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セント・セシリアの祝福  作者: 百瀬ゆかり
1章
7/77

臆病者は嘆く

2019/04/12/FRI 一部修正、加筆しました。

後半あたりが少し過激表現あり。

閲覧の際、ご注意ください。

しばらく馬の背に揺られ時折湖に立ち寄っては一行は休息を取った。いくら戦闘がなくとも常に気を張っている護衛隊の人にセシリアは紅茶を振る舞った。それなら日が傾き、森と王国のちょうど間を取る位置にある街に到着してから宿泊施設に入って夜を越すことを選択した。


「私は部下達と寝れるがセシリア殿は一人になってしまう。大丈夫かい?」


シリウスは彼女が一人になることに不安を感じているようだった。重要人物が一夜明けて行方不明となる可能性をなんとしても避けようとしているようだ。


「……何かあればいいますから」


そう言って言い聞かせるしかなかった。

それはシリウス殿下と、臆病な自分自身を納得させるもの。慣れない場所はどうしても怖い。

恨めしそうな視線がまとわりつくも、部屋の扉を閉じズルズルと膝から崩れ落ちれば張り詰めていた糸が切れたことを自覚する。


「慣れることはない────師匠に置いていかれてから、この感覚が消えたことなんてない」


ローブを椅子にかけ、備え付けられたバスタブに魔法をかける。魔力で動くお風呂だ。

バスタブに湯を張り、お気に入りのポプリを振り撒いてから身体を沈めればセシリアから気の抜けた声が湯気とともに昇った。


乗馬は全身の筋肉を使うことがわかった。

明日は筋肉が悲鳴を上げるだろう、心身のリラックスを促すオリジナルのポプリは今のセシリアの強い味方となった。炎と風の力を借りて濡れた髪を乾かして、一通りの行動を終わらせる。

なんとなくペンダントの様子が見たくなった。

師匠が見立ててくれた薔薇色の宝石を今一度確認したくなったのは────────なにか、啓示のようなものを無意識に求めたのかもしれない。指で表面を撫でてもロウソクの光が映り込むだけで何も起きない。


「……当たり前だよね、うん。知ってる」


心細いだけに、誰かが聞いていなくても。

弱音を吐きたくなる。

まだまだ半人前で未熟者だと自覚しているだけにこんな大役を勤められるのだろうかと、王都に着く前に一人でどこか見つからない暗闇へ逃げ出してしまいたい。押し付けられるものならば押し付けて、よろしく頼むと無責任になれたなら良かったのに……そんな弱い心を何度も何度も宥めるのだ。


「……シリウス殿下は、私のことを稀代の魔法使いの弟子という肩書きで見ているから期待している。

でも私にはそんな力は無いのに、私はどんな精霊に愛されてもその偉大なる力を──────契約してくれる子なんていなかったんだから」


落ちこぼれ、とも言えるだろう。

同じ魔法学院に通う子達は個々に精霊に契約を持ち掛けられて契約を交わし、多種多様の魔法を使えたという言うのに。私はただ力を貸してくれるだけ。

各精霊たちは額にキスを落としていく。

祝福(ギフト)を授けてくれるのにそれが契約に結びつかない。幼少期はよく師匠に聞いたものだ。




『どうして精霊は私に契約を持ち掛けてくれないのでしょうか?祝福(ギフト)はとてもありがたいのですが他の子と能力差が出てきて私は焦っています』


そんな夜も甘いカフェオレを飲みながら書物を読む師匠へ疑問を投げかけた。師匠は決まって同じことを言う。耳にタコができるくらいに呆れていると言わんばかりの表情を浮かべながら。


『何度も言っているだろう、精霊は契約者を選ぶ。

祝福(ギフト)は来るべき精霊に出逢い、契約をするまでの繋ぎに過ぎないと。繋ぎを際限なく施してもらえるだけでもお前は愛されているんだ……どんな人物が何を言おうがセシリアは落ち込むことは無い。


なんたって、このグリネード・マーナ魔法王国で国王にさえ敬われる師匠がお前の師なんだ……弟子であるお前のまだ眠る潜在能力を信じている。

気長に待ちそして備えよう、その眠る能力が厄災を運ぶ恐ろしいものであったとしても──────』


銀の双眸は星の瞬きのように柔らかい。

慈愛に満ちた、それは金属に似た冷たさを持っているのに師匠の気質がその色に人らしさを足して。大きな手のひらが小さなセシリアの頭を撫でる。


それから魔法学校を卒業するまで様々な精霊と言葉を交わし、多種多様な祝福(ギフト)を与えられても……学舎から離れるまで契約をしてくれる精霊が現れることは無かった。


卒業した夜、声が枯れるまで大声を上げた。

眠気が来て力尽きるまで八つ当たりの要領で魔力を叩きつけながらお菓子を半狂乱になって作り続けた。

気絶するように明け方に意識を飛ばしてから師匠に起こされた散々な朝。


面白いことが起きているぞ、と言われ滅多に降りなかったお店の内側からガラス窓部分を覗いた時に落ちこぼれの私でも出来ることがあるのに気づけたのだ。


多種多様の魔法使いは魔力が無尽蔵にあるわけではない。大きなものを使えばすぐに尽きてしまう、無限でないだけにそれはどんな時も死活問題だった。

治すには銀で癒されたマナ水を飲むか魔力が込められた料理や菓子を食むことが唯一回復だった。


契約を持ちかけてくれる精霊に出会うその時まで私は今までの精霊たちと同じように魔法使いに施しを行うことにしたのだ。精霊のような簡略的なものでなく、それこそ身も心も満たされるお菓子に魔力とまじないを込めて……。









それが間違いだと気付いたのは師匠が消えてからしばらくしてのこと。たくさんの菓子を作り納品するように外国から依頼が舞い込んだ。自分の国以外の人であっても生きて愛する人の元へ戻れるようにとささやかな祈りとたくさんの魔力を込めて作り続けた。精霊と契約出来なかったという負い目をかき消すように日が昇ってから月が眠るまで。




そしてその思いを踏みにじる事件が起こった。




納品する菓子を積んだ荷馬車が襲われることがある日を境に頻発するようになった。学友で情報屋を開いた子に依頼して王国を中心にした諸外国の情勢を探ってもらった結果は私の心をひどく痛みつけるものだった。

大金になると踏んだはぐれ者がその祈りを込めた菓子を略奪し私の手の届かない範囲で違法取引の目玉商品として高く売り飛ばしているという情報を耳にした。怒りに手が震えた。




────それがいけなかったのだ。





抑えきれない激情で頭が真っ白に塗り替えられた。


炎見たく怒りが全身を包んだあとに気付いたのは。

足元に積み上がった肉の山にあった。

自分と似た姿、それこそ服装や髪や肌の色が違えどもそれは人だった生物で出来ていたのだ。

夕陽によく似た真っ赤な山が多数、ものによってはかなり高く──────師匠から貰った大切な白いローブは多量の返り血によって赤黒く染まっていた。



……手が震え、杖の宝石は妖しく輝いていた。

自分は感情一つで大虐殺を行ってしまったことに気付いた。その事実は変わらず私は怖気付いた。

確かに怒りで頭に血が昇ったのは否定しない、がましてや命まで奪おうなんて思っていなかった。懲らしめてやろうと考えていたがまさか殺戮なんて……。


正気とも言えない半狂乱な状態でよく、学生時代に世話になった先生に連絡できたと今でも思う。どんな処罰も受けるからどうか森の管理人から外して魔力を剥奪し、誰にも知られない場所へ幽閉してほしいと懇願したがその願いは尽く却下された。


気持ちが落ち着いた頃には森の管理人として仕事は継続され、その事件はいつの間にか英雄伝のように口にされて国王からは賞賛の言葉を並べられたのだ。


本当に悪いやつなんていない。

事の発端のはぐれ者だって明日の光を見たくて悪事を働いただけ、それを破格で買う魔法使いや魔術師だって国を家族を大切なものを奪われずに守る抜くためにほの暗い闇に手を染めた。そうだ、誰も悪くない。


悪いのは争いの種を作り出した私なのに、誰もが私を咎めずに私を称え稀代の魔法使いの弟子もまた優秀な魔法使いと祭り挙げられるなんて……それは地獄そのものだった。



「それが起きた時、シリウス殿下は留学していたから知らないんだろうな……。殿下が戻ってきたのはここ最近でその出来事を伝えるのはおそらく、城へついた時だ……私の地獄はまた、再現するだろう」



師匠、師匠……。

私は抱えきれない大きな罪を背負うには未熟です。

助けてください、師匠。私に光を……。




寝具に潜り込み、ギュッと目を瞑る。

その苦い記憶はどんなに時間が経とうとも夢の中で何度でも蘇るのだ。忘れてはいけないと言われている気がしてならない。そんな時にふと、浮かぶ言葉がある。















『私はなにか重要なことを忘れている気がする』と。

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