始まりは魔女の森
2019/04/12/FRI 一部修正を加えました。
そこは世界から置き去られし白き森シルヴェール。
樹氷に閉ざされた永劫の銀世界であり管理人を勤める一人の魔女以外に人はいない。管理しているのは多種多様な固有生物と環境の保護である。
一部民の足として活躍するトナカイやペガサス、乱獲によって個体数を減らした一角獣の代表ユニコーン。
人の目を惹く美しい毛皮を狙われる銀狼にどんな傷をも癒す白雪のバラ。
そう、それはシルヴェールにしか存在しない珍しいものばかりだった。
欲に目が眩んだ周囲の国、盗賊に密猟者と一部の貴族や魔術師がその森を我が物にしようと代々の管理人との攻防戦が繰り返され約三百年前まで絶えなかったと伝えられている。
ある年の世代交代をする前に管理人を勤めた魔女が侵略者から森を守るために魔法壁を築き永劫の銀世界に変えてしまったと伝えられている。
森の近くにあったグリネード・マーナ王国にシルヴェールの森を保護する名目で国有地として認定してもらう代わりに王国にさまざまな魔法を伝授した。
それにより国は急速に発展。
魔法が木の根のごとく王国に張り巡らされた頃、王国は次第に魔法王国と名乗るようになった。
薄氷の張られた湖、湯気の上がる源泉、さまざまな形にひしめきあう水晶窟。
そこで産出される結晶体には高濃度かつ高品質のマナが宿り、人々の生活を密かに助けているという。薄氷が常に張る湖の底には星を喚ぶドラゴンの咆哮で発生する流星群でこぼれ落ちた星の欠片、大昔に他国の姫君が森を通過した時に純銀製のティアラを落としたことで近くの溜池は高品質の聖水が採れるようになった。
娯楽も何もなく、目的もない人がほぼ訪れることのない魔女の洋館に珍客が訪れた。シルヴェールの森を領有する魔法王国の王子が複数の騎士を連れてやってきたのだ。
「ようこそ、“ 魔女 ”の森へ」
ほんの数年前に管理人の魔女も世代交代を果たし、王子ご一行を迎えたのはまだ幼さが残る色の薄い少女。出迎えた少女の名前はセシリア。しんしんと積もる雪をやわらかな風を吹かせご一行の雪をまとめて払い、炎の気配を散らした洋館に招き入れた。
「どうぞ。バラの紅茶で温まってください」
小さな手が宙に踊れば並べられていたティーカップに鮮やかな紅が上品な香りを漂わせながら満たされていく。各々の口に運ばれてから質素な焼き菓子を振舞ってからソーサーにカップがかえる頃に王子シリウスが青炎を思わす双眸がセシリアを焼こうとしていた。
薔薇色の瞳が数度瞬いた時にシリウスは口を開いた。
「バラの紅茶はとても美味だった。ありがとう。
国王からの手紙に目を通したことを前提にお話しします。
国王代理として王子である、シリウス・フレイム=マーナが参りました。
シルヴェールの森の管理人であり今代の魔女セシリア殿。
グリネード・マーナ魔法王国は現在、慢性的な魔力不足に陥っています」
読んでいただきありがとうございます。
次回の更新日は作者のスケジュールの都合により11月第2週金曜日まで更新がストップします、楽しみにしてくださる方には大変ご迷惑をおかけします。