5:楽しんでいる人
夜、ベットで寝たふりをしながら、両親が寝静まるのを待った。
今からすることのためスキルを確認する。
ステータス
ギフト:不老不死
スキル:精神耐性S
物理耐性A
変温耐性A
魔力操作D
痛覚無視
嗅覚無視
味覚無視
毒無効
『魔力操作D』が新しく追加されているな。
今はそんなことよりもだ。
『物理耐性A』と『変温耐性A』のスキルを無効にする。
杖と契約してから1年で魔法の基本的な法則を理解した。
これがどのくらいの早さなのかわからないが、父と母が子供だからと言わずに魔法を教えてくれたから、それができたのだろう。
おそらく、両親は俺が何かしらの記憶を持って産まれてきたことをわかっている。
それでいて、触れないでくれているのだ。
魔法はイメージと魔力操作によって成り立っている。
指先から水を出したい場合、体内の魔力を指先から外に出しつつ、その魔力を水に変えるイメージをしなければならない。
イメージはコツがいる。
蛇口から水が出ているようなイメージではなく、指から出た魔力を水に変えるというイメージが必要なのだ。
魔力を操る方法は感覚的なもので、詠唱魔法を繰り返すことによって掴んだ。
練習していると、何かのきっかけでスムーズに動かせるようになったので、それがスキルを手に入れたタイミングだと考えている。
指から出す魔力の量をあげていくと、水の量も増えた。
イメージによっておおまかな魔法の指定をしてから、魔力で細かな調整をするといった感じだ。
俺の目的は死ぬことだ。
では、死ぬにはどうすればいいだろうか。
魔力をどう使えば死ねるだろうか。
単純に考えるなら心臓を止めればいい。
いや、心臓を含めたすべての臓器を壊してみよう。
その程度では、死なないという自信にも似た感覚があるのだが、それは試した後に信じよう。
魔力を操り体内の臓器を包んでいく。
イメージは火。
魔力を使って直接焼くんだ。
魔法を使う意思とイメージ、相応の魔力が揃い、魔法が発動した。
すぐに、全身が麻痺して動かなくなる。
痛みは感じない。
『痛覚無視』というスキルのせいだ。
これは、ダメージを打ち消すものではない。
あくまでも無視であり、痛みを感じなくするだけ。
「げほっ」
一度に大量の血が口から吐き出される。
布団汚しちゃった。
見つかる前に、魔法で直せるといいけど。
ばれたらきっとめんどうなことになる。
これで死ねれば、そんなこと気にしなくていいのか。
気が付いた時には、体中が血まみれだった。
臭いは感じなくしているため、血の匂いはしない。
でも今『嗅覚無視』を無効にすると、えぐい匂いがしているんだろう。
両親まで届いてしまうかもしれない。
臭いを消すには、どうすればいいんだろう。
魔力で何をどうすれば――いや、それだと考え方が化学的すぎる。
魔法はイメージで使うものだ。
単純に細かい理屈なんて考えずに、魔力にあたった物は消臭されるぐらいでいい。
あとは右手から魔力を出して、部屋に満たしていく。
体内を燃やす魔法を維持しながら、消臭も行うのだ。
イメージと魔力操作を二つ同時にやる必要があるのだが、火は動かさなくていいし、イメージも簡単だ。
火は前に飽きるほど浴びたからな。
やっぱり死なないか。
体は動かせないけれど、思考が続いている時点で死んではいないのだ。
脳にどうやって血が流れてきているのかもよくわからない。
体が動かせなくなるなら、意識も落ちそうなものだ。
面白いように自分の体から血が噴き出している。
次は魔力の密度を上げることで、温度を高くしていく。
今までが赤い火で、これからが青い火だ。
しばらくしてから、体内の火をとめた。
それからすぐに、体が元に戻る。
3秒ほどすると全身の麻痺もおさまって動けるようになった。
服をめくってお腹を見ても、火傷一つない。
後に残ったのは、大量の血が飛び散った部屋だけだ。
見つかる前にさっさと魔法で洗ってしまおう。
多少、傷むかもしれないが、この光景を見せるよりマシだ。
無効にしていたスキルを元に戻してから、俺は魔法を発動した。
それからあっという間に月日が流れた。
あれから、夜は何かを思いつくたびに自殺をしている。
もう趣味だ。
血の処理が手慣れてきた。
目が覚めて、寝転がったまま下らない事を考えていると、ドタドタと階段を上ってくる音がした。
勢いよく扉が開き、予想どうりの顔が見える。
今日は何時に起きたんだろう。
「ジル! 迎えに来たよー。まだ早いけど、さきに行ってお家で遊ぼ?」
今日は、彼女が7歳になる日だ。
リサは来年の初めから、アカデミーに入学する。
それにしても朝、早すぎる。
2度寝しようと思ってたのに。
「やっぱり、動かないで。だっこして連れて行っちゃうー」
「いいよ。自分であるくから」
「ダメー。お姉ちゃんが連れていくの」
あ、ミスった。
さっさと立ち上がるべきだった。
恥ずかしいとか前は思わなかったのに、最近は変わった。
少し前は、周りの目とか考える余裕もなかったんだと思う。
「ジルはやっぱり軽いなぁ」
軽々しく赤ん坊のように抱えられる。
俺の身長は伸びた。それは彼女も同じだ。
まだ彼女のほうが背が高い。
魔法を知ったことで、リサの力の理由も見えてきた。
まだ推測にすぎないが、新しい魔力を作りだして、古い魔力を外に出すペースが普通より早いんだと思う。
魔力が体内で活発に動くことで、結果として体が強化されているのだ。
「おろしてよ」
「やーだ。今日ぐらい許して? ね?」
まぁ、いいか。
運ばれながら、今日のことを考える。
リサには魔法で何か見せてあげようと思っている。
めんどうだが、何もしないのはよくない。
周りの目もあるしな。
そうだ。
周りの目があるから仕方なく、やってあげるんだ。
家は隣なので、時間はかからずに到着する。
そういえば入ったことなかったな。
リサの両親とは何度か会ったけれど、家に入ったのは初めてだ。
中は俺が住んでいる家とさして変わらない。
「ただいま! ジルつれてきたー」
リサの両親がにやにやしながら見ている。
あんまり見ないでほしい。
それから時間がたち誕生日会が始まる。
落ち着いたころで、声を掛けた。
「リサ」
「どうかした? おトイレ行く?」
「もう、違うよ。魔法、見せてあげる」
「やったぁ!」
まだ何もしていないのに、目を輝かせている。
どうしてそんなにも楽しそうなんだろう。
「見て」
人差し指を出して、魔法で光をともす。
『いつもありがとう』
そう書いた。
空中に光が残る。
魔力をその位置にとどめているからだ。
もっと派手な魔法のほうがよかっただろうか。
そんな不安を抱えながら、隣に目をやる。
どうやら杞憂だったようだ。
「こちらこそありがとう!」
そう言いながら、光を触ろうとしている。
彼女には悪いが俺のメンタルがもたない。
この場には俺とリサのほかに4人の大人がいる。
親たちだ。
恥ずかしくてすぐに光を消した。