余韻に浸るのはそれで終わり。私も保育園、遅れちゃう。恵先生も仕事があるんだよ」

「あ、そうか、ごめん。すぐに着替える」

 俺はこんな幸せな同居生活を始めて、十一月二十三日、勤労感謝の日を迎えた。もちろん、この日は祝日なので、大学も保育園も休みだった。

「おはようございます。あら、優風さん、今日はお仕事お休みなのに、早起きですね。いつもは目覚ましでは起きられないから、私が起こしに行ってるのに」

「恵さん、おはようございます。いつもありがとうございます。今日も朝ご飯、美味しそうだな。でも今日はここまでで結構ですから。あとは俺と瑠々で家のことは全部やりますから。恵さんは今日は、外で遊んできて下さい。久しぶりにお一人でショッピングにでもお出かけして下さいね」

「そう、恵先生。これはね、瑠々のお願い、というか命令だからね」

「な、何で二人してそんなことを言うんですか?酷いですよ」

「違いますよ、恵さん。別に恵さんを遠ざけようとしてる訳ではないですから。だって今日は勤労感謝の日ですよ。いつもお仕事、それから家事、瑠々のお世話まで、今まで俺がしてたことを全部、恵さんがしてくれてるじゃないですか。今日はそんな恵さんを労う日だから、恵さんは今日はお休みです。これは瑠々だけじゃなく、俺からの命令でもあります。いいですか?」

「ええ、いや、でも」

「ダメですよ。ほら、あとは朝ご飯食べたら片づけも瑠々と二人でしますから、恵さんは自分の部屋で出かける準備して下さい。瑠々、ほらごねてる恵さんを部屋に連れてって」

「うん、ほら恵先生、行くよ」

 瑠々は恵のお尻を押して部屋に連れていった。

「じゃあ、本当にいいんですか?優風さん、瑠々ちゃん」

「いいの、いいの。恵先生は楽しんできて。夕方6時過ぎじゃないと帰ってきちゃダメだからね」

「な、何で、お昼ご飯は大丈夫だと思うけど、晩御飯はやっぱり私が」

「ダーーメ、先生。晩御飯も大丈夫、今日は私と優兄ちゃんで準備するの。恵先生はお休みなの、それに今日は・・・」

「瑠々!ダメ」

「あ、ごめん、優兄ちゃん」

「何?瑠々ちゃん、それに何なの、今日は?」

「何でもない。早く、恵先生はお出かけ、はい、いってらっしゃい」

 恵は瑠々に追い出される形でショッピングに出かけた。



 そして恵は言われたとおり、6時過ぎに帰ってきた。

「ただいま、あれ?優風さんも瑠々ちゃんも、いつもだったら玄関まで出迎えてくれるのに。そうかやることが多すぎて疲れて寝ちゃってるのかな?」

 恵はそう言ってリビングのドアを開けた。ドアを開けると突然、クラッカーが鳴った。

「恵さん、誕生日おめでとう」

「恵先生、誕生日おめでとう」

「きゃっ、ああ、ビックリした。あ!落としちゃった。あーーあ、ぐちゃぐちゃになっちゃったわ」

「え、恵さん、何が?それにお買い物に行ったのに、服とか自分のもの買ってこなかったの?」

「はい、せっかく優風さんと瑠々ちゃんが時間をくれてショッピングに行ったけど、何を買おうかなと考えると、優風さんと瑠々ちゃんのことが頭に浮かんでしまって。これも瑠々ちゃんと優風さんのお洋服買って来ちゃいました。それとこれ、美味しそうだったのでケーキ買って来ました。今、ビックリして落として、潰れちゃいました。ごめんなさい。あ、すいません、お礼を言わないと。そうですね、今日、私、誕生日でしたね。最近、自分にいろいろ凄いことがあり過ぎて忘れてました」

「グスン、もう何で恵さんは俺と瑠々のことばかり」

「そうだよ、恵先生。ありがとう、先生、大好き」

 瑠々は恵に抱き着いた。

「さあ、今日は恵さんが主役です。さあ、座って下さい。ケーキも用意してあります。恵さんと瑠々はこっちのケーキを。さあ、まずは火を消して下さい」

 俺と瑠々は誕生日の歌で恵をお祝いして、恵は笑顔で蝋燭の火を消した。

「優風さん、瑠々ちゃん、本当にありがとう。私、高校卒業してから、こんなに楽しい誕生日初めてです。でも何で私の誕生日、ご存じだったんですか?私、優風さんにも瑠々ちゃんにも話してなかったはずですけど」

「はい、俺が恵さんと出会ってから、いろいろありました。俺のことでもそして恵さんにも大変な思いもさせてしまいました。だから初めて、俺が恵さんの誕生日をお祝いする時はサプライズしたくて、保育園の園長先生に内緒で聞きました」

「ごめんね、恵先生、ずっと内緒にしてて」

「ううん、嬉しいよ。こんな素敵なサプライズなら、全然いいわ」

「さあ、まずはご飯食べましょう。どうしますか?今日は恵さんのお祝だから、お酒、飲みますか?」

「いえ、私はダメです。ちょっと飲んだだけで酔っちゃいますから」

「そうですか。そうですね、飲めない人に無理強いはダメですね。じゃあお茶でいいですか?」

「はい、それじゃあ、優風さん、私がビール、お注ぎしますね」

「い、いや、今はまだ、止めておきます。どうしようかな、瑠々、やっぱり、食べる前にやった方がいいかな?」

「そうだね、そうじゃないと優兄ちゃんも落ち着かないでしょ。大丈夫だよ、きっと」

「よし、先にな、思い切って」

「え!何?優風さん、何ですか?」

 俺は決心して、少し格好をつけて恵の座ってる前で片膝をついた。

「恵さん、誕生日おめでとう。本当は別の日の方がいいのかなと思ったけど、この恵さんの誕生日というおめでたい日にした方がいいと思って。恵さん、改めて、誕生日おめでとうございます。それから、勝手な言い分ですが、この日を俺のこれからの新たな人生の出発の誕生日にしたいんです。どうか、お願いします。恵さんを俺の人生の誕生日プレゼントとして頂けませんか?俺と結婚して下さい。お願いします」

 俺は掌にプレゼントを載せて頭を下げて目を瞑った。その後、しばらくして恵のすすり泣く声が聞こえた。

「何これ?何ですか?こんなサプライズなんて」

 恵はそう言って両手で顔を覆ってしまった。

「め、恵さん、やっぱり。まだ、そうですよね、まだ、お付き合いさせて頂くようになってどれだけの時間が経ったんだっていう話ですよね。すいません、恵さんの誕生日に、恵さんを戸惑わせるようなことを言って。ごめん、瑠々、まだ早かった。プロポーズ失敗だ」

 俺は用意していたプレゼントを引っ込めようとした。恵はその手を両手で包み込んだ。

「恵さん?」

「本当に私が受け取っていいんですか?私なんかでいいんですか?ダメ、涙が?私、こんなに幸せでいいのかな?」

「恵さん、じゃあ、受け取ってもらえる?んですか」

「はい、もちろんです。こんな私で良かったら、これからもずっと優風さんと瑠々ちゃんと一緒に笑ったり泣いたりしたい。優風さん、私、あなたと瑠々ちゃんの傍で幸せになりたいです」

「やったー、瑠々、やったぞ。恵さんが、受け取ってくれたぞ。俺と瑠々の新しい人生の誕生日になったぞ。恵さんは俺と瑠々のコウノトリだ」

「違いますよ。私も仲間に入れてくれないと。三人の新しい人生の誕生日ですよ。ねえ、優風さん、これ、開けていいですか?」

「はい」

 恵は俺の一世一代のプロポーズの品を開けた。

「わあ、素敵」

「すいません、もう少し恵さんの誕生石のトパーズ、大きいものにしたかったんですけど、これが僕の限界でした」

「ううん、嬉しいです。私、これくらいの大きさの方が素敵だと思います。あまりに大き過ぎると返って下品な感じがするから」

「恵さん、あなたの指にはめさせてもらっていいですか?」

 俺は恵の薬指に指輪をはめた。

「素敵です、恵さん。似合います」

 そして俺は恵と見つめ合った。俺は完全に恵と二人の世界に入り、そっと顔を近づけキスしようとしていた。唇が触れようとした瞬間に俺と恵はハッと我に返った。下の方から視線を感じたのだ。

「ハッ、何してるんだ俺は」

「やだ、そうですよね、優風さん」

「何だ、パパとママ、いい雰囲気だったのに。何で止めちゃうの。パパとママの幸せそうな顔、素敵だったのに」

「やめろよ、何てこと言ってるんだよ」

「そうよ、瑠々ちゃん、え?でも瑠々ちゃん、今、パパとママって?」

「そ、そうだ。瑠々、今?」

「だって、今日は三人の新しい人生の記念日って言ったでしょ。それなら私も新しい一歩を踏み出さないといけないから。それにこんなに私のことを想ってくれる新しいパパとママができたんだもん。きっと死んじゃったパパもママも優兄ちゃんと恵先生に私のこと、天国でお願いしてくれてると思うから。これからも宜しくお願いします、パパ、ママ」

「本当に瑠々ちゃんは、まだパパとママが亡くなって幾らも時が経ってないのに、何てしっかりしてるんだろう。優風さんの言ってたとおりですね。きっと瑠々ちゃんは自分で辛いことを乗り越えられる強い娘だって」

「はい、俺はこれからも瑠々を陰ながら見守って支えるだけです。恵さん、あなたにはこれから俺も瑠々もいっぱい迷惑かけると思いますけど、宜しくお願いします。俺、恵さんと瑠々のために頑張りますから」

「私こそ、お願いします。優風さんの良き妻、そして瑠々ちゃんの良きママになれるように努力します」

「やった。かっこいいパパと綺麗なママができた。でもママ、これからは私のこと呼び方変えてよ。私のママなんだから」

「何て呼んだらいいの?」

「そんなの決まってるでしょ。瑠々、呼び捨てでいいから、ね、ママ」

「そう、分かった、瑠々ちゃ・・、あ、違うね、瑠々、これから宜しくね」

「うん、ママ。何か凄く楽しくなってきたね」

 恵へのプロポーズを成功させた後、三人で楽しい食卓を囲んだ。俺はしみじみとこれからの三人でも幸せな生活に想いを馳せていた。

「ねえ、パパ、どこ見てるの?なんか上の方を、遠くを見詰めるような目をして」

「ああ、ごめん。何か恵さんへのプロポーズが決まって、しみじみと幸せを感じてしまって。これから三人で幸せな家庭を作っていける、そんなことを考えてると」

「うん、パパ、分かったから。でもね、食べてる時にボーっとしちゃダメ、持ってた唐揚げ、落としちゃってるでしょ」

「ああ、ごめん」

「もう、優風さんたら。でもその気持ち、私も分かります。私もずっと一人だったから、家族に凄く憧れがありますから」

「ほら、食べようよ。はい、ママ、サラダ、盛ったから食べて」

「はい、ありがとう瑠々」

「いいな、俺も凄く楽しくなってきたよ」

 食事を終えた後、俺たちは三人でソファに座ってくつろいでいた。

「ねえママ、ママの膝の上に座っていい?」

「うん、いいよ、おいで瑠々」

「いいな瑠々、俺も・・・」

「バカ、パパ。今、自分もママの膝の上に座りたいって言おうとしたでしょ?」

「あ、いや、そんなこと言う訳ないだろ。何言ってるんだよ瑠々」

「だったら俺もの後、何て言おうとしてたのよ」

「あ、い、いや、それはそのーー」

「いいですよ、優風さん、さすがに座ってもらうことは、私が潰れてしまうからできませんけど。瑠々、ちょっと退いてくれる?」

 恵はそう言って隣に座っていた俺の頭をそっと腿の上に乗せて、頭を優しく撫でてくれた。

「これなら、どうですか?あ!私、何してるんだろう」

「もう、ママ、酷いよ。私が座ってたのに。まあいいや、二人とももうすぐ新婚だもんね」

「ああ、気持ちいい。恵さんの腿、いい匂いするし、モチモチ、フワフワだし」

「嫌だ、優風さん、私ってそんなにプヨプヨの脚ですか?もっと痩せなきゃ」

「違いますよ、女性らしくて素敵だって言いたかったんですよ。恵さんはそのままで最高に美しいですから」

 この時、俺は風呂あがりでもあり、この幸せに安心しきっていたので上半身裸で過ごしていた。

「どうですか?優風さん、あの時の傷、もう大丈夫ですか?見せて下さい」

 恵はあの事件の時に刺された肩の傷を優しく擦った。

「痛いですか?ごめんなさい、優風さん、私のせいでこんな酷い傷を」

「恵さん、何言ってるの。もう痛くも何ともないから。それにこれは恵さんを助けた俺の勲章だから。こんな傷より俺はあなたの心の傷の方が心配だったんだ。俺の方こそ、助けるのが遅くなって、長時間、恵さんに怖い思いをさせて申し訳ない想いでいっぱいだったんだ」

「ありがとうございます。いつでも自分のことより、私のことを一番に気遣ってくれる」

「当たり前ですよ、だって恵さんは俺の一番大切な女性の一人ですから。もう傷の心配はいらないからね、恵さん」

「はい。それにしても優風さんのこの、痣。本当に不思議な模様ですよね。模様の形も特徴的ですけど、ここまでハッキリしてる痣って言うのも、中々無いですよね」

「そ、そうですね。小さい頃はもう少しぼやけてたんですけど、高校生くらいになった時にはもうこんな感じだったから。大きくなるにつれてハッキリして来たって感じですね」

「あ!そうだ。優風さん、今日ね、一人でお出かけさせて頂いて、休憩してた時にネット検索してた時にこんなサイトを見つけたんですけど」

 恵はそう言って俺に気になるサイトをスマホに表示して見せた。

「?不思議な痣マニア?」

「はい、タイトルだけ聞くと何かちょっとアブノーマルな方が運営する不気味なサイトと私も最初は思ってたんですけど。中身をよく読んでいると、そんな風に思われることは覚悟の上で作られているように感じとれたんです。そんなことは分かった上で、何か、こう?私の勝手な直感なんですけど、何かを探すために開いたサイトじゃないかなと思えてしまって。優風さんの痣のことも頭にあったので、気になってしまって」

「そうですか。中身はどんなサイト何ですか?」

「はい、どうも閲覧者の方から、不思議な痣を持ってる方の投稿を募集するのが目的のサイトのようなんです」

「なるほど。恵さんの言うように、何を目的にこんなサイトを立ち上げてるんだろうか?確かに気になるな。俺もこの痣については、ずっと謎が多いし、それに俺の・・・、あ、いいや。でもありがとう恵さん、俺のこの痣のことまで気にしてくれてたなんて。嬉しいです。よし、じゃあ投稿してみましょうか?投稿してみてどんな展開になるか、ちょっと不安なところもあるけど、恵さんの直感を信じて」

「いいんですか?本当に」

「ええ、もしかしたら、俺のこの痣も何か関係してるなら、自分で自分が分からないことも少し分かるかも。なんて期待もあるから」

 そして俺は恵に教えてもらったこのサイトに自分の痣の情報を投稿した。



 私と光星があのサイトを公開してから、二週間が経過した。

「ねえ、光ちゃん。二週間経ってだいぶ投稿集まったね。でもどうやって、ここから次の動きに繋げる気なの?」

「そ、そうだね。ここからが大変な作業なんだよね。ここから本物を見つけないといけないから。んーー、どうしようか。そうだね、俺と陽向で七曜国当主の末裔を見つけて、お爺様にサプライズしようと思ったけど、ここからはお爺様の力を借りないとダメかな」

「どうするの?」

「ああ、もうこの投稿された情報の中から真実を見つけられるのは、俺たちのこの痣の歴史を先代から伝え聞いてきたお爺様だけだと思うんだ。だから、お爺様にこの集まった情報の中身を見て頂いて、選別してもらうんだよ」

「そうか!」

「お爺様にはちょっと大変な作業をお願いしちゃうことになるけど。喜んでくれるといいけどね」

「うん」

 私は光星とノートパソコンを持って祖父の部屋のドアをノックした。祖父は少し風邪気味で横になっていた。

「お爺、具合が悪いところごめんなさい。ちょっと話があるの?入っていい?」

「ああ、陽向か、いいよ」

「ごめんね、風邪ひいてるのに。どう、体の調子は?」

「ああ、昨日の高熱は下がったからもう大丈夫。あとはこの鼻水だけだから。ちょっと鼻が詰まって息苦しいけどな」

「すいません、お爺様。こんな体調の悪い時に。でもどうしてもお爺様に早めにお願いしたいことがあって」

「な、何だ?陽向と光星くんが私にお願いなんて?まさか!もう、け、結婚のは、はな」

「ば、バカ、違うよお爺。まだ、そんな話、光ちゃんともしてないよ」

「そ、そうですよ。僕はもちろん、行く行くはそのつもりですけど、今日はその話じゃないですから」

「その話じゃなければ、何の話だ。二人揃ってお願いなんて?私ももう歳だからな、陽向の結婚話以上の衝撃的な話はやめてくれよ、心臓に悪すぎる」

「そんなことを言われるとお爺様に切り出し難いなあ、ね、陽向」

「いいよ、話しちゃって」

「お、おい、陽向、お前はこれ以上、具合を悪くさせるつもりか?」

「大丈夫だよ、絶対にお爺の喜ぶ内容だから。いいよ、光ちゃん、話して」

「ああ、分かった。お爺様、実はですね。この前、僕が退院した時にあの、光太家と金愛家の祖先の話をして頂いたじゃないですか。それでお爺様はずっとその光太家以外の七曜国当主の末裔の現状を確認したいと言ってましたよね」

「ああ、できるなら私が生きてるうちに他の国の当主の末裔が今も生存しているのか?もしそうなら、私が伝え聞いてきたその七曜国の歴史を、陽向以外にも伝えておきたい。そんな願いが叶ったら最高だ。それと・・・、あ、まあ、この話は後でいいか。で、それで、その話が何かあるのか?」

「ええ、お爺様がそんな願いを話してたので、僕もずっとそのことを考えてたんです。それで陽向と相談して、その光太家と金愛家以外の七曜国当主の末裔に関する情報を集めてたんです。お爺様に教えて頂いた話からすると、唯一の手がかりは僕と陽向にあるこの痣しかないので、この情報をネットを使って集めてみたんです」

「陽向、光星くん、ほ、本当にそんなことを?」

「はい、何とかお爺様の願いを叶えるための力に少しでもなれればと思って」

「そうなのよお爺。光ちゃん、さっき私と相談してと言ったけど、本当は全部、光ちゃんのアイデアなの。私がお爺のために行動したいと言ったら、もう光ちゃん、一人で動いてて」

「ううっ、すまん。ダメだ、泣けてきた。光星くん、君はなんでそんなに優しい青年なんだ。陽向のためには命を賭けてくれる。そして私達のことまで、親身に気遣いしてくれて」

「いえ、これも何もかも陽向のためですし、それに陽向のお母さんにも、そしてお爺様にもとても良くしてもらってますから。もう僕はお母様もお爺様も本当の家族だと思ってます。家族の喜ぶ顔を見たいと思うのは当然です」

「陽向、本当に私は嬉しいよ。こんな素敵な青年がお前の傍にいてくれて。大切にしないとな」

「うん、でもお爺、泣き過ぎだよ」

「バカ、お前と光星くんが風邪気味の私を泣かすようなことをするからだろ。ただでさえ風邪で鼻がズルズルなのに」

「そうですね、すいません、お爺様。やっぱり、お爺様の体調が回復してからの方が良かったですね」

「いや、いいよ。で、私にお願いというのは?」

「はい、お爺様のお話しから、ネットで不思議な痣の情報を投稿してもらうサイトを開いて、全国に問いかけてみたんです。で、かなりの量の情報が送られてきたんですけど、僕と陽向ではその情報から本物かどうかを判断する基準がないので、その判断はやっぱりお爺様にお願いするしかないなと。本当なら二人でそこまで揃えてお爺様をビックリさせようと思ってたんですが」

「いや、光星くん、もう十分だよ。例え最高の結果が得られなくても、君と陽向のその気持ちだけで、それだけで私は幸せだよ。じゃあ、情報を見せてくれるか」

「はい、でもそれは次回にしましょう。お爺様の体調が戻ってからで。それまでに僕が情報を見易いように整理しておきますから」

「そうか、本当にありがとう。よし、私もすぐに風邪を治すからな」

 そしてその二日後、祖父の体調も回復し、祖父は光星が整理してくれた情報の内容を一つ一つ丁寧に確認していった。

「どうですかお爺様、分かりますか?」

「ああ、私も実際に見るのは初めてだが、言い伝えられてきた内容と照らし合わせると、恐らくこの五名の情報は本物だと思う。言い伝えではそれぞれ痣の現れる場所が決まっていると伝えられている。だからこの二人の女性と三人の男性は間違いないと思うが」

「そうですか。でもそうするとお爺様が懸念してたことはなかったんですね。戦争で七曜国当主の血が途絶えていたという可能性は」

「ああ、この痣が本物なら私の望んでいた最高の結果だな。それと後はこの五名の人物像が分かればな。いくら七曜国当主の血を受け継ぐ者とは言っても、その血統に見合う人格の持ち主でなければ意味がない。ああ、この五人に会ってみたいな。そうすれば間違いなく判断できると思うんだが、問題はどうやってこの五人に私の思いを伝えるかなんだが」

「そうですね、確かに。多分この情報を投稿してくれた時も、このサイトを立ち上げた僕のことを薄気味悪いマニアだと思いながらも投稿してくれたはずです。その上、お会いできませんか、なんて言ったら・・・、難しいですよね」

「でもお爺、光ちゃん、やっとお爺の望みが叶うキッカケを掴んだんじゃない。それなら何もしないよりはいいんじゃない。この人達にお爺の想いを書いて返信してみようよ」

「そうだな、陽向の言う通りだな。せっかく光星くんが見つけてくれた希望だ。ダメ元でこの五人にお願いしてみよう。お願いできるか、光星くん」

「はい、分かりました。でも陽向、君は話せるようになってから考え方が凄いポジティブになったね」

「うん、でもそれを教えてくれたのは光ちゃんでしょ。私が消極的なこと言っても、光ちゃんは絶対に私のことを信じてくれた。光ちゃんが私を変えてくれたんだよ」

「そうか、ありがとう陽向。よし、じゃあ、お爺様、この五人に送る文面、作りますから、確認して下さいね」

 そして私達は祖父が本物だろうと特定した五人に会いたいという想いを返信した。



 私はお風呂上りに自分の部屋でくつろいでいた。そして私はベッドに寝そべってスマホを手にした。

「えっと、喜美と香奈から何かライン来てるかな?あれ?火練さんから着信?なんだろう、直接、ラインじゃなくて電話してくるなんて」

 私は火練に早速、電話した。

「もしもし、火練さん、私よ、月」

「ああ、ごめんね、さっき電話したんだけど。もう寝るところだった?」

「ううん、私こそごめんね、お風呂入ってたから。今出てきてスマホ見たら火練さんから電話が入ってたから。何、なにか用事?」

「あ、いや、まだ月さん、目を通してない?君にも来てない?あの時の痣サイトに投稿した時の返信」

「え?何それ、あ!何か来てるみたい」

「やっぱり、月さんにも来てるんだね。一度、内容確認してみてよ。十分後に俺の方からかけ直すから」

 そして私は電話を切って、あの少し不気味な痣サイトからの返信の内容を確認した。内容はこんなものだった。

「どうも、先日は貴殿の貴重な個人情報を投稿頂きましてありがとうございました。貴重な情報を送って頂きましたが、多分、こんなサイトを立ち上げた私に不信感を抱きながらのことだったと思います。

 確かに私がこのサイトを立ち上げようと思った時、そう思われることは覚悟の上でした。それでもどうしてもこのサイトを立ち上げたかった理由、それは全国に私と、それからもう一人、私の今お付き合いしている女性と同じ境遇の人がいることを確認したかったからです。そうです、実は私も私の彼女もあなたと同じような不思議な模様の痣の持ち主だからです。そしてこの痣は大いなる秘密があることを彼女の祖父から聞かされました。彼女の祖父にあなたの痣の情報を確認してもらったところ、私達が求めている痣の持ち主だろうと確信しました。

 詳しい話は彼女の祖父がどうしてもお会いしてお伝えしたいと望んでいます。私と彼女もお会いできることを切望しています。ここまであなたのプライベートに踏み込むことは余計に不信感を大きくする可能性を秘めていることは承知の上でお願いしています。

 だからこの内容に返信は頂かなくて結構です。身勝手ですが、以下の日時・場所でお待ちしています。その時には当該サイトのトップページのコピーを目印としてお持ち下さい。私はワンボックス車にサイトのページにある8を横にしたようなマークを車体に貼り付けてお待ちします。

 日時:十二月十日、十五時

 場所:新大阪駅北口

 来て頂けなければその時点で諦めて送って頂いた情報も完全に破棄させて頂いて、二度と接点を持たないようにさせて頂きます。

 どうか、私達のことを信頼してもらえることを期待して。

                           不思議な痣マニア 管理者より」

 私が一通り返信メールに目を通した後、火練から着信があった。

「もしもし、月さん、どう?一通り読んだ?」

「うん、何これ?私達の痣が見たいって言う興味だけじゃないみたいだね。何かこの内容を素直に受け取れば、もっと深い意味がありそうだね。よし、火練さん、この人達に会いに行っちゃおう、おうーー」

「おいおい、はあ、やっぱり、月さんはそう来ると思ったよ。君も素直に人の言うことを聞くときもあるけど、意外とマイペースで自分の決めたことには頑固なところがあるんだよな。分かった、その代わり、その日は一人で行動したらダメだよ。もちろん俺がついていくからね。君を一人でまだ得体の知れない人達のもとに行かせられないからね」

「分かった。じゃあ、パパとママに十二月に火練さんと旅行に行くねって言っておくね」

「いい、君は何も話すな。君がおじさんとおばさんに説明したら、何か話しが拗れそうだ。俺が誠心誠意を持って説明するから。多分、その方がお二人も納得してくれると思うから」

「何よそれ。実の娘が言うことなのよ。パパもママも許してくれるに決まってるでしょ」

「いや、おじさんもおばさんも君のことを良く分かってるからこそ、余計に迷うと思うんだ。月さんはナチュラル過ぎるから」

「もう、火練さんまで、私を何だと思ってるのよ。本当に失礼しちゃう」

「ごめんごめん、悪気はないんだよ。それに君と旅行に行くなんて初めてだろ。だからこそ、俺からおじさんとおばさんにお願いしたいんだよ。頼む」

「うーーん、分かった。そこまで言うなら。どうする?今、このまま替わる?」

「うん、善は急げだからね。でもおじさんとおばさん起きてる?」

「うん、じゃあこのまま替わるね」

 そして私と火練は両親の了解を取り付けて、十二月十日に大阪に向かうことを決めた。



 私はダンススクールの久しぶりの連休に実家に戻っていた。

「ただいま」

「お帰り、疲れたでしょ」

「ママ、何言ってるのよ。全然疲れてなんかないよ。だって自分のずっと追いかけたかった夢に向かって生活させてもらってるんだもん。これも全部、パパやママ、海斗のおかげよ」

「バカ、水稀、一番感謝しなきゃいけない人が抜けてるでしょ」

「ただいま。あ!姉さん、帰ってきてたの?もっと遅くなると思ってたのに」

「うん、早くみんなの顔が見たくて、ちょっと早く福岡を出てきちゃったのよ」

「おお、水稀、お帰り。何かお前・・いや、何でもない」

 雷蔵は少し私の顔を見て頬が紅潮していた。

「ほら、水稀、まずは真先に感謝しなきゃいけないのは、この人でしょ。雷蔵くんにね」

「な、何?おばさん、水稀が帰ってきて早々、何を話してたの?」

「まだ、さっき帰ってきたばかりだから何にも。ただ、今、自分の好きなことをさせてもらってるのは家族のおかげって言うから。一番感謝しなきゃいけないのは雷蔵くんでしょって話してたのよ」

「あ、そう言うことですか。なるほど」

 私はあの海斗の事故の日からずっと雷蔵には感謝の気持ちでいっぱいだった。母の言うとおり、今この時点で大好きなダンス漬けの生活をできているのは雷蔵のおかげだから。私は学校から海斗を送ってきてくれた雷蔵の手を握ってお礼を言った。

「そうだね、ママ。雷蔵がいなかったら、私、今、こんな生活できてないもんね。本当にありがとう、雷蔵。たまに実家に帰ってきた時くらい、お礼をしなきゃ。ねえ、雷蔵、私にできることなら何でもするから言って。私、何をしたら喜んでくれる?」

 雷蔵は私に手を握られてさらに顔が紅潮していた。

「あ、別に何もないよ。水稀の最高の笑顔が見られたから、それだけで十分だよ。今日の水稀の顔見て、改めて思ったよ。水稀はやっぱりダンスをしてる時のその笑顔、キラキラしてる。若かりし頃の水稀の顔に戻ったこと。その俺の大好きな水稀の笑顔を帰ってきた時に見せてくれれば、幸せなんだ」

「もう、雷蔵、そんな周りくどいこと言ってないで、素直に姉さんのことが大好きだから君を幸せにしたい、それだけだとかストレートに言えばいいのに。そんなタコ入道みたいに真っ赤な顔してないでさ」

「う、うるさいな、お前は余計なことを言わなくていいんだよ、海斗」

「ありがとう、雷蔵。とにかくあなたには頭が上がらない。ダンススクールの経費だけでなく、暮らす場所からその費用、生活費まで。生活費はアルバイトして賄うからいいって言うのに」

「いいよ、おじさんもおばさんも外で仕事して、帰ってきてから海斗の面倒を見て大変だし。それに俺が心配するのも失礼だけど、経済的にも苦しいのは分かってるから。それに水稀には夢を追いかける以上、それ以外のことで負担を掛けたくないし、その夢のことだけ考えてほしいから。そのために必要なことがあるなら俺が頑張るから。ただそれだけだよ」

「本当に、雷蔵はどこまでお人よしなのよ。いいわ、絶対に私、プロになって、きっと雷蔵にお金返すからね」

「いらないよ。俺は水稀にお金より大切なもの、お前の素敵な笑顔を貰ってるから、それだけでいい」

「バカ、雷蔵って本当にバカね」

「うるさいな、そんなにバカバカ言うなよ」

「最後にもう一つ言っていい?」

「な、何だよ」

「さっき、雷蔵、私が若かりし頃の笑顔に戻ったって言ったよね」

「ああ、そんな風に言ったっけ?」

 私は雷蔵の尻を蹴とばして言った。

「痛!な、何するんだよ」

「何が若かりし頃よ。じゃあ今の私は何なのよ。まだ私、二十歳よ。今は若くないみたいな言い方しないでよね」

「いや、そんな意味で」

「問答無用」

「あーーあ、やっぱり姉さんと雷蔵はこうなるのか。最終的にはいつもいい雰囲気が台無しになっちゃうんだよね、ね、父さん、母さん」

「そうね、でもそれだけ仲がいいということでしょ」

「分かった、ごめん水稀。この通り、許してくれ」

「仕方ない、許してあげる」

「ふうーー、参った、水稀は気に障ることがあると俺には容赦ないからな。でもホッとしたよ。やっぱり大好きなダンスを思う存分できてるみたいだから、水稀すげー元気だもんな。あ、水稀、帰ってくる時、駅まで迎えに行こうと思ってたのに。携帯、繋がらなかったぞ。電源切れてるんじゃないのか?」

「ああ、しまった。電源切ったままだった」

「やっぱりか」

 私は携帯の電源を入れた。するとすぐに土門さんからの着信があった。

「わ!あ、土門さんからだ。もしもし、土門さん?はい、水稀です」

「はあ、やっと繋がった」

「ごめんなさい、電源切ったままにしてたから。本当にすいません」

「ああ、それは別にいいんだけど。それより、あ、電源切ってたからもしかしてまだ見てない?」

「え、な、何が?」

「そうか、あのね、ほら、この前、痣のあのサイトに二人で投稿したじゃない?」

「ええ」

「そのサイトの管理者からメールが帰ってきてたんだよ。多分、水稀さんにもきてると思うんだ。まず、それを見てよ。また、十五分後にかけ直すから」

「いいです、それでしたら、メールを確認してから私の方からかけます」

「分かった、待ってるね」

 そして私はメールを確認した。

「水稀、土門さん、なんの用事?」

「うん、実はね、ちょっと前にネットで変なサイトを見つけてね。ほら、この“不思議な痣マニア”ってサイトなんだけど」

「な、何、これ」

「うん、なんかね、変わった痣を持ってる人に向けたサイトみたいでね、そんな変わった痣を持ってる人がいたら情報提供してほしいって言うものなんだけど、先日、このサイトに土門さんと二人の痣のことを投稿したの。それでね、土門さんの話だと返事が返ってきてるみたなのよ。あ、あったこれだ、本当に返事が返ってきてる」

「何だよ、そんなことして大丈夫なのか?タイトルだけ見たらこのサイトの管理者、どう考えても完全にアブノーマルな趣味の持ち主だぞ」

「うん、でも、土門さんと話したんだけど、もしかしたら、土門さんの持ってたあの絵に繋がるヒントがあるかもしれないでしょ。だから土門さんにも協力したかったのよ。あ、嘘、マジで?このサイトの管理者、私たちに会いたいって返信してきてる。それも日時・待ち合わせ場所まで指定してきてる。十二月十日、大阪だって」

「おい、本当か?水稀、これ以上は止めた方がいいぞ。あんまりそんなものを深追いするとさ」

「うん、でもね、返信の内容見てると、そんな変な人達じゃなさそうだし、それに、私もこの痣に何か意味があるなら知りたいし。よし、土門さんに電話してみる。もしもし、土門さん、メール見たよ」

「そう、でどうする?僕もまさか管理者が会いたいなんて返してくるなんて思っても見なかったから、かなり驚いてるんだけど。でも祖父もずっと気にしてたこの絵の真実に近づけるかもしれないから、僕は行ってみるつもりだけど」

「そうですか、じゃあ、私も。ちょうど、その日と翌日はダンススクールもお休みだから」

「おい、水稀、本当に行くのか?」

「あれ?今の声、雷蔵くんの声だよね」

「はい、実は今、実家に帰ってきてるんです。だから両親も海斗も一緒です」

「そうですか。相変わらず雷蔵くんが心配してますね。じゃあ、伝えて下さい。もし水稀さんに危険が迫ったら今度こそ僕が命をかけて守りますからって」

 私は土門さんの言葉を雷蔵に伝えた。

「ううん、土門さんは水稀と海斗の恩人だしな。信じるか。でも土門さん、喧嘩弱いしな」

「おーーい、思い切り聞こえてる」

「でも仕方ないな。水稀も頑固だからな。言い出したら中々聞かないからな。どうしますか?おじさん、おばさん」

「うん、雷蔵くんの言うとおり、水稀も頑固だからね。でも水稀、一人じゃダメよ。必ず土門さんと行動を共にすること」

「分かった。それじゃあ、土門さん、新大阪駅の改札を出る前で合流すると言うことでいいですか?」

「はい、分かりました」

 そして私は土門さんと十二月十日、大阪に行くことを決めた。

「おい、水稀、でもお前、旅費、どうするんだ。もうそんなに時間もないけど。ってバイトするなって制限かけたのは俺か」

 そこへ雷蔵の両親が玄関に入ってきた。

「佳哉さん、泉水さん、いる?ああ、何だお前もいたのか」

「おお、親父、お袋、いいところに来た。わりー、また出世払いで金貸してくれ。頼む、今までよりももっとこき使っていいからよ。十万、頼む」

「何だ、またか。まあいいだろう。売上も好調だからな。さらに仕事量を増やしてやるからな」

「よし、サンキュー。ほら、水稀、これで行ってこい」

「そんな、雷蔵、おじさん、おばさん。そんなのダメだよ。今の福岡での暮らしだって、全部おじさん、おばさんに迷惑かけてるんだもん。雷蔵、このお金は貰えないよ」

「いいんだよ。俺は水稀が無事であればそれでいい。心配するな、あとは俺と親父の間の問題だ」

「水稀ちゃん、遠慮はいらないよ。雷蔵に渡した金だ。雷蔵が惚れてる女性のために使うって決めたんなら、な、雷蔵」

「バカヤロー、親父、一言多い」

「だって、水稀ちゃんの福岡行きの時に俺に土下座してお願いしただろ。水稀のこと愛してるんだ。水稀のために、あいつの夢のために俺はとにかくできることは何だってしてやりたいんだ、お願いしますって、あんな真剣な顔のお前を見たの初めてだったからな。どれだけお前が水稀ちゃんに惚れてるか分かったからな。俺もできる限り協力してやるよ」

「おい、親父、そこまで話すことないだろ」

 雷蔵は茹蛸みたいに真っ赤になった。

「アハハ、やっぱり雷蔵そうだったんだ。っておじさんとおばさんに言われなくてもバレバレだったけどね」

「うるさいぞ、海斗。そこまで笑うことないだろ。とにかく水稀いいから、俺がそうしたいんだ。これで大阪、行ってこい。でも危険を感じたら逃げてすぐ帰ってくるんだぞ」

「うん、ありがとう。雷蔵。おじさん、おばさんもありがとう」



「あの、優風さん、瑠々。午前中だけ、ちょっと一人でお出かけしてきていいですか?病院に行ってきたいから」

「え!恵さん、どこか具合でも悪いの?じゃあ、俺が送っていくよ」

「そうだよ、ママ。調子が悪いならパパに甘えちゃえばいいよ」

「違うのよ。そうじゃないの。どこも悪くはないから大丈夫。大丈夫だから、お願いします。一人で行かせて下さい」

「あ、まあ、恵さんがそんなに言うなら。でも本当に大丈夫なの?俺と瑠々に隠して無理してるんじゃない?」

「優風さん、本当に大丈夫ですから。無理なんてしてないです。それじゃあ、午前中だけ、お願いします」

 恵はそう言って出かけていった。

「でもどうしたんだろうね、ママ。本当に大丈夫なのかな」

「うん、瑠々の言うとおりだ。あんなに頑なに一人で出かけたいなんて、あんな恵さん初めてだもんな。ああ、心配だな」

 俺と瑠々は二人でずっと恵の体調を心配しながら帰りを待った。俺は心配でお昼ご飯がほとんど喉を通らなかった。恵は午後一時頃帰ってきた。

「ただいま帰りました」

「ママーー」

「恵さん、どう、大丈夫?」

「もう、瑠々も優風さんも体調が悪い訳じゃないって言ってるのに」

「だって、恵さん。恵さんがあんなに強く一人で病院に行きたいって言うから、もう俺、心配で心配で。で、恵さん、何科に行ってきたの?」

「はい、まずは寒いからリビングに行かせて下さい」

 そして俺と瑠々は恵と三人でソファに座った。

「ふう、疲れた。ホッとしたな」

「ほら、やっぱり、恵さん、疲れたって」

「もう、優風さん、心配し過ぎです。あのね瑠々、優風さん、大事なお話しがあります」

「な、何?大事な話って?うわあ、まさか、恵さん?やめてよ、病院に行って大きな病気が見つかったとか。聞きたくないよ」

「私も嫌だよ。ママが死んじゃったら。嫌だよ」

「違うよ。でも優風さんの負担になっちゃうかな。また、一人家族が増えちゃうから」

「え!何?恵さん、今、何て?」

「はい、もう一人家族が増えちゃうって言ったんです。ごめんなさい、できちゃったみたいです、赤ちゃん」

 俺はこの恵の言葉を聞いて、勝手に涙が零れた。

「め、恵さん、本当に!本当に」

「はい、今日は産婦人科に行ってきたんです。まだはっきりしなかったから、二人には内緒で確認してきたかったんです。ごめんなさい、もう三ヶ月ですって」

「や、やったー、瑠々、妹だ、妹ができたぞ」

「優風さん、まだ女の子か男の子かは分からないですよ」

「そ、そうか、すいません。瑠々、とにかく弟か妹だ。瑠々、新しい家族だぞ」

「やったね、パパ。ママやったね」

「でも優風さんの負担になっちゃわないかと思って・・。喜んでくれるんですか?」

「何を言ってるんですか恵さん、喜ぶに決まってるでしょ。こんな最高にハッピーな報告ないですよ」

「だって生まれたらしばらくの間、育児で保育園の仕事休まないといけないから」

「恵さん、俺たちはもう家族なんだよ。俺に気を遣い過ぎだよ。家族が一人増える、こんな嬉しいことないですよ。いくらでも俺が頑張りますよ。なあ瑠々」

「うん」

「瑠々、赤ちゃんだ赤ちゃんだぞ」

 俺は瑠々と手を繋いで踊った。

「よし、今日はお祝いだ。お寿司だ、お寿司を食べに行こう。あ、いや、恵さんの体に負担をかけちゃダメだから、お出かけはダメだ。よし、お寿司、出前を取ろう」

「いいですよ、お寿司なんか。これからまたお金がかかるから、いつも通り私が作りますから」

「ダメだよ。恵さんは無理しちゃダメ。よし、瑠々、今日からは俺と瑠々でご飯作ろう。瑠々もママに教えてもらって料理のレパートリー増えただろ。瑠々もかなり上手になったもんな」

「うん、そうだね」

「もう、優風さんも瑠々も、いいから。あんまり気を遣われると私も気持ちが不安定になりそうだから。それにまだこの時期はいつも通りの生活をしてた方が胎教にもいいですから。健康な赤ちゃんを産むためにも、いつもどおりで。ね、優風さん、瑠々」

「そ、そんなものなんですか?でも辛かったらいつでも何でも言ってね。俺もできることは何でも手伝うから」

「そうだよママ。私も今まで以上にいっぱいお手伝いするからね」

「良かった、優風さんも瑠々も喜んでくれて」

「でも、恵さん、まだ、料理はいいからね。もう少しだけ休憩ね。そうだ、ビデオ、ビデオ撮ろう。こんな幸せな時間、記念に動画残しておかないと。そうだ、スマホでも撮っておこう」

 そう言ってスマホを確認するとメールが届いていた。

「な、何だこのメール?あ、あの時の、投稿の返信だ」

「何ですか?優風さん」

「うん、この前、恵さんに教えてもらった、ほら、あの痣のサイト」

「ああ、はい。不思議な痣マニア?でしたよね。そのサイトが何か?」

「うん、あの投稿の返事が来てたんだ。ええ!まさか、俺に会いたいって。十二月十日に新大阪駅で待ってますだって。マジか。」

「へえ、でも凄いですね、そんな会いたいなんて返ってくるなんて。優風さん、どうするんですか?どんな人かも分からないから、ちょっと怖いですね」

「うん、でもどうしようかな。何かこのメールの内容だと、俺のこの痣には何か秘密があるような書き方がされてるし。何かあの力とも関係してるのかな?」

「何ですか?優風さん、あの力って」

「あ、いや、何でもない、何でもないよ」

「あ、優風さん、何か私に隠してる」

 恵はそう言って寂しそうに俯いた。

「あ、いや、ごめん。分かった、恵さんに隠し事はなしだね。何もかも話すよ。実は俺には変な力があるんだ。また恵さんに嫌なこと思い出させちゃうけど、あの恵さんの家での事件、あの時、恵さんの前で見せたでしょ。犯人の右肩を切り裂いたあの力のことだよ。あれね、どうも俺の体に備わってる不思議な能力みたいなんだ。俺ね、自分の気持ちが昂ると、不思議と風を操るというか、指先に風を切り裂く感覚が宿るような、そんなことがたまにあるんだ」

「ああ、あの時の。それが優風さんのあの痣と何か関係が?」

「うん、確証はないけど、その可能性もあるんじゃないかと思って」

「じゃあ、十二月十日って土曜日ですよね。お休みだし、行きましょうよ」

「え、行きましょうよって、まさか、恵さんも付いてくる気?」

「え、ダメですか?優風さん、私と瑠々を置いて一人で行くつもりですか?」

「だって、どんな人かも分からないし、恵さんと瑠々に危険が及ぶといけない。それに恵さんのお腹の中には新しい家族も」

「だからこそ、私、優風さんの傍にいたいの。我慢してたけど、まだ家で一人になると怖くて、襲われたことを思い出しちゃうから」

 俺は恵を抱きしめた。

「ごめん、恵さん。そうだよね、まだあの事件からそんなに時間経ってないもんな。そんなことも気付いてやれなくて、本当にごめん。分かった。よし、みんなで一緒に行こう。そうだよね、恵さんも瑠々も俺が守ると決めたんだ。それに恵さんの体に宿った新しい命も」

「ごめんなさい、わがまま言って」

「ううん、俺の方こそ、ごめん。愛してるよ恵さん」

 そして俺は十二月十日、大阪には家族全員で行くことを決めた。

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