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第十一話

 そんな祖父の想いを聞いてから数日後の土曜日、私は祖父の部屋でおしゃべりをしていた。

「いやあ、もうこれが夢みたいだな」

「うん?何が?何が夢みたいなのよ、お爺」

「だってそうじゃないか。今、こうして陽向と筆談じゃなく、普通に話してるんだぞ。こんな夢みたいな生活が現実になってるんだ。これもみんな光星くんのおかげだな。でも今日は光星くんは仕事か?」

「うん、光ちゃんが話しを進めていた契約のお客様の都合が平日にどうしてもつかなくて、今日しか調整つかなかったから。だから休日出勤なの。私も一緒に出勤して会社で待ってるって言ったら、拒否されちゃって。私はゆっくり休まないといけないって」

「そうか、でも明日は休めるんだろ」

「うん」

「そうか、じゃあ、明日は・・・あ、いや止めておこう」

「何よ、お爺、言ってよ。話そうとして止めるなんて、気になるじゃない」

「いやあ、この前、話すことを躊躇した夢を陽向と光星くんに語ったから、これ以上は自分の欲求を満たすために話すのは止めようと思ってたんだけど、つい口が滑っちゃったな」

「何よ、私ができること?そうなら何でもするよ。お爺のためなら」

「うん、陽向にしかできないことなんだけど。言うよ、いつでもいいんだけど、死ぬ前に一回は陽子も光星くんも連れてカラオケに行って、陽向の歌声を思う存分堪能したいと言いたかったんだ」

「何だ、そんなことか。そんなこと一回と言わず何回でも行こうよ。そうだ、それなら明日、光ちゃんも休みだから、明日、みんなで行こうよ。私、心を込めて歌うから。そうだよね、家での鼻歌はお爺にも聞こえてたと思うけど、カラオケとかで本格的に歌ってるところは、小学校一年生の時以来、見せてないもんね」

 そして私は翌日の日曜日、祖父、母、光星と一緒にカラオケに行った。

「いやあ、ついに来たな。さあ、早く、陽向の歌を聞かせてくれ」

「もう、お爺、来たばかりだから。飲物の準備をしてからでしょ。それに何を歌うかも決めないと」

「そうか、俺もお母さんも陽向の歌声を本格的にマイクを通して聞くのは初めてだもんな。俺も凄い楽しみだ」

 私はカラオケに来て、今まで歌えなかった大好きな曲をいっぱい歌った。祖父も母も光星も私の歌を聞ければいいと言って誰も歌わなかったので、私の独壇場になっていた。そんな私の歌声を聞いていた三人は凄く温かい笑みを浮かべていた。そして最後に私はもちろんカラオケには入っていないが、光星に貰ったICレコーダーを取り出して再生した。

「じゃあ、最後は私が書いた詩に光ちゃんがメロディをつけてくれた曲、“私の想いを届けたい”を歌うね」

 そして私はこの光星が想いを込めて作ってくれた曲に三人への感謝の気持ちを乗せて歌った。この曲を歌い終わると、祖父のもの凄い泣き声が部屋に響いていた。母と光星の顔を見ると二人も涙を零していた。

「ああーーー、ああーーー」

「ちょっと、お爺、どうしたのよ。それにお母さんも光ちゃんも、泣いてるの?」

「ああ、何か今の陽向の歌声を聞いていたら、俺も今まで自分を支えてくれた大切な人達の想いが心の中に溢れてきて、自然に涙が流れてきてね。本当に不思議だ、俺もたくさんいろんな曲を聞いてきたけど、こんなこと初めてだよ」

「陽向、私もよ。母親の私が言うのも何だけど、陽向の歌声は凄いわ、聞いてると耳からだけじゃなく、何かこう?何だろう、体全体のいろんなところから心の中に染み渡ってくるというのかな、歌声が体を包んでくれるような感覚になるのね」

「そう、ううわあーーん、それが陽向、ああ、太陽の国をまとめていた当主の力を受け継ぐお前の歌声の力なんだよ、ああーーー」

「え?何、泣き過ぎで何言ってるか分からないよ、お爺」

「陽向、それが君の太陽の国当主の末裔の歌声の力だって言ったんだよ、多分」

「何、光ちゃん、今のお爺の話、分かったの?」

「ああ、何となくだけどね、そうですよね、お爺様」

 祖父は光星の言葉に泣きながら頷いた。

「ほら、当たっただろ」

 しばらくして落ち着いた祖父はまだ少し涙声だったけど、若かりし頃に戦地に行った戦争の体験から今まで生きて来た自分の内に秘めた想いを打ち明けた。

「ありがとうな、陽向。これで例え今ここで死んでもいいよ。良かった、あの時に戦地から生きて帰って来られて。いや、あの時に戦友たちを裏切ってでも帰ってきて」

「え、お父さん?何を言ってるの。戦友たちを裏切ってってどういうこと?お父さんは立派に戦って生還したんでしょ」

「いや、違う。今までずっと隠してきたけど、私はあの戦争で命を賭けて戦い戦死した同士たちとは違う。私は例え国のためであっても人を殺すことが怖くてずっと逃げ回っていた裏切り者だから。

 私が派遣された戦地は兵士と戦う戦場とともに兵士じゃない普通にそこに暮らしている住民も皆殺しにせよという命令が下っていたんだ。仲間はみんな国のためだと言って命令に従って住民にも手を掛けていったよ。しかし、私はダメだった。とてもじゃないけどそこに暮らす住民にまで手を掛けることはできなかった。自分を殺そうとする兵士には自分が生きるために仕方なくこの手で人を殺めた。でもそれはあくまで自分に刃の眼を向けてくる奴が対象だった。私は、私は、命乞いをする女性や子供のあんな眼を見たら手を掛けるなんてことは出来なかった。私は平和を愛し続けてきた太陽の国の末裔だと教えられてきたから。自分に殺意を向けない人を殺めるなんてことはどうしても出来なかった。だから私は仲間とはとにかく離れてなるべく単独行動して隠れていたんだ。そのおかげで何とか私は生きて日本に帰って来られた。でも日本に帰ってきてからすぐにはずっと自分はこのまま日本に帰ってきて生き続けていいのかと、後悔の念に苛まれながら生きてきた。でも陽子の顔を見たときは非国民として帰ってきた自分でも、陽子を、家族を守っていかなければいけないと思って生きてきたんだ。そして陽子が結婚して、陽向、お前が生まれたときは、たとえ裏切者になっても日本に帰ってきて本当に良かったと思った。そして陽向のその胸の痣を見た時にはさらにその思いが強くなったよ。陽向がどんな素敵な女性に成長するのか、その声と言葉でどれだけの人々の心を温かく包み込んでいくのか、そんなことを考えたら、もう最高に幸せだった。でもあの事故以来、陽向の声が聞けなくなって、目の前が真っ暗になったよ。そして陽向が話せるようになればと思って私は可能性があるなら何でも必死にやってきた。でもずっと暗闇の中を手探りで歩いてるようで苦しかった。でも今こうして再び生きてるうちに陽向の歌声が聞けて確信したよ。やっぱり陽向、お前の声は人の心に寄り添える最高の歌声だ。それにこの光星くんがメロディをつけてくれたこの曲の詩、陽向が作詞したんだろ。今思えば陽向が今まで話せなかったのも、陽向に言葉の重要性をより深く理解させための試練だったんじゃないかと思えてな。こんなにも素敵な詩を書くようになったのも、話せなくなったことによる筆談の必然性の延長だからな。

 陽子、ありがとうこんな素敵な孫を産んでくれて。ありがとう、陽向、今までこんなに美しくて優しい女性に育ってくれて。そして、光星くん、私の暗闇を明るく照らしてくれたのは全て君だ。君には何と言ったらいいんだろう。んーー言葉にできないくらい感謝してる。君が陽向の前に現れてくれて、傍にいてくれる。これで私はやっと戦地から帰ってきた役目を終えたような気がする。これからは君が陽向を守ってくれると信じられるからな。もし私が死んだら陽向のこと、陽子のことも頼むよ。この通りだ」

 祖父はそう言って光星の両手を包み込むように握った。

「はい、もちろん、そのつもりです。でも止めて下さいよ、お爺様、まるでお爺様がもうすぐ死んでしまうような言い方じゃないですか。まだ私は皆さんと知り合って一年も経ってないんですよ。私だって陽向を今までずっと守ってきてくれたお爺様にまだまだたくさん恩返ししたいですから」

「そうだよ、お爺。縁起でもない話しないでよね」

「そうだよ、お父さん」

「いや、悪い悪い。そんなつもりじゃないんだ。ただ、これで例え死んでもあの世で戦死した仲間に責められても自信を持って言えるよ。生きて日本に帰ってきて良かったと。だってこんなに可愛い娘と孫の成長をこの歳まで見守って来られたからな。そんないろんな気持ちを陽向の歌声が私の心の中で膨らましてくれたから、心の中だけで受け止めきれない想いが涙になって溢れてしまった。すまんな、陽向の歌を聞きに来たのに、老い耄れの話が長くなってしまって。とにかく三人にお礼を言いたい気持ちになってしまってな」

「もう、それは私と陽向の台詞ですよ。お父さん」

 私はこの日、大切な三人の前で心を込めて二十曲を歌った。



 祖父の秘めた想いも聞いたカラオケから一週間後、私は仕事を終えて光星と家に戻った。

「ただいま、お爺、お母さん、クリスマスイブだからケーキ買ってきたよ」

「はい、ありがとう。遠慮なくもらっておくわ。はい、あなたたちは出かけてらっしゃい。ほら、時間がないわよ。予約した時間に間に合わなくなってしまうわよ」

「え、何、どういうこと?お母さん」

「クリスマスディナー。陽向、あなたが気に入ってた、ほら、あの懐石料理店、あったでしょ。お父さんがこの日に予約してくれたのよ。光星くんと一緒に行ってきなさい」

「何で?いつもイブは家でパーティしてたのに」

「おお、帰ってきたか。ほら、陽向、もう出かけないと間に合わないぞ。お前の大好きな日本料理だ。ちょっとクリスマスって雰囲気にはならないかも知れないけど、まあいいだろう。いつも家で私と陽子とずっと過ごしてきたんだ。初めて大切な彼と過ごすクリスマスイブだ。光星くんと二人で楽しんできなさい」

 私は祖父の素敵な優しさに大きな瞳から涙が零れた。

「バカ、お爺。泣かせないでよ。お化粧が取れちゃったじゃない。ありがとう、お爺、私のためにいつもいつも」

「ありがとうございます、お爺様。カラオケの時に僕が恩返ししないといけないと言ってたのに、その前にどんどん、返せないご恩が増えていってしまいます」

「いいんだよ、気にするな光星くん。君には私の方こそ返せないほどの恩があるんだから。今こうして普通に陽向と話せてる、これに替わる幸せはないよ。ほら、陽向、泣いてないで早く行ってきなさい。お前は化粧が取れたって大丈夫だ。化粧なんてしなくても十分綺麗だから」

「お爺のバカ、バカ。ありがとう、行ってきます」

「もう、何て出かけ方だ。私のことをバカと連呼して感謝して。まあいい、行ってらっしゃい。二人とも予報では雪が降りそうだとも言ってたから、寒くなりそうだ。気を付けて」

 そして私は光星とクリスマスムード一色の寒空の街に出かけて行った。

 祖父がプレゼントしてくれた店で美味しい懐石料理を楽しんだ私は光星と、赤と緑のクリスマスカラーの眩しいイルミネーションが賑わう街中を歩いていた。

「光ちゃん、美味しかったね」

「お爺様に感謝しないとね」

「でも私、嬉しい。こんな風に夜にこんな綺麗なイルミネーションを見ながら歩ける日がくるなんて夢みたい。それも大好きな光ちゃんと一緒に歩いてる」

 私はこんなことを話しながら光星の腕を組み歩いてると祖父からラインが入った。

「あ、ラインだ。やだ、何これ、もう酷いお爺。私達にイブのお食事を自分でプレゼントしたことを自慢して、私達のイブデートばらしてる。もう、これじゃあ、月ちゃんにも水稀ちゃんにもいじられちゃうよ。特に月ちゃんはこんな情報ご馳走にしてるから。もうバカ」

 私は祖父に返した。

「もう、お爺のバカ。みんなにばらすことないでしょ。自分がご馳走してやったって自慢までして。帰ったらお説教してあげるから、首を洗って待ってなさいよ。よし、光ちゃん、返してやったよ」

「もう陽向、何もそんなに目くじら立てなくてもさ。サラッと聞き流してあげなよ。お爺様もライン始めたばかりだから、何か使いたいんだよ。それに夢だった七曜国のみんなとこうして繋がっていられるから、楽しくて仕方ないんだよ多分」

「うん、分かってるよ。だから返したの。半分は怒ってるけど、半分はお爺とのやり取りを私が楽しんでるの。多分、お爺、スマホの向こうで笑ってるよ、私が怒ってるって、嬉しそうに」

「そうか、いい関係だね、陽向とお爺様は。でも早く帰ってあげないとね。お爺様のことだからきっと陽向が帰ってくるまでいつまでも起きて待ってるよ」

「うん、そうだね」

「それじゃあ、寒くなってきたし、もう少し歩いたら帰ろうか」

 街は無風だったが、手と足の先に針を刺されるようなチクチクする感覚を覚えるほど冷え込んでいた。私は光星ともう少し歩いて、派手なイルミネーションで装飾された大きなツリーの前で足を止めると、目では確認しづらく、肌に触れてやっと気づくような粉雪が舞ってきた。

「陽向、大丈夫、寒くない?雪も降ってきたから、ここで決めて帰ろう、うん、そうしよう」

「うん、大丈夫だよ。だってさっき光ちゃんが私にマフラー巻いてくれたから。でも何?何を決めるの?光ちゃん」

「いいから、このツリーの前に立っててね」

 そうすると光星はスーツの内ポケットから赤いリボンのついた二十㎝くらいの長方形の白い箱を取り出した。

「陽向、君と付き合うようになってから初めてだね。こうして二人でイブを過ごすのは。喜んでもらえると嬉しいけど。まだイブだけど、メリークリスマス。そして、これから結婚を前提にお付き合いして下さい。お願いします。俺、陽向だけじゃなくて、お母さんもお爺様も幸せにしたいから。俺が陽向を本気で想ってることはお母さんもお爺様も理解してくれてると思ってるけど、もっと明確に意志表示しておきたくて。その方がお二人もより安心してくれるだろ」

「な、何、光ちゃん。やだ、お爺に続いて、光ちゃんまでイブにサプライズなの?もう、涙が頬を伝って冷たいよ。またお化粧が取れちゃうじゃない。こんな私で良かったら、これからもずっとお願いします」

 私は光星のプレゼントを受け取った。

「ねえ、光ちゃん、開けていい?」

「うん、あ!ごめん、やっぱり返して」

「何で?」

「あ、いや、それは・・・、お願い。多分中身を見たらきっと陽向、気持ち悪いって思うよ。だから、もう一回違うものプレゼントするから。一度渡しておいて失礼だけど」

「嫌だよ。だって光ちゃんが色々考えて選んでくれたものでしょ。私これでいい。違うこれじゃないと嫌だよ」

「あ、うん、分かった。陽向の反応が不安だけど、覚悟するよ」

「ああ、このケースだと、多分ネックレスだね」

 ケースを開けるとそこにはプラチナのネックレスの先に手作り感が滲み出ている二つの飾りがついていた。

「うわあ、素敵、素敵なネックレス。この飾りはもしかして?・・・私と光ちゃんの痣の紋様を模ったもの?まさか!光ちゃんの手作りなの?」

「ごめん、気持ち悪いよね。こんな下手くそならプロに任せればもっと素敵なのにって思っただろ」

 私はこのプレゼントを見てさらに涙が止まらなくなった。

「バカ、こんな素敵なプレゼントないよ。いつ、こんなもの作ったの?まだ、あの時の大怪我が完治して間もないのに。それに仕事以外にもあのホームページの作成や情報の整理、月さんたちと会うための調整までお願いしてたのに。こんなことできる時間、なかったはずでしょ」

「よかった。気持ち悪いとは思わなかったんだね。喜んでくれたんだね」

「当たり前でしょ」

「陽向と会わなかった休日に今住んでるアパートの近くにある金属加工の町工場の社長さんにお願いして作らせてもらったんだ。工場の休みに申し訳なかったんだけど。今時、彼女へのプレゼントでここまでする男性がいるんだって言って、快く協力してくれたんだ」

「本当に光ちゃんは、バカよ。そのうち体壊しちゃうよ。私を想ってくれる光ちゃんのこと本当に大好きだよ。でももっと自分のこと大切にしてよ」

「ありがとう。陽向は本当に優しいね。ごめんね、また、陽向のこと泣かせちゃったね」

 私は光星に指で頬の涙を拭われた。

「ねえ、光ちゃん、この私の痣の紋様を模った飾りの真ん中に、これって宝石?濃い緑色の中に赤い斑点があるよ。私、こういうものに疎いから分からないけど、どんな石なの?」

「うん、あのね陽向に前に君の誕生日教えてもらっただろ。三月六日だって。それ陽向の、三月の誕生石なんだ。有名なのはアクアマリンなんだけど、他にあと二つあったんだけど、もう一つは何だったかな?忘れちゃった。でもこの飾りに埋め込んだこの石、これが陽向にはピッタリだと思ったんだ。その石ね、ブラッドストーンて言うんだ。この名前だけだと、日本語に直すと血石とか言うことになるんだけどね、他に別名でヘリオトロープとも呼ばれるそうなんだ。俺はその意味に陽向との運命を感じたんだ。その意味、それはね、“太陽を呼び戻す石”なんだって。な、太陽の国の女王の血を受け継ぐ陽向にピッタリだろ」

「やめてよ、光ちゃん、女王だなんて。でもありがとう、そんなことまで考えて作ってくれたんだね。大好き、光ちゃん」

 私は光星の胸に飛び込んで顔を埋めた。

「俺もホッとしたよ。陽向がこんなに喜んでくれて」

「光ちゃん、私の首に付けてくれる?光ちゃんに付けてほしいの」

「も、もちろんだよ」

 私は光星にネックレスを付けてもらった。

「どう?光ちゃん」

「うん、素敵だよ。綺麗だ、陽向」

 私は大きくて綺麗な電飾のツリーを背にして光星と見つめ合い、そして私は光星に身を任せ目を瞑った。私は光星と自然に唇を合わせた。キスの後、私は光星に肩を抱かれて帰路に就いた。

「さあ、お爺様もお母様も待ってるから、そろそろ帰ろうか」

「うん」



「ただいま」

「ただいま帰りました」

「おかえりなさい、陽向、光星さん」

「あれ?お爺は?」

「うん、お父さんは自分の部屋じゃないかな?もう寝てるんじゃない?」

 私と光星は祖父の部屋に行った。

「お爺、ただいま。まだ、起きてる?あれ、返事がない。寝てるのかな?」

 私はその後、勝手に扉を開けた。

「あ!起きてるじゃないの。返事くらいしてよね、お爺。ちょっと、お爺、足が悪いんだから正座なんてしてたらダメだよ」

「だってラインで帰ったらお説教だって言ってただろ。すまん、陽向。勝手に二人のクリスマスイブデートを公表してしまって。反省してる、このとおり、許してくれ」

「バカね、お爺。半分は冗談だよ。お爺の気持ちも分かってるから。ライン初心者だし、それに七曜国の皆さんと繋がってることが嬉しいんだよね。怒ってないから大丈夫」

「そ、そうか。良かった。ホッとしたよ。どうだった、陽向、楽しかったか、光星くんとのイブデート」

「うん、凄く楽しかったよ。それにほら、お爺、見て。光ちゃんからのプレゼントよ」

「おお、陽向、そうか、素敵なネックレスだな。とても似合ってるよ。ありがとうな、光星くん」

「それにね、このプレゼントも嬉しかったんだけどね、もっと嬉しかったのは光ちゃんの言葉だったの。お爺、私ね、光ちゃんにプロポーズされたよ。改めて、結婚を前提にお付き合いしてくれって」

「このネックレスは僕の陽向への永遠の愛の誓いの証です。これからも陽向の傍にいたいから。それに僕はお爺様もお母さんも大好きだから。もっとお二人にも恩返しがしたいです。こんな素敵な女性、陽向を僕に出会わせてくれたから」

「そうか、本当にありがとう、光星くん。今年のクリスマスは私と陽子にとっても最高のクリスマスになったよ」

 そして私は光星と最高のクリスマスを過ごした後、二十八日には仕事納めをして、光星は東京の実家に帰っていった。私は新大阪駅で光星を見送った。

「光ちゃん、帰っちゃうんだね」

「おい、陽向。そんな寂しそうな顔するなよ。まるで今生の別れみたいじゃないか」

「だって、今日から一週間も光ちゃんに会えないんだよ。光ちゃんと出会ってから六か月経ったけど、こんなに長い間、会わないの初めてなんだよ」

「俺だって寂しいよ。な、陽向、そんなこと言うなよ。実家に帰りづらくなるだろ」

「う、うん、ごめんね。私、近いうちに光ちゃんの故郷にも行きたいな」

「うん、そうだね」

「じゃあね、光ちゃん。お父様とお母様に宜しく伝えてね。良い年をお迎え下さい」

 そう言って私は光星に抱き着いた。

「ああ、陽向もね、良いお年を」



 東京の実家に戻った俺は今まで生きてきた中で、一番幸せな年末を迎えていた。

 俺は両親にあの七曜国のみんなとの出会いについて語った。

「そうか、そんなことが。あの時、陽向さんのお爺様に粗方の話は聞いていたけど、私達も半信半疑だったが、本当に本当だったんだな、私達の祖先の話は」

「本当ね、あなた」

「光星の話を聞いたから、信じるしかないのに、まだ、いまいち信じられない気持ちでいっぱいだな。で、話は変わるけど、光星、陽向さんとはどうなってるんだ。上手くいってるのか」

「あ、ああ、でも父さん、やめてくれよ。そんな面と向かってストレートに陽向との話を聞かれると恥ずかしいよ」

「いいじゃないか。お前が女性と付き合うことなんて初めてなんだから。聞かせてくれよ。それにお前の陽向さんへの惚れ方だと、こんなことを聞けるのも最初で最後なんだろ。どうせ結婚を意識してるんだろ」

「参ったな。父さんには全て御見通しかよ。陽向と付き合い始めた時からそのつもりだったけど、実はこの前、クリスマスイブに改めて結婚を前提に付き合ってほしいって、プロポーズし直したんだ」

「そうなの。いいわね、うらやましいわ、陽向さん、光星にプロポーズされて」

「おい、お前が陽向さんに嫉妬してどうするんだよ。全く、真波は。いい加減、お前も子離れしないとな」

「だって、陽向さんにね、何か、光星を取られたようで、寂しいんだもん」

「はあ、参ったな、真波には」

「大丈夫だよ、母さん。陽向はそんな母さんの気持ちもしっかり汲んでくれてるよ。帰ってくるときも新大阪駅で、ちょっと寂しいって甘えられたけど、すぐに母さんのことを気遣って俺のことを見送ってくれたからさ。陽向は俺のことだけでなく、俺の周りの環境も含めて優しくできる素敵な女性だからさ」

「だから、それが嫌なのよ。そんな可愛くて綺麗な娘だから嫉妬しちゃうのよ、陽向さんに」

「参ったな、そんなこと言われても。なあ、父さん、何とかしてくれよ」

「光星、諦めろ。こればかりはな。まあ、そのうち、時間が解決してくれるよ」

 そしてこんな大阪でのいろいろな話をしながら、俺は両親と一緒に年越しを迎えた。

「あけましておめでとう。父さん、母さん。今年も宜しくお願いします」

「あけましておめでとう、光星」

「あけましておめでとう、光星。今年は陽向さんばかりに優しくしないで、私にも優しくしてね」

「もう、母さん。俺はいつでも母さんを大切に思ってるつもりなんだけどな。父さん、俺ってそんなに母さんのことを邪険に扱ってるように見える?」

「おい、真波、もう新年早々、いい加減にしろよ」

「だって」

「分かったよ、母さん。もちろん、俺は父さんと母さんのことも大切に思ってるから、今度は陽向を連れてここにも帰ってくるようにするから。陽向も父さんと母さんと仲良くしたいって言ってたから。陽向も父さんと母さんのこと、とても素敵だって言ってたからさ」

「そう、そうなんだ、いい娘さんね陽向さんて」

「全く、さあ、みんなで行くか、初詣」

 両親とのんびりとした元旦を迎え、俺はお昼頃、陽向に電話で新年の挨拶をした。

「もしもし、陽向か?新年あけましておめでとう。今年も宜しくお願いします」

 でも陽向は怒っていた。

「もう!光ちゃん、遅いよ、何で新年を迎えてすぐに電話してくれないのよ、私、寝ないでずっと待ってたのに」

「ええ!陽向、寝てないの?ごめん、じゃあ、挨拶したから寝ていいよ」

「酷い、それだけで終わりなの?」

「ごめんごめん、四日の午後には陽向の家に挨拶に行くから。ね、許して」

「もう!分かったわ。光ちゃん、今年も宜しくね」

一月二日になり、俺はまた陽向に内緒であることを行動に移そうとしていた。そして、俺は朝九時頃に母親の作ってくれたお雑煮を食べた後、すぐにある作業を進めるため自分の部屋に向かおうとした。ソファから腰を上げた時にインターホンが鳴った。その来客に母親が対応した。

「はい、どちら様ですか?」

「あの、すいません。こちら金愛光星さんのお宅ですか?」

「あ、はい、そうですけど」

「良かった。あ、明けましておめでとうございます。私、土門振と申します」

 俺はその声と名前に反応した。

「え!ど、土門さん?母さん、俺、俺が出るよ」

「あ、はい」

 俺は急いで玄関を開けた。

「土門さん、な、何で?まだ年明け二日目ですよ。実家に戻ってたんじゃなかったんですか?あ、明けま・・・、あ、土門さん。年始の挨拶なんて。昨年、お爺様が亡くなられたのに」

「いや、それはいいです。だって祖父の死は確かに辛いことでしたけど、祖父の願いでもあったあの絵の真実に辿りつけて、こうして光星さんや皆さんとも知り合えた訳ですから。僕はトータルして良い年を迎えられたと思ってますから」

「そうですか。じゃあ、改めて、明けましておめでとうございます。で、土門さん、こんな年明け早々、何か緊急の用事ですか?」

「ちょっと、あの、光星。誰なの?あ、どうも初めまして」

「あ、すいません。失礼しました。光星さんのお母様ですね。初めまして、私、香川県から来ました、土門振と申します」

「ごめん、母さん。説明しないとね。ほら、先日、陽向の家で会ったって言っただろ。七曜国当主の末裔のみんなに会えたって」

「ああ、はい」

「こちら、土門振さん。七曜国の一つ、土の国当主のご子息だよ。それも俺と同じ、痣の持ち主なんだ」

「まあ、そうなの。それは。さあさあ、こんなところで立ち話も何ですから、どうぞ、土門さん、上がって下さい」

「どうもすいません。こんな新年早々、突然、お邪魔して」

「いえいえ、私達は全然大丈夫ですよ。それに七曜国の方なら大歓迎ですよ。私達は陽向さんのお爺様から我々の祖先のことは聞いてましたから」

 そして俺は振を家に上げ、少しの間、リビングで話した。

「はい、土門さん、どうぞ。お雑煮とそれからうちのおせちです」

「あ、お母様、すいません。もうお気を遣わないで下さい」

「さあ、土門さん、どうぞ、正月ですから、飲みながら」

「あ、ああ、ありがとうございます。光星さん」

「もう、土門さん、僕の呼び方。前も言ったじゃないですか。土門さんは七曜国当主の中では最年長なんだから、呼び捨てでいいって」

「ああ、そうでしたね。すいません、光星さん」

「だから、土門さん」

「そ、そうだね。ごめんなさ、あ、ごめん?光星。って、こう言わないといけないんだね。でもダメだ。呼び捨ては自分でも違和感があるよ。せめて光星くんでいいかな?」

「もう、土門さんは。本当に相変わらず、温厚な人だな。ね、父さん、母さん、まだ、初めて会ってちょっとしか経ってないけど、これだけでどんだけいい人か分かるだろ」

「ああ、光星の言うとおりだな。土門さんには何か穏やかなオーラが感じられるね。でもその中にもしっかりした芯があるというか、そういうものを感じるね。名前が振だけに・・・・?あれ、私の新年初めての渾身のダジャレだったのに。やばい、土門さんが温かい空気を届けてくれたのに、俺、凍りつかせちゃったか?」

「バカか、父さん。いきなり初対面の土門さんの名前をいじるんじゃないよ。ごめんね、土門さん。うちの父親、たまにこういう場を氷点下にするから」

「ハハハ、す、すいません。お父様の言葉にすぐに反応できなくて。でも光星くん、とても素敵なお父様とお母様ですね。僕がここにいなくても十分すぎるほど温かいご家族じゃないですか。お雑煮もおせちもとても美味しいです」

「まあ、ありがとう。土門さん、お褒め頂いて光栄です」

「あ、土門さん、それはそうと、本題。こんな年明け早々、何?何か大切な話があるんじゃ?」

「ああ、そう、そうなんです」

「じゃあ、僕の部屋で二人で話しますか?」

「いや、別にいいですよ。光星くんのご両親がいても。だって、お父様もお母様も七曜国に関わる方じゃないですか?あのね光星くん、実は君に相談したいことがあってね。別にこんな日に相談することじゃないと思ったんだけど、早めに準備を進めた方がいいのかなと思って。考えていたら、居ても経ってもいられなくなって。気付いたら東京に来てしまってたんだ」

「で、その相談て?」

「うん、この前、陽向さんの家で皆さんと初めて顔を合わせていろんな話を聞いたり、お互いのことも語り合ったじゃないですか。それで皆さん、何かしら音楽に関すること、歌うこと、踊ること、祭を楽しむこと、それに光星くんは曲を作ること、それに陽向さんは詩を書くこともしてると言ってたじゃないですか。それと合わせて、我々の祖先はその祭を国をまとめるための手段として使おうと動いていたと陽向さんのお爺様が言ってたじゃないですか。そんなことを自分なりに総合して、思ったんですよ。確かに今の時代、そんな祭や踊りで国の政を動かすことは難しいと思うけど、今の時代まで祭は人の生活を豊かにする拠り所として残ってることを考えたら、僕たち七人で祭というのかな、踊りや歌で日本を楽しく幸せにする手伝いができるんじゃないかと思ってね。自分が何かもの凄く壮大な夢を語ってるんじゃないかって、分かってるんだけど、祖父の意志を汲んで全国の祭りを回ってるうちに、全国の祭りから新しいものを、そして地域に根差した今ある祭ももっと発展させる手伝いができないかなと考えてしまってね。そんな活動に賛同してもらえないかなと思って。まずは歌を作ることもそして踊りにも長けてる光星くんに意見をもらおうと思って。どうかな?」

 俺はこの振の話に運命的なものを感じ、そして嬉しくて目が潤んでしまった。

「グスン、ごめんなさい、土門さん。俺、新年早々、本当に嬉しいです。まさか、まだ先月初めて会ったばかりの人とここまで気持ちを共有できるなんて思ってもみなかったので。もちろん、喜んで協力しますよ、土門さん。いや、協力しますと言うより、実は僕が七曜国当主の末裔の皆さんに近いうちにお願いしようと思ってたんです」

「え、光星くん、君も同じことを考えてたの?」

「はい、あ、でも発端は僕じゃないですけど。あ、でもどうしようかな。この話は他言無用と言われてるからな。でも、いいか、土門さんがあれから自分で考えをまとめて僕に相談してくれたんだから。自発的に行動しようとしてるんだから、うん、問題ない」

「光星くん?何をさっきから独り言を言ってるんだよ」

「あ、いや、すいません。でもやっぱり、僕たちは本当に昔から繋がってたんだと、本当に運命を感じるなと思って。だって、実は今、土門さんが話してくれたことと同じこと、陽向のお爺様に言われてたんです。土門さんたちが帰った後に、土門さんが言った、七人で作り上げたパフォーマンスで日本を元気にできるような、そんなことができたら、祖先が目指した平和な日本に近づけるんじゃないかと、そんな想いを語ってくれたんです」

「そ、そうなんですか?何だ、そうなら、お爺様もみんながいるところで、その夢を語ってくれたら良かったのに」

「そう、僕も陽向もその話を聞いた後にそう言ったんです。でも、それはお爺様の優しさだったんです。どうも、皆さんの誠実でそしてとても優しい人柄を目の当たりにして、そのことは言えなかったそうです。そんな話をしたら、皆さん、無理をしてでも今の幸せそうな生活を崩して尽力してくれるだろうと思ったそうです。そんな自分の夢のために、皆さんの生活を乱したくないからと」

「そうですか、そんなことを。本当に陽向さんのお爺様は、陽向さんへの愛情もそうですが、初対面だった我々のことまで、そんなに親身に想ってくれてたんですね。だったら尚更ですね。これは僕が言いだしっぺです。今年早々、行動に移しましょう。協力してくれますか?光星くん」

「当たり前ですよ。だって僕はもう行動に移そうとしてましたから。土門さんが来る寸前に自分の部屋にこもって、作業しようと思ってたんで」

「え、まさか、光星くん、もう具体的に何か形にしようとイメージしてるものがあるの?」

「ええ、実はお爺様から話を聞いた後で、いろいろと考えていて、皆さんと作り上げるパフォーマンスに使ってもらう曲のイメージが湧いてきたので、早速行動に移そうと思って。一年の計は元旦にありって言うじゃないですか。あ、まあ、今日はもう二日ですけどね」

「はあ、本当に光星くんは凄いね。陽向さんが言ってたとおりの人だね君は」

「な、何ですか?陽向が言ってたとおりって?」

「うん、あの陽向さんの家にお招き頂いた時、君がトイレに行ってるときに話してたんだ。光星くんはどんなときでも、大切に思ってる人には自分のその時できる全力を注いでくれるって。いや、下手をするとそれ以上の無理をしてでも、人のために自分を犠牲にしてしまう人だって。それが陽向さんは一番心配だって言ってたよ」

「そう、そうですか、陽向がそんなことを。じゃあ、まだ陽向には言えないな、このことは。もう少し話が具体的に進められてからだな。今回も曲をつける歌詞は陽向の詩を使おうと思ってるし」

「そうだね、あまり陽向さんに心配させちゃダメだね。だったら光星くん、無理をしちゃダメだよ。君は陽向さんを不安にさせない程度に自分のできる範囲で作業を進めてよ。陽向さん以外のみんなには僕から今の話を伝えて、みんなにどんなことができるか考えてもらうからさ」

「分かりました。土門さん、わざわざ遠いところをありがとうございました」

「うん、それではお父様、お母様、新年早々、お邪魔しました」

「いえ、土門さん、気を付けてね。今の話、土門さんもご無理なさらないように」

「お気遣いありがとうございます。失礼します」

 そして土門さんは私の実家からの帰路で、火練、月、水稀、優風に七人全員での新たなパフォーマンスに向けた想いとそのための活動のお願いの連絡をしながら、実家に戻った。



 故郷の極寒の地、網走市の実家で新年を迎えた俺は、二日に土門さんから連絡をもらった俺は早速、七人での活動で自分に何ができるかを考えていた。

「うーーん、光星さんは曲づくりができるから、もうイメージができていて、作業に入ってると言ってたな。俺は・・・・やっぱり、自分らしい、ダンスパフォーマンスを考えることしかできないな。自分らしい・・か?なあ、親父、俺らしい踊りって、どんなのだろう?」

「おい、そんなことを俺に聞くのか?まあ、でも俺が思うには、そうだな、やっぱり、おまえも含めて、その七曜国当主の血を色濃く受け継いでいる皆さんと作り上げるパフォーマンスの一つになるんだろ?それなら、おまえらしさと言ったら、その火の能力を織り交ぜるのが一番なんじゃないか?」

「そうか、そうだよな。でもあまり大っぴらには能力の存在をアピールするのは控えた方がいいからな。どうしようかな、パフォーマンスの中でサラッと火を点けたり消したりできないかな?それが自在にできれば上手く使えそうなんだけど?火種なしで、自分の意志で火を点けたり消したりできないかな」

 そう言って俺は火種なしで左手の指先に火を灯すイメージを込めた。

「うわ!点いた。親父、見てくれ、ライターなしでも意識だけで火が点いた」

「嘘だ!マジか?お前、凄いな」

「それなら、イメージ次第で消すこともできるのかな?おお!消えた。マジで?俺、こんなことできるんだ。火元がなくても火が点けれるよ、すげー、親父、俺、やっぱり化物?」

「バカ、化物になるかならないかはその力をどう使うか?お前の心次第だよ」

「よし、俺、この力を上手く踊りに繁栄させてみるよ」

「おう、頑張って自分の納得できる振り付けを作ってみろ」



 私は二日に土門さんに連絡をもらい、早速、翌日に香奈と喜美に相談した。

「あけましておめ、香奈、喜美。今年もよろしくね」

「明けましておめでとうございます、喜美、月」

「明けましておめでとうございます、香奈、月。もう、相変わらず月は新年の挨拶もラフなんだから」

「いいじゃん。私達の仲なんだから。これを親しき仲にもなんとかって言うんでしょ?」

「ぷっ!信じられない。それは月と反対の行動のことを言うのよ。親しき仲にも礼儀ありのことを言ってるんでしょ?」

「そうそう、それそれ。親しいからこそ挨拶がゆるくても、その中に礼儀があるから問題ないってことでしょ」

「はあ、ダメだね、これは。新年早々、月ワールド全開だね、香奈」

「本当に。今年も思い切り笑わせてもらえそうだね」

「な、何よ、違うの?」

「もういいよ。もう月のことだから諦めるわ。それより、もう今日から何を始めるの?」

「あ、うん、あのね、年末、火練さんと大阪に行った後、私と火練さんの祖先のこと話したでしょ」

「うん、とんでもない真実だったよね、喜美」

「ええ、今でもとても信じられないようなことだけど、火練さんのあの力や痣のことも考えると、信じるしなかないよね。ねえ、月の国の女王様」

「もう、喜美、そんな言い方しないでよ」

「ごめんごめん、別に嫌味で言った訳じゃないから。今までずっと月と親しくさせてもらってるから、納得できるのよね。だって、話を聞くと月のその治癒の力もそうだけど、あなたの性格よ。月の性格は周りをホッとする雰囲気に変えてしまう、外見もそうだけど、まさに癒しの女王に相応しいと思ったから」

「本当だね、月には本当に素敵な魅力がいっぱいだよ」

「あ、ありがとう、何か喜美と香奈にそんなふうに褒められると私、凄く嬉しい。ありがとうございます」

「う、嘘、月がございます、だって。やめてよ、月、いつもどおりでいいよ」

「だって、凄く嬉しかったから」

「あ、話がそれたね、で、月、何を始めるのよ」

「あ、あのね、昨日ね、大阪に行った時に初めて会ったんだけど、土の国の土門さんから電話があったの。それで、私達、七曜国当主の末裔、七人で新しいパフォーマンスを作り上げようということを言われたのよ。だから私もそのための何かをしないと、と思って。ねえ、香奈、喜美も手伝ってくれないかな。ああ、でもそうか、喜美と香奈には関係ないことだもんね。こんなことお願いするの失礼だよね。こればかりは自分一人で考えないとダメだよね」

「何いってるのよ、月。そんなのあなたらしくないよ。私達の仲じゃない。それに月には私と香奈もどれだけ助けられたか。あなたがいなかったら今だってこんなに楽しく生活できてないんだから。もちろん、協力するよ。花笠をベースに月らしい見てても踊っても癒される振り付けを作ってみようよ。ねえ、香奈」

「うん、さあ、月、早速、どんな振りにするか考えよう」

「グスン、うん、ありがとう」

「コラコラ、月、女王様が泣かないの」

「本当に月は可愛いよね。火練さんが惚れるのも分かるわ」

「あれ?な、何で、喜美と香奈が火練さんが私のこと好きなこと知ってるの?」

「そんなもの、火練さんの言動を見てれば分かるよ。今まで気づいてなかったのは、鈍感な月だけよ」

「もう、分かってたなら教えてよね」

「怒らないの。だって今はお互いの気持ち、分かってるんでしょ」

「うん、よし、きっと火練さんも頑張って自分らしいものを作ろうとしてるはずだから、私も頑張らなきゃ」

「よし、月、香奈、始めよう」

 こうして私は喜美と香奈の力を借りて自分らしい振り付け作りを始めた。



 十二月に大阪に行ってから一度、実家に戻った私は家族にも、そして雷蔵にも陽向さんのお爺様から聞いた私の家系に隠されていた真実について、全てを話した。そして年末から再び実家に戻っていた私は二日に土門さんに七人でのパフォーマンスの作成について連絡をもらい、早速そのことを家族全員に相談していた。私は大好きなダンスのことだったので、土門さんにそのことを言われてすぐにやる気になっていた。そして土門さんにこの内容を聞かされて、あることを思い付いていた。

「ねえ、楽しそうな話でしょ。さすがは土門さんだわ。全国のいろんな祭を見て歩いて、きっと凄いパフォーマンスを作ってくると思うの。だからね、私もね、私にしかできない私らしい踊りを作り上げようと考えてるの」

「そうか、いいね、頑張ってね、姉さん。やっぱり姉さんはダンスのこと話してると、いい顔してるね」

「あ、ありがとう、海斗。もちろん、頑張るよ。それとね、パパ、ママ、海斗も聞いて。もう一つ、私、土門さんにこの話を聞いて思ったことがあるのよ」

「何?姉さん」

「あのね、私が今、大好きなダンスに打ち込めてるのは、もちろん、雷蔵が一人暮らしの費用、スクールの費用も何もかも私のために出してくれてるから。それは分かってるの。でもね、今、私が五体満足でここに存在してるのは、紛れもなく海斗があの時に私を庇ってくれたおかげ。海斗だって本当は私と同じくらい踊ることが大好きだったのに、私のために体を張ってくれた。だからね、私、海斗にも私と同じように振り付けをしてもらいたいと思ってるの」

「はあ?ね、姉さん、何言ってるの?俺、今、こんなだよ。車椅子生活。こんな俺に何ができるって言うんだよ」

「うん、それは分かってるの。だからこそ、海斗にお願いしたいのよ。普通に何の不自由もなく体を動かせる私が私らしいダンスを考案するのは当たり前だと思うの。でもね、海斗みたいに本当はダンスが好きだけど、体を動かすことに制約を受けてる人は全国に大勢いると思う。そんな人、日々の生活に車椅子が欠かせない人でも楽しく踊れる、そんな振り付けを考えてもらえたら素敵だなって思ったの。パパ、ママ、海斗、それに雷蔵にまで凄く迷惑かけて夢を追いかけさせてもらってる私が偉そうなことを言う、上から目線でって、そんなつもりはないんだけど、この前、大阪で祖先の真実を知って思ったの。確かに私は痣が示すように水の国を治めていた当主の血を濃く継いでいる子孫なのかもしれない。だから私が日本の皆さんを楽しい笑顔にできるような、そんなダンスを考えられたらとはもちろん土門さんに話しを聞いた時に強く思った。でもそれよりもこの話は海斗に頑張って欲しいの。海斗のように日常生活に車椅子が欠かせない人と私のような不自由なく体を動かせる人間が同じ音楽でコラボできる、そんな日本を代表するような踊りができたら素敵じゃない。ね、どう?海斗。だってあなただって私の弟なんだもん、私のように不思議な力はないかもしれないけど、あなたには私にはない、その思考能力の高さがあるでしょ。きっとこの話を七曜国の皆さんにしたら、絶対に喜んでくれると思うの」

「本当に姉さんは。これも俺のことを想ってのことなんだね。俺をもっと前向きな気持ちにさせるためなんだろ。分かったよ、せっかく、姉さんと同じ目標に向かって何かを作り上げれるチャンスだもんね。俺、やってみるよ」

「そ、そう、本当に?ありがとう海斗」

 この話を玄関の外で雷蔵は聞いていた。そしてこの話を聞き終わった後、雷蔵は玄関から泣きながら飛び込んできて私と海斗を抱きしめた。

「ああーー、水稀、海斗、本当に二人は素敵な姉弟だな。俺も応援するからな」

「ちょっと、雷蔵何よ、あんた外で盗み聞きしてたのね」

「ねえ、雷蔵、痛いよ。そんなに強く」

「だって、だってよーー。素敵すぎるじゃないか。本当に美しい姉弟愛だからさ、いいよ本当に」

「雷蔵、分かったよ、でも美しいって思ってるのは姉さんのことだろ?」

「ば、バカ、海斗、な、何言ってるんだよ」

「違うの?」

「い、いや、それはもっともだから否定はできないけど」

「ほら、そうなんじゃないか」

「もう!そんなことはいいのよ。それより、雷蔵、あんたドサクサに紛れてこの手は何なのよ。ほら、この手よ」

 雷蔵は二人に抱き着いて、いつの間にか無意識のうちに右手が私の胸を触っていた。

「あ、ゴメン、そんなつもりは、あ、」

「そんなつもりはないなら早く手をどけなさいよ、このスケベ」

 私は雷蔵を思い切りビンタした。

「痛!水稀、ゴメン、本当にゴメン」

 雷蔵は私に殴られても少し嬉しそうな顔をしていた。

「いや、でもこの手に柔らかい感触が、へへへ」

「もうーー、このエロ雷蔵」

 私は蹲った雷蔵の後頭部を何発も平手で叩いた。

「すいません、水稀、許して。海斗、助けてくれよ」

「知らないよ、そんなの雷蔵が悪いんだろ」

「でも良かったよ、また、更に水稀が楽しそうになって、また一段と年明け早々、水稀の輝きが増した。な、海斗」

「そうだね、雷蔵の言う通りだね。綺麗だよ姉さん」

「もう、ヤダ、海斗まで、何言ってるのよ」

 そして私は海斗と共に、私は自分らしい踊り、海斗は自分と同じ境遇の人々でも楽しく踊れる車椅子を使った踊り作りを始めた。



 俺はいつも一人で迎えていた年末・年越しを今年は最愛の二人、いや、三人で迎えた。

「さあ、今年もあと一分で終わりだね。紅白も楽しかったし」

「そうだな、でも今年は瑠々は本当に辛い年だったね」

「あ、ねえ、パパ、ママ、ほら、もうすぐ年越しだよ。3、2、1、ハッピーニューイヤー。パパ、ママ、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」

「ねえ、瑠々。でも瑠々は本当のパパとママを昨年、亡くしてるから。ちょっとおめでとうの挨拶は。ねえ、優風さん」

「そ、そうだよ、瑠々。恵さんの言うとおりだよ。瑠々に昨年、不幸があったんだから、めでたく年越しと言う訳にはいかないんだよ」

「ううん、いいの。パパとママが言うように、私には不幸があったよ。でも私だってその後、すぐに幸せが来たよ。だってパパとママとこうして一緒に暮らせるようになったから。こうして楽しくお正月を迎えられたから。だから昨年はパパとママが私を笑顔で終わらせてくれた。だからおめでとうでいいの。それともパパとママはやっぱり、こんなお邪魔娘のお世話が増えて楽しく年越しできなかった?」

 俺と恵は瑠々のこんな話を聞いて涙が溢れた。そして俺は恵と二人で瑠々を抱きしめた。

「ごめんよ、瑠々、何か瑠々に気を遣わせてしまったね。瑠々、お前がお邪魔娘である訳がないだろ。俺にとって瑠々は幸福の塊だよ。瑠々の存在がそれだけで俺に癒しをくれる。それに瑠々がいたから、俺はこうして恵さんという何もかもが素敵すぎる最高の女性と出会えたんだから」

「私もよ、瑠々。私だってあなたの保育園の先生をしてなかったら、優風さんと出会って、こうして三人、あ、いえ、四人でこんな幸せな正月を迎えられなかったよ」

「良かった。じゃあ二人も幸せなんだね」

「当たり前だろ。こんなに幸せな正月は初めてだよ」

「私もよ瑠々、本当にありがとうね」

「やったー。今年はもうすぐ、ママのここにいる、私の妹も生まれるもんね。もっと楽しい一年になるね」

「そうだね、瑠々、恵さん、今年も一年、宜しくお願いします。今年も僕に素敵な笑顔をたくさん下さい。そして僕をもっと幸せにして下さい」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

「もう、パパはすぐに自分の幸せを私とママにおねだりするんだから」

「あ!ごめん、また瑠々の前で自分の幸せをおねだりしちゃったな」

「ねえ、パパ、ママ、もう私、眠くなってきちゃった」

「そうだね、さあ、もう寝ましょう。私もお腹の子が休みたいって言ってるから」

「ママ、今日、ママと一緒に寝ていい?」

「いいよ、年明け最初だもんね。そうだ!ちょっと恥ずかしいけど・・・、優風さんも一緒に寝ませんか?一年の計は元旦にありって言うじゃないですか」

「え!いいの?恵さん」

「だってもう家族じゃないですか。年の初めにまずは家族全員で。それに今年最初に縁起を担いで、優風さんの温もりを感じながら眠りたいから」

「恵さん」

「優風さん」

 俺と恵は眠い目を擦る瑠々の存在を忘れて見つめ合った。

「ねえパパ、ママ、眠いよ」

「あ!そ、そうだね、ごめんね瑠々。さあ、優風さん、部屋に行きましょう」

「そうだね」

 そして俺は年明け最初に家族で恵の部屋で枕を共にして元旦を過ごし、そして二日も家で家族で恵の手作りおせちをつつきながら、お酒を飲んでいた。

「もう、パパ、お酒飲み過ぎだよ。少しは控えないと」

「だって、恵さんのおせちが美味しいから、お酒が進んじゃうんだよ」

「本当に!パパはママのこと大好き過ぎなんだから。そんなことしてると幸せ太りしちゃうよ。ママもダメなんだよ。飲むことも食べることも勧めてばかりで注意しないんだから」

「だって、優風さんが本当に美味しそうに食べてくれるんだもん。その顔を見てたら幸せなんだもん」

「もう!パパもママも私が目を光らせてないとお互いに甘々なんだから」

「申し訳ない、以後気を付けます」

「はい、私も気を付けます。ごめんね瑠々」

「よし、分かればよし。許してあげる」

 こんな穏やかな家族団欒を楽しんでいると、携帯に着信があった。土門さんからの電話だった。内容はこれから七人で何か新しいパフォーマンスを作るための協力のお願いだった。俺はもちろん二つ返事で了解した。

「優風さん、土門さんは何のご用だったんですか?」

「パパ、土門のおじさんは何?新年の挨拶の電話だったの?」

「あ、いや、お願いというのかな。この前、陽向さんの家で俺を含めて七曜国の皆さんの繋がりの話や皆さんの近況とかをいろいろ聞いたでしょ。それで、土門さんと金愛さんがね、俺たち七人がみんな祭に興味を持っていてね、この現代になっても何千年も前からの祭とか踊りというようなキーワードで繋がっていると強く感じたと言ってたんだ。それで今日、土門さんが金愛さんの実家にお邪魔して、七人みんなが興味を持ってる祭、音楽、踊り、こんなことを核にして七人で新しいパフォーマンスを作りたいから手伝ってもらえないかというお願いの電話だったんだ」

「そ、そうですか。なるほど。確かに土門さんはあの時、自分で日本を代表するような踊りを作ってみたいって言ってましたもんね」

「そう、だから、自分だけじゃなく、みんな自分と同じようなものに興味を持ってるから、一人でその目標に向かうより、せっかく素敵な出会いに恵まれたから、七人みんなでだったらもっといいものが作り上げられるんじゃないかと思ってと言ってたんだ。そのことを金愛さんに伝えに行ったら、もう金愛さんはそのつもりで動いていたと言ってた。これは陽向さんのお爺様も俺達が帰った後に語ってたそうなんだ。皆の前でその夢を語ってくれたら良かったのに、みんなの幸せな日常に負担をかけたくないと言って控えたそうなんだ」

「そうだったんですか。本当に不思議な繋がりですね。初めて陽向さんの家で優風さんたち七人が出会って、まだ膝を突き合わせてお話ししたのはその一回だけなのに、これだけ共通した想いを持てるなんて、素敵ですね。それに陽向さんのお爺様、私達の幸せを願って気を遣って下さって。本当に温かい方ですね」

「うん、だから俺もこんな素敵な出会いを大切にしたいんだ。もちろん、土門さんには協力させてもらいますと返事をした。恵さんのお腹に大切な命が宿ってるから迷惑かけないようにするから許してもらえるかな?」

「何言ってるんですか、優風さん。私はもうあなたの妻であり、瑠々の母親です。それにあなたがあんなに素晴らしいご友人と、人々を幸せにできるようなモノづくりをしようとしてるんでしょ。それを私と瑠々が迷惑だなんて思う訳がありません。ねえ、瑠々」

「うん、ママの言う通りだよ。ママやパパが辛いときはいつでも私が手伝うよ。私ができることなら何でもね」

「そうか、ありがとう、恵さん、瑠々。やっぱりいいな、家族って」

「もう、優風さん、私のこと、外だけじゃなくていつでも呼び捨てでいいですよ。その方が私、もっと幸せを感じられます」

「じゃあ、め、恵、これかも宜しくね」

「ぷっ、何かパパ、ママの呼び方ぎこちない」

「うるさいな、照れくさいんだよ。でも何か、より恵さんを近くに感じられて俺も幸せになるな」

「だから、優風さん、また私のことさん付けで」

「あ!そうか、ごめん」

「あ、話は戻りますけど、優風さんはどんな作業をするんですか?」

「うん、さっき土門さんの話を聞いて、今の自分らしさを出せることって何かを考えたら、ふと思いついたことがあったから、それを作業の中心に置いて行動しようと思ってるんだ。だから、そのために、瑠々にも協力してもらいたいことがあるんだ」

 そして俺は瑠々と恵の協力のもと、自分らしいパフォーマンス作りに向けて動き出した。



 一月二日に光星に自分の想いを伝えて陽向以外の四人に自分らしい振り付けのお願いを取り付けた私はすぐに故郷の観音寺市に戻った。

「ただいま」

「おかえり。もう振、まだ年明け二日目なのに母さんに内緒でどこ行ってたのよ」

「何言ってるんだよ母さん、ちょっと出かけてくるって言っただろ」

「あれ?ちゃんと言ってた?私あなたがいると思って張り切って二日目から昼ご飯作ったのよ」

「はあ、母さん、ボケたんじゃない?」

「ちょっと、私くらいの歳の女性にボケたは失礼じゃないの。本当のボケが始まったみたいじゃないの」

「あーーあ、またこの件かよ。祭の時に帰ってきたときにもこんなやりとりあったな」

「はいはい、もういいから、昼ご飯に作ったオムライス残しておいたから、温めておせちと一緒に食べなさい」

「ありがとう、母さん。でもまだ年明け二日だから、おせちだけで良かったのに」

「いいのよ。だって、十二月にお父さんのお墓に報告してきたんでしょ。大阪でお父さんが知りたがってたあの絵の真実。私、未だに信じられないけど。うちがそんな凄い家系だったなんて。でもそれであなたもうちの仕事以上に真剣にやりたいことを見つけたんでしょ。早く食べて始めなさい。自分らしさを表現できることを」

「うん、ありがとう母さん。何となく気付いてたんだね、母さんは」

「当たり前でしょ。何十年あなたの母親やってると思ってるのよ。あなたのそのやる気に漲った目を見るの久しぶりじゃない。私が十年前に体を壊してから、振はうちの仕事を手伝ってくれたでしょ。その時にあなたは自分の大好きだったダンススキルを追及するために東京に行ってたのに。私のために戻ってきてくれたでしょ。それからもずっとうちの仕事を手伝って」

「母さん、もうその話はいいから」

「だって、それがなければあなたはもっと早くに今のような目で、自分らしさを追求できてたのに。あの時から私があなたの人生を無駄にしたんじゃないかと思って。振は優しいから私のために」

「母さん、泣くなよ。新年早々、湿っぽくなるだろ。俺は爺、父さん、母さんには本当に感謝してるんだ。俺は今までの生活が無駄だったなんて思ってないよ。そりゃあ、あの時に家に戻ってきて手伝い始めた時は、東京に戻りたいと思った時もあったよ。でも爺の想いを受けて旅をしてきて、これからも続けようと思ってるけど、大阪の陽向さんの家でうちの祖先のこと聞いただろ。それで思ったんだよ、うちは土の国の家系だってことが分かった。だからこそ、この素晴らしい土地から生まれる自然の恵みを育てる、そのことに感謝すること、これをしっかり自分のここに、染み込ませる、いい機会になったと思えるんだ。それにここに戻って生活してたからこそ、この土地を愛する沢山の素晴らしい出会いもあったからね。だから、母さん、もう、泣くなよ、そのことで。きっとここでの生活はこれからの俺の自分らしさを体現する糧になるはずだから」

「うん、分かった。ありがとう、振」

「じゃあ、俺、ちょっと考えてることがあるから、挨拶回りに行ってくるよ」

 そして俺は光星に自分の考えを伝えて実家に戻った後、七人で作り上げるパフォーマンスに向けた自分の活動を開始した。

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