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セント・セシリアの祝福  作者: 百瀬ゆかり
序章
6/77

物語は森を出てから紡がれる

2019/04/12/FRI 一部修正を加えました。

朝日が昇る頃に殿下が率いる騎士隊とセシリアは白の森を発つ。守り人である管理人が不在となることにセシリアは一抹の不安を吐露するが森を出てすぐに白いローブを身につける人物とすれ違い、あれが急遽派遣された魔法使いだと知らされる。


森の外は緑一色の広い高原だった。

自分がいた森の方向はいつの間にか白から緑色へ染まっていくのを目にする。これが魔法壁、森は森でも近くの森と姿かたちを似せて森へ入る人間を選別する特殊で強力な魔法。セシリアがいた場所は特に魔法の気配が濃い空間なのだと再認識をする。


「さて、セシリア殿。目的地である王城までかなり遠いことですし────馬の背に乗りましょうか」


騎士に紛れるように服装や装飾は地味にしていると聞いたがその立ち振る舞いで利口な人間はすぐに彼が高貴たる教育を受けたことに気づくだろう。

彼にはオーラがある。

人の上に立ち、民を守る王としての資質。

たった一日だけでも彼の人となりがなんとなく掴めてきた気がした。


「う、馬に乗るにしても……私は乗馬の経験が」


幼少期に師匠と相乗りしたことしかない。

セシリアはそれを伝えるか否か、悩んでいた。

師匠の話題はとてもデリケート。

迂闊に話そうならばしかめ面にされても不思議ではないのだから、困ってしまったのだ。


「……ふむ、どう思う“ ブラン ”」


殿下は何かに問いかけた。

問いかけたというよりも、話しかけたのかもしれない。殿下の乗る馬が“ 普通の馬 ”ではないことをセシリアは気づくことになったからだ。


『……良い、乗せたまえ。あの娘の魔力には惹かれるものがあるから直接知りたい』


(テレパシー……?)


おそらく殿下とその馬の会話していた。

セシリアは聴こえてきたその声の主がその白い馬であったとしても、今はさほど重要ではないだろう。


「ブランから許可が降りた。

さぁ────セシリア殿、僕の手を取ってくれないかな」


差し出された手に右手を乗せたなら、セシリアは軽やかに地を蹴り上げて。ふわりと浮いたその身体は馬と殿下の間に納まっていた。


「────え?」


「さぁ、行こう。王が首を長くして待っている」


殿下の声に応えたのか、ブランが再び歩き始める。

ゆらゆらと揺れ始める視界。

師匠の後ろを追いかけていた幼い頃よりも高くなった世界は相変わらず新鮮で美しく、どこか箱庭のようにも思えてしまう。まだ特例で森の外へ出ていることに対して実感を抱けないだけで本当はガラスドームに閉じ込められていて外の景色を見せられていると言われても信じてしまうくらいに……。


「久々に白以外の色を、この目で見ている気がします」


セシリアが不意に呟くと。それを聞いたシリウスは間を置いてからゆっくりと言葉を紡いだ。


「ほんの瞬きのような今だけでなく、これからも何度だって見ることになりますよ。今後は僕が招待しますからプライベートで遊びに来てください」


優雅に微笑む気配がする。

森を発つ前に伝えられたことは王国に入るまでに村や街を何個か経由しながら目指す、あとは一部治安が危うい場所を通ることを考えて馬車は諦めざる得ないことを謝罪したいとも言われた。


元々、馬車に乗った経験もほとんどない。

それに憧れがない訳でもないけど王様が考えたことなら文句を言うこともない。高待遇でもてなされても冷汗が止まらなくなるから助かったと内心、思ったりした。


「王国には何があるのでしょうか?

魔法関係を扱う図書館や道具屋さん、各職種の方がいらっしゃるのなら是非とも行きたいですね……!」


館に備え付けられた本でしか得られなかった知識がどんどんと塗り替えられていく。あの時は目が曇っていて見えるものさえ見えないと思い込んでいたために忘れてしまった美しいと思う気持ち。

それが徐々に戻ってきているのを感じられるのだ。





冬空は高く、その青さはどこまでも澄んでいる。

それは透明度の高い宝石を覗き込んでいる感覚に似ている。悲観的になり過ぎても行けない。

私はもう、大丈夫なハズだから……セシリアは胸に揺れるペンダントに縋るように強く握った。



不意に吹くちょっぴりの風が結い切れなかった少女のプラチナブロンドの髪を優しく撫でていった。






セシリアに与えられた箱庭は森だけだった。


なぜアンバーの死を選び、リラが森を守るために王国に奇跡を与えたことになったのか。何の因果が魔力が枯渇するほどの大事になったのか。



これから彼等が知ることになるのは、魔力が枯渇することになった理由と──────なぜ魔女たちが森の管理人を勤めることとなったのか。


グリネード・マーナ魔法王国に伝わる建国神話が子どもを喜ばせるだけの御伽噺ではないことを知るのはもっと先のことである。




***



『お願いします、師父様。

ローズ姉様に会わせて下さい、私たち妹たちの顔を忘れてしまわれないか不安で不安で堪らないのです』


鳥籠と揶揄するとある建物の中。

その奥にある師父の書斎に私は直談判をしていた。

白い壁、白いタイル。窓の枠は黒でその模様は鳥籠の目に似ている。師父の書斎の壁はとある絵画を挟むようにして縦に長く大きなガラス窓が配置されている。その絵画は女神の誕生とその覚醒を描いたもので今にでも実体を得てこの世界に降りてくるのではないかと疑うほどに。


手のひらを上に向けながらもへその位置から上にも下にも行かない。その手は天秤に似ている。

何かを計っている。何を考えているのだろうか。

開き切らない双眸は特殊な顔料が使われているのか見る角度によって煌めいていると錯覚してしまう……それほどにただ、美しいものだ。


そんな女神を後ろに置き、師父は笑みを浮かべて言うのだ。


『前にも言った通り、彼女は選ばれた人間だ。

いずれ来るであろう世界の終焉に彼女は女神の器としてこの教団を楽園へと導く大切な役割を与えられているのだよ。この世界に実体を持たない精神体である神を降ろすことが出来る唯一無二の器であることを“ 君 ”はよく分かっているはずだ』


師父の眉間にシワを寄せる。

その深いシワの下には何が隠されているのかは未だに分からない。生きた年齢も長いし乗り越えてきた修羅場も多いと聞く。今の幹部たちは激動を走り抜けた世代と呼ばれている。それから女神の民、と名乗っている。


『はい……姉様に何かあった場合、私が代替(スペア)の器になる件ですか。それについては心配要りません、私の心は女神の手の上に。


筆頭である姉様の恵まれた能力と比べ劣っていようとも、私に匹敵する妹がまだ育っていないことは重々理解しています』


この世界の終焉の足音が近くまで迫っている、と教団にある常に更新される書物は告げる。予言の書は月が空の頂点を通過した頃に浮き上がる不思議なものだ。魔法が関わっていることは明白だがどんなものが作用しているのかは不明である。


『分かっているのならそれで、いい。

アレはまさに奇跡の娘だ。妹としてこれからも支えてくれると私も嬉しい』


これ以上の交渉は無駄、と暗に言われた気がする。

師父にまた挨拶をしてから廊下へ出る。

白い壁、緑のカーペット。

建物の中にまた室内庭園へと続く道がある。そこに散りばめられたものを順序よく辿れれば────姉様のいる場所へ導かれるのだ。


バラの生垣の道が現れたのなら、あとはピンク色のバラが生い茂るガゼボへ向かえばいいのだから。

白い石から切り出させたガゼボには愛らしい複数のバラが所狭しと咲き乱れ、その鳥籠の中には彫像の間にて長い祈祷を終え魔力回復のために眠りについた姉様がそこに居た。


川のように流れる美しきプラチナブロンドの髪。

頬と唇には紅が差し、クッションを抱きしめる細い爪先は赤みが強いバラ色。横たわる姿はまるで精巧な磁器人形にも似ていてどこか無機質だ。生きているのか死んでいるのか触れてみなければ分からない。


ふに、と柔らかな頬に触れる。

……温かいからまだ生物として生きている。

もしも神を降ろした時に人の理から離れても不思議ではない。それだけ重要でどれだけ危険なことなんだろうといつも考えてしまうのだ。はんぶんこに出来ない不安や恐怖、苦しみはどうやって共有できるのだろうか。


『姉様……』




ふと、思うのだ。

私達はどうして“ 姉妹 ”として扱われているのか。

血の繋がりのある本来の親や親戚、きょうだいはどこにいるのだろうと。ともに育つ同年代の子達を兄弟姉妹と呼ぶことに違和感はない。


兄弟姉妹の間柄には『愛』は存在している。


でも師父や幹部の人から私たちに注がれるものはけっして『愛』と言える代物ではない。

『手入れが大変な道具』『必要最低限の尊い犠牲』という言葉がよく似合うと感じるのだ……皮肉にも。




だから、私は自分に誓ったのだ。




師父に牙を剥き、鳥籠に閉じ込められた姉様を世界へ羽ばたかせようと。

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