好きなものを好きに書く
『好きなものを好きに書く』
実は、これ、すごく難しい。
前にも書いたことがありますが、『書けるものと書きたいもの』はイコールではないのです。
頭の中で想像しているときは、あれほどきらめていた物語が、文章になると色褪せて、チープに見える……そんな経験は、きっと誰でも持っているモノ。
……そんな経験はない? そんな天才は、こんなオバハンのエッセイなど読まず、どんどん名作をこの世に送り出してください(笑)
まず、好きなものを好きに書くには、『好きなもの』がなんなのか、自分がわかっていないといけません。
これはふんわり『恋愛』『SF』『ファンタジー』というジャンルだけでなく、もっと突っ込んだほうがいい。
私は恋愛は、基本、『両片思い』『ジレジレ』が大好きで、ワンパターンと思われようとも、それに徹した作風です。
アクションも好きだけど、どちらかと言えば、『探索』的な要素が好きなので、地味な証拠集め的な作業に焦点を当てがちですね。
はっきり見えないうちは、自分の好きな作品をいくつか列挙してみるのもいいかも。
好きな作品の好きな場所。それは、一通りではないとは思いますが、『譲りたくない物語の核』はきっとそこにあります。
私の場合をいろいろ列挙。
ブラッドベリ『火星年代記』 セピア色の雰囲気が好き。
藤沢周平『伊之助』シリーズ 二重生活と地道な捜査の過程が好き。
夢枕獏『陰陽師』 淡々とした中に感じるやさしさが好き。
菊池秀行『魔界都市新宿』 十六夜京也のかっこよさ。
ハミルトン『スターウルフ』 バディものの面白さ。
野田昌弘『銀河乞食軍団』 仕事のプロとセリフの軽妙感。
火浦功『高跳びレイク』 レイクのカッコよさ。
高田郁『みおつくし料理帖』 人情の暖かさと飯がうまそう。
田中芳樹『銀河英雄伝説』 ヤンが好き。歴史ものの面白さ。
池波正太郎『剣客商売』 捜査の過程と飯がうまそう。
山田風太郎『魔界転生』 十兵衛がカッコイイ。
で、こんなものが入り混じったのが私の作風
好きなものは、たくさんあった方がいいです。
いくつかあれば、その時々に、選ぶチョイスが、自分のいろにかわります。
で。
『好きに書く』
これは、非常に難しい。
まず、文章力がいる。
思った通りの場面を、文で再現するのは本当にたいへん。
ただ、小説は『絵』ではないので、見えるはずのものを全部描写する必要はなく、必要なものだけ、必要なときに書くべきだとも思います。
もっとも。
「思ったように書けない」
という悩みは、実は、表現力でなく、『構成力』『演出力』のような気がします。
そのシーンの一番『効果的な』見せかたがわからない、というのが原因じゃないかな、と。
たとえば、女子が男子にラブレターを渡すシーンがあったとします。
みんなが見ているような学校の廊下で、相手を呼び出して、人前で渡すのと、誰もいない教室で、そっと渡すのでは、同じ結果になるのでも全然違う。
それから、渡す時でも、ぶるぶる震える手で渡すのと、相手の顔に、たたきつけるように渡すのでは、違うわけです。
その物語の最適な演出を選択したとき、はじめて『好きなものを好きに書く』ことができるのかな、と思います。




