表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/77

第11部:霧散-7

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

「ちゃんとかすみちゃんの遺志を継ぐのよ、・・・」

 出て行こうとした日向の背に、テルヒはそう言ったのだ。

「今、何て呼んだ?」

 日向は振り向いた。


「おい、テルヒ、今、何て…」

 アキラは口がかわいていくのを感じた

アキラ・・・よ」

 テルヒは笑った。

「いつから……、いつ気付いた?」

 アキラは思わず元の場所に戻り、かつらを脱いだ。

「今。でも、それで確信したわ。あたしと同じ漢字を名に持つあんたは、絶対に兄の敵だわ。だから覚悟なさい」

 アキラはガラスをこぶしで打った。

「おい、テルヒ!兄貴の名前、教えろよ!」

「バカねぇ。言うわけないじゃない」

 テルヒは窓を叩いて大声を上げるアキラを無視し、面会室を後にした。そして部屋を出る時に、アキラに微笑みを向けたのだ。


 アキラはこの時に、この微笑みの意味をきちんと考えるべきだったのだ。しかし、アキラはテルヒを追わず、自分の情報網を使って彼女の兄を捜すことを考えていた。何分、アキラを敵と見做みなす人物は多過ぎるのだ。


 帰宅後、アキラの許に届いた連絡は、とてもショッキングなものだった。

 金沢晃陽テルヒが、拘置所内で焼身自殺を図ったというのだ。

 その死体の横にライターがあったらしいが、それはとても不自然な場所にあったという。でもそれ以外に火元はなく、それよりもそのライターは何処どこから手に入れたかの方が問題視されていた。

 でも、そんなことアキラにとってはどうでもいいことだ。


 アキラは自分の運命が回り始めたのを、何となく感じていた。

 テルヒは、自分は兄を見付けられないことに気付いていたのだろう。アキラに兄の名を告げないことは、彼女の最後の抵抗だ。それに、アキラなら見付けられると思っていたのだろう。だから、アキラの帰宅後すぐに自殺を図り、アキラを苦しめようとしたのだ。


 そう、アキラは充分苦しんだ。自分の所為せいで、二人も自ら生命を断ったのだ。苦しまずにいられるわけがない。


 たしかに、世間はアキラの所為で二人が自殺を図ったとは気付かないだろう。しかしアキラだけは知っている。そしてアキラはそれを一人で背負わねばならないのだ。


 アキラは自宅で、一通の手紙を広げた。それは信吾が残したアキラ宛の遺書だった。

 そしてアキラの、定められた運命との戦いは始まるのだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『女王陛下

 敢えてそう呼ばせて戴きます。

 多分この度わたくしの行動は、陛下のお気に触るかと思います。しかしわたくしは自分の意志を貫きたくて、こういう行動を取らせて戴きました。

 確かにわたくしは女長老水鏡妃の預言を、正確に理解していないかもしれません。しかしそうであったとしても、わたくしはそのような預言というものに逆らいたいのです。わたくしは、誰にも生き方を命令されずに生きているのですから。

 カズヤくんが《夏青葉》ではないなら、それはそれでいいでしょう。彼なら、苦界くがいにおいてあなたさまの安らぎとなり得る人ですから。しかしわたくしは《夏青葉》が来たら去らねばならないという預言があります。

 去る。この言葉の意味は、一体どういう意味なのでしょうか。

 去ると決められているなら、それでもいいでしょう。ただ、いつ去るかは私が決めます。《夏青葉》が神森にいるのならば、その者が苦界において陛下をお助けすればいいのです。その代わり、わたくしは自然界であなたさまをお助けします。

 以前、陛下はお話し下さいました。わたくしの魂の属性は苦界にあるけれど、本来は自然界に生まれたものだと。わたくしは自然界におもむくことはできても、自然界で生きることは、この肉体がある限りできないのだとも。

 それならば、この肉体を捨て、自然界に生まれ変わりましょう。両界を同時に知る者は、記憶を失わずに生まれ変わることができると、あなたさまは教えて下さいました。わたくしはそれに賭け、自然界のみに生きる者になり、死ぬまで陛下にお仕えしたいと思います。

 陛下、苦界でのわたくしの復讐を、醜いと知りつつも援けて下さって、感謝してもしきれません。この復讐は終わったのです。ですから、わたくしはこのけがれた肉体を捨て、新たに生きたいと思ったのです。

 お叱りは自然界でお受けします。しかし、わたくしも今までの苦しみを引きずって、自然界で生きるような真似は、決して致しませんから、どうかわたくしの決断をゆるしては戴けないでしょうか。


 最後にアキラちゃん、カズヤくんを大事にしてね。彼は、純粋にあなたのことをそのまま受け入れてくれる、唯一無二の人となってくれるはずですから。あなたの善も悪も、それら全てがアキラちゃんだと受け入れて、それで好きでいてくれる人ですから、《夏青葉》とは別に、とても重要な人となるはずです。このようなことは、自然界では口にできなくなるでしょうから、苦界で生きた霞 信吾の最後の言葉にさせて下さい。

 では、自然界でお会いしましょう。』




長編作品を最後まで読んで下さってありがとうございました。

今回で今作品完結とさせて戴きますが、第三話『波の呼び声』へ続きますので、

引き続きよろしくお願いします。


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ