あらすじで面白さはわからない
その昔、よく見に行った劇団がありました。
その劇団、なんと見に行くともらえる「ちらし」に、身もふたもないくらいとても詳しい「あらすじ」が書かれておりまして、劇を見る前から筋がわかってしまうというスタイルでございました。
どれくらい身もふたもないかと言いますと、浦島が玉手箱を開けてじいさんになった、みたいなところまでバカ丁寧に書いてあるという……。
しかもですね、そのあらすじ、酷いのです。
たぶん、書店で売っていたら、絶対買わない。なろうでも、あらすじ見て、「ダメだわ」と思うようなやつ。
なんというか、少しも心が躍らない筋なのですよ。
友人の親類が出るというので誘われ、はじめてその劇団のお芝居を見に行った時、ちらしをみて「あーあ」とつい深いため息をついてしまったくらいチープな内容です。
待っている間、帰りたくてたまらなかったくらいでした。
ところが。
いざ、芝居が始まったら、『あらすじ』と全く同じお話でありながら、信じられないほど、面白いのです!
当時、まだ若かった私に、それがどれだけ衝撃的なことだったか!
お芝居というのは、客と役者でつくるもの。物語の本筋も大事ですが、その空気感のようなものは、映像ものにはないものがあります。その一体感の作り出す魔法!
そして、一見して『ひどい内容』と思ったあらすじは、手あかまみれではありますが古典的な様式美だったのです。
字で見るとチープに見えるそれは、役者さんによって、キラキラと輝く黄金の様式美となり、本当に楽しくてたまらないお芝居でありました。
その後、その劇団のファンになり、何回も行きましたが、行くたびに身もふたもなくチープな「あらすじ」のちらしと、そのちらしどおりなのに『信じられないくらい面白い』芝居は、忘れられません。
公募や、なろうの場合、あるいはこれは一般書籍でもそうですが、面白いあらすじを書けなければ、読者を増やすことはなかなかに難しいことであります。
あらすじは、ある程度の面白さを保証してくれますので、読者が小説を選ぶ時の指針にはなります。
ただ。
チープなあらすじでも、面白いものはあるわけで。
物語の安っぽさって、わかりやすさでもあるのかな、なんて思ったりもします。
結局、あらすじだけでは、面白さはわからないものなのかもしれません。
とはいえ。あらすじだって、面白いほうが、断然いいよね……自分、できないけど。




