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第2部:痛み-2

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

「全くカズヤくんの言う通りね、先生」

 と、突然職員室の外の窓から声が降ってきた。

「信吾!」

 声のする方を振り向けば、信吾が桟に頬杖をついて面白そうに見物している。

「ホント、体育会系はノーミソがピーチグミで、チュルルンした筋肉でできててプルプル揺れちゃうもんだから、思考能力よりも先に手足が動いちゃうんでしょ。大変ねぇ。

 そんで生徒に手を上げる教師を目の前に、職員室中が見て見ぬふりでしょ。まったく立派な先生方ですこと。卑怯者ばっかり」

「霞!やっぱりお前の差し金か!」

「さあ、どーでもいいじゃないの。行きましょ、カズヤくん。こんなノーキン相手にしてちゃ、こっちまでピーチグミになっちゃうわよ」

 窓から侵入した信吾は、笑いを堪えるカズヤを、強引に職員室の外に連れ出した。


「駄目じゃない、冷静さを見せちゃ。ああいう連中は相手が冷静な素振りを見せれば見せるほど、妙に燃え上がって危険な状態になっちゃうわよ。気を付けて」

「はぁ」

 絶妙なタイミングで入ってきた信吾に、少し疑問を抱きながらも、カズヤは敢えて疑問を口にはしなかった。

「でも……クククッ、面白かったわぁ。ピーチグミの青筋、見たぁ?いつ見ても傑作よね、あれは!オホホホホッ!」

 信吾は腹を抱えて笑いだした。

「カズヤくん、あなたならできるわよ、《反日向はんひなた反教師同盟はんきょうしどうめい》の盟主を!しばらく待っててごらんなさい、きっとチャンスが転がり込んでくるに違いないわ。面白い、面白いわ!これからは誰におびえることも、屈することもない学校生活が送れるようになるわ。それをあたしたちの手で作ってくのよ!」

 そう笑う信吾に、カズヤはアキラに通じる何かを見たような気がした。

 狂ったように笑う信吾は、妖しい微笑みを浮かべるアキラに、どことなく似ていた。


 信吾は狂ったように笑い続けていたが、カズヤはその何トカ同盟を復活させるつもりなど毛頭なかった。

 自分は自分の意志の限界を貫いてみたいという、超個人的な感情だけで行動をしていただけだし、第一、そのような理念のある同盟の盟主だとかいうものは、アキラだからこそなれるものだと思い込んでいた。

 信吾の方も、あの一件の後、《反日向はんひなた反教師同盟はんきょうしどうめい》のことは何一つ言って来ない。その場の雰囲気で言っただけなのか、カズヤがその気になるのを待っているのか、カズヤにはさっぱり検討がつかなかった。


 教室での信吾はよく気がつく優しい人間で、しかも可愛いものだから、誰からも嫌われることがない。女子からも男子からも『かすみちゃん』と呼ばれて好かれていた。

 若干長めのショートヘアに、柔らかい顔立ち。キュートなお喋りほくろ。

 この顔で女の子だったら何の違和感もないのにと、カズヤは幾度となく感じた。

「かすみちゃんはねぇ、小学校の間からずっと女の子っぽかったのよ。今よりも髪が長めでね」

「ふーん」

 カズヤの周りに集まる新しいクラスメートを前に、カズヤはアキラのことを、決して口にはしなかった。

 何だかかえってアキラの知り合いというだけで、彼女の後光が自分の周りに出てきそうで嫌だった。


 信吾の傍にいる限り、どういうわけか女子ばかりに囲まれてしまうのは、仕方がないような気もする。

 自分でも多少の自覚はあるが、決して不細工な顔立ちではないし、背も高い。もてる要素はある程度持ち合わせている。

 クラスの女子は、カズヤにはすっかり慣れ、周りで黄色い声を上げていた。勿論、教師や《日向》の影には怯えながらではあったが。


 男子の間でも、カズヤの評判は結構いい。

 転入早々校則は破るし、教師にははっきりものを言うし、自分たちにはできないことを平然とやってのけるヒーローみたいなものになっていた。

 先日の職員室での一件は、校内に広まっていたのだ。

「四人には気を付けてね」

 その噂を知っている信吾は、そう一言言っただけだった。


 そして二月半ばのことだった。カズヤにとっては意外なことが起こった。

 例の《日向四天王ひなたしてんのう》が、教師に逆らい続けるカズヤを、しつこいくらいに《日向》の仲間になるように声をかけてきだしたのだ。当然、カズヤは断った。

 それでも勧誘はしつこく続いた。初めは丁寧に断っていたカズヤだったが、最後はもう適当にあしらっていた。

 確かに外見は真面目な生徒ではないかもしれないが、彼らに組するような性格ではないことは、他人から見ても明白だというのに、彼らはあからさまに誘いに来る。


 《日向四天王》を自称する彼らは、金沢晃陽かなざわてるひという紅一点を中心に、岩城佑介いわきゆうすけ川上かわかみ みつる野口恭則のぐちやすのりで構成されていた。

 きっと彼らにそれなりの何かがあるのだから、自分たちよりも年上の高校生が彼らに従っているのだろうが、じっと観察していてもカズヤにはさっぱり判らなかった。

 四人はこの中学を中心に、東西南北、公立も私立も、中学も高校も関係なく荒らしまくり、彼らの勢力を拡大してきていた。

 総長の日向がいなくなってもその力は衰えることなく、逆に過激になったと言われている。

 所詮は子供の陣取り合戦みたいなもので、本来ならば関係ない生徒には何にも影響がないはずなのだが、四人は彼らに敵対するグループのみならず、一般生徒にまで危害を加えていた。





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