第11部:霧散-7
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「ちゃんとかすみちゃんの遺志を継ぐのよ、・・・」
出て行こうとした日向の背に、テルヒはそう言ったのだ。
「今、何て呼んだ?」
日向は振り向いた。
「おい、テルヒ、今、何て…」
アキラは口が渇いていくのを感じた
「アキラよ」
テルヒは笑った。
「いつから……、いつ気付いた?」
アキラは思わず元の場所に戻り、鬘を脱いだ。
「今。でも、それで確信したわ。あたしと同じ漢字を名に持つあんたは、絶対に兄の敵だわ。だから覚悟なさい」
アキラはガラスを拳で打った。
「おい、テルヒ!兄貴の名前、教えろよ!」
「バカねぇ。言うわけないじゃない」
テルヒは窓を叩いて大声を上げるアキラを無視し、面会室を後にした。そして部屋を出る時に、アキラに微笑みを向けたのだ。
アキラはこの時に、この微笑みの意味をきちんと考えるべきだったのだ。しかし、アキラはテルヒを追わず、自分の情報網を使って彼女の兄を捜すことを考えていた。何分、アキラを敵と見做す人物は多過ぎるのだ。
帰宅後、アキラの許に届いた連絡は、とてもショッキングなものだった。
金沢晃陽が、拘置所内で焼身自殺を図ったというのだ。
その死体の横にライターがあったらしいが、それはとても不自然な場所にあったという。でもそれ以外に火元はなく、それよりもそのライターは何処から手に入れたかの方が問題視されていた。
でも、そんなことアキラにとってはどうでもいいことだ。
アキラは自分の運命が回り始めたのを、何となく感じていた。
テルヒは、自分は兄を見付けられないことに気付いていたのだろう。アキラに兄の名を告げないことは、彼女の最後の抵抗だ。それに、アキラなら見付けられると思っていたのだろう。だから、アキラの帰宅後すぐに自殺を図り、アキラを苦しめようとしたのだ。
そう、アキラは充分苦しんだ。自分の所為で、二人も自ら生命を断ったのだ。苦しまずにいられるわけがない。
たしかに、世間はアキラの所為で二人が自殺を図ったとは気付かないだろう。しかしアキラだけは知っている。そしてアキラはそれを一人で背負わねばならないのだ。
アキラは自宅で、一通の手紙を広げた。それは信吾が残したアキラ宛の遺書だった。
そしてアキラの、定められた運命との戦いは始まるのだ。
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『女王陛下
敢えてそう呼ばせて戴きます。
多分この度わたくしの行動は、陛下のお気に触るかと思います。しかしわたくしは自分の意志を貫きたくて、こういう行動を取らせて戴きました。
確かにわたくしは女長老水鏡妃の預言を、正確に理解していないかもしれません。しかしそうであったとしても、わたくしはそのような預言というものに逆らいたいのです。わたくしは、誰にも生き方を命令されずに生きているのですから。
カズヤくんが《夏青葉》ではないなら、それはそれでいいでしょう。彼なら、苦界においてあなたさまの安らぎとなり得る人ですから。しかしわたくしは《夏青葉》が来たら去らねばならないという預言があります。
去る。この言葉の意味は、一体どういう意味なのでしょうか。
去ると決められているなら、それでもいいでしょう。ただ、いつ去るかは私が決めます。《夏青葉》が神森にいるのならば、その者が苦界において陛下をお助けすればいいのです。その代わり、わたくしは自然界であなたさまをお助けします。
以前、陛下はお話し下さいました。わたくしの魂の属性は苦界にあるけれど、本来は自然界に生まれたものだと。わたくしは自然界に赴くことはできても、自然界で生きることは、この肉体がある限りできないのだとも。
それならば、この肉体を捨て、自然界に生まれ変わりましょう。両界を同時に知る者は、記憶を失わずに生まれ変わることができると、あなたさまは教えて下さいました。わたくしはそれに賭け、自然界のみに生きる者になり、死ぬまで陛下にお仕えしたいと思います。
陛下、苦界でのわたくしの復讐を、醜いと知りつつも援けて下さって、感謝してもしきれません。この復讐は終わったのです。ですから、わたくしはこの穢れた肉体を捨て、新たに生きたいと思ったのです。
お叱りは自然界でお受けします。しかし、わたくしも今までの苦しみを引きずって、自然界で生きるような真似は、決して致しませんから、どうかわたくしの決断を赦しては戴けないでしょうか。
最後にアキラちゃん、カズヤくんを大事にしてね。彼は、純粋にあなたのことをそのまま受け入れてくれる、唯一無二の人となってくれるはずですから。あなたの善も悪も、それら全てがアキラちゃんだと受け入れて、それで好きでいてくれる人ですから、《夏青葉》とは別に、とても重要な人となるはずです。このようなことは、自然界では口にできなくなるでしょうから、苦界で生きた霞 信吾の最後の言葉にさせて下さい。
では、自然界でお会いしましょう。』
長編作品を最後まで読んで下さってありがとうございました。
今回で今作品完結とさせて戴きますが、第三話『波の呼び声』へ続きますので、
引き続きよろしくお願いします。
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