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第十話

 私は光星と祖父と三人で“不思議な痣マニア”のホームページに表示したあのマークを車体に表示したワゴン車に乗って、待ち合わせ場所の新大阪駅前にいた。

「ねえ、光ちゃん、みんな来てくれるかな?」

「うーーん、こればかりはな、何とも言えないな。お爺様が選んでくれた五人全員が来てくれることを祈るしかないよ」

「ああ、心臓に悪いな。光星くんと陽向のあの事故の連絡を受けた時くらい体に悪いな。十五時の十分前か。いよいよだな」

 そうすると車に子連れの夫婦が近づいてきて、助手席側の窓を男性がノックした。私は窓を開けた。

「あの、不思議な痣マニアさんですか?」

「はい、そうですけど」

「これ、ホームページのコピーとそれから、これ、頂いた返信メールです。それと左肩の痣を」

 私はその男性に左肩の痣を見せられた。

「ああ、お爺、あの写真で見た、ほら、本物の痣だよ」

「ううん、凄い、間違いないよ、木の国の紋章の痣だ」

「え?何ですか?木の国?」

「あ、すいません、いいです。とにかく車に乗って下さい。あ、すいません、お名前とそれからこちらの女性とお嬢さんは?」

「あ、私は樹神優風と言います。こちらは然恵さん、僕の婚約者です。それからこちらは僕の娘、風見瑠々です」

「え?娘さん、苗字違うんですか?」

「あ、ちょっとこれには複雑な事情がありまして。詳しい話は後で話します。でもすいません、本来は僕だけに用件があったんですよね」

「ええ、まあそうです」

「でもすいません。僕の大切な家族なんです。恵と瑠々を二人だけで、あ、いや三人だけで静岡に残してここにくることはできなくて。僕の一番大切な宝物なので」

「そうですか?あれ?でも今、三人だけって?」

「あ、すいません、恵のお腹の中にもう一人新しい家族が」

「わあ、そうですか。それはおめでとうございます。さあ、寒いですから、早く中に」

 そして樹神さんご一家を車に乗せた後、すぐにイケメン男性とモデル体型のもの凄く長身の女性が近づいてきた。

「ああ、火練さん、きっとこの車だよ。おーーい、ねえ、綺麗なお姉さん、ちょっと開けて」

 私はちょっとこの女性のテンションに戸惑いながらも、窓を開けた。

「ねえ、痣マニアの車でいいの、これ?」

「あ、はい、そうです」

「ほら、火練さん、あったりー」

「ちょっと、月さん、もっと初対面なんだからさ。すいません、初めまして、僕は北海道から来ました。熱身火練と言います。この前、胸にある痣を投稿した者です。そしてこちらが・・」

「あ、そう、私は夜長月、月って書いてね、セレーナって読むのよ。パパがね西洋かぶれでね、ギリシャ語で月っていう意味でこんな名前なの。宜しくお願いします。ほら、私はこの首筋のこの痣、送ったのよ。よし、火練さん、乗ろう」

「だから、月さん、まだ、乗っていいとも何にも言われてないでしょ。すいません」

「だって、この人達がここに来てって言ったんだよ」

「それにしたってだよ。いや、本当に申し訳ないです。月さん、いつもこんな調子でかなりナチュラルな人なんで」

「いえ、凄く楽しい方ですね。どうぞ乗って下さい」

「あ、どうも」

「あ、あなた方も呼ばれたの?」

「どうも初めまして」

 月と火練が樹神ご家族と挨拶を交わそうとすると、さらに若い小柄な女性と三十代後半くらいに見える男性が近寄ってきた。

「あの、こちら、不思議な痣マニアの管理者の方のお車ですか?」

「あ、はい、そうです」

「どうも、初めまして。私は土門振です。この脹脛の痣を投稿した者です。そしてこちらは」

「どうも、初めまして。私は流水稀、この肩の痣を投稿しました」

 そして祖父はこの二人が来て、泣いていた。

「陽向、まさかな、声をかけた五人の方が、全員、来てくれるなんて」

「ちょっと、お爺。そんなに泣いたら、ほら、皆さん引いちゃってるじゃない。すいません、声をかけた皆さん全員が来てくれるなんて思ってなかったから。祖父も嬉しすぎて。祖父はあなた方に会えるのを多分、何十年も夢見てたみたいなので」

「な、何十年も?」

「あ、とにかく私も驚いてます。私も全員が来てくれるなんて思っても見なかったので。さあ、まずは落ち着いて話せる場所まで行きましょう。光ちゃん、家に戻りましょう」

「ああ、そうだね。でもちょっと定員オーバーだな」

「じゃあ、光ちゃん、私は夜長月さんと流水稀さんとタクシーで後から付いていくわ。土門さん、それと熱身さん、月さんと水稀さんは私に任せてもらっていいですか?」

「ええ、もちろん、どうやら、あなた方はヤバそうな人達ではなさそうなので」

 そして私達は母の待つ家に戻った。



「陽子、戻ったぞ。おい、頼むぞ、お酒を用意してくれ」

「はい、お帰りなさい。まあ、これはこれは。お父さん、どうだったんですか?」

「ああ、こんな凄いことはないぞ。聞いて驚くなよ。声をかけた全員、来てくれた」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、それもご本人以外にも、素敵な奥様とお嬢さんも一緒だから、全員で7人だ」

「そ、そうですか。それはまあ、凄いことに」

「まずは、ちょっと早いけど、夕食を兼ねて自己紹介から始めよう。陽子、準備してくれてるんだろ」

「ええ。ただ、皆さんが成人だということで考えてたので」

「まあいい。まずは皆さんを中にご案内してくれ」

 そして私達は七曜国の末裔と思われる五人とそのご家族二人を自宅に上げた。

「皆さん、今日は本当にありがとうございます。まさか、お声を掛けさせて頂いた五人全員が来て頂けるなんて思ってなくて、グスン、すいません。こんな老い耄れの涙を見せてしまって。とくかく、私、嬉しくて。まず、私の家族を紹介します。私はこの家の最年長の光太陽立、今年で九十歳です。それから、こちらは私の娘、陽子、それからこちらは私の孫娘、陽向。それとこちらの男性は・・」

「あ、お爺様、僕はまだ光太家の一員ではないので、自分で」

「何を言ってるんだ、光星くん。君はもう私達の家族に決まってるだろ。君は陽向の恩人なんだから。こちらは孫娘の陽向の恋人、金愛光星くんです」

「どうも、陽向の母親の陽子です」

「初めまして、陽向と言います」

「初めまして、金愛光星です」

「それでは、とにかくもっとしっかり皆さんの不信感を拭い去ってもらうために、陽向、それから光星くん、二人のあの痣をみんなに見せよう。あ、でも陽向、お前の痣は場所が場所なので、そうだな光星くんは男性の方に、陽向の痣は女性の方に確認してもらおう」

 そして光星は男性三人に背中の痣を確認してもらった。

「おお、本当だ、あの返信にあった通り、形は違うけど、似てるな」

「本当だ、俺もこれ、左肩の痣」

「うん、俺もこの胸の痣」

「私もこの右脹脛の痣」

「本当ですね。皆さん、うわあ、間違いなく、お爺様、あの絵にあった模様ですね」

「ああ、間違いないよ」

「わあ、本当だ。陽向さんの胸の痣も、似てるわ」

「本当だ、私の右肩の痣と似てる」

 そして私の胸の痣を月と水稀が覗いてると光星と火練がドサクサに紛れて覗こうとした。私と月がこの行動にすぐに気付いて二人の頬を殴った。

「ちょっと、火練さん、何を覗こうとしてるのよ。失礼でしょ、いやらしい」

「もう、光ちゃん、やめてよ、エッチ」

「痛!な、何するんだよ月さん」

「当たり前でしょ。陽向さんは光星さんの彼女なのよ。もう男の人って本当にどうしようもないわね。まあ、分からなくもないけど、陽向さん、凄く綺麗だからって、でもダメ」

「おい、陽向、まさか俺まで。それはないよ」

「当たり前でしょ。こんな大勢がいる場所でやめてよ。恥ずかしいでしょ。それにほら」

 そう私が言った後で光星と火練が後ろを向くと、物凄い形相で祖父が二人を睨んでいた。

「おい、光星くん、それと熱身火練さんだったな。私の大切な孫娘の胸を覗こうとするとは。光星くん、いくら君が恋人とは言っても、こんなところで堂々と。それに火練くん、君は初対面だぞ、何て図々しい、私の孫娘を何だと思ってる」

 ガシッ、ガシッ。光星と火練は祖父に殴られた。

「す、すいません、お爺様」

「いてーー、すいません、失礼しました」

 この状況にその場が全員の笑いに包まれた。

「フフフ、お爺。何か不思議ね。まだ、駅前で会って一時間も経ってないのに、こんなに打ち解けちゃうなんて」

「本当に、不思議だ。これも我々の代々からの関係性がそうさせるのかもな。よし、とにかく皆さん、一通り、自己紹介してもらおう。じゃあ、まずは樹神さん?から、お願いします」

「はい、私は樹神優風、三十五歳、静岡の大学で准教授をしてます。そしてこちらは私の婚約者、然恵さん、それから私の娘、風見瑠々です。皆さん、家族共々、宜しくお願いします」

 そして樹神さんは瑠々ちゃんを養女にした理由と恵さんとの馴れ初めを話してくれた。

「なるほど、そうだったんですか?優風さんも恵さんも何て素敵な方なの?ねえ、お爺」

「ああ、さすがにこんな人格者が木の国の末裔なら祖先も文句なしだろう。それに恵さんも素敵な方だ」

「それに瑠々ちゃんも、本当に可愛い。宜しくね瑠々ちゃん」

「うん、宜しくお願いします、陽向お姉さん」

「じゃあ、次は俺かな。どうも、俺は熱身火練、二十五歳、北海道の網走市で親父と一緒に民芸品を作ってます。宜しくお願いします」

「はい、次は私ね、どうも、私は夜長月、月って書いてセレーナと読むのよ。パパが西洋かぶれだから、月のギリシャ語読みの名前なのよ。山形出身の二十一歳でーーす。みんな宜しくね」

「あれ?熱身さんと月さんはご一緒に来られましたよね。知り合いなんですか?」

 熱身さんと月さんはお互いの出会いとその後の付き合いを話してくれた。すると、祖父が何かを思い出したように話し出した。

「そ、そうか、熱身さんか?思い出した。火練さん、君、もしかして、少し前に山形のスキー場で遭難した小学生の女の子と救出されたって言う。新聞の記事で見たよ」

「あ、お爺様、そうです」

「そう、良く知ってるね、んーーー、爺ちゃん、救出された小学生の女の子、私のお隣さんなのよ。火練さんがうちに遊びに来たその日に遭難しちゃったから。火練さん、自ら捜索に参加させてくれっていって、助けてくれたの」

「じ、爺ちゃんって!あ、まあ、そんなことはいいか。そうですか、火練さんも素晴らしい人のようだな。月さんの危機を救った出会いといい、今の遭難者の救出の話といい。曲がったことが嫌いな青年のようだね」

「ねえねえ、爺ちゃん、私は?」

「あ、ああ」

「ちょっと月さん、まだ、自己紹介しただけでしょ。そんなこと言ってもお爺様が困るって。すいません、月さん、ちょっと頭のネジが外れてるところがあって」

 火練は月に後頭部を叩かれた。

「痛!な、何だよ月さん」

「誰が頭のネジが外れてるって?私は少しネジが緩んでるだけ、外れてはないよ」

「ぷっ、月さん、そういう否定なの?否定の仕方が違う気がするんだけどな」

 これには全員が爆笑した。

「ちょっと、何でみんな笑ってるのよ。酷い、みんな火練さんとグルなのね」

「もう、月さん、そんな訳ないだろ。俺たち初対面なんだぞ。すいません、皆さん、月さん、かなりナチュラルな女性なので」

「もう、いいわよ、火練さん、そんな言い方しなくても、いつも言ってるように天然ボケって言えばいいでしょ。ふん!」

「月さんて、可愛らしい方ね。火練さんと仲がいいんですね」

「次は私ですね。私は流水稀、二十歳です。宮崎県西都市出身で、以前は地元で介護士をしていましたが、今は小さいころからの夢のために福岡でダンススクールに通ってプロのダンサーを目指しています」

「いやあ、水稀さん、南国の女性らしくて色黒で健康的な方ですね。小柄で可愛いなあ」

「ちょっと、光ちゃん、何を見惚れてるのよ」

「ち、違うよ、陽向、何で怒るんだよ。ただ俺は水稀さんの見た目の感想を言っただけだろ」

「だって」

「もう、陽向、光星くん、二人のイチャイチャはどうでもいいから。今は二人以外のことが気になってるから」

「ちょっとお爺、私達は何もイチャイチャなんてしてないよ」

「はいはい、あの、最後は土門さん?でしたよね。あなたは水稀さんとご一緒でしたけど、どんなご関係なんですか?見た目からすると一番違和感があるのですが?あ、いや、こんなこと言ったら失礼か。申し訳ありません」

「そうだよ、お爺。私と光ちゃんのやり取りより失礼だよ」

「いえ、お爺様の言われるとおりだと私も思います。水稀さんとは十八も違いますから。どうも、土門振と言います。三十八歳です。私は香川県の観音寺市の出身です。私は実家が農家をやっててその跡継ぎなんですが、先日、亡くなった祖父の遺言のために、全国の祭りを巡る旅を今しています。そんな時に水稀さんとは出会いました。水稀さんの地元のお祭りは拝見できなかったんですが、水稀さんと出会って祖父の言い残した、この痣の真意に近づけたので有意義でした。そして今回もここに集まった皆さんとの出会いで、私はさらにその目的に近づけたと確信しています。水稀さん、本当にありがとう。君のおかげであの絵のピースが全部ここに揃ったよ。ただ、その意味はどうなってるのか分からないけど。でもいいんだ、多分、祖父からもらった絵にあった痣の持ち主と出会えたこと、これだけでも祖父の墓前にいい報告ができると思うから」

「あの、土門さん、今のお話しの中ででてきていた絵というのは?」

「はい、今出しますね。祖父の形見なんで、今の旅には常に持ち歩いてるので」

 そして土門さんは祖父の形見の額に入った絵をリュックから取り出した。

「これです」

 この絵を見て私と光星、祖父、母が大声を上げた。

「おお!これは」

「お爺、これってまさか?」

「お父さん、この絵」

「お、お爺様」

「ああ、もうこれは間違いない。おい、陽子、私の部屋から持って来てくれ。あの私のまとめた冊子を」

 そして母は祖父の部屋から“七曜国の真実”を持ってきた。そして祖父はそれを見せる前に五人それぞれに質問をした。

「皆さん、今からこの土門さんが持ってきた絵と私の部屋から持ってきたこの冊子を見せようと思いますが、最後に一つずつ聞きたいことがあります。まず、樹神さん。樹神さんは木の国当主だな。樹神さんは風の力を使ったことはありますか?ちょっと言い方がまずいかな?空気を切ったことはありますか?と聞いた方がいいのかな」

「え、お爺様、な、何でそんなことを私に?」

 この質問を聞いて恵が答えた。

「あのお爺様、優風さんはお爺様の言うとおり、不思議な力を持っています。私、その力でストーカーから命を救ってもらいました。優風さん、その時、空気を手で切り裂いて、ストーカーの右肩を切ったんです。私、優風さんと出会ってなかったら今、ここにいなかったと思ってます。私、優風さんに本当に感謝してます。ごめんなさい、優風さん、勝手に話してしまって」

「いや、いいよ。ありがとう、恵さん」

「そうですか、樹神さんは間違いない。他の人も間違いないと思うけど、今一度確認したいので、次、熱身火練さん、お願いします」

「あ、はい、それなら、私が答える。私もまとめてね」

「おい、月さん」

「いいでしょ。その方が早いじゃない、ね」

「分かったよ、じゃあお願い」

「うん、あのね火練さんはね、自分の体を燃やせるのよ。燃やしても死なないの。後でみんなに見せてあげるね」

「おい、月さん、そんなこと勝手に決めるなよ」

「いいじゃない、どうせ、ここにいるみんな、そんな不思議な力を持ってる私達と同じ怪物なんでしょ?」

「ば、バカ、何てこと言ってるんだよ。俺にだけにならまだいいけど。本当にすいません。月さん、素直すぎて、思ってることすぐに口に出しちゃうから」

 そう火練が弁明してると、その言葉を全く無視して月は別のことをしていた。

「うーーーん、どうしようかな。私の力は見せた方が早いな」

「おーーい、月さん、俺が話してるだろ。話を聞けよ」

「ハハハ、本当に月さんは自由な人だね。面白い女性ですね、火練さん」

「本当に申し訳ない」

「いいですよ、こっちまでほのぼのとしてきますよ」

「はあ、そう言ってもらえるとホッとします。ありがとう、金愛さん」

「あ!見――つけた。瑠々ちゃん、膝、絆創膏貼ってるね」

「あ、うん、月お姉ちゃん。昨日ね、保育園で遊んでた時に転んじゃって擦りむいちゃったの」

「じゃあ、絆創膏取っちゃうね、それ」

 この月の行動に優風と恵が怒った。

「ちょっと、月さん、止めて下さい。瑠々に何する気ですか?」

「そうですよ、まだ、昨日の怪我で治ってないんですから」

「いいから、任せておいて。瑠々ちゃん、怪我してる膝、私の方に出して」

 そして月は瑠々の怪我してる膝を両手で包んだ。

「よし、こんなもんかな?それーー!」

「わあ、パパ、ママ、無いよ、擦りむいた傷が無い?何で?」

「嘘だろ?本当だ、何これ。傷跡も何もない」

「瑠々、何ともないの?」

「うん、もう全然痛くないよ」

「はい、爺ちゃん、これが私の力。よし、次は火練さん。ほら、燃やして」

「凄いな、月さんは間違いない。月の国当主の治癒の力だ」

「ほら、早く、火練さん」

「はあ、だから、月さん、人の話を聞けって。分かったよ」

 火練は月の自由奔放な行動にため息をつきながら、ポケットからライターを取出し、自分の左手に火を点けた。これには事情を知ってる月以外、息を呑んで見つめた。

「みなさん、これが私の力です。自分の体の油分を自在に燃やせる能力です」

「何だよこれ、凄いな。リアルエースじゃないか」

「リアルエース?」

「ほら、アニメのワンピースに出てくるじゃないですか。主人公ルフィの兄貴」

「ああ、そう言うことですか」

「今度は私?だけど、そんな不思議な力って私にあるのかな?」

「何言ってるの、水稀さん。あの時、海斗くんを助けた時のあの水を掴んだ能力のことだよ」

「あ!あれのことか。でも土門さん、あんなこと普通にできないよ。あの時が初めてだったんだもん」

「え?土門さん、水稀さん、何ですか?海斗くんを助けたときの力って?」

「ええ、実は水稀さんの弟、海斗くんが少し前に車に撥ねられて、その事実を隠蔽しようとした加害者に殺されそうになったんです。その時の事故の目撃者として私も現場にいたんですけど、水稀さんは犯人にバールで殴られそうになった時に水を手で掴んで棒にして防いだんです。それでその後に棒のようにした水を今度は鞭のようにしてバールを奪ったと、海斗くんが言ってました。私はこの目で見てないので真相は水稀さんと海斗くんしか分からないんですけど」

「そうですか?なるほど。でも水稀さん、あなたのその力は間違いなく、水の国当主の能力です。水を掴んだり、水を自在にイメージした形に変化させる力」

「でもその時だけですよ。本当に私にそんな力が?」

「大丈夫ですよ、水稀さん。多分それはあなたの意識だけの問題だと思います。水稀さんは自分のその力を疑ってますよね。自分に本当にそんな力があるのかって?信じて、その力を信じて使うことです。その力が自分にあることを。そしてその力が周りの人を幸せにすることを。海斗くん、弟さんを助けた時だってそうだったはずです。ただ、水稀さんは海斗くんを助けたい、その想いだけだったはずです。陽子、お風呂の洗面器に水を入れて持ってきてくれ」

「はい、お父さん」

 そして水稀は前に置かれた洗面器の水に手を入れた。

「さあ、水稀さん、自分を信じて」

 水稀が洗面器に両手を入れて、少しの間、目を瞑って洗面器から手を上げた。すると両手には水が棒状に握られていた。

「え!本当だ、陽向さんのお爺様の言うとおり、本当に私、こんな不思議なことができるんだ?」

「す、凄い、水稀さん、本当だったんだね。海斗くんの言うとおりだった。みんな、何て凄い人達なんだよ」

「ああ、土門さん、驚いてる場合じゃないですよ。あなただって、皆さんと同じような力があるはずです。あなたは土の国当主の末裔のようですから、地面とか土に関する能力があるはずです」

「でも私にはそんな思い当たる記憶はないですけど」

「ああ!もしかして、地面に関すること?なんですよね、お爺様」

「ええ、そうですよ、水稀さん」

「じゃあ、土門さん、あの時、海斗を土門さんが助けてくれた時、逃げて行こうとする犯人の車が横転した理由?」

「ああ、あの道路がひび割れて隆起して犯人の車が横転したこと。え!あれが?あれが私がしたことだって言うの?」

「なるほど、水稀さん、間違いないですね。そうです。それが土門さん、あなたの能力です。あなたの場合は陽向や光星くん、それから他の人と違って、自分の体が直接触れる部分で変化のある事象じゃないので、自覚できないのも納得できます。基本的に規模が大きくなるので、自覚しにくいのです。でもその時、土門さん、きっと足に不思議な力を感じたはずです」

「んーー、確かにあの時は犯人が逃げていくのを見ながら、自分の不甲斐なさを悔やみながら地団駄を踏んで、右足に妙な感覚を覚えたのは確かですけど」

「そうです、それです。あなたは万物の誕生・成長の基本となる土地の力を理解する能力に長ける土の国当主の末裔ですから。あなたの家が農家だということも頷けますね」

「はあ、そんなものなんですかね」

「皆さんはどうやら、頭の中がまだ整理できないみたいですね。いいでしょう。土門さんがこの絵を持っていた理由、そしてここに皆さんに集まって頂いた理由をこれから、私がご説明します。まずは土門さんの持ってきたこの絵と私が父親から伝え聞いてきてことを書き記したこの冊子をお見せします」

 私と光星以外に不思議な能力を持った五人は祖父の書いた冊子と土門さんが持っていた絵を確認した。そして補足で祖父の話を真剣に聞いていた。

「ねえ、爺ちゃん、それじゃあ、陽向さん、光星さんも入れて全部で、えーーと7人か?は二千年も前から知り合いだったってことなの?」

「あ、まあ、簡単に言えばそう言うことにになるかな。私も陽子もだけどね」

「あ、ごめんね、爺ちゃんと陽向さんのママ」

「いや、なんか、祖父にこの絵の真実について調べて欲しいとお願いされて、どんな意味があるのかを色々、想像しながら旅をしてたけど、まさか、こんな真実が隠されてるなんて。全く予想してなかった。祖父の墓前に凄い報告ができそうです」

「土門さん、それは私達もですよ。まさか、七曜国当主の末裔、それもその能力を色濃く受け継いでる痣が発現している皆さんが、同じ時代に勢揃いしているなんて、こんな夢みたいな場面、我々の先祖も想像もしてなかったと思います。と言うかこの私も、死ぬ前にこんな場面に遭遇できるなんて。もういつ死んでもいい、それくらい感動してます」

「ば、バカ、お爺。そんな縁起でもないこと言わないで。私、今までお爺に何も祖父孝行できてないんだよ。もっと長生きしてもらわないと困るよ。今まで、ずっと話せなくてお爺には私のことで辛い想いさせてきたんだから」

「ああ、ごめん。でもそれくらい感動してるってことだよ。それに皆さん、とても素敵な人達ばかりじゃないか」

「あれ?陽向さん、今の言葉?ずっと話せなくてって?どういうこと?」

「ああ、樹神さん、それはですね。陽向は小学一年生の時からつい先日、一か月くらい前まで話せなかったんですよ。家族で海水浴に行った時に沖に流された陽向を助けるために、陽向の父親は亡くなったんです。その時に海に沈んでいく父親の顔がトラウマになって、それから声が出なくなってて」

「そうだったんですか。陽向さんもお母様もお爺様も辛かったでしょう。でも話せるようになって本当に良かったですね」

「そうなんです。私が話せるようになったのは、光ちゃんのおかげなんです」

 私は先日、光星と一緒に崖から落下した事故のことを話した。

「そうですか、そんなことが。金愛さんも素晴らしい方ですね」

「そう、だから私も母親の陽子も本当に光星くんには感謝しかないんですよ。陽向を話せなかった時から好きになってくれて」

「お爺様、もうその話はいいですから。それは僕の一方的な一目惚れだっただけですから」

「いいな、素敵な話。羨ましいな。ねえ、火練さん、私のことなんかどうかな?あ、ダメか、火練さんには心に決めた人がいるって言ってたもんね。いいな、その人、火練さんに想ってもらえて」

「あ、いや、それはその・・・」

「いいね、みんなそれぞれ素敵な想い人がいて。ね、水稀さん」

「え、何で土門さん、私にそんなことを振るんですか?」

「だって、水稀さんには、地元にね、君にベタ惚れの彼がいるじゃない」

「ちょっと、土門さん、もう。何も皆さんの前で言わなくても」

「え、水稀さん、そんな彼がいるの」

「いえ、そんな。タダの幼馴染ですから」

「いえ、陽向さん、そんなタダの、じゃないですよ」

「ちょっと、土門さん」

「いいじゃないですか。だってここにいる皆さんは二千年も昔からの知り合いなんですよ。でね、水稀さんのことを大好きな彼は凄いんですよ。その彼は酒造会社の御曹司なんですけど、水稀さんが昔諦めたプロのダンサーになる夢を応援するために、ダンススクールの学費、そのための一人暮らしの家賃、生活費まで、全部負担してるんですよ」

「うわ、何それ、凄いな。でも、普通はそんな費用、自分で出すか、頼るなら親御さんじゃないの?」

「そう、そこが水稀さんの彼の凄いところなんですよ」

「もう、土門さん、やめてよ」

「いいじゃない。あんな素敵な彼、なかなかできないよ。僕も大好きなんだ。その水稀さんの彼、春正雷蔵くんて言うんだけど。それで水稀さんのご家庭は僕が言うのも失礼だけど、経済的にも裕福じゃなくて、それに水稀さんの弟、海斗くんは昔、水稀さんを助けるために負傷して障害を負って今はずっと車椅子生活だから、ご両親も色々大変なんです。雷蔵くんはその負担をほとんど引き受けて、その上、水稀さんの今の生活まで経済的に支えているんです。弟の海斗くんの学校への送迎までしてるんですよ」

「うわあ、それは凄いね。とても普通の人じゃできないよ。気持ちいいほど、心の大きい彼なんだね。いいな、私もそんな彼がほしいな」

「そんな、月さん。あなただっているじゃないですか。隣に」

「いや、それはないよ、水稀さん。だって火練さんには他に想い人がいるんだもん」

「いえ、きっと火練さんの想い人は月さんだね。私はそう思います。私もそういうことに関しては鈍感だったけど、雷蔵の気持ちに甘えさせてもらって今、ダンス漬けの毎日を送らせてもらってるから分かるの。火練さんの目、雷蔵と同じ目をしてるもの。雷蔵が私を優しく見守ってくれる、その眼と同じ。火練さんの眼、月さんを包み込むような、絶対に自分が月さんを守る、そんな気持ちのこもった目してるもん。ね、火練さん」

「あ、いや、それは・・・」

「ダメだよ、今の私には分かるからね。火練さん、その言葉に詰まって、真っ赤になるところ、雷蔵にソックリだもん」

「嘘!火練さん、本当にそうなの?火練さんの想い人って、私なの?」

「あ、まさか、ここに来てこんな大勢の前で告白させられるなんて思ってなかったな。ごめん、月さん、白状するよ。俺、君のことが好きだ。最初の第一印象から綺麗だなと思ってた。でも、その後の君の天然振りにちょっとイラつくところもあったけど、その君の自分の気持ちに素直なところもいつの間にか心地よくなって、君のことがずっと気になってた」

 月はそう火練に告白されて満面の笑顔で抱き着いた。

「やった、嬉しいよ。お互い同じ想いだったんだね。私も火練さんのこと大好き。最初にあの花笠の時に助けてもらってから、その後の火練さんとお話しして、それにあの真輝ちゃんを助けてくれた行動を見てたら、私も火練さんのこと好きになってたの」

「ちょっと、月さん。ダメだよ、みんな見てるよ」

「いいじゃない、もうお互いの気持ち、バレバレになっちゃったんだから。それにお互い好き同士なんだよ。これって何て言うんだっけ?そう?ん?ダメだ、ことわざは苦手だから出てこないや」

「月さん、それは相思相愛のことを言ってるの?」

「そうそう、火練さん、それそれ。そのことわざのことだよ」

 この月の言葉に周りは爆笑だった。

「な、何それ、何でみんな笑うの?なにが可笑しいのよ」

 この月のボケ振りに五歳の瑠々が答えた。

「月お姉ちゃん、それはことわざじゃなくて四字熟語だよ。まさかお姉ちゃん、本気で言ってた訳じゃないよね。冗談だよね」

「う、うん、もちろん冗談だよ」

 これを見て火練はため息をつきながら瑠々に返した。

「はあ、瑠々ちゃん、冗談じゃないよ。月お姉ちゃんはね、こんな人なんだよ。ちょっと、頭の中が普通の人とは回路が違うんだよ。頭の中は瑠々ちゃんの方が大人かな?」

「フフフ、本当に?月お姉ちゃんて面白いね。可愛い」

「もう、なによ、火練さん、また私を馬鹿にして」

「月さん、馬鹿にしてなんかないよ。瑠々ちゃんの言うとおり、今の俺には月さんのそんなところも全部、可愛いと思えるんだよ」

 祖父はこんなみんなのやり取りを見てしみじみと語った。

「いいな、皆さん、素敵な方たちで、それに自分の人生を楽しめてるみたいですね。水稀さんんはプロダンサーになると言う素敵な夢に向かって頑張ってるみたいで。実に眩しい。他のみなさんはどうなんですか?これからの夢とか?今、熱中してるものとかあるんですか?」

「それでは、お爺様、その質問には私からお答えします。私はもちろん、今の夢は恵と瑠々、それから恵のお腹にいる新しい命を幸せにすること、それしか頭にありません。んーー、それから今、熱中してるものか?」

「優風さん、あるじゃない、安藤くんと理香さんたちに大学で教えてるじゃない」

「あ、そうか、ありがとう恵さん。私が今?じゃないな、ずっと熱中してるもの、趣味みたいなものですね、それはダンスです。大学のサークルで学生に教えてます。自分でも踊ることが好きだし、もともと祭も昔から大好きなので」

「ああ、それじゃあ、私も火練さんも一緒だね」

「ああ、確かにね。俺も自分で踊るのが大好きだから、地元の祭り、オロチョン祭って言うんだけど、毎年必ず参加してるし。それに他の祭りを見るのも好きで、月さんと出会ったのも、月さんの地元の花笠を見物に行ったときだったから。あ、何か思い出したらムカついてきた。あの時の月さんたちを襲ってた祭りの楽しみ方をはき違えてた勘違い野郎三人」

「もう、火練さん、そんなに怒らないの、落ち着いて。今はそんな話じゃないでしょ」

「おーい、そんな台詞、月さんに言われたくないわ。いつも君の言動で俺はいつもそんな風に思ってるのに」

「じゃあ次は水稀さんと土門さんね」

「コラア、俺の話をスルーするなよ」

「ぷっ、なんか月お姉さんと火練お兄さんて漫才コンビみたい」

「本当ね、瑠々、楽しいお二人だね」

「ハハハ、まあ、瑠々ちゃんに喜んでもらえたならよしとするか」

「ああ、月さんに振られたけど、私はもう分かってるよね。さっき夢を語ったから。それと皆さんと一緒でお祭りも大好き。地元の下水流の祭りは弟の海斗が怪我する前はずっと参加してたし」

「それにね、水稀さん、プロのダンサーになってね、夢を叶えて地元に帰ったら、もう一つしたいことがあるんだもんね」

「な、何?土門さん、なんのこと言ってるの?」

「ほら、この前、電話で言ってたじゃない?自分の夢を叶えたら、私が雷蔵くんにプロポーズするんだって」

「やだ、もう、土門さん、なんでこんなところで、そのことぶっちゃけるのよ。やだ、恥ずかしい」

「そうなんだ、素敵な夢じゃないですか、水稀さん」

「やめてよ、陽向さん。それは夢じゃなくて、ここまで私のためにしてくれる幼馴染の雷蔵への恩返しというか、なんかそういうことかな?」

「ふーーん、水稀さんも、その彼、雷蔵さんのこと愛してるんだね」

「もう、土門さんが変なことバラすから、話が変なことになってるじゃない」

「ごめんごめん。じゃあ最後は僕だね。僕も亡くなった祖父の影響で幼少の時から祭りも踊ることも大好きだから、地元の祭りには必ず参加してきました。地元で家の仕事を手伝ってた時は、このまま家の仕事を何も考えずに継いでいくんだろうと思ってました。でも今は亡くなった祖父の気持ちと一緒に全国の祭り巡りをして夢ができました。それにこんな素敵な皆さんと繋がりが持てるようになって、その夢が一層ハッキリしました。僕は全国の様々な祭を肌で感じて、その自分で吸収した祭のエネルギーを活用して、自分で踊りを作りたいと思ってます。何かこんな歳になって大それたことを言いますけど、何か自分で日本を代表するような踊りを作ってみたいなって」

「そうですか。皆さん、素敵な夢や趣味をお持ちのようですね。陽向もやっと話せるようになって、昔から大好きだった歌もこれから沢山歌えるだろうし、光星くんもダンスも好きで、おまけに作曲まで趣味だって言うから。何か、本当に祖先との繋がりを考えると運命を感じるな。皆さんが何かしら祭や踊ること、歌うことに興味があって、祖先が遥か昔に目指していた祭を通して国をまとめようとしていた祭政一致の思想が垣間見えたような気がする。皆さん育った環境は違うけど、祭が大好きだってことは共通してるみたいだから」

「ああ、そうよ、、私たちの夢だけ聞いて陽向さんたちは?どんな夢を持ってるのよ。そうね、まずは陽向さんのママから、どうぞ」

「もう、月さん、何で君がいつの間にか仕切ってるんだよ」

「いいじゃない、私はただ陽向さんたちの夢も聞きたいだけなんだから。自分のことも話したんだから当然でしょ」

「すいませんね、皆さん」

「いいですよ、月さんの言うとおり、私達の夢も話すのが当たり前です。でも今、最初に月さんに振られましたけど、私は陽向の母親だから、もう夢は一つしかありません。陽向が幸せになってくれること、これしかありません」

「まあ、そうだよね。ママだからありきたりな夢か」

「もう、月さん、いい加減にしろよ。自分で聞いておいて、何て言い方するんだよ。ありきたりだなんて」

「あれ?何か酷い言葉なんだっけ?うちのママも同じだから、いい意味で言ったつもりだったんだけどな」

「ダメだ、やっぱり月さんだ。すいません、陽向さんのお母様」

「いえいえ、大丈夫ですよ。私もそんな風に捉えてませんから。悪い意味で言ってないことくらい、月さんのことを見てれば分かります。本当に可愛い娘ね、月さんは」

「よし、次は陽向さん」

「月さん、まだ陽向さんのお母様が話してるのに、何で言葉を被せるんだよ」

「いいわよ火練さん、フフフ、本当にお二人のやり取りは見てて楽しいわ」

「じゃあ、私の夢ね。私の今の夢は、そうね、今よりももっと光ちゃんに好きになってもらえる女性になることかな?」

「陽向、今でも君は俺にとって十分素敵だから。でもありがとう」

「ちょっと、火練さん、聞いた?いいね、こんな熱々の言葉を普通にやり取りできるなんて。火練さんも見習ったら」

「おい、どういう意味だよ。俺だってな・・・」

「何よ、ほら、私に言ってみてよ。私は火練さんのこと大好きよ。さあ、私に素敵な言葉かけてみてよ」

「ねえ、月さん、火練さん困ってるじゃない。そんな陽向さんと光星さんの真似しなくても、月さんと火練さんは今の状態で十分素敵だと思うよ。月さんと火練さんにはお二人らしい関係があるはずだから」

「そ、そうだよ、水稀さんの言うとおりだよ、月さん」

「もう、自分の立場が苦しくなったからって水稀さんの意見に乗っかって。でもそんなものなのかなあ?」

「そうだよ、月さん。水稀さんの言うとおり。私と光ちゃんには二人の空気感があるように、月さんと火練さんには二人の空気感があるから、月さんたちはそのままでいいのよ。あ、それと私にはもう一つ夢ができた。私、光ちゃんに助けてもらってやっと話せるようになって、これから大好きな歌も歌えるようになったから、喜んでもらえるなら、今までずっと辛い想いをさせてきたお爺とお母さんにいっぱい、自分の歌を聞かせてあげたい」

「嬉しいな、陽向がそんなことを夢だって言ってくれるなんて」

「だってお爺とお母さんにはずっとあの時から私の声を聞かせられなかったでしょ。それなのにこんな私をずっと守ってきてくれたから。これからは私がお爺とお母さんを幸せにしたいの」

「そうか、そうか。もう私は陽向のその言葉だけで十分幸せだよ」

「お爺、泣いてるの?」

「ああ、陽向が泣かせるようなこと言うから」

「優風さん、素敵なご家族ね。私たちもこんな素敵な家族になれるといいですね」

「うん、そうだね、恵さん。こんな素敵な家庭を築けたら幸せだね」

「次は光星さんの夢は?」

「ああ、俺の夢は、陽向とお母さんが言ってくれたこと全部かな?俺はもちろん自分の両親もだけど、お爺様もお母さんも陽向も、全員、俺が幸せにしたい。俺はこれから陽向を支えてくれる人を含めて、その全てを守っていきたい」

「本当に素敵なお二人ですね。陽向さんも光星さんも同じ想いを持って生きてる。私もいい加減、陽向さんみたいな素敵な女性を見つけないとな。でもこればかりは巡り合わせだからな。何時、私はそんなパートナーを見つけられるのかな?」

「うん、土門さんも頑張ってね。はい、最後は爺ちゃんね」

「おーい、月さん、何?その心のこもってない頑張ってって。完全に私の心の声を流された気がする」

「本当に申し訳ないです、この通り、俺が謝ります、土門さん」

「いや、大丈夫。冗談ですよ、火練さん。なんかここにいる人ほとんどが初対面なのに、全くそんな気がしない。凄く居心地がいいというか、自分の家にいるような温かい空気が漂ってる感じがするんだ」

「いいから、土門さんの話は終わり。爺ちゃんの夢、教えて」

「そうだね、最後に私の夢か?」

 祖父はそう言って全員の顔を見渡した後、しみじみと語った。

「うん、私の夢。もう私の夢は叶っちゃったかな。私が死ぬ前に陽向のことを命がけで守ってくれる素敵な男性、光星くんが現れてくれた。そして光星くんのおかげで陽向の声が聞けるようになった。さらにこうして、私が若かりし頃から夢に見ていた七曜国当主の末裔である皆さんに祖先の話を伝えること、この夢まで叶えられた。死ぬ前にこんなに短期間で一気に夢を叶えられた、これだけでもう十分だよ。後は私の家族と皆さんがこれから末永く仲良くして頂けたら、最高です。皆さん、どうか陽子、光星くん、それから陽向のこと、これからも宜しくお願いします」

「ちょっと、お爺、やめてよね。なんかもうすぐ自分が死ぬような言い方しないでよね。やっと私、光ちゃんのおかげで話せるようになったのよ。これからいっぱいお爺に恩返しするんだから、長生きしてもらわないと困るよ」

「何を言ってるんだ、当たり前だ。こうして私達の呼びかけに応えてくれた皆さんに感謝の気持ちを伝えるための言葉の綾だよ」

「それでは皆さん、私達は不思議な祖先の繋がりでここに集結しました。私が発起人ではないですが、全員で連絡先を交換して、このグループでラインを開きましょう。ここにいるみんなでお互いの情報を共有しましょう」

「そうですね。土門さんの言うとおり。いいですね。あ、でもお爺は・・・」

「そうだな、私は未だにガラケーだったな」

「そうだ、お爺。お爺もこの機会にスマホに変えよう。ここにこの七人が集まったのは全てお爺がいたからこそだもん。お爺がグループに入ってなかったら意味がないよ」

「そうですね。ここにいる皆さんで作るライングループはお爺様がいないと成り立ちません。お爺様、是非、お願いします」

「そうだな。陽向、それじゃあ明日、皆さんの帰りを見送った後、機種変更に行くから付き合ってくれ」

「うん」

「陽向さん、ラインのグループ名はどうしますか?」

「ああ、それなら私ね、いい名前が一つ頭に浮かんだの。お爺がまとめたあの冊子の最後に付けられてた、ずっと受け継がれてきた七曜国の繋がりをイメージしたあの絵を見て」

「陽向、どんな名前なの?」

「うん、光ちゃん、それはね、“七曜無限8”て名前はどうかな?」

「なるほどね。まあ七曜は分かるけど、後はどんな意味で?」

「うん、この絵は見てのとおり、それぞれみんなの国の紋様を8を横にした形で結んでるでしょ。これってきっと祖先が最初に七曜国をまとめる時にイメージした気持ちだと思ったの。それぞれの国が永遠に途切れることの無い絆を結んで、七曜国の力を結集して七つの力をまとめた八番目の力で平和な国を作ろうと想いを込めたものだと、私はそんな風にこの絵を見て思ったから。この絵は8を横にしたような形だから、これって無限をイメージした形だし、それに祖先が国をまとめようとしたその時代に、まだアラビア数字なんて使われてなかったはずだけど、この絵をみたら、なんか7の次が8になると言うことがイメージ的に分かってたんじゃないかと思ったの。これがその後の思想に影響したかどうかは分からないけど、昔から8って言う数字は縁起がいいって言われるでしょ。そんな祖先の想いが受け継がれて来たって思ったら、皆さんとの繋がるラインの名前も、そんな想いを込めた名前がいいなって。でもこれは私の勝手な解釈だから、皆さんがダメだって言われるなら、別の名前を皆さんで考えてもらえればって思ってます。どうですか?」

「私、賛成!異議なーーし。いい名前じゃない。しちようむげんエイト。これでいいよ、ね、皆さん」

「うん、陽向、いいよ。名前の意味も陽向の勝手な解釈と言ってたけど、ここにいる皆さん、納得してるよ。聞いていて素直にそんな想いがこもってると思えたから」

 光星の言葉にみんなが頷いていた。

「うん、陽向。やっぱりお前は間違いなく太陽の国当主の末裔だ。想像力豊かで言葉に力がある。まさにその声と言葉の力で大勢の人々の心に安らぎと希望を与えられる女性だ」

「じゃあ皆さん、グループの名前はこれでいいですね。でも月さん、賛成してくれたけど、ごめんね、読み方が違ってる」

「え!違うの?」

「うん、今の月さんの読み方の方がかっこいいかもしれないけど、やっぱり私達は日本人だから。書き方は最後、アラビア数字の8って書くようにしたけど、読み方はね“しちようむげんはち”って全部日本語読みで考えてたの」

「そうなんだ。いいんじゃないかな。こんな大それたこと俺が言うのもなんだけど、地球規模で平和を考えた場合、人種の違いなんて意味ないと思うし、自分でも日本人だからってことにこだわりはないけど、自分たちの祖先の繋がりをリスペクトする意味でも、日本人らしさを表現する意味でも悪くないと思う」

「ありがとう、火練さん、私の想い、理解してくれて」

「良かった。俺の解釈、間違ってなかったみたいだね」

「もういいよ。陽向さんも火練さんも。二人とも難しいことばかり言って。相変わらず理屈っぽいんだから」

「おい、月さん、まだ俺にはいいと思うけど、陽向さんにまでその言い方は失礼だろ。本当にごめんね、陽向さん。相変わらず理屈っぽいって言うのは、俺のことだから、気にしないで」

「うん、気にしてないから大丈夫です。でも本当にお二人は仲がいいですね。お二人のやり取りは周りを明るくしてくれます」

「ほら、もう難しい話は終わりにして、いい加減、私、お腹空いたよ」

「もう、月さん、君は子供か!瑠々ちゃんだって大人しく待ってるのに。お母様、皆さん、本当にすいません」

「ハハハハハハ、いいじゃないか熱身くん、自分の気持ちに正直で自由すぎる、見ていて飽きないよ。君も月さんのそんなところが好きなんじゃないのかね」

「いや、止めてくださいよ、お爺様」

「図星だね」

 そして私達は全員で自分たちの太古からの繋がりの秘密を共有した後、楽しい食卓を囲んだ。

 そして翌朝、再び大人数で朝食を食べた後、私は昨日初めて会った七人を新大阪駅まで送って行った。

「どうも皆さん、お忙しいところ、私達のわがままに応えて遠方から来て頂いてありがとうございました。一度にこんなに沢山の素敵な友人ができて、私、胸がいっぱいです」

「こちらこそ、ここに呼んで頂いて本当に有意義でしたよ。自分たちの体の秘密も、その自分たちの生い立ちの秘密も、まだ信じられないような気分ですが理解できましたから」

「本当に、土門さんの言うとおりですね。私がこんなに踊ることが大好きなことも、お爺様から聞いた祖先がルーツだって納得できたような気がします」

「ありがとう、水稀さん。皆さんにそう思ってもらえてるなら、私も嬉しいです」

「皆さん、本当にありがとうございました。この老いぼれの最後のわがままを叶えて頂いて。これから私もスマホに変えてくるから、皆さん、宜しくね」

「じゃあね、爺ちゃん、元気でね。またきっと遊びに来るからね。もう年末だから、良い年を迎えてね」

「ありがとう、月さん。あ!可愛い瑠々ちゃんも、元気でね。パパとママと仲良くね」

「うん、ありがとう、お爺ちゃん。なんかお話しは難しいことばっかりだったけど、陽向お姉ちゃんのママの料理、とても美味しかったし、火練お兄ちゃんも光星お兄ちゃんも土門のお兄ちゃんもたくさん遊んでくれたし楽しかった。それに陽向お姉ちゃんも月お姉ちゃんも水稀お姉ちゃんも綺麗なお姉ちゃんばかりだから。こんなにいっぱい素敵なお兄ちゃん、お姉ちゃんができて嬉しい」

「良かったね、瑠々。皆さん、これから恵、瑠々も一緒に家族共々、宜しく願いします。それでは失礼します」

 そして樹神一家、夜長月、熱身火練、流水稀、土門振はそれぞれの日常生活の場に戻っていった。



 新大阪駅でみんなを見送った私達は祖父の機種変更のため携帯ショップに立ち寄り、その後、ランチを外食で済ませ、自宅に戻った。

「ああ、何か楽しかったね。ね、お爺。みんなとても素敵な人だったね」

「そうだな。みんな、光星くんに負けず劣らずの優しくて正義感の強い素晴らしい男性ばかりだったな。それに月さん、水稀さんは陽向とはまた違った魅力のあるとても可愛い女性だったな。特に月さんのあの性格にはな、さすがに私も戸惑ったが」

「そうね、それでも人を惹き付ける何かを持ってるのね。火練さんなんて月さんに振り回されながらも凄く愛情を感じたから」

「うん、本当にな。それに陽向と光星くん以外の五人も無事に生きていてくれた。それも五人全員が二人と同じ痣を持った子孫として同じ時代に生きていたなんて。こんな奇跡ってあるんだな。私はもうそれだけで凄く幸せを感じたよ。みんなとても幸せそうだったからな。できれば・・・あ、いや、これは言わないと決めたことだ」

「な、何?お爺。なんか言いたいことがあるなら言ってよ。私のこと?私にできることなら何でもするよ。お爺のためになるなら」

「いや、いいんだ。もうこれ以上は望み過ぎだ。これ以上高望みしたらバチが当たる」

「な、何ですかお爺様。言ってください。僕もお爺様のためなら何でもしますよ」

「そうだよ、お爺。今まで私のために頑張ってくれたんだもん。バチなんて当たらないよ」

「ああ、でもな、他の五人にも関係してくるからな。みんなあんなに幸せそうに暮らしてるのに、負担を増やしたくなかったから。だからあの時、私の夢を聞かれた時に話さなかったんだ」

「え?じゃあ、お爺にはまだ叶えたい夢があるの?」

「ああ、でもいい。話したら陽向と光星くんのことだ。そのためにもの凄いエネルギーを使うに決まってる。それにもし他の五人にも知られてしまったら、陽向と光星くんと同じようになってしまうと思うんだ。私はそんな私の夢のためにみんなに無理をさせたくないから。だからもういい、陽向、光星くん、これは忘れてくれ」

「お爺、お願い、話してよ」

「そうですよ、お爺様。僕がお爺様のためにできることがあるなら、何でもします」

「分かったよ。そんなに二人が言ってくれるなら、話すだけはしておくよ。でも、ここだけの話にしてくれ。頼むからこの話で行動を起こさないでほしい。他のみなさんと自然な流れでそういう方向に向かってくれたら。そう思って昨日は話さなかったんだ」

「分かったよ、お爺。約束する」

「じゃあ、話す。昨日話さなかった私の夢は、陽向、光星くん、月さん、火練くん、水稀さん、樹神さん、土門さんの七人で日本の祭りとか踊り、歌を使ったエンターテインメントを盛り上げる活動ができるんじゃないかと思ってしまったんだ。昨日みんなの夢や趣味を聞いただろ。そうしたらみんな、祭、踊り、歌、音楽に関することに凄く興味があると言ってただろ。月さんも火練さんも踊ることが趣味だと言ってたし、水稀さんはプロを目指してると言ってた。樹神さんは大学で教え子にダンスを教えていると言ってたし、土門さんは全国の祭りを渡り歩いて自分なりの踊りを作ることを目指しているなんて凄い夢を語ってた。だから我々の一族の始まりから何千年も経ってるのに、ずっとその系譜が受け継がれているんだ、それを確信した。そんなみんなと陽向の歌声、そして踊ることも好きで作曲もできる光星くんと、コラボっていうのか?そんなことができたらどんな凄いパフォーマンスができるのか、そんなことを考えたらワクワクしてな。でもそんな想いを抱いた反面、みんなの話を聞いていて、みんなには今の幸せな暮らしがある。そんな幸せに私の勝手な想いで負担を与えたくないと思ったことも事実。だから昨日、みんながいる前では自分のこの想いを押し殺した。そういうことだ、陽向、光星くん、そういうことだから、今の話はここだけで終わりだ。忘れてくれ」

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